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夏休み(ステラとサテラそしてヘレナ)-6

 翌日は、ステラとサテラに誘われて買い物に出かけた。両手に子供だ。


「まず、どこに行きます?」


 しっかりした女性ぶるステラ。今日はそういう遊びかな。


「そうだね。パパとママにお土産は買わないの?」

「んー、それは後でいいですわ。では、グレイス様のお洋服を見に行きましょうか」

「僕はいいよ。僕は基本的にソフィが作ってくれるんだ」

「そうなのですか? その黒いコートもですの?」

「これは、キザクラ商会に作ってもらっているよ。うちの騎士団の団服だし、前に着ていた研究会の制服とそっくりだけどね」

「アンドリューお兄様も着ていますよね」

「それが前の研究会の制服。そっくりでしょ?」

「後ろで護衛してくれるかなで様も着ています」

「うん。慣れちゃったんだよね、これ。見てみる?」


 といって、コートをちょっと開けて中を見せてあげる。前世だったら通報されるところだ。コートの中に仕込んだ魔法銃とかナイフを見て。


「私も欲しいです。これなら水でっぽうを隠せます」

「欲しいです」


 とサテラまでいう。


「じゃあ、子供用が作れるかどうか、聞きに行こうか」


 と言って、キザクラ商会へ行った。サイズを測ってもらって、子供は大きくなるのが速いからといって大きめに作ってもらうことにした。


「次はどこへ行く?」

「わたし、あれが欲しい」


 とサテラが道路の反対側を歩く親子を指さす。その子供の頭についているのは猫耳。それから腰から生えるしっぽ。


「グリュンデールのお屋敷にもいらっしゃいましたね、獣人のお方が。サテラ、あれは買えるものではありません」

「いや、買えるよ? キザクラ商会に戻ろうか」


 と言って、キザクラ商会で耳付きカチューシャと腰につけるしっぽを見せてもらう。


「お二人の髪の色ですと、キツネタイプがお似合いではないでしょうか」


 と、キツネセットを進めてくる。キツネの売りは耳よりしっぽだ。このモフモフを一度触ってしまうと、いつまでもモフってしまう。案の定、二人ともそのしっぽが気に入ったらしく、キツネにしていた。早速つけてもらい、再び歩き出す。


「グレイス様のものが買いたかったのですのに」

「ありがとう。僕は持っているんだ。でも、ステラ、そのキツネ耳もしっぽも似合っていてかわいいよ」


 と言うと、ほほを染める。


「私はー」


 とサテラが言うので。


「もちろんかわいい」


 と答える。サテラは素直に喜ぶ。


「そうだ、クレープを食べに行こうか。クレープってのは、ソフィが考えたんだよ」

「はい。行きます」

「食べるー」

「小さいの四つ頂戴」


 と店員さんに注文する。


「はい、小さいの四つね」


 と言って、四つを包んでくれる。


「そのテーブルで食べよう」


 と言って、一つずつ渡す。もう一つはかなでだ。

 四人でテーブルに座って食べると、サテラは思いっきりかぶりついていた。ステラもそのおいしさに驚いていたが、一口ずつ味わって食べていた。食べ終わったころ、おもむろにステラがかなでに質問をする。


「グレイス様の好きなものってなんでしょうか」


 と。


「私」


 とおくびもせず答えるかなで。そういうこという子だっけ? もしかして、ちみっこをライバル視している?


「いえ、そうではなくてですね。それは見ていればわかります」


 六歳児、しっかりしているな。


「記念に何かを買って差し上げたいのですが、何がいいかと」

「何も買わなくてもいいと思います」

「えっ」


 って顔をするステラ。


「グレイス様はその時間を楽しむのが好きなので、一緒にいるだけでいいと思いますよ」


 と。かなですごいな。よくわかっている。


「落ち着いたし、向こうの公園まで行って、それから帰ろうか。そしたらちょうどお昼ご飯かな」


 といって歩き出した。公園は小道や芝が整備されていて、風通しもよく、木陰に入ると心地よい。ベンチがあったので、三人で座る。かなでは後ろで警戒中だ。


「グレイス様。我が国のために、私と結婚してくださいませんか」


 え?


「ステラはまだ六歳だよね。そういうことを考える年齢じゃないと思うんだけど」

「ですが、私も王女の一人、国のためにどこへでも嫁ぐようにと言われています」


 とうつむいたまま話すステラ。


「好きな子がいるんじゃないの?」

「はい。好きな人がいます。その人は素敵な人なんです」

「そうなんだ。そしたら、その人と結ばれるといいね」

「そうですね。そうなれば何もかもうまくいくのですが。もう一度、お兄様に相談してみます」

「それがいいと思うよ」

「はい」

「私もー」


サテラはわかっているのかな?



 お昼ご飯を食べ終わったときにふと思い付いた。


「ソフィ、ミサンガって作れる?」

「ミサンガ? 作れると思うけど、あれ、いろんな種類があるわよね?」

「はいはい! 作れまーす。どうしたの、グレイス。かなえたいお願いでもあるわけ?」


 と明日奈が手を挙げて言う。

 その言葉に、女性陣が反応した。


「「願いをかなえるものなの?」」


 と。特にリリィとライラ。


「あら? リリィちゃんにライラちゃん、こんなに幸せそうなのにまだかなえたいお願いがあるのかなー。お姉さんが作り方を教えてあげよう」

「ほんと? ありがとう!」

「ちょっと待って、作り方を教えてあげたいのは、ステラとサテラだから」

「あら、ステラちゃんにサテラちゃん。さては恋のお願いかしら?」


 というとちょっとほほを染めるステラ。


「はい」


 と、うつむく。


「かわいいー。じゃあ、一緒に作ろうね。ソフィちゃん、刺繍用の糸ある?」

「あるわよ。持ってきてもらうわ」


 と言って、アンジェラに取りに行かせる。


「よし、お部屋でやろうか」


 と言って、明日奈はステラとサテラを誘って歩き出す。

 そこへ、ソフィにかなで、ライラとリリィ、そしてこはるがついて行く。さつきとラナ、ルナは興味なさそう。ドライアとディーネは足湯に向かった。


「じゃあ、まず初めに、簡単な三つ編みから作ろうか」


 そう言って、明日奈はお手本を見せつつ、教えていく。


「でね、ここをこう結んで、はい。出来上がり。これをね、こうやって手首や足首につけてね、切れたときに願いが叶うんだよ」

「すごいきれい。ヘレナお姉ちゃんすごい。もっと教えて?」

「わたしもー」


 サテラは五歳なのに頑張って作っている。それにしても、明日奈は子供の相手がうまいな。


「じゃあ、恋の願いが叶うミサンガ作っちゃおうか」

「うん」


 と言って、ほほを染めるステラ。


「ハート形だよ!」


 と言うと、ステラは


「うん」


 とうなずいている。


「他のお姉さんはもう恋なんてしないでしょ? 違うの作ろうか。おしゃれにストライプでも作ろう」


 と言い、明日奈は子供と大人を同時に教えていく。


「わぁ、かわいい! これ私つける。ヘレナお姉ちゃん、結んで!」


 と言って、ハート模様ミサンガを右手につけてもらうステラ。サテラも


「私も」


 と言って結んでもらっている。


「恋愛は利き手なんだよ」


 と説明を加える明日奈。つける場所にも理由があるのか。


「お願いが叶うといいね」

「うん」


 ステラもサテラも手首にはめたミサンガを見ながら喜んでいる。


「ヘレナお姉ちゃん、お願いがあるんだけど。お父さんとお母さんのお土産に作りたい」

「いいよー。まだまだ作るよー。どんな柄がいいかな?」

「お父さんはかっこいいやつ、お母さんはきれいなやつがいい」

「おっけー。じゃあ、お父さんはひし形、お母さんはレース柄にしようか。レース柄は一色でもかわいいんだぞ。サテラちゃんもそうする?」

「うん!」


 と言ってまた作り出した。妻達は、子供達の作っているのと他の模様と同時進行で教えてもらっている。


「ヘレナ、編み方を知っているだけ全部書き出してよ。本にして売るから」

「えー、私だけが知っているじゃダメなの?」

「なんかはやりそうだし、それに、ステラやサテラ、妻達があっちこちで教えちゃうと思うぞ? そうなる前に本にしてしまったら?」

「そんな、見境なく教えないわよ。でも、そこで興味津々のアンジェラには教えるかもね」


 京子ちゃんが言う。


「はい。恋が叶うものがいいです!」


 と、アンジェラが即答。


「そうねー。グレイス君の家に帰ってから考えるね」

「あ、でも、キザクラ商会で売ってからにする?」

「商売上手だなー。どっちでもいいわよ」


 と、笑いあいながら、しばらく、女性陣のミサンガづくりが続いた。

 みんなで大量に作った後、ステラとサテラが僕のところにやってきた。


「一番初めに作ったミサンガなのです。これをつけてほしいです」

「ほしいです」


 と。なんか、かわいい。


「ありがとう。じゃあ、結んでくれる?」


 といって左手を出す。明日奈の「罪な男だな」発言は無視だ。


「ステラ、サテラ、ありがとう。大事にするね」

「大事にしてはダメなのです。切れたときに願いが叶うのですから」

「そうだったね。わかったよ。普通にしているね」

「はい」


 と喜んでくれた。ついで、妻達が一つずつ持ってくる。作ったのは京子ちゃんにかなで、こはるにライラにリリィなので、僕の手首にはさらに五本。おまけで明日奈の作ったものも一つ追加された。


「グレイス君、私の右手にも結んで?」


 と明日奈。ピンクのミサンガを渡してくる。


「なに? 恋愛成就祈願なの?」

「うん。そうよ。顔は黒くても心は乙女なんだから」


 と自虐を交えて言った。


 妻達は、作ったミサンガを子供達につけに行った。子供達、わからんだろうな。食いちぎらなければいいけど。


 誰もいないところで明日奈にお礼を言う。


「明日奈。ミサンガの作り方を教えてくれてありがとう。みんな喜んでいたわ。特に、ステラとサテラをかわいがってくれて」

「私、子供好きなんだよね。自分が若くに死んじゃったていうのもあるけどね。元気に、頑張って楽しく長生きしてほしいと思うよ」

「本当だよね」


 京子ちゃん達は、子供達にミサンガをつけているところをクララ達に見つかり、明日奈はもう一度教えることになった。

 さらには、さっきは詳しく教えられなかった、目的と色について、また、つける場所の意味について教えていた。

 ステラとサテラは恋愛のためにちゃんとピンクのミサンガを利き手につけたので、満足げだった。サテラはわかっているのか?

 アンジェラやベロニカ達メイドさんも総出で作っていたので、部屋は大混乱になったが、楽しそうだし、こんな日もあっていいだろう。利き手にピンクのミサンガをつけているメイドが多かったのが気になったけど。




 こうして、にぎやかな夏休みが終わり、グリュンデールに皆で帰った。明日奈達エルフも一緒に。

 アンディ達は、グリュンデールに一泊してから、母上やシャルロッテ様、黒薔薇と一緒に王都へ帰っていった。別れ際に、ステラとサテラに泣かれてしまったが、また遊びに来ていいと、言っておいた。


 夏が終わり、収穫の秋を迎える。米の脱穀や精米を行うための機械などはドワーフの国から輸入済みだ。

 そのほか、麦やブドウの収穫も始まり、同時に酒造りが始まる。

 ドワーフには、酒蔵に近づかないように厳命した。そうしないと、いつまでも落ち着かなくて仕事にならないのだ。

 それから、野菜や果物だけでなく、爺さん達が狩ってくる野生動物もおいしくなった。このあたりの食産業については、京子ちゃんの管轄だ。ラミとルミが多くを仕切っている。

 京子ちゃんはこの他、服飾も忙しい。明日奈はファッションに興味があるらしく、京子ちゃんと一緒に行動することが多くなった。


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