夏休み(ステラとサテラそしてヘレナ)-3
こうやって何日か子供達や皆と遊んだある日、ビーチにいると、
「旦那様、帆船が来ます」
と、アンジェラ。ちなみに今回の同行を勝ち取ったのがチームターコイズ。結成が一番遅く、練度も低いため、夏休みを通じて黒薔薇に鍛えてもらうことになっているらしい。むしろ、他のチームがそれを嫌って譲ったのかもしれない。
「あの旗、どこかわかる?」
「あれは、モングラシアですね。教皇に見せられたことがあります」
「え、モングラシア、こっちに来たの?」
帆船はだんだん近づいてくる。
「ちょっとちょっと、港へ行かないのかな? こっちに来るじゃん」
と様子を見ていると、舳先で右足をへりに乗せ、その膝に右腕を乗せ、かっこつけている人が見える。
「あれ、いろいろ危ないな。遠浅だからそろそろ止まらないと座礁するかもよ」
と言ったら、ガガガといって座礁した。が、その反動で、かっこつけの人が海に落ちる。言わんこっちゃない。言ってないけど。
海へ救出の人が飛び込むも、船も危ない。座礁している。ほっとくと倒れるな。見ていると、落ちた人が救出され、船にはしごで戻っていった。
「ディーネ。ちょっとお願い。あの船、沖に戻して」
「はい。わかりました」
と言って、手加減なしの巨大な波を前から船にぶつけた。あーあ。あの船、びしょびしょだよ。まあ、沖に戻ったからいいけど。
船は沖にアンカーをおろし、ボートを海に浮かべた。そのボートには六人の人が乗っており、四人が漕いでいる。残りの二人が偉い人かな。
「アンジェラ、兄上にお客さんっぽいって連絡を。それと、その辺にいる騎士団を連れてきて、足止めをさせておいて」
アンジェラが屋敷の方へ走っていくと、しばらくしてローゼンシュタインの騎士団がやってきて、ボートから降りた二人を水際で止める。僕らは客だし、出番はない。
遠目に見ていると、ボートから降りたのはグリーンがかった金髪。肌は黒い。あの髪の色はエルフっぽいけど、肌が黒いのは違うな。
危険があると困るので、子供達とステラとサテラは妻達と一緒に下がらせる。そして、僕とアンディの周りをチームターコイズが囲む。
しばらくするとアンジェラが兄上を連れてきた。兄上は、騎士団の中に入り込み、金髪似非エルフと話をしている。
しばらく話をしていたが、こっちを見て何か言っているのを見ると、いやな予感がする。兄上は似非エルフをつれてこっちに来た。アンジェラも一緒にやってくる。
近づいてくる二人を見る限り、耳がとがっていて、エルフだな。僕は妻たちの方を向いて、指でちょいちょいと、ルナとラナを呼ぶ。エルフにはエルフかなと。リンとレンまでついてきてしまったので、ターコイズに守らせる。
会話のできそうなところまでやってくると、兄上は、
「お前の関係者だったわ」
と言って、屋敷に戻っていった。関係者? モングラシアが? ただ、さっきからその外見が気になっている。
「ちょっと聞きたいんやけど、ここ、元アリシアか? 元マイリスブルグか?」
「えっと、その髪、その耳、その肌」
僕はちょっと気になって話を聞いていなかった。
「もしかして、ダークエルフ?」
無視されてか間違われてか、その似非エルフはキッとにらんで、
「ちゃうわ。エルフじゃ、普通のエ、ル、フ。見てみい、この髪にこの耳、どっからどう見てもエルフじゃろ?」
「でもその肌の色……」
と言ったところで、リンとレンが暴挙にでる。
「お顔汚れてるねー」
「きれいにしてあげるー」
と水鉄砲でその顔を撃った。
「おーおー、おおきにな。さっき海に落ちたときにタコとイカのカップルに墨かけられてやな。ってちゃうわ!」
やばい。苦手だ。ダメなやつだ。後ろを振り返って京子ちゃんに選手交代を求めたら断られた。
「こ、れ、は、日焼けや、日焼け。何なら水着の後をみせたろか?」
と言ってスカートをたくし上げる。すると、ビシッと乗り突っ込みエルフの頭をおつきがはたく。
「嬢ちゃんら、あかんで、いきなり人の顔に水かけたら。って、あんたらエルフ、いやハーフエルフか。もしかしてあんたの子か? そうか。奥さんエルフかいな。なかなかやるな? あんたの奥さんよーわかっとるやん。ぐーたらエルフじゃなくて人間と夫婦になるなんて。会えたら友達になれるかもしれんな」
というので、紹介する。
「うちの妻です」
「「妻です」」
とラナとルナ。
「よろしゅうな、うちは……ハ、ハイエルフ様じゃないですか! こんなところでハイエルフ様にー」
と言って一歩下がって土下座をする。呆けるおつきの足をぺしぺしして、
「あんたも土下座せー」
と言って、お付きにも土下座をさせる。
「ハイエルフ様と人間のお子様。ハーフハイエルフ様か、いや、ハイエルフ様と人間を足して二で割ったら普通のエルフになるんじゃろか」
と、土下座をしながら訳の分からないことをつぶやいている。
「ごめん、もう僕の負けでいいよ。要件は何?」
「よっし、勝ったった。うちの勝ちや。元アリシアか元マイリスブルグか知らんけど、これでうちの天下や!」
はぁ。
「ここまでくるとうざいんだが? いい加減に話を進めろ」
と言って殺気を当てる。
「短気はそん気っていうで?」
と言って、似非エルフは立ち上がる。
「まあ、しゃあないな」
やっと本題に入る。
「去年な、イングラシア教の教皇君がな、大陸を統一するから名前貸せ、っていうんでな、貸したったんやけど、どうなったかなー思うて見にきたっちゅうわけ。ここ、もうイングラモングラ帝国じゃろ」
「なんでもいいよ。帰りなよ」
と言うと、
「そうはいかん。ここがイングラモングラ帝国なら、うちの国も同然。壊したって文句は言わんな?」
と言って、突然複数の魔法陣を展開する。そして
「いけー」
と魔法を発動……、させられなかった。魔法陣がすべて消え去った。似非エルフもお付きも何が起こったかわかっていない。
「あれ? 調子悪いんかな。もう一回いくでー、せーの、いけー」
何も起きない。僕はわかっている。ラナが相手の魔法をキャンセルしているのだ。ドライアやディーネのような精霊じゃなくてもできるんだな。と、感心する。
「今日は調子が悪いみたいやな。ほな、明日また来るわ」
と言って、似非エルフはお付きと一緒にボートへ向かった。
「おい、似非エルフ、名前くらい名乗っていけ!」
「聞いた方が先に名乗るんちゃうんか! ちなみにうちはヘレナ、こいつはベロニカじゃ! 覚えとけ。また来るわ」
と言って去っていった。おい、人の名前聞いたよな。
僕はラナとルナと子供達と、妻達に合流する。
「聞いていた?」
と京子ちゃんに聞くと、
「聞いていた」
とげんなりした顔で言う。
「僕、苦手なんだよね、マイペースな人」
「私も無理―。でも帰ってくれてよかったね」
「うん。でも、ちゃんと出港してくれるかな?」
もう、今日は十二分に疲れた。アンディ、助けてくれてもよかったんだぞ? と、一応、目で訴えておいた。
この日はすでに遊ぶ元気もなく、子供達にブーブー言われながら屋敷に帰った。