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ステラー4

 翌日、朝から王城へと向かう。業務が始まる前の方がアンディを捕まえやすいだろう。

 今回はちゃんと門兵さんにお願いして引き継いでもらう。

 しばらくすると、近衛が一人やってくる。


「アンドリュー王子殿下の下へご案内いたします」


 と。

 僕とかなではこの近衛について行く。ちょっと気になることがあって聞く。


「ずいぶん足運びがきれいですね。近衛でこれだけ足音が聞こえない人もそうはいないのではないですか?」


 近衛は笑みを返し、


「よくお分かりになりましたね。私は以前、諜報に勤めておりまして、その時に鍛えられた歩き方が癖になっていまして」


 と教えてくれる。なるほど。


「そういうことで、私自身は他の人の歩き方を気にしてしまうのですが、グレイス様もお気になされるのですね」

「僕はそういうの、得意じゃないから」


 と、答える。まあ、実際には音を立てないで歩ける人は身近にいる。黒薔薇や、それに鍛えられたうちの騎士団。それに、気配まで完璧に絶つ母上。それと、京子ちゃん。


「殿下、グレイス・ローゼンシュタイン・グリュンデール様がお見えです」


 と、アンディの自室の中に呼びかける。


「入ってもらえ」


 その一言で、僕とかなでは中に入る。

 中に入ると、アンディとクララ、メイドがいた。


「アンディ、悪いけど」


 と言うと、アンディは、近衛もメイドも部屋から下げる。


「アンディ?」


 と僕はクララを見る。


「クララはらいらい研のメンバーだろう」


 と。あまり聞かせたくない話だが。


 僕は、勧められるままにテーブルにつく。

 かなではいつも通り僕の後ろに立とうとするのをアンディが座るように言う。らいらい研だろうと。

 クララがお茶を入れてくれ、クララも着席する。


「さっきの近衛はアンディの下にいるのか?」

「ああ、なかなか器用なやつで、諜報もこなすから頼みごとをすることが多いんだ。なんか気になるか?」

「いや、そういう騎士って珍しくないか?」

「まあな。ローゼンシュタインの黒薔薇騎士団を見るとな、強いだけでなく、器用な騎士が欲しくなってさ」


 まあ、そうだろうな。


「で?」


 と話を僕に振る。


「二人は救出済み。今はローゼンシュタイン邸にいる。ただ、救出にローゼンシュタインが関与しているとは思われたくない。早急に引き取ってくれ。それから、旧カールソン子爵邸にいた奴らは殲滅。そのままにしてあるから処理をお願い。身元確認はしていないから」


 と、用件のみ伝える。アンディはやれやれという顔をしている。クララはやっぱり殲滅って言葉にいやそうな顔をしている。


「ロバート」


 と部屋の外に声をかけると、さっきの近衛がやってくる。


「急いで旧カールソン子爵邸に向かってくれ。誘拐犯が死んでいるそうだから、身元確認を頼む。騒ぎにならないようにな」


 と、アンディが命じると、ロバートと呼ばれた近衛は部屋から出て行った。


「おい、引き取りは?」

「ところで、今回、二人を助けたのは誰が知っている?」


 質問に質問で返すな。


「ローゼンシュタインだけかな。それと、もしかしたら、誘拐犯の黒幕がもう知っているかもな」

「らいらい研が助けたって言うのは?」

「ローゼンシュタインだけだが、そもそも、らいらい研を知っているのがどれだけいるか」

「じゃあ、お前が助けたってことは?」

「昨日の登場がド派手だったからな。タイミング的には疑われる可能性は大きい。そういう意味では、僕も軽率だった」


 二人が誘拐されたから来いって言われたら、そりゃ急いでくるよ。


「だけどさ、そもそも、二人が誘拐されたってことを知っているやつって、どれくらいいるんだ?」

「犯人だけだな」

「なら、問題なくない? 僕が救出したってことも言えないわけでしょ?」

「だが、これまで以上にグリュンデールやローゼンシュタインに敵意をむくかもしれないぞ? 政治的な意味で」

「政治的?」

「貴族会議でかなり責められているのは何度も言っているからわかっているだろう? パブロ様やテイラー様から聞いているだろう?」

「愚痴なら聞いているぞ? それでお前があほなことを言ったこともな」


 と、去年のことをチクリと釘をさす。


「はあ」


 とため息をつくアンディ。


「あれは失言だったのだろうか。国とグリュンデールとの希薄な関係性が問題視されたからそういっただけだったのだがな」

「まあ、失言だったな。そもそも僕はロリコンじゃない」


 兄上なら喜ぶかもな、とは思ったものの言わない。さすがにそれは実現させたくもない。


「なあ、聞いていいか?」


 と僕はアンディに聞く。


「これまで中立を保っていたローゼンシュタインにグリュンデールだが、こうやって的にされた場合はどうしたらいいんだ? 貴族会議ではおおよそ百対二なんだろう?」

「今回の件で中立というか、無関心を貫く貴族もいる。クララのラインハルト公爵家やケイトのブライト伯爵家なんてのもそう。貴族にもいろいろ派閥があってな。なるべく温和なところから妻を選ぶことにしている」

「あら? 実家で私を決めたのです?」


 とクララは不満そう。


「バカなことを言うな。初めて会った時に決めた。どこの家だろうと関係ない」


 と、アンディは突然のろける。こほん、と話を戻す。



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