夏休み(ステラとサテラそしてヘレナ)-4
翌日、前日に早上がりしたことを子供に攻められ、今日も砂浜に行く。
沖に船が停泊しているが気にしないことにする。
今日は、昼にバーベキューをしようと、焼き台を用意する。用意だけしたら子供達と遊ぶ。
これまでのところ、子供達は体を動かすことが好きらしく、ちびっこビーチフラッグをやったり、トスだけビーチバレーをやったり、両陣に別れての水鉄砲の打ち合いをしたりして遊んだ。
昼が近くなったところで、僕は焼き台に火を入れ、肉や野菜、海産物を焼き始める。人数が人数なので、焼き台は複数あり、アンディやメイド達と一緒に焼いていく。鉄板では焼きそば醤油味も作る。ソースがね、ないのだ。
しばらくすると、匂いにつられて子供達が集まってくるので昼ご飯にする。肉や野菜は小さく切って、焼きそばも小さく刻んで子供達に分けていく。
僕や妻達も皿に肉や焼きそばを取って食べていると、沖の船に動きがあった。またボートがこっちにやってきた。案の定、ヘレナとベロニカがボートから降りてきた。
「おいおい兄ちゃん達、いいにおいさせてんなー」
と、やってくるヘレナ。めんどくさすぎるので、高速デコピンをくらわす。
「イタッ、なにすんねん」
「ガラ悪いわ。食いたいなら食いたいって言えばいいだろう?」
「だ、誰がそんな……「ぐぅ」」
ヘレナの顔が赤くなる。
「船で飯食わせてもらえばいいじゃないか」
「それがな、ボートで降りてここであれこれやっている間にな、乗務員はみな上陸しとったん。うちらもな、上陸しよ思たんだけど、誰もいなくなるの、不用心やん? そやから、船に残ったん。おかげで食べるものもなく……」
「そうなんだー。じゃあ、今、あの船には誰もいないんだな?」
「ま、そうゆうことになるな」
「昨日、うちの屋敷、吹っ飛ばそうとしてくれたの覚えているか?」
「あー、ちょっとうちの調子が悪くてごめんな。うちのすごいところ見せられんかったわ」
「じゃあ、代わりにうちの子供のすごいところ見せてやるわ。みずき、そら、いい!? あの船だよ。てー!」
と言うと、みずきとそらが口を開き、ピチュンと音がした思ったら、船が爆散した。
ヘレナとベロニカが固まる。おそらく、ボートの漕ぎ手も固まっているだろう。
まあ、静かになったと、肉を食べ始める。子供達にもいっぱい食べなよーと言って焼きそばを食べさせる。後は、魚をほぐして骨を取ってあげたり、エビをむいてあげたりだ。
ようやくリスタートしたヘレナが言う。
「ちょっとちょっと、なんてことしてくれるの、帰れなくなっちゃったじゃん。どうするの? 私達。船の中に財布も着替えもあったのに」
って、それが素か? 言葉遣いっていうか、キャラメーク、大丈夫か?
「まあ、気にするな。ここからずっと西に行くとな、アエオンって国があってな、そこから船が出ているから、とりあえずイングラシアに渡ったらいいんじゃない? いい、わかった? じゃあ、元気でね」
「うん、わかった。もう会えないかもしれないけど、いろいろありがとう。じゃあね」
って、ベロニカと振り返り、砂浜を歩き始めるヘレナ。で、もう百八十度振り向き、
「ちゃうわ。なんてことしてくれんねん。うちらに喧嘩売ったん?」
あ、キャラ戻った。どっちが本物なんだ?
「売ったのはそっちが先だろう? いきなり屋敷を破壊しようとして」
「そんなん、シャレに決まっとるわ、しゃれよしゃれ。これだからしゃれの通じない田舎もんは困るわ」
「うっさいわ。これ以上絡むなら、……奥歯がたがたいわせたろうか!」
「え、なんて」
「ほにゃほにゃ……奥歯がたがた言わせたろうか!」
「あーはっはっは」
と笑うヘレナ。
「甘いわね。ケツの穴から手え突っ込んで、よ」
「「はっ」」
ぼくとヘレナが同時に反応する。もしかして? と、京子ちゃんと顔を見合わせる。京子ちゃんも驚いている。すると、ヘレナが急に僕に抱き着いて、
「おにいちゃん」
「ちゃうわ!」
長い。長い。本当につかれる。ちょっと休みたい。僕は、生きたエビをヘレナに差し出し。
「ほら、食べなよ」
と言う。
「わーい、ありがとう。このエビのつや、全く赤くない生々しさ、動く足、おいしそうやわ。いただきまーす。って、焼けや!」
っていうので、串を渡す。
「そうそう、このしゅっとしてな、先っちょがとがって、歯の隙間をしーしーするにはちょっと長いけど、って、こんなん食えるのパンダだけやろ!」
いや、パンダも食うか? パンダいるのか? パンダが食べるの笹だろうに。同じか? この世界。獣王共和国にもしかして、パンダ獣人いたかなー。このまま逃避したい。
「ごめん。本当に疲れたんだ。その串にエビを刺して、自分で焼いてくれる? 肉も焼きそばもあるから」
「ソースないん?」
「モングラシアにはあったの?」
「なかった……」
僕とヘレナは何かに気づいたようにまた目を合わせる。と、
「おにいちゃん」
と言って抱き着こうとするので、でこを掌で押さえる。
「もういいわ! ベロニカ、ちょっとお願い、こいつの腹を満たしてあげて。君も食べていいから。もしよかったら、あそこの人たちも呼んでいいよ」
と言うと、ベロニカは、ボートの人たちにおいでおいでをして、肉も魚も野菜も焼きだした。
「ソフィ、フラン、ちょっとちょっと」
と二人を呼び寄せて、皆から離れる。
「なんか、あのヘレナって子、言動がおかしい。あの関西の屈指のギャグを知っていたし、焼きそばにはソースと」
「私もびっくりしたわ。あのギャグ? 私もフルには知らないもん」
「かなで、僕ら以外に来ているってことある?」
「わかりません。ですが、私たちの例があるので、ないとは言えません」
「で、どうしようか。今のところ敵なんだけど?」
「そうね。話を聞いてみたいところだけど、下手に聞けないよね」
「だけどさ、あのギャグって、僕らの子供のころだよね。それを知っているってことはさ、少なくとも同世代なんじゃ?」
「それに、あの子の種族エルフって言っていたよね。しかも、それなりの地位っぽい。ということは、かなり前から来ているってこと?」
「何年前から来ているのかわからないけど、元が同世代なら時間軸が合わないね」
と、こそこそ話していると、後ろから近付いてきたヘレナが、
「なあ兄ちゃんら、日本人なん?」
と、ど直球を投げてきた。
「「な、なんのことかなー」」
と顔を引きつらせながら目をそらす僕と京子ちゃん。僕らは二人とも昔から嘘がつけない顔をしている。ヘレナは唐突に京子ちゃんに抱き着き、
「お母さん!」
「なんで陵君がお兄さんで私がお母さんなのよ!」
「えー、陵さんって言うんですか? わたしは明日奈です。お母さんは?」
「怒るよ。京子よ」
と。怒りながら答える。
「そちらは?」
「この子はかなで。ただ、前世は人じゃなくて死神」
「え? 死神って、死んだときに迎えに来てくれたあの? 超推しだった恭弥君、つれてこられたってこと?」
誰だよ、恭弥君。本人は恭弥君だと思ってないだろう。思ったら死んじゃうし。
「まあ、いろいろあってな。だけど、このことは言うなよ?」
「らじゃ!」
「そうだ、明日奈、君、こっちに転生して何年……どうした?」
うつむいた明日奈が手で目をぬぐっている。
「やっと、やっと出会えたよー。えーん」
と泣き出した。
「寂しかったよね、つらかったよね。頑張ったね」
と、京子ちゃんが明日奈を抱き寄せてなでなでする。明日奈は京子ちゃんを抱きしめて泣きに泣いた。
「僕、ちょっと向こうへ行って、適当にごまかしてくるよ。かなで、行こう」
と、かなでと皆の中にもどった。