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さつきー3

 葬儀は街の教会で行った。

 すべて、神父が取り仕切ってくれた。しかし、僕はよく覚えていない。

 隣に座ってくれた京子ちゃんが、いろいろと僕に指示をくれて、何とかなったようだった。

 次いで告別式が行われた。

 これもわからなかった。聖歌? さつきにささげるなら、真面目に教会に通って覚えればよかった。深く反省した。

 献花の前に遺族あいさつがあった。京子ちゃんに促されて、前に出た。


「さつきは、強かった。人として、母として、妻として。いつでも真剣に僕を思い、僕を鍛え、僕を導いてくれた……ごめん、僕が弱かったから、僕が弱かったから、僕が弱かったから! 強くなりたい、強くなりたいよ、さつき。だから……」


 取り乱して遺族挨拶にふさわしくもないことを話し出した僕を椅子に座らせ、代わって、京子ちゃんが取りまとめてくれた。


「本日はお忙しい中参列くださりありがとうございました……」


 僕は、献花されるところを座ってずっと見続けていた。僕に頭を下げていく人、僕の肩をたたいて励ましてくれる人、でも、僕はさつきの入った棺桶を見続けていた。いつの間にか僕の手を握った京子ちゃんの手にも気づかないまま。


 だが、僕の横を歩いて献花に向かう一人の男になぜか気が向いた。その男は、なんの変哲もない黒い礼服を着ていた。ただ献花をし、そして、歩いて戻ってきた。

 その時に、僕と目が合った。そして、顎でクイッと合図をした。ついてこい、ということだろう。

 僕はおもむろに立ち上がり、その男について行く。

 京子ちゃんは僕を止めたが、僕の耳にはその声が入ってこなかった。



 その男について行くこと数十分。僕の屋敷まで帰ってきた。そして、堂々と門をくぐり、訓練場まで歩いて行った。

 その訓練場の真ん中で、その男は立ち止まり、こっちを振り返った。その男は、僕を見ると、手のひらで自分の顔をしたから上へ撫でた。次の瞬間にその手の下から現れた顔は、あの、銀髪天使だった。


「貴様ー!」


 問答無用で殴りかかる。


「お前のせいで! お前のせいで! お前のせいでー!」


 どれだけ殴ろうと蹴りを繰り出そうと、すべて簡単にいなされる。だけど、やめるつもりはなかった。やめられなかった。

 ひたすら殴る、ひたすら蹴る。掴んで投げようにも全くつかませてもらえない。僕の一方的な攻撃はいつまでも続けてやる。せめて一発でも。


「人のせいにする? お前が弱いせいだろ? 強くなるんじゃないのか? ほらほら、鍛えてやる。もっと打って来いよ」


 と銀髪天使があおってくる。殴る、殴る、蹴る、殴る、すべて防がれる。僕は魔力を込め……


「魔法? ここじゃだめだよ。建物が壊れちゃうからね」


 と言う銀髪天使に魔法陣が消されてしまう。

 むきになった僕は、銀髪天使に攻撃し続ける。しかし、一発も殴ることができなかった。


「これで!」


 と言って、大きく踏み込み、相手が攻撃をしてこないのをいいことに、無防備な全力のストレートを撃ちこむ。が、それもかなわなかった。

 というか、こぶしの先に、赤茶色の球体の何かを銀髪天使が取り出した。

 僕は、中途半端な形で止まり、こぶしの先にある、それを見つめる。そして、銀髪天使の顔を見る。


「ほら」


 と言って、それを僕に向ける銀髪天使。突然のことに混乱した僕の胸に、銀髪天使はそれを押し付けた。


「それ、受け取りなよ」


 と言って。

 僕は思わず、それを受け取ってしまう。どう見ても卵だった。直径三十センチもある。僕は怒りも忘れて、その卵を見つめる。

 いったい何なんだ。


「今回の件な、神様がものすごく喜んでくれたよ。この世界を必死で守ろうとするドラゴン族、お前たち人と協力する姿もな。そして、わが身を顧みず強敵に立ち向かう姿、強力なブレスに突っ込むドラゴン。愛する人を守る強さ。これまでで一番感動していたよ」

「ちょっと待て、僕らは神を喜ばせるために生きているんじゃないんだぞ!」

「いや、神も自分が喜ぶために何かをしているわけじゃないさ。ただ、お前たちの生きる姿に一喜一憂しているだけだ。僕は神様が喜んでもらえるよう、ちょっとだけいたずらをすることもあるけどね」

「今回のもお前が?」

「違うよ。さすがにあんな危ないことしないよ。だって、下手したら神様が作ったこの世界がなくなっちゃうでしょ?」

「じゃあ、あの時、なんで邪魔したんだ?」

「言わなかったっけ? あの三つ首のドラゴン、転移門を通ってきたって。あそこにある転移門を壊されちゃうと、それはそれで困っちゃうんだよね」

「あんな危険なものが出てくる可能性があるなら、壊してしまった方がいいじゃないか!」

「そうとも言えない。今回のあれはイレギュラー。たまたま、たまたまなんだよ。普段はね、この世界にいるたくさんの魔物、魔獣をこの世界に供給しているんだ。それ、君達利用しているでしょ? あれはあれで必要なんだよ。だからいざというときのために守り人がいるんだ」


 ここで銀髪天使はため息をつく。


「まあ、あの一発目をね、消した僕も神様には怒られちゃったんだよね。壊れたらまた直せばよかったと。それでちょっと反省したわけだ。そこでお詫びがそれ」


 と言って卵を指さす。


「これ?」

「そ、ドラゴンの卵。三十七度が適温だから。たまに転卵してあげてね。でも、あんまり回しすぎると、白身と黄身が混ざるから気を付けてね」

「ドラゴンの卵をくれるって? お詫びに? さつきは戻ってこないんだぞ!」


 と怒鳴り散らす。


「おいおい、僕の仕事が何だったか忘れちゃったのかい? 去年の三万人はつらかったなぁ。あの時は、総出で眠る暇もなくだったからね。そうか、あの時の貸しを返してもらったと思えばいいのかな?」


 手をポンとたたく銀髪天使。


「ま、まさか」

「そのまさかだよ。クリーニング、してないから。でもそれ、まだ胚胎もできてないから大事にしてね。それじゃ、僕は行くよ。そうだ、あの三つ首ドラゴンだけど、拾っておきなよ。爪もうろこも牙もなんでもいい素材になると思うよ。肉も食べたらいいと思うけど、まだ食べられるかなぁ。それと、これだけは僕が拾っておいたから」


 銀髪天使は、一メートルはありそうな巨大な魔石を僕の前に置いた。


「これ、その子が倒した証だから」


 そう言って銀髪天使は消えた。

 僕は、もう、後半は聞いていなかった。しゃがみこみ、大きな卵にそっとおでこをつける。感じる。さつきの魔力。今はまだ、ちっぽけな魔力。


「さつき、さつき、さつき……」


 僕は卵におでこをぐりぐりしながら、呼びかけ続けた。涙も止まらなかった。自分の涙だけど、この前のとは違って暖かく感じた。




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