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さつきー6

 翌日の昼過ぎ、三つ首ドラゴンの回収を担当していた赤ドラゴン族が二人、部屋にやってきた。


「ガンツ様の指示に従って、三つ首ドラゴンの回収をいたしました。骨や牙、爪、うろこや皮など、使えそうなものはすべて回収しました」

「ありがとう。翼ってさ、さつきの翼と同じようにはく製になるかなぁ」

「ガンツ様方に聞いてみないとわかりませんが」

「さつきが倒した三つ首の大きさを残すのにちょうどいいと思うんだよね」

「確かに、我が族長の偉大さを示すのにちょうどいいかもしれません。片方しかありませんでしたが、ガンツ様方に頼んでおきます」

「よろしくね」

「ところで、肉を食べるとおっしゃっていましたが?」

「食べられるところあった?」

「肉は腐りかけており、食べては危険だと判断し、すべて焼却処分しております。が、二つだけ……」

「ん? 二つだけ?」


 二つあるもの、目かな、それとも、あのドラゴン、オスだったのか?

 ドラゴン族の二人は部屋の外に目配せをするので、


「入れ」


 と部屋の外に待っているであろうドラゴン族に声をかける。すると、二人のドラゴン族は入ってくる。その手に持っているのは卵。


「卵?」

「はい、あの三つ首ドラゴン、雌でした。それで、腹の中に卵が入っておりました。すでに殻が形成されているので、生まれる寸前だったのではと思います」

「ということは?」


 と、京子ちゃんを見ると、


「有精卵かもしれないわね」


 と返事をもらう。


「生きているの?」


 と、ドラゴン族に聞くと、


「はい、魔力は微弱ですが、生きています。茹でますか? 焼きますか?」


 と、ドラゴン族は殺気だって憎さ百倍みたいな顔をしている。

 さつきを殺されたドラゴン族としては、卵であろうと許せるものではないのであろう。気持ちはわかる。

 京子ちゃんを見ると、フルフルしている。他の妻達はどうしていいかわからない様子。当事者の一人、こはるを見る。


「こはる、これ、どうしたい?」

「わらわはもう、どうでもいい」


 とだけ答えた。


「あの三つ首ドラゴン、知性は有りそうだった?」

「わかりません。会話をしておりませんので」

「そうだったよね。ひたすら双方攻撃だったもんね。じゃあ、人に従う可能性は?」

「それもわかりません。いきなり襲ってくる可能性もあります」

「鳥のように刷り込みってないかな?」


 とは京子ちゃん。


「ソフィ、育てる? あの三つ首ドラゴン」

「私は直接見てないから何とも言えないけど」

「全長四十メートル以上ありそうだった」

「ごめん、無理」


 だよねー。


「ライラ!」

「無理です」

「ケルベロスみたいなもんじゃん」

「違います。絶対に嫌です」


 断固拒否の様子。


「リリィ、ライラの事うらやましがって……」

「ないから!」


 とかぶせるように断ってきた。


「グレイス様、お言葉ですが、我々は三つ首のドラゴンによい印象を持っていません。しかし、グレイス様には従います。もし、ふ化させるとしても、制御不能であれば、小さいうちに殺すことをお許しいただきたい」

「わかった。その時は、僕自ら殺そう。だから頼む。この二つもふ化させてくれ。それと、ふ化しそうだったら教えてほしい。僕を刷り込ませる」

「承知いたしました」


 と、部屋を出て行った。さつきのふ化時期は来年の夏ころを予定している。三つ首もそのころではないだろうか。




 こうして、冬に入るころには神社が出来上がった。

 さつきを象徴するかのような巨大な赤い鳥居、そこから本殿に続く長い石畳。石畳の左右には池。水はうちの屋敷と同じ水系を使っている。

 狛犬はなぜか招き猫。

 本殿はさつきが翼を広げた様子をイメージした左右に広がる構造。しかも、赤色に塗られている。それが石垣の上に乗っている。

 石垣の階段を上って本殿の正面に出る。本殿に入ると正面には巨大なさつきの像と天井には翼が祀られている。その右には三つ首ドラゴンの魔石と翼が、左には三つ首ドラゴンの頭蓋骨が置かれており、さつきが戦った三つ首ドラゴンの大きさがわかる。


 僕は、この神社を管理させるべく、明日奈のチームに巫女をやれと言った。そしたら、明日奈はベロニカに丸投げをしようとした。


「だって、私だって「はらったまきよったま」くらいしか知らないもん」


 だそうだ。僕も知らない。管理をしてくれればそれでよかったんだけど。まあ、何とか説得して、明日奈のチームは騎士団兼巫女となった。

 京子ちゃんにお願いし、明日奈と一緒に巫女装束を作ってもらった。白衣、緋袴、千早と用意した。ちゃっかり妻達の分まで用意された。まあ、巫女装束はかわいいからよしとする。

 ちなみに、京子ちゃんの袴には薙刀というこだわりから、このチームには薙刀の訓練が必須となった。いや、エルフだから。魔法使えるから。


 神社名は龍姫と書いてたつきと読み、龍姫神社とした。

 オープニングセレモニーで僕と京子ちゃん、それと明日奈が鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼で参拝し、それを皆が倣った。ちなみにお賽銭制度は採用しなかった。


 こうして、さつきはグリュンデール領で神格化した。


 王都や他の領では三つ首のドラゴンの恐怖にさらされる前にさつきが倒したので、三つ首のドラゴンが出たことすら実感がないらしい。

 決して広めたいとは思っていないので、まったく構わない。この領の住人が守り神としてさつきを崇めてくれればそれでいい。

 ちなみに、山脈の反対にあるローゼンシュタインでも三つ首のドラゴンの出現は知られており、グリュンデール同様にさつきが崇められた。神社については、敷地を用意して建てられたわけでなく、中央公園の隅にこじんまりと建てられた。


 龍姫神社の神紋は、丸にさつきの残された左翼をイメージしたものにした。この神紋が描かれた幕が神社には張られた。

 また、さつきの左翼を模したペンダントやキーホルダーをお守りとした。こっちの世界の人たちには袋型のお守りはあまりなじみがなかったためだ。

 グリュンデールやローゼンシュタインではロッテロッテのものと合わせてつけるのがはやった。

 ちなみに、思惑とは異なり、龍姫神社のお守りはお土産物としても売れた。グリュンデールやローゼンシュタインへ来た商人や旅行客は、この世界で珍しい神社に興味を示し、その由来となるさつきの勇姿の話を聞くと、お守りとして買わないわけにはいかなかったようだ。

 はじめてさつきの話を聞く人は大げさだと思う人が多かったらしいが、この人たちも神社に置かれた三つ首のドラゴンの頭蓋骨などを見ると、さつきの像に手を合わせないといけない気になったようだった。

 また、吟遊詩人が中心となって、その話をもとにした歌を各地で歌って、かつ、お守りを売るという商売もできて、神社自体が広がらなくてもお守りとさつきの勇姿は広がっていった。

 中には、巫女装束をキザクラ商会へ注文するマニアックな商人もいた。誰に着せるんだか。これは、日焼けエルフに巫女装束が意外と似合っていたせいかもしれない。

 結局、龍姫神社はこのグリュンデールの観光地化してしまった。厳かにしたかったのだが、仕方ない。庭園も建物もさつきをイメージして美しいのだから。


 それから、予想外だったのは、なぜかさつきが武神扱いされてしまったことだった。武神って、モングラシアで祀られている神だったような。

 だが、領民は、生まれたばかりの赤子や学校に上がるような少年少女を連れてきて強く元気に育つように願ったり、騎士や戦士、冒険者なども無事を願って参拝したり、という感じになった。

 グリュンデールやローゼンシュタインの騎士団は王都へ行く際や、途中や帰りに必ず寄って参拝していく。確かに、さつきはこの世界最強だったからな。

 モングラシアにいた明日奈に武神を名乗って大丈夫か? と聞いたら、「問題なし」と答えた。元々獣王国では武神が信仰されていたとしてもあいまいだったし、モングラシアにいたのはエルフだったので、精力的な普及をするわけでもなく、なんとなく祀っていただけだそうだ。そもそも、なぜ武神を祀っていたのかもわからないのだそうだ。また神様を作っちゃったけど、あいつ、怒ってこないかな?




 大みそかの夜、新年を迎える時間に参拝してくれた人たちに甘酒を配ると、大変喜ばれ、二年参りもこの街の風習になった。

 参拝者の子供には京子ちゃんが作ったミカンが配られた。

 ちなみに、甘酒を作るのに必要だった米麹だが、今年から酒造りに挑戦していたことから大量に手に入ったのだ。

 この参拝客の多さを見た屋台屋さんが慌てて店を並べ、一大祭りになってしまったのはご愛敬だろう。この大みそかの夜から三日間は参拝客のために屋台が出続けた。

 街の人たちが楽しんでくれるイベントができてよかったと思った。


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