表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

179/376

さつきー1

 秋は、食事もおいしくてたくさん食べてしまうし、夜が更けるのも早くなってきたので、眠くなるのも早い。

 みんなでベッドに並んで寝ていたある日、突然、屋敷が揺れた。地震だ。この辺りでは珍しい。

 そう思っていると、さつきとこはるが窓際に立つ。しばらく山脈の方を眺めていたが、二人とも僕の方へやってくる。

 さつきは突然、僕をぎゅっと抱きしめて


「楽しかった。ありがとう。そらを頼む」


 と言った。

 こはるはさつきと代わって僕を抱きしめると、キスまでした。


「みずきをお願い」


 と。こんなことを言う、こんなことをする二人は珍しい。


 二人は窓から飛び出すなり、ドラゴン形態となり、


「全ドラゴン出るぞ。私についてこい!」


 そう命令して、山脈の方に向けて飛び立った。

 突然のことながら、この街にいたドラゴン族およそ百五十が飛び立って行った。

 僕には何が起こったかわからなかったが、重大な局面なのはわかる。さつきとこはるがあんな意味深なことをするはずがない。


 僕はベッドから飛び出し、急いで着替える。かなではすでに部屋を飛び出している。


「ドライア、ディーネ、それからラナとルナ。何が起こっているのかわからない。万が一の時は、子供達とこの街を守って」


 と言うと、真剣な顔でうなずいてくれる。


「グレイス君はどうするの?」


 京子ちゃんが叫ぶ。


「さつきとこはるのところへ行く」

「二人があんな風に出ていくなんて、危ないんだよね。ドラゴン族だって危険なんだよね」

「きっとそうだと思う。でも、さつきとこはるが覚悟をして出て行った。それでだめだったら、次は? それなら、この世界最強のあの二人と一緒に行動を起こした方がいい」

「きっとそうだと思う。それが正しい選択だと思う。だけど、だけどね」


 京子ちゃんが涙ぐんでいく。この前の銀髪天使の時のことを思い出しているのかもしれない。


「私はね、きっとまだ足手まといになる。だからね。ここで待っている。この前の約束覚えている? お願いだから、怪我をしないで」


 と言って抱き着いてきた。僕はわかったとは言えなかった。僕は京子ちゃんを強く抱きしめた後、他の妻たちとも抱擁を交わす。


「ライラ、シンべロスを借りる」


 ちょうどかなでもやってきた。


「それじゃ、出る」


 そう言って、かなでと二人、部屋を飛び出し、シンべロス養育場へ向かう。そこで二頭のシンべロスを連れ出し、僕とかなでは山脈に向かう。

 向かうのはこはると会った洞窟だ。おそらく、あそこが一番近道だ。

 シンべロスたちは、僕たちの意をくんでかものすごいスピードで走ってくれ、六時間ほどで洞窟の奥まで着く。

 ここまで地震や地響きは何度も起こっていた。

 洞窟の奥、地底湖の上には空の見える穴がある。地底湖のほとりでシンべロスから降り、シンべロスに帰っていいと伝える。二頭は名残惜しそうにしていたが、後ろを向いて帰っていった。



 僕らは身体強化をして崖を登り、穴から外に出る。

 そこで見たもの。怪獣大戦争のような光景だった。

 うっすらと夜が明けそうな明るさの下、金色に光っている三つ首のドラゴンがいた。

 高さ二十メートル、頭の先からしっぽまで四十メートル、さつきの二倍はありそう、体積にしたら八倍ぐらいありそうなドラゴンだ。

 周りを飛び回っているドラゴン族が小さく見える。僕が刀を、かなでが大鎌をかまえて走り出すと、その前に降り立つドラゴンが一頭。さつきだ。


「なぜ来た!」

「なぜって、さつきとこはるがいつもとちがう雰囲気で飛んでいくからだろう! なんだあれは!」


 さつきはかなり不満そうに見える。ドラゴン形態なのに。


「あれは転移門から現れた魔獣だ。あんなものが出てきては、この世界が終わる。ここで止めないとまずい」


 そうか、あれがドラゴン族がここに里をかまえた理由か。ちょっと悟る。


「この世界最強のさつきとこはると一緒に戦いたい。それがあれを止める一番確実な方法じゃないのか?」

「……あれは、魔法が効かない。物理攻撃のみだ。だがな、かなり防御が固い。ドラゴン族が総出で六時間以上殴っているが、見ての通りだ。まあ、ドラゴン族が殴るって言っても手はこの通りだし、しっぽで殴りつけるしかないのだがな」


 といってしっぽを見せる。かなり傷がついている。よく見ると、体中が傷ついている。僕は治癒魔法を使おうとする。


「ハイヒー……」

「まて、まだ早い。グレイスの魔力はまだ温存すべきだ。とはいえ、グレイスのその刀やかなでの大鎌でもなかなか刃は通らんぞ。それでもやるのか?」

「当たり前だ」


 と僕は意気込む。さつきとこはるが頑張っているのだ。


「わかった。かなで、必ずグレイスを守れ。いいな」


 かなでは


「うん」


 とうなずく。


 さつきは、他のドラゴン族と連携するため、飛び立って行った。ドラゴン族のブレスはあまり効いているように見えない。ただの牽制に使っているようだ。

 一方、三つ首のドラゴンの方は、三つの頭からそれぞれブレスを吐き、ドラゴン族は回避に専念しなければならず、なかなか攻撃を与えることができていない。


「上空からタゲを取れ! こはる、足を狙うぞ!」


 という声が聞こえてくる。


「僕らも行こう」


 そういってかなでと走り出す。

 近くに寄ると、その大きさがよくわかる。足だけで、僕の身長より高いのだ。

 僕は、さつきたちと一緒に、上空部隊がタゲを取っている間に、一刀入れる。見事なまでに刃が通らない。かなでも同じようだ。それでも何度も何度も殴りつける。切れない。

 手を止めるわけにはいかない。が、刀でたたきつけすぎたのか、タゲがこっちに移る。転がるように逃げるが、さっきまで僕がいたところに、三つ首ドラゴンの右足が落ちる。


「これ、持久戦だな。魔力がもつのか?」


 とつぶやくと、


「そうであろう。だが、持久戦なんて言っても、全く勝ち目は見えていないぞ。まともに傷をつけられないんだ」


 と、さつきが返してくれる。こはるは? とみると、三つ首ドラゴンへ必死に攻撃を加えている。全くダメージが通らない上に、時々しっぽでたたきつけられているようだ。さつきも


「あれにやられるんだ」


 という。


「とはいえ、飛んだまま攻撃しても大してダメージを当てられない。だから、空中の部隊がタゲとり、我らが下から足で踏ん張った攻撃を加えているんだ。いやになるくらいダメージを与えられないけどな」

「わかった。僕らも続ける。数を撃つしかないんでしょ?」


 と言って、かなでと一緒に再び走り出す。何とか、タゲを分散させながら、切り付けていく。が、うろこを全く切り裂けない。所詮、僕らの体重ではダメージを与えられるほどの力が加わらないのだ。


「おい、さつき、空中部隊はそろそろ危ないぞ」


 とトドマツがやってくる。


「わかっている。よくやってくれていると思う。けが人は休ませて、もうちょっと頼む」

「だいぶ減ってしまったからな、どれだけ持つかわからんぞ」


 と言って、トドマツは飛び上がる。見るとトドマツも体中に怪我を負っている。チームルビーとサファイアも上空で飛び回って頑張っているが、もう、フルメンバーではない。本当に時間の問題か。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ