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ステラー2

 と、春に向かっていろいろと順調だった。しかし、


「グレイス様、パブロ様がお呼びです」


 うん。何かあったか? 貴族会議は春に入ってからのはず。大したことがないといいんだけどな。

 都市の拡張のことかな、他種族の移住のことかな。と思っていると、


「お急ぎください」


 とのこと。急用か。

 工房はグリュンデールの中心にある僕の屋敷から離れている。また、もともとの中心と今の中心もずれているので、公爵の屋敷は工房からさらに離れている。

 呼びに来た馬車に乗ってパブロ様の下に向かった。



 屋敷に入り、会議室まで通される。会議室に入るとパブロ様、家令、そして、疲れ切った騎士が一人。


「よく来た。こちらの近衛騎士がお前に用事があるとな」

「あなた様がグレイス様ですか?」


 と近衛騎士。僕の方へ近づいてきて、そして膝まずいた。


「僕は公爵様の養子ですし、へりくだる必要はありません。御用件をお聞きします」

「は、アンドリュー王子殿下より伝言を預かっています。よろしいでしょうか」

「いいよ、伝えて」

「はい。では。「ステラとサテラがさらわれた。助けてくれ」です。この伝言をもって、五日前に王都を出ました。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 と、膝まずいたまま頭を下げてくる。さらに、


「これは私ども近衛からのお願いでもあります。どうか、我らの守れなったステラ様とサテラ様を」


 と、頭を下げたまま懇願する。


「状況がわからないのだが?」

「は、しかし、すでに五日も立っているんです。ご都合があると思いますが、お願いいたします」

「わかった。とにかく王都へ急げということだな」

「お願いいたします」


 それしか言わなくなった近衛。


「お義父様。それでは、王都へ行ってきたいと思いますが、よろしいでしょうか」

「うむ。頼む。ただ、わかっていると思うが、グリュンデールもローゼンシュタインも中立なのだ。そこも意識しておいてくれ」

「承知しました」


 と、僕は部屋を出る。まったく、次から次へと、と、独りごちる。




 屋敷に戻って、メイド達に告げる。


「パール、オニキス、ガーネット、出撃用意。団服ではなく、らいらい研の制服で準備を。準備ができ次第出るぞ。それから、マイヒメ」


 白猫が近づいてくる。


「マオマオ団、全猫用意。集めておけ」

「にゃーん」


 と言ってマイヒメは出ていく。そろそろ二代目、三代目に役目を移すべきだがマイヒメに頼る。


「ライラ、シンべロスおよびケルベロス、用意して」

「はい」

「ソフィ、こっちのことをリリィとライラとお願い」

「うん、わかった」

「こはる、さつきの護衛。ラナとルナは開発を継続。ドライアとディーネは足湯警備で」


 それぞれ、頷いて了承の意を伝えてくる。最後に


「フラン、頼む。僕の背中を」

「はい!」


 とかなで。


「フランは騎士団を率いて。僕はマオマオ団を。シンべロスとケルベロスの準備ができ次第出るよ!」


 と言って、動き出す。



 夕方にはシンべロスとケルベロスの準備が終わり、屋敷の訓練場に並ばせる。イングラシアから連れてきたとはいえ、何十ものケルベロスが並ぶのはなかなかの光景だ。


「よし、馬が乗り継いで五日。君たちなら二日で行けると信じている。明後日には着くぞ! いいな!」

「「「わおーーん」」」

「よし、騎乗! 出るぞ」


 と言って、飛び出す。




 夕方に出たにもかかわらず、シンべロスもケルベロスも草原を駆け抜ける。夜の暗闇も気にせず走る。小さな町も村も素通りだ。

 とにかく走る。シンべロスもケルベロスもごめん。よろしく頼む。



 結局二日間、二晩をシンべロスもケルベロスも走り抜け、三日目の朝に王都にたどり着く。

 僕たちはグリュンデールの旗を掲げ、空いたばかりの王都の門を止められようが問答無用で駆け抜ける。門を通り抜けたところで、


「マイヒメ、全猫散開! 夏に二人のことは見たな! 探せ!」


 と命じると、シンべロスのかごから猫たちおよそ百匹が街中に散らばっていく。

 この時期、猫の散歩は少ない。目撃情報はないかもしれない。だが一縷の望みをかける。


 僕とかなで、騎士団は王城へ向かう。アンディに話を聞くためだ。

 街中を駆け抜けるシンべロスとケルベロスに王都中の住人は驚いていたが、僕らは気にせず王宮を目指す。


 王城の門すら無理やり突破する。タイムイズマネー。

 王城の入り口でシンべロスを降り、僕とかなでは城の内へ。シンべロスたちは騎士団に任せる。

 が、追っかけてきた近衛たちに問いつめられる。

 アンドリュー王子殿下に呼ばれたと言っておけって、バニー達に言っておいたので、そのように回答しているだろう。


 王城内で、近衛兵にアンディの下へ連れて行くように頼む。今、どこにいるのかわからないのだ。だが、王城にいるはず。僕は、王城のアンディの部屋へ通された。




 アンディの部屋へかなでと二人とも入れられる。アンディは手を挙げ、すべての護衛を部屋から出す。


「アンディ、どういうことだ?」

「伝わってなかったか? ステラとサテラがさらわれた」

「それは聞いた。で?」

「全くわからん。八日前、王都内で馬車が襲われ二人がさらわれた。全く手掛かりなし。ただ、王都から出た様子がない。そんなところだ。犯人の予想もまったくつかない。それが現状だ。そこで、らいらい研に頼みたい」

「らいらい研? それはグリュンデールやローゼンシュタインではなく、ということだな」


 一応の確認として聞く。なぜなら、僕もかなでもすでにらいらい研の制服を着ている。


「そうだ。誰がやったかわからない以上、中立を保つ両家には出てもらうと困る、のだろう?」

「あ、グリュンデールの旗を掲げてきたぞ? でないと通してもらえないからな」

「それは、僕に会いに来たことにする。だが、それとこれは別の話だ。いいな?」

「わかった。で、何も手掛かりはないんだな?」

「うん、そうだ」

「じゃあ、ここにいても仕方ないな。僕はローゼンシュタインにいるから」


 と言って、かなでと一緒に部屋を出る。王城を出ると、騎士団と一緒にローゼンシュタイン邸宅へ行った。




「母上、母上!」


 と、屋敷で母上を呼ぶ。


「なんだ?」


 仮面を装着した母上とシャルロッテ様がやってくる。


「お部屋をお借りできますか?」


 と言って、会議室へ行く。


「聞いていますか?」

「聞いているぞ。ステラ様とサテラ様だろう?」

「情報は?」

「ないな」

「アンディが余計なことを言った、ということを聞いたことは?」

「去年の夏な。お前に嫁ぐとか嫁がないとかいう話だろう?」

「それとの関連性は?」

「ないとは言えんな。これ以上グリュンデールが力をつけるのを嫌がっているやつらがいるっていうことを、テイラーが言っていた。まあ、お前が本当に王国の転覆を狙っていなければだがな」

「私はどっちでもいいわよー」


 にこやかなシャルロッテ様。マジか。


「母上、黒薔薇は?」

「うちは中立だってわかっているだろう?」

「まあ。だからアンディからはらいらい研に依頼があったんです」

「なら、らいらい研としてやれ。うちは、黒薔薇は動けん」

「わかっています。ジェシカたちは?」

「後で呼んでおいてやる」


 部屋で待機をしていると、ジェシカたちがやってくる。


「ジェシカ、ベティ、それからビビアン、よろしく。悪いんだけど、らいらい研の制服に着替えてくれる?」

「ほとんどグレイス君の騎士団の団服と同じじゃん?」

「逆。らいらい研の制服をうちの騎士団がまねしたの」

「まあ、いいわ。今日これかららいらい研に属します」


 と三人が頭を下げる。


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