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ラミとルミ

 ある日、京子ちゃんが一人でやってくる。

 あれ? この時間は仕事中だから、ラミとルミは他のところに行っているのかな? この二人のハイエルフは京子ちゃん担当なので、少なくともどちらかがそばにいると思ったんだけど。


「ちょっと、相談があるの。たぶんラナとルナの方が話が分かると思うんだけど」


 と。


「ラナ、ルナ、ちょっと話を聞いてあげてくれる?」

「話を聞いてほしいって言うか、ついてきてほしいんだけど」


 仕方ない。僕とラナとルナは京子ちゃんについて工房を後にする。


 京子ちゃんについてやってきたのは日本酒の酒蔵。去年初めて日本酒を仕込んで、そろそろいい感じに新酒ができているはず。何かトラブルがあったかな。僕も日本酒を楽しみにしている一人として、トラブルは避けたい。


 酒蔵の事務所から、そのわきにある会議室に入る。会議室はその名の通り会議をしたり、日本酒の試飲をしたりする部屋で、畳の部屋にしてもらっている。

 さて、そこの真ん中にテーブルが置かれ、その両サイドに二人が座っていた。手にはグラスをもって。


「あー、おかえりなはい、そふぃーはん」

「しんしゅはなかなかいいかんじれふよ」


 とラミとルミ。出来上がってるなー、まだ昼なのに。

 振り返ると、ラナとルナが額に手を当ててうつむいている。君らも冷却装置の時にそんな感じだったよね。ハイエルフにも黒歴史ってあるのかな?

 京子ちゃんはというと、


「なんて格好で飲んでるのよ」


 いや、そこじゃないだろう。昼間っから出来上がっていることが問題だ。いや、その恰好もか。


「いやね、わたしらはいえるふはせいざがにがてでふ」


 そう、彼女らは畳の上で胡坐をかいている。

 ちなみにラナとルナも同じだが、仕事中はスーツスタイル。下は、タイトのミニスカート。

 そう。スカートがたくし上げられ、何もかもが見えている。当然下着は履いている。


「だからって、女性がしていい恰好じゃないでしょう?」


 と京子ちゃん。


「あ、ぐれいすはん」

「いやーん、えっち」


 と言って、両手で三角のそこを隠す。動体視力をなめるな。動きがあったところを追ってしまうのは反射だ。

 ほら、京子ちゃんににらまれた。

 ちなみに、二人ともラナとルナの母親なので、人間族から見たらものすごい高齢。

 だけど、見た目は麗しき女性だ。目は糸目でいつも笑っているように見えるけど。

 それもあって、さらにお酒を飲んでご機嫌に見える。


「わかった。この部屋には掘りごたつを作ろう」

「え、そんなの作ったら余計にダメエルフになっちゃうじゃん」

「だめえるふではありまへん」

「だめはいえるふれふ」

「「わひゃひゃひゃ」」


 と笑うダメハイエルフ。楽しそうだ。

 それより、手に持っている日本酒がおいしそうだな。僕はちょっと手を伸ばしてみる。

 パシン。

 京子ちゃんが僕の手をはたく。僕がちょっと恨めしげに見ると、


「飲んじゃダメ。お昼だよ」


 と言う。


「試飲だから」

「じゃ、ぺっしてね」


 えー。って思っていると、


「おさけのいってきはちのいってきれふ」


 と、どこかの高校生の名言のような迷言を吐くダメハイエルフ。

 京子ちゃんは「もー」という顔をしている。


「ま、いいじゃないか。仕事をしよう」


 と、僕は京子ちゃんをなだめる。


「で、ラミにルミ、この新酒はどうだい?」


 ラミとルミの顔がちょっとだけ真剣になる。見分け方は、糸目のカーブがちょっとだけ緩くなった。カーブがきつくなっているほど機嫌よくしている。


「私たちは日本酒というお酒を飲んだことがありませんでしたが、一言で言うと最高です」


 お、発言がまともになった。


「米がソフィ様の作られた肥料を使って育てられたせいかわかりませんが、まず、このフルーティな香りが強くたち、これだけで心が休まる気がします。見た目もごく薄く着いたこの琥珀色は見ていても飽きません。一口このお酒を口に含み、さらに口から空気を吸い込んで鼻から出すと、その香りがまたたまりません」


 お、おう、麗しきハイエルフ様が鼻息って大丈夫か?


「ほんの少しとろみがついたように見えますが、味わいがさわやかで、のどごしもすっきりとしています」

「正直、香りを楽しみながら、いつまでも飲み続けられます」


 それは肝臓の強い人だけだから。


「やっぱりソフィ印の肥料が効いているのかな?」

「うれしいけど、変な名前つけるのやめて」

「これ、売れるよね?」


 とラミとルミに聞く。


「「売りません」」


 なぜに。


「とりあえず、今年は身内で楽しみましょう」

「いや、売ろうよ。これだけの工場を作ったんだから、元を取らないと。減価償却ってわかる?」

「それなら大丈夫です。ドワーフたちが、全財産を使ってくれますから」


 ダメなやつだ。


「実際、ビール工場の方は、出荷を始めたとたん、半分くらいをドワーフたちが予約を入れちゃって」


 とうれしいのか何なのかわからないことを京子ちゃんが言う。

 というか、あいつら、どんだけ飲むんだ。


「ところでそふぃはん、なんのようらったのれすか?」


 あ、ダメハイエルフに戻った。


「ちょっとワイン工場の仕込みと、樽の用意をしてもらいたくて探していたんだけど」

「いいれふよ。ワインこーじょーへいきまふか?」

「立って歩けるなら行きましょうか」

「いえすますたー」

「まいますたー」

「ラナ、ルナ、大丈夫か? 気をしっかり持てよ」

「「はい、ぐれいふはん」」


 ラナとルナがおちょける。あれでもラナとルナの母親。おそらく五百歳以上。歳を知らなかったらちょっとかわいく思えたかも。


「ぐれいふはん、はんかいいまひた?」


 と、にこやかに僕の顔を覗き込むダメハイエルフたち。


「言ってない」


 だから心をを読むなと。


「さて、僕はちょっとこの工場を見てみたいから、ラナとルナとここに残るね」

「うん、じゃあ、私達は行くね」

「門まで送るよ」

「ありがとう」

「ほほお、さすがはふぁーすとれでーでふな」

「らなもるなもがんばりー」

「ラナ、ルナ、あの二人、ここ、出禁な」

「「イエス、マイロード」」


 こら、感化されるな。



 三人を送るべく門まで同行する。


「それじゃね、ワイン造りよろしくね」

「うん。わかってる。楽しみだもんね」


 と言って、門から出ていく京子ちゃん達三人と別れる。そして、京子ちゃん達三人の背中を見送る。見送る。見送る。


「ガサ」「ガサガサ」


 ほら出てきた。予想通りだ。


「ガサガサガサ」


 と出てきたのは、ドワーフ。


「お前たち、ここの酒を飲んだな?」

「知らない酒の匂いがする」

「うらやましすぎるぞ」

「わしらにも飲ませろ」


 などなど、声が上がる。その声に振り向いた、京子ちゃん達三人。そこには、殺気をまとったドワーフが二十人以上いた。京子ちゃんの顔が引きつる。ラミとルミの目が一文字になる。そして、


「「「ひゃー」」」


 三人は逃げ出した。ドワーフたちはそれを追いかける。


「わしにも飲ませろー」

「ずるいぞー」

「さけー」……


 京子ちゃんやハイエルフのあんな焦った顔と全力疾走、初めて見たよ。


「ラナとルナも焦ったらあんな感じになるの?」

「私たちはなりません」

「酒におぼれません」

「そっか。でも、ほどほどに楽しむのはいいんじゃない」


 と二人に言う。


「「旦那様が付き合ってくださるのなら」」

「そっか、日本酒一本もってこればよかったね」

「いえ、持ってこなくて正解です」

「たぶん追いかけられます」

「じゃあ、また今度だね」

「旦那様、知っています? また今度の今度って来ないんですよ?」

「大丈夫。僕がラナとルナと飲みたいから」


 ほほを染めるダメハイエルフの娘たち。

 そして、遠くから聞こえる京子ちゃんの声。


「グレイス君のばかー」


 なんでやねん。


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