ステラー8
趣味を兼ねた仕事を進めている。
ということで、春からエンジン開発メンバーとしてステラ改め紫苑が加わったチームの様子を見にいく。
「会長! あのステラお姫様、ちょっと発想がすごすぎて、ついて行けないです」
珍しくガンツが泣きをいれる。
「え、どうゆうこと?」
「あれほど苦労していたギアのつなぎのアイデアをいとも簡単に。それで、試作品を何度も作っては試しての繰り返しで」
「へー、楽しそうじゃん。」
「はい。楽しいです。というわけですんで、仕事に戻ります」
と、ガンツは自分の持ち場へ帰っていく。楽しいってことをアピールしたかったのかな?
そこへラナとルナがやってくる。
「グレイス様。指示通り、新型エンジンを最初に乗せるのはトライクでよろしかったでしょうか」
「うん。四輪でもいいけどね。空を飛ぶより先に地面で試したいから」
「承知しました。現状、エンジンからギアの動力系、タイヤやサスペンションの足回り、操作系など、順調に開発が進んでいます。フレームを作って乗せれば試作品ができます。ただ、この操作系の部分ですが、トライクのように前輪が一つの方が構造がシンプルになり、構造的にも耐久性的にもおすすめかと」
「うん。じゃ、それで。それと、やっぱり僕はバイクが欲しいな。外に出るときはシンべロスに乗るけど、テストコースを走るぐらいは許してもらえると思うんだよね」
「わかりました。ところで、構造的に、トライクであれば直列エンジンでよかったんですが、バイクとなると、スペース的に余裕がありませんので、ステラ様が先より提案をされていたV型エンジンにチャレンジしてよろしいでしょうか」
「うん。ステラの好きにさせてあげて。最終的にV型のみになっても仕方ないや。そっちの方が効率いいなら」
「わかりました。では、開発を始めます」
あー、ガンツたちの仕事増やしちゃったかな。でも、開発の人員が一気に増えたから何とかなるだろう。
「あ、先に開発した、バギー改めトラクターさ、あれの量産体制どうなっている?」
「はい、ドワーフたちは新しい方の開発に夢中になっていますが、農作業用に販売しようと生産ラインを作っているところです」
「そしたら第一弾は、ドワーフの国に売り出そう。炭鉱で使えるよね?」
「はい。それでは炭鉱の状況をリサーチさせます」
「うん、よろしく。トラクターをガンツたちが作ったって知ったら、ドワーフ王のゴンツもとりあえずは納得してくれるかなって」
「そのように手配します」
紫苑がやってくる。
「グレイス様。あの魔法陣すごすぎます。あんなに小さくてあれだけの威力の爆発を起こすなんて。どうやっているんですか? というか、あんなすごいものを作られていたのですね。魔法陣すごいです」
「もともと、魔力を供給すれば発動するというシステムはあったからね。僕はそれを利用しただけだよ。それに魔法陣だって、三つもあったんだ。後はそれを応用しただけ。すごいのは昔の人だったり、最初に一般用に応用した僕の御先祖だったりかな」
紫苑は目をキラキラさせて聞く。
「では、あの小ささの秘密は?」
「三つの魔法陣をもとに、いろんな、例えば火魔法の魔法陣を作った。それでちょっと事情があってこれを作ってさ」
と言って、魔法銃を取り出す。
「こ、これは」
「そう。銃だよ。ファイアバレットが撃てる。ちなみに、この国の歴代王様や宰相、それかららいらい研はみんな持っている。護身用にね。魔力を注げば何発でも撃てる。この世界の人からしたら、本当に恐怖だよ。チートだよ。だから、公表していない」
ごくりとつばを飲み込む音が聞こえる。
「これを作るときに、魔法陣の小型化が必要になってね。いろいろ試したんだ。ローゼンシュタインの僕の研究室には、魔法陣の開発と小型化のために試し書きをした魔皮紙が山のようにあるよ」
と言って、笑う。
「それを見たら……」
「そこにあるのは全部失敗作だから。僕が頑張ったって証拠を自己満足のために取ってあるだけ。なんの意味もないよ。それにね、開発された魔法陣とか技術とかはね、全くメモを残していない。全部ラナとルナの頭の中なんだ」
僕はちょっと真剣な顔をして、紫苑に伝える。
「魔法は便利だ。でもね、魔法に頼りすぎると人がダメになって滅亡してしまう。また、逆に隠しすぎても妬みや嫉妬で滅ぼされたりする。だからね、出し惜しみ、というか、開発し惜しみ、っていうかね、急に物事を進めちゃダメなような気がして、セーブしているんだよね」
「それでエンジンですか? 惜しんでいないように思いますが」
「でも、人の生活をよくするためには、動力は必要だよね。自然エネルギーでもよかったけど、安定しないし。せっかく爆発する魔法があるんだから、エンジンかなって。本当に魔法は便利だよ。ガソリンも電気もいらないんだから」
「でも、こういった技術は戦争に使われてしまうんじゃ」
「うん。だから、圧倒的な力を僕はつけているつもり。戦争に使ったら許さないよって」
と、僕は笑う。
「どれだけ力をつけても、どれだけ技術を開発しても、人がいなくなったら、意味がないでしょ。共存共栄。で、ちょっと儲けさせてもらうと」
「ちょっとではなく、ずいぶんですよね」
「ま、そうかもしれないけどね。だけどね」
と言って、魔皮紙を取り出して、一つの魔法陣を書き出す。これをテーブルに魔法陣が下になるように置く。
「これに魔力を流してみて」
と紫苑に魔法陣を発動させる。すると、魔法陣の下に固形のブロックが生まれ、魔法陣が持ち上げられる。
「魔法陣をどかしていいよ」
というと、魔法陣を取り除く紫苑。そして、それを見て驚く。声も出ないようだ。そこにあったのは、金塊。
「ね。やろうと思えば、お金なんていくらでも作り出せるし、それによって経済を崩壊させることもできちゃう。そんなことしちゃダメでしょ。だから、少しずつ、少しずつ発展させていく。それでいいと思うよ」
再起動した紫苑が言う。
「これ、もらっていいですか?」
「ダメだよ。何にするの? リカに細工させるくらいならいいけど」
「ぶー。でも、その程度にしますのでください」
「わかった。わかっていると思うけど、売ったり自慢したりしちゃだめだよ。それと」
と言って、魔皮紙をもう四枚取り出して、それぞれに魔法陣を書く。紫苑はそれをじっと見ている。
「これもやってみなよ」
と、紫苑に渡す。紫苑は一つ試すごとに狂喜乱舞している。一つ目はダイヤモンド、二つ目はサファイア、三つめはルビー、四つ目がプラチナの延べ棒だ。
「これが、君への支度金でいいかい?」
「魔法陣でちょちょいと出されちゃうと全くありがたみがないですね。ですが、このようなことを教えていただいたことはそれ以上に価値があると思っています。支度金、確かに受け取りました。九年後を楽しみにしていてください」
「開発チームに改めてようこそ。九年後じゃなくてもっと早くに成し遂げてもらってもいいんだけど」
紫苑は宝石と金属をもって僕の話なんてそっちのけで部屋をでていった。僕は、もっと早く空に飛び立つつもりだ。あと三年、いや二年。あの調子なら開発に夢中になって、年数のこと忘れているだろう。意外と早くできるかもな。
「おーい、全部内緒だよ」
聞こえたかな?
「正座」
相変わらず僕は京子ちゃんに正座させられている。
「ステラちゃんに宝石やら貴金属を渡したのはなぜかしら?」
仁王立ちの京子ちゃんの後ろにさらに仁王立ちが何人かいる。
「えっと、魔法陣開発のことを得意げに話していたら、調子に乗ってしまい、宝石と貴金属を出してしまいました」
「で、なんて言ってそれを渡したの?」
「支度金です」
「なんの支度金ですか?」
「うちの開発チームに来てもらう契約金のような……」
「ステラちゃん言っていたわよ、「この体は宝石と貴金属でグレイス様に買われてしまいましたが、心までは奪わせません。私の心はエンジンにあります!」って」
なんだろう。この告白していないのに振られた感じ。しかも六歳児に。
「大体、六歳の子供に宝石と貴金属って」
紫苑の中身を知っている京子ちゃんは、ここだけは目をそらしながら言う。
「開発が楽しいのはわかるけど、あまり夢中になりすぎて体を壊さないように面倒見てね、安全衛生管理者さん」
なんだろう前世では報告書が間に合わなくて二、三日寝ずに仕事して、目の下に熊を飼っていた人がよく言う。
おっと、殺気が。
心を読むのはやめてください。