トラクター販促
秋は収穫の季節だ。
トラクターもそれなりに生産されて活用された。リヤカーを引いて、収穫した作物を運ぶのにちょうどよかった。
とりあえず、領内の田畑に配ってみた。どこの田んぼでも畑でも重宝された。
米やブドウなどを酒蔵やワイナリーに運搬するのにも使われた。
これだけ使ってもらえると、商人にも欲しがられるかな、と思ったけど、スピードが馬車より遅いので、求められなかった。
でもトラクターは電池だけで動くけど、馬は餌も必要だし、糞もするぞ。回転数を上げられ、スピードの出せるトラクターを開発すればきっと使ってもらえるはず。
それでだ。この、回転数固定のエンジンを積んだトラクターを一型とした。
今のところ、積極的に売り出すことはしない。ドワーフの国にもっていく以外は。
農家で使っているのを見た商人が欲しがったら売るつもりだ。
それに、近いうちに、回転数が変えられる二型が開発される。そうしたら、一型が必要なくなるだろう。生産ラインを二つも維持するのは大変なのだ。
とりあえず、ドワーフの国に五台ほど持っていくことにする。
メンバーは、僕とかなで、ガンツとタンツ。シンべロスに乗って、
また、トラクターはケルベロス馬車に乗せて。片道七日間の旅だ。ちょっと長い。
ケルベロス馬車とはいえ、荷台には商品。しかも、重い。急いで行くわけにはいかなかった。
しかし、シンべロスもケルベロスも連れている僕らを襲おうと考える魔獣も盗賊もいるわけもなく、あっさりとドワーフ王国に着く。
ガンツとタンツの顔でドワーフ王のゴンツに謁見する。
「なんだお前たち。まさかと思うが、ドワーフをさらに引き抜こうと来たわけではないだろうな?」
「いえ、そのようなことは考えておりません。ドワーフたちに来てもらい、面白い商品ができたので、紹介に上がりました」
「は、どんなものか言ってみろ」
「魔道具を使った馬車の馬です。トラクターと名付けました。こちらでは炭鉱での運搬は人が行っていると聞いております。このトラクターは台車を引くことができ、魔道具なので、馬が必要ありません。炭鉱や農場で活躍すること間違いなしです」
「魔道具に荷を引かせる? 炭鉱や農場で?」
「はい、我が領では農場で収穫物の運搬に使っています。スピードは抑えられており、人が歩く速さよりちょっと早いくらい。よって、暴走することもなく安全設計になっています」
「馬がいらないということは、餌も厩舎の掃除もいらないということか?」
「はいそうです。ただ、電池で動くので、電池の交換は必要になります」
「コンロやランタンに使っているあれだな」
「はい。あれの大きいものになります。販売や交換はキザクラ商会で行えます」
「魔道具ではなく、電池で商売するということか、商売がうまいな」
「いえ、魔道具でももうけを出しますよ。思わずうなずくところだったじゃないですか」
「残念だ。さて、見せてもらおうか」
と言って、ケルベロス馬車が止まっているところまでゴンツと一緒にやってくる。当然、お付きも一緒だ。
「それでは、馬車からトラクターを出します」
というと、馬車からトラクターが二台降りてくる。それを動かしているのはガンツとタンツ。
ゴンツや集まったドワーフはあれこれと騒ぎだす。
「あれは何で動くのか」
「馬はいらないのか」
「どういう仕組みなんだ」
などなど声が上がる。
ガンツとタンツがゴンツの前に乗り付ける。そこで二人ともトラクターから降りて、跪く。
「国王陛下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」
「そんなことはいい。これの説明をしろ」
「は、これは、トラクターと言い」
「聞いた」
せっかちだなぁ。
「グレイス様が開発したエンジンという動力を使って動かしています。このエンジンを動かす元になっているのは電池です。この電池から魔力がエンジンに供給され、エンジン内の魔法陣が発動することにより、回転エネルギーを生みます。そのエネルギーをつかってタイヤ、この車輪を動かします」
「そのエンジンというのが魔道具なのか?」
「はい。そうです」
「これを父上たちが開発したと?」
ゴンツは半分素に戻ったのか、ガンツを父上呼びした。
「そうじゃ。アイデアはグレイス様、アレンジはステラ様となっておる」
ガンツも敬語をやめたな。
「これがどうなってこのトラクターが動くのだ?」
「エンジンで生み出された回転エネルギーをそのまま車輪に伝えているだけだ。ま、その間にギアをかませてあって、これによってスピードが五段階に変わる」
ゴンツは、もともと鍛冶師ということもあって、すでにトラクターに夢中だ。
「ちょっと動かしてみるか?」
とガンツがゴンツに言う。すると、ものすごい勢いで首を縦に振るゴンツ。
「じゃあ、ここに乗れ」
とガンツが座席に誘導する。ゴンツが座席に座ると、
「このボタンを押すと電池からエンジンに魔力が流れてエンジンが動く。ただ、はじめはこのギアのスイッチを零に合わせておく。それからのエンジンボタンだ」
というと、ゴンツは、ギアが零に入っているのを確認してボタンを押す。するとドドドド……という音がエンジンから発せられる。ゴンツは目を光らせて夢中になっている。
「それでは、このギアのレバーを一にしてみろ」
というと、ゴンツがレバーを動かす。すると、ゆっくりトラクターが前に動き出す。
「このハンドルを握っておけよ。これで方向を変える。右に回せば右に、左に回せば左に動く」
ゴンツは言われるとおりに動かす。
「それでは、スピードを上げてみるぞ? レバーを二にするとスピードが一段階上がる。だが、この一と二の間のところでギアが切れる。切れた状態では動力がタイヤに伝わらない。で、二にするとギアがつながる」
ゴンツがレバーをゆっくりと二にする。すると、スピードがアップする。まだ人の歩み程度だ。ガンツはトラクターに並走して教えている。ゴンツとガンツはしばらく走ったと思ったら、引き返してきた。
「なんだこれは、これに荷を引かせるのか? 馬ではない、新しい荷を引く機械か。面白い面白いぞ」
と、ちょっと興奮気味。
「ゴンツ様、今日はこれを五台持ってきております。ご購入いただけますか?」
「買おう。金額は後で宰相に言え。で、これは五台しかないのか?」
「はい。取りあえず運べる範囲で五台をお持ちしました。これ以上はキザクラ商会に注文いただければ、輸送に時間がかかりますが、お届けすることができると思います。ただし、このトラクターは農業やこういった輸送にはいいのですが、スピードが出ないことが欠点です。なので、このトラクターの生産はあまりしない予定でして」
「ということは、次のバージョン、スピードアップが図られたものが出てくるということか?」
「はい、そうです」
「だが、我が領では、炭鉱や田畑での作業でしか使わないな。ということは、このトラクターで十分なわけだ。新しいものではなく、これを安く売ってくれると助かる」
「あればお売りしますが、生産ラインを多くすることは考えておらず……」
「では、その生産ラインごと売れ」
「え?」