グリュンデール2ー5
暖かい季節になってきたので、子供達は外で走り回るようになる。子供達におもちゃをと思っていろいろ試してみた。
足で地面をけって進む車を作った。暴走した。ブロック。積み上げる高さを競った。ぼっこを渡した。庭に絵を描いた。マリンバの小さいのを作った。たたいた。絵本を買った。「読んで」攻撃にあった。
傾向として、男の子は車で遊んだり走り回ったり。女の子は絵本を読んでもらったり、絵をかいたり、マリンバをたたいたり、という感じだった。だけど、子供達が一番好きなのは、猫と戯れることだった。
猫達も、近寄っては抱かれたり撫でられたり。ちょっと乱暴にされると威嚇したり爪を立てたりと、子供達と仲良く遊んでくれていた。
正直、うちの二歳児はまだ、猫達と追いかけっこをしてもかなわない。猫の方がおちょくっている様子。あまりに猫が捕まらないことにイラついたのか、みずきやそらがブレスを撃とうとしたり、みのりとしずくが魔法を放とうとしたりしたので、街の中でのブレスと魔法を禁止した。ちゃんと身体能力で勝つように。
そうそう。猫たちが僕のところに子猫を連れてこなくなった。どうやら、魔力ぐるぐる猫がすでに遺伝子レベルで強化されたのか、その猫同士の交配で身体能力の高い猫が生まれることを理解したらしい。よって、自分達で増えることを選んだようだ。
ちなみに、第一世代マイヒメたちはもう十六歳。だが、全く衰えている様子もない。が、常識的にはあと数年なのかもしれない。そういう弱気なことを猫達に言うと、かならず「シャー」と怒られるんだけどね。
こうやって猫達をなでながら子供たちが遊んでいるのを見ているのがとても幸せを感じる。なんかおじいちゃんみたいだ。おじいちゃんだけどな。
ある時、レンがリンのシュシュをとって伸ばして遊んでいた。当然リンが泣いた。そこでお姉ちゃんキャラであるみずきがレンを追いかけた。
レンがみずきにかなうわけもなく、追い付く手前でレンがシュシュを引っ張ってみずきに向かって飛ばして返した。
そのシュシュはみずきのおでこに当たってしまい、これはみずき激怒のパターンかな、と思っていたら、みずきが自分のシュシュを髪から外して、飛ばし始めた。
そこへリンも来て自分のシュシュを拾い、同じように空に向かって飛ばし始めた。結局、みのりとしずく、なでしこにしんじゅまでシュシュで遊び始める。
そうなると、たまらないのは男の子たち。自分も欲しいと、母親の下へ走り出した。最初に見つけた京子ちゃんにシュシュをもらったらしいが。みんな何かを飛ばすのも好きなのかな。
後日、竹とんぼを作ってみた。ちょっと危なかったので取り上げた。仕方ないので、別なものを作る。
実は、そろそろ魔力を使ってもいいんじゃないかと思っていた。魔法もブレスも禁止しているし、一般の他の子は魔法をまだ使わない。なので、魔力を全く使う機会がない。
僕は工房にこもって製作に移る。やることは簡単だ。魔法銃の小さいのを作る。出るのは水。つまり、水鉄砲を作ろうと考えた。
ただし、出力は大いに押さえて、数メートル飛ぶくらいにしておく。認証カードは使わない。おもちゃだし。
それに、これくらいの量では水魔法としては使えない。引き金を引くと、子供たちの魔力を吸って魔法陣が起動する形だ。魔法銃より小さく軽く、引き金も軽く作った。
これを子供達一人一人に渡したところ、大好評だった。
親が魔法銃を持っていることを知っている子は、ズボンの中やスカートの中に魔法銃を隠そうとしたのでやめさせた。
はじめは、あちらこちらに向けて撃っていたが、最終的に狙われたのは猫達だった。だが、猫達もただではやられない。
どう意思の疎通をしたのかわからないけど、猫は水を当てられたら負け、猫が水をよけて子供に体当たりをしたら猫の勝ち、というルールが勝手にできていた。しかも、団体戦までやるようになった。
僕が見ていなかったときに、メイドのチュチュが僕のところにやってきて、「子供達がフォーメーションを組んでいます」なんて言ってきたときには何事かと思った。
こうして子供達と遊びながら、いや、仕事をしつつ、夏を迎えた。
イングラシア支店の従業員は、任期を終えた緑ドラゴン族と一緒に帰ってきた。
イングラシア教からの踏み絵は翌月も来たが、やっぱり無視した。大陸中の教会が無視しているらしい。紙がもったいない。
ちなみに、イングラシアでは、キザクラ商会関連商品をアエオンからの輸入に頼ったせいで、割高になってしまっているらしい。まあ知らんけど。それ以外については、普段通りらしい。
まあ、宗教のことだけだからね。商売は今まで通りだろうさ。
「今年の夏だけど、また、ローゼンシュタインでいいかな?」
「いいんじゃない? ビーチもあるし、子供も楽しいと思うわ」
「子供達の水着も用意しないとね」
「そうだ、アンディ君とかどうする? 誘う?」
「うーん。基本的に誘おうか。ちょっとあほなこと言っていたのが気になるけどね」
「ジェシカ達も休みが取れるといいね」
「まあ、母上たちと来るんじゃないかな」
「そうだね」
アンディや王都にいる母上にも手紙を書く。しかしながら、グリュンデールの副騎士団長になったミカエルは、パブロ様の護衛があるからと言って、断った。真面目なやつ。パブロ様がローゼンシュタインに来たら遊べるかな。
「はいはい!」
と、今日のメイド担当のアンジェラ。なに? って聞くと、
「夏休みの護衛は我がターコイズが担当します!」
と。
「多分ね、母上とシャルロッテ様も一緒に行くことになるんだけど、そうすると黒薔薇が動くんだ。僕らも一緒に行くから、護衛は不要かな」
「え、何をおっしゃるのですか? 旦那様をお守りするのが旦那様の騎士団の務めです。我々が同行します」
「まあ、もっともだね。じゃあ、どのチームにしようかな」
「ですからターコイズがと」
「いや、ここで決めちゃったら他のチームから不満が出るでしょ? だから後で決めようかな」
「えっと、あれですか。夏だから水着が似合うチームですか? 肉体美には自信がありますが、あのスク水という奴だけは勘弁してください。それと、あのバニースーツは反則的にかわいいですが、我々にはしっぽがありません」
アンジェラたちは日々の訓練のせいか、すっかり痩せたっていうか、引き締まった。
「えっと、誰に聞いたかな?」
アンジェラが京子ちゃんに視線を向ける。京子ちゃんは顔を赤らめて、
「だって、バニーが団服の中はバニーがいいって。バニースーツのことも知らないで言うんだよ? だから、説明しちゃったよ。でも、「これが旦那様の好きな恰好ですか」ってなんか気合が入っていたの。もしかしたら、チームパールの団服の下はバニースーツかもね」
「同行させるのはチームパールにしようと思うんだけど」
「何でですか? なら、私たちチームターコイズは団服の下をスク水にします。それでいいですか?」
「で、スク水は誰に聞いた?」
「黒薔薇の先輩方にしごかれているときに、旦那様の好みを聞きました。スク水に首の広くあいたシャツで、前かがみだと」
「ソフィ、なんて言ったらいい?」
「知らないわよ」
と、ここで気になってしまった。
「えっと、僕は団服の下はシャツにズボンだけど、女子の皆様はどうしてるの?」
「それ聞く? 私たちに?」
「だよね。ごめんね」
ちなみに妻たちは、普段、各々好きな恰好をしている。こはるとかなでは団服が多いが。京子ちゃんはシャツにプリーツスカート。それがはやって、リリィやライラ、ラナもルナも同じような恰好をしている。ドライアとディーネはたいていワンピース。そしてさつきはロングのチャイナだ。
「でも、グレイス君が気になってちらちら見られても困るから言っておくから。夏はノースリーブシャツに短パンもしくはミニスカート、冬は長そでシャツにズボンもしくはロングスカートだから」
「私は下はパンツだぞ?」
は? さつき、なんていった?
「さつきはチャイナ服だよね。その下のパンツって意味だよね?」
「まあな。スリットが入っているだろう? 足をきれいに見せるためにはパンツだ。ちなみに、グレイスのためだ」
え、と、視線を向けそうになるが、ちょっと我慢する。
「ちょっとまって、どこまでスリット入れているの?」
「ん? 腰までだが? 見るか?」
と言って立ち上がってチャイナのスリットを見せようとするので、
「やめて、せめてホットパンツ履いて」
とお願いする。
「ホットパンツ?」
「ソフィに作ってもらって。ソフィお願い」
「了解」
「私も気になるー、ホットパンツー」
とリリィとライラが言うので、京子ちゃんに作ってやれと目配せすると、
「きっと恥ずかしくてはかないと思うよ」
と二人に牽制していた。
「ホットパンツが何か知らんが、きっとはかないぞ? そもそも、腰のラインをきれいに見せるために、まあ、しつこいようだがグレイス、お前のためだぞ? パンツは、ソフィに教えてもらったTバックだ」
京子ちゃんが顔を背けている。Tバックは確かに気になるが、そういう問題ではない。
「いや、かなり気になっちゃうから、何かはいて」
と、さつきに懇願する。
「で、スク水でいいのですか?」
と、アンジェラが話を戻す。
「今の話、聞いてた?」
「はい。バニースーツかスク水かという話ですよね?」
「違うわ。団服の下はちゃんと服を着ろって話」
「そうよね。中も統一した方がいいのかもね。そうすればバニースーツとかスク水とかパンツって話にならないもんね」
と、京子ちゃんがまっとうなことを言う。
「そうだよ。そうしようよ。男子のも……あれ? 僕しかいない?」
「そうなの。ミハエル君が離れちゃったからね」
「まあ、同じ生地で長ズボン作ってよ」
「わかったよ。子供たちのもおそろいで作っておくから」
と、この話は落ち着いた。
だが、バニー達パールはかたくなにバニースーツにこだわった。