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さつきー5

 あちらこちらから泣いている声が聞こえてきた。特にリリィとライラはギャン泣きだ。

 ルナがそっと手を挙げる。


「なぜ、その男が天使だと? それと天使の役割についてどうして知っているのですか?」


 さすがは知りたがりのハイエルフ。冷静だな。


「天使かどうかは、正直、相手の言うことを信じるしかない。それから、役割については獣王国で三万人を殺した件で説明をされたうえで文句を言われた」


 と、後ろめたかったけど、そう答えた。


「ちなみに、ドライアとディーネは知ってた?」

「いえ、私達は死にませんので、興味もありませんでした」


 と、ドライア。


「みんな、いいかな。こんなこと、他の誰にも知られてはいけない。卵もさつきだけど、さつきとして扱わない。魂が転生すること、しかも記憶を持ったまま転生できる可能性があることなんか知られたら、パニックになる」


 と言い切った。


「よし、バニー、チームルビーに言って、誰か卵を温めた経験のある赤ドラゴン族を連れてきて。さつきの忘れ形見だから、大事に扱うようにと。それから、卵がここにあることが不自然かも知れないけど、それは僕とさつきが以前に仕込んだことだからと言って」

「はい!」


 返事をしたバニーが部屋から出ていく。しまった。もう一人呼んでほしかった。


「パールの誰か、トドマツを連れてきて」

「はい」


 同じように返事をして、パールのメイドの一人が部屋を飛び出す。


「ラナ、ルナ、ドワーフではく製を作った人がいたら連れてきてほしいのと、それを保存するための容器? 装置? を作ってほしいとガンツとタンツ、ファレンに言って。翼は開いた状態で、かっこよくって」

「「はい」」


 ラナとルナも出ていく。

 残された他の妻達は、さつきをなでなでしていた。泣きながら。




 しばらく待っていると、赤ドラゴン族の女性が数名やってきた。


「この卵の世話をお願いしたい。卵はみな大事だと思うけど、この卵は特に大事に扱ってほしい。お願い」


 そうお願いして、僕は頭を下げた。


「そんな、頭をお上げください。グレイス様と族長の子です。守り通して必ず元気な子をふ化させます」


 そう決意をしてドラゴン族達は、卵を抱えて出て行った。全裸のこはるが引きずられていたが、僕がこはるを止めた。


「こはるは通常業務。それと、僕と一緒に訓練。強くなろう」


 と、こはるに声をかけると、こはるも意を決したのか、仁王立ちで


「うむ」


 と言った。


「その前に、服を着てね」

「うむ」




 次にやってきたのはトドマツ。


「トドマツ、都市や施設の建設をしてくれてありがとう。この屋敷も住みやすいよ」

「いえいえ、気にしないでください。その前に、先日の件は本当に……われわれも力になれず、本当に申し訳なかったです。われわれもこれから力をつけて、もっともっと強くなりたいと考えておりますので、許していただきたい」

「いや、その件は仕方なかった。僕も恥ずかしい姿を見せたと思う。許してほしい。お互いにより強くなろう。それで、お願いというのは、さつきを祀る神社を作ってほしい。しかも、立派なやつ。この屋敷の近くに建てられるか?」

「この街の中でいいのですか?」

「うん。外だと管理できないから。本殿にはさつきの翼を祀るから、大きくしてね」

「かしこまりました。さつき様のため、我ら緑ドラゴン族、全力を尽くさせていただきます。この屋敷が街の中心にありますが、なるべくいいところに土地を確保します」

「よろしくね。それと、訓練場に一メートルくらいの魔石が落ちている。それも回収して、神社に置くから。それ、さつきが倒した三つ首のドラゴンの魔石だからね。さつきが残してくれたものだし、さつきが倒した証だから、大事にしてね」

「わかりました」


 とトドマツが出ていく。なんとなく、だましているようで悪いな。




「ねえ、ソフィ、さつきの翼はどこにあるの?」

「教会にあるわ。持ってきてもらう?」

「そうだね。うちのどこかの隊にお願いして、一応、喪服で取りに行ってもらおうか。埋葬も僕がやるからと言って」


 部屋に残ったメイドの一人に、そのように連絡しようとして、一人の部隊長と目が合った。


「ヘレナ、行ってくれる? ヘレナ達なら、喪服を着たら真っ黒になると思うし」

「なんで? 色で? 肌の色で選んだ? それ、なんとかハラスメントだよ?」

「ごめんごめん。でも、お願いできない?」

「わかったわよ。私の部隊で行ってくるから」


 明日奈もベロニカを連れて出て行った。




 次いで、ガンツとタンツ、ファレンがドワーフを数人連れて入ってくる。


「この度はグレイス様におかれましては、さぞかしお辛いことと……」

「ガンツ、ありがとう。でも、いつまでも悲しんでいられないから」

「そうですね。早く立ち直られた方が、さつき様も安心するでしょう」

「うん。それでね。お願いなんだけど」

「聞きましたが、さつき様の翼をはく製にすると」

「うん。っていうかね。はく製がいいかどうかわからないんだ。今、さつきの翼を祀る神社をトドマツに作ってもらうって話をしてね。それで、翼の方は、ガンツたちにお願いしたくて。いつまでもさつきの翼が残るように、さつきのことをいつまでも忘れないように」

「はい。かしこまりました。連れてきたメンバーですが……さつき様を野生動物や魔獣と一緒にしてはいけませんが、そういったはく製等作ることができる者たちです。この者たちに任せようと思います」

「うん。よろしく頼むよ。その翼はさつきだから」


 とプレッシャーをかけると、頼まれたドワーフは冷や汗をかいた。


「グレイス様、脅さないでやってください」

「うん。ごめんごめん。でも、さつきの翼だから、ちょっとやそっとじゃ傷つかないと思うよ。それと、ファレン、ケースを頼みたいけど、大丈夫? かなり大きいいよ?」

「はい。お任せください。さつき様のため、作らせていただきます。ただ、一枚ものではなく、何枚か合わせたものになると思いますが、ご容赦ください」

「うん。任せた」


 というと、ドワーフたちが下がろうとする。


「あ、忘れていた。もう一つ。あの戦場にね、あの三つ首のドラゴンの死体があるんだけど、あれ、回収しておいてほしい。赤ドラゴン族に運搬を頼んでいいから。素材となるものはすべて確保して。肉は、もう食べられないよね。もし、食べられる部分があったら、僕が食べる。よろしくね」


 とお願いをすると、今度こそ、ドワーフ達は出て行った。




「ソフィ、これでとりあえずいいのかな? 何かやり残したことあるかな?」

「ええ、あるわ」


 と言って僕に引きつかせた笑顔を向ける。僕は嫌な予感がして、一歩下がるが、京子ちゃんの方が早かった。


「さあ、関係各所に謝りに行きましょうね。まずは教会からね」


 と言って、僕の手をつかんだまま歩き出した。


「わかったわかった。ごめん。でも、ちゃんとした格好をさせて!」


 と、僕は着替えて、残った妻達と謝罪回りに出かけた。

 だけど、僕の取り乱しを見ていた人は快く許してくれた。ありがたい。

 むしろ、命を懸けてこの世界を守ってくれたことに感謝された。

 ほぼほぼさつきとドラゴン族のみんなのおかげなんだけどな。

 僕はさつきを誇らしく思った。


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