ステラー3
真夜中になって、マイヒメが戻ってくる。コマチ、カゲツ、シュウゲツを従えて。各騎士団団長を部屋へ呼ぶ。
「ジェシカ、コマチについて、バニーたちパールを連れて行って。ベティ、カゲツについて、コテツたちオニキスを。ビビアン、シュウゲツについて、チュチュたちガーネットを連れて。僕とかなではマイヒメにつく。現場がどこかわからないけど、僕とかなでが正面。後は、ジェシカとベティはビビアンをフォロー。たぶん屋敷、屋敷を囲むように展開。それから、万が一だけど、ベティ、何があっても動揺するな。ビビアン、チュチュたちは鼻が利く。ステラとサテラの救出を最優先。裏から入って救出を。よし、マイヒメ、連れてって!」
と言って、動き出す。ちなみに僕とかなでをはじめ、うちの騎士団も仮面をかぶっている。母上と異なり、うちの騎士団の仮面は黒。さらに、鎌のように笑う口があいている。
「殺す!」
僕は子供達を悲しめるやつを、苦しめるやつを許さない。京子ちゃんを置いてきてよかった。止められたかもな。
マイヒメ達に連れられて外へ出る。
「ごめんな、マイヒメ達。寒いのに」
とねぎらう。
「にゃーん」
とだけ答えるマイヒメ。その背筋は伸び、しっぽはピンと立ち、とても高齢とは思えない。
深夜だけに物音もせず、僕らの足音だけが聞こえる。正直、足音をさせているところで修行不足かな、それとも、靴裏を変えた方がいいかな。
そういえば、せっかくだから、靴の裏もゴムにしようなんて考えながら数十分ほど歩く。見覚えのある、邸宅の前に出る。
さてと、予想どおりか。行った先は旧カールソン子爵邸。今は誰も住んでいない、はず。あの時の全焼から、立て直された。今は誰が住んでいるのかは知らない。知らなくてもいいことだ。
ベティにとっては実家のようなものだが、動揺していなければと思う。
僕とかなでは正面の門から入る。ここまで人の気配はない。が、屋敷の中にはちゃんと人がいる。明かりは見えないけど。
玄関の前に立つ。両手にナイフを握る。かなでも同様だ。屋敷内で狭いため、鎌も刀も振り回しづらい。今回はとっとと殲滅させる。
かなでとタイミングを合わせる。気配の察知で扉の向こうの広間に何人も集まっているのがわかる。
かなでがドアを開ける。その瞬間に、小規模爆発魔法を屋敷内に放り込む。かなでが玄関を閉じると中で爆発が起こる。
これを合図にして三人娘も突入しているはず。僕とかなでは視線を合わせ、左右に散る。
人の気配がする部屋へ突っ込んでは瞬殺していく。今回は殲滅なので、確かめる必要なし。
一階を終えたら二階へ。こういった時の人質は地下が基本。なら、上はすべて殺していいはず。
誰が首謀者かなんて考えても仕方ない。今回の依頼は二人の救出だからだ。
とりあえず、上階をすべて片づけて最後に数十人が集まる地下へ。
僕が突っ込んだ後にかなでも飛び込んでくる。数十人がいる部屋の中央まで進み、僕らは背中を合わせて倒していく。正直、問答無用だ。
そこへジェシカとベティが騎士団を連れて突っ込んでくる。たかが人間が獣人にかなうと思うな。
コテツ達はパワーを生かして、バニー達はスピードを生かして瞬殺していく。
そのわきをビビアンたちが通り抜けていく。すれ違いざまにチュチュと目が合うので、先行してビビアンを守るように頼む。
が、僕がビビアンを侮っていたらしく、ビビアンは先頭に立って、道を開いていく。恐るべし黒薔薇。決して倒そうとしていない。倒すのは、後ろからやってくるガーネットに任せている。
「ビビアン様、次右です」
というチュチュの声、ビビアンに後れを取りつつも道案内をしながらついて行く。
「ベティ、コテツ、ビビアンについてフォロー!」
というと、ベティたちがビビアンを追いかけていく。この場がだいぶ落ち着いたところで、
「ジェシカ、バニー、上へあがって、屋敷に誰も入れるな。最終的に、裏から逃げるぞ、退路の確保を」
「ラジャ」
そう返事をして、ジェシカが上へあがっていく。
僕とかなではこの場の敵を殲滅して、ビビアン達が上がってくるのを待つ。
しばらく待つと、目隠しをされ、気を失った二人を連れてくるビビアンとチュチュ。
「よし、ジェシカ達を連れて裏から出て。散開して足取りを取られないようにして、最終的にローゼンシュタインの屋敷に集合で。よし、ゴー」
と号令をかけると、皆、地上へ駆けあがり、ジェシカたちと裏へと走っていく。コマチ達猫たちも一緒に走っていく。
「さて、どうするかな。これ、全部燃やしちゃってもいいけど、アンディが調べるかな?」
「では、このまま行きますか?」
と、かなで。
「そうだね。このまま行こうか。僕らの痕跡あるかな?」
「仮面を落とさない限りないと思います」
「おっけ。じゃあ、僕らも裏から出よう」
と言って、裏から出て、裏通りの狭い道を通って、屋敷に帰った。
屋敷に帰ると、玄関で待っていたのは母上とシャルロッテ様。
「おい、グレイス、らいらい研の仕事だよな。なんでうちに来る?」
「は?」
たしかに。
「ごめんなさい」
「まあいい。見られてなければな」
僕が居間へ行くと、泣きながら抱き合っている姉妹がいる。ステラとサテラだ。
僕は二人に近づき、そして、仮面を外す。おそらく目隠しをされたままここへ連れてこられ、ここがどこかわかっていないんだと思う。
僕が仮面を外した瞬間、二人は一瞬固まって、僕の顔を凝視して、飛び込んできた。
「二人とも、怖かったね。もう大丈夫だからね」
と言って、僕に抱き着いた二人の髪をなでてやる。二人が落ち着いたころ、
「ステラ、サテラ、ここがどこかわかるか?」
「はい、ローゼンシュタイン邸です」
「じゃあ、それ、忘れてくれるかい?」
「え、何でですか?」
「今回、君たちを助けたのはあくまでらいらい研であって、ローゼンシュタインでもグリュンデールでもない。そこを忘れないで」
「はい。わかりました。ありがとうございました、らいらい研の皆様」
とステラ。
「明日の朝まで、ここで休むといい」
とは母上。母上は二人を連れて行った。
「ジェシカ、ベティ、ビビアン、今日はありがとう。三人も休んで。パール、オニキス、ガーネットも休みつつ待機で。僕とかなでは明日、アンディに会いに行く。じゃ、そうゆうことで」
と言って、この日は解散。