グリュンデール2-3
翌日、京子ちゃんの部屋で目が覚める。あ、寝ちゃったんだな。
「おはよー」
と京子ちゃんが声をかけてくれる。
「おはよー。寝ちゃったんだね、ここで」
「うん。疲れたんだねーってみんなも言っていた」
「あ、ありがとう」
と言って、起きる。着替えが自分の部屋なので、着替えに行く。ちょっと入りづらいなと自分の部屋の前に立つ。が、先にドアが開く。
「おはようございます」
とかなで。
「おはよう、フラン」
そういってなでなでする。
「みんなもおはよう」
と言っても、夜の遅いラナとルナ、朝はゆっくりするさつきやドライアとディーネは、意外とどうでもいいらしい。
「フランちゃん、待っていたんですよ」
ってラナが報告する。かなでが顔を赤くしてぶんぶんする。
「フラン、ドワーフの街ではずっと二人で寝ていたじゃん」
と言うと、顔をさらに真っ赤にして、きょろきょろしだす。かわいい。頭をぽんぽんしてなだめる。やきもち妬きのこはる、リリィとライラの三人がいなくてよかったね。
朝食をとっていると、ミレーヌがやってくる。
「パブロ様がお話があるとのことです。奥様方もご一緒に」
「こはるとリリィ、ライラがいないけど大丈夫?」
「はい。後でグレイス様からお伝えいただければ」
と、目をそらす。
「僕も住人受け入れのお礼をしたいから、行かなきゃと思っていたんだよね」
朝食後、妻達と一緒にグリュンデールの本邸宅へ行く。パブロ義父様は領地経営が忙しく、城で勤めてはいない。まあ、忙しいのは半分以上僕のせいなんだが。
「お義父様。グレイスです」
と言って、執務室のドアをノックする。
「入りたまえ」
そう声がかかるので、入室する。
「御用があるとのことですが、まず私からよろしいでしょうか」
「うむ」
「街の拡張とたくさんの住人受け入れについて、お礼をと、思っておりました」
「ああ、私もその件なんだ」
「君が婿に来てくれて、工場を作ったりキザクラ商会の本部を移設したりして、この街の住人はものすごく増えた。おかげで、住人登録の仕事などは、人手を増やしてもまったく終わらないがな。まだ、集まってくるのだろう?」
「はい、申し訳なく思っています。今、イングラシア聖王国からの移住者が八百人ほど、今日明日ですべて街にやってくることになると思います。それと、一か月以内に、ドワーフがどのくらいでしょう。百人にはならないと思いますが、移り住んできます」
「はあ。まだ増えるんだな」
「冬になったらもう増えないと思いますが」
「まあいい。我が領が潤っているのは事実なのだ。これはグレイスのおかげだ」
「いえ、皆が頑張っているおかげかと思います」
「はあ。それでな、それに合わせて街の拡張をしておるだろう?」
「はい。まずかったですか?」
「いや、全く問題ない。領地経営的にはな。住人が増えれば街も大きくなるのは当たり前だ。ところで、王都で行われる貴族会議を知っているか?」
唐突にパブロ義父様が話を変える。
「なんとなくですが、父も参加していたと思います」
「今はテイラーだな。各地を代表する貴族が集まり、あれこれ国の方針について話し合う会議だ。発言するのはほぼほぼ伯爵以上の貴族だけどな。それに、国王も参加するのだ」
「その会議が何か?」
「最近、我が領が力をつけてきたことをやっかむ貴族が出てきてな。それであれこれ言われるわけだ」
「ですが、我が領に戦争など仕掛けられるわけではないでしょうに」
「私も戦争などしたいとは思っていない。だが、会議は違う。武力など関係ないのだ。ただの口論だからな。あることないこと言いたい放題だ。想像だけであれこれ言ってくるんだ。ちなみに、テイラーも言われているぞ? まあ、こっちが潤っているのは事実だから、本気でやりあおうとはしないのだがな。だが、それに付け込んで多数の貴族がうるさくてな。国費への負担を増やせとか、税収を上げろとかな。ひどいものではキザクラ商会を国営化しろとか、関税をかけろとかいうのまである。正直、いちゃもんにすぎない。もっとひどいのはな、クーデターを狙っているんじゃないか、というのだ」
「はぁ」
あきれて開いた口がふさがらない。
「何でそんなことを?」
「グレイス、お前の妻たちだが、貴族から娶っているのは、うち、カルバリー侯爵家、アリシア王国。その三つだろう?」
「そうですが、それが何か?」
「つまり、国王家から妻をもらわないのはいつかクーデターを起こすためだと、あほなことをいうやつがいるのだ」
「ご縁の問題だと思うんですけどね」
「でな、もう一人あほがいてな。お前の友人のアンドリュー王子殿下だが」
あ、アンディ、あほ呼ばわりされた。
「「ならば、妹を嫁がせればよい」とか言いやがったんだ」
あいつ、あほだな。
「そんなこと言えば、よりうちが力をつけることになると反対する貴族が出てくるだろう。こっちがおとなしくやり過ごしたかったところに、油をまきやがった」
全くだ。我が友人ながら本当にあほだ。
「ちなみに、国王様は?」
「頭を抱えていたよ。王子殿下が余計なこと言ったせいもあるしな」
ふう。と、ため息をつく義父様。
「それでだ。王子殿下の御乱心を止めろ。頼む」
「はい、必ずやそのようなめんどくさいことはさせません」
「できれば、王子殿下に会議で取り消しの言葉を話してもらいたいくらいだ。とはいえな、この件については、こちらから動くことはしない。何をしても上げ足を取られるだけだ。だから、これは、情報共有と思っておいてほしい。ソフィも他の妻たちもよろしく頼む」
僕らはそれを聞いて退室した。
「グレイス君、まだ結婚するつもりあるの?」
「ないよ。あいつあほになったか? なんであんなこと言ったんだか」
「でも、国策としては、わかるわよね。ところで、アンディ君の妹で、婚約が決まっていないのって、ステラ様とサテラ様しかいないのでは? たしかまだ六歳と五歳だと思ったけど」
「なんの冗談?」
「冗談? グレイス君。グレイス君が私を婚約者にしたのっていつだったか覚えている?」
「六歳です」
「そうだよね。だから五歳でも婚約者を決めてもおかしくないのよ」
「だけどさ、サテラ様が成人するころには僕は二十八じゃん。ダメじゃない?」
「ダメじゃないんじゃない? だって、次期国王はほぼほぼアンディ君でしょ? だから残りの娘は政略結婚の道具になっちゃうと思うよ」
「なんてひどい。自由意志のもと結婚すればいいのに、うちみたいに」
「そうね。リリィは婚約破棄からの恋愛だし、ライラは初めからグレイス君狙いだったもんね。でも、世の中、そんなに甘くないのよ」
「じゃあ、ソフィは賛成なの?」
「貴族としては反対できない。でも妻としては複雑よね、旦那がロリコンだなんて」
「……そこ?」
「ふふ、冗談よ。複雑なのは本当だわ。でも、グレイス君はいい選択をすると思うわ。これまでみたいにね」
これまでって、断ったことないんだけどな。っていうか、それ、丸投げだから。
他の妻はというと、かなではあからさまに不機嫌。他はやれやれって感じ。困ったものだ。
「まあ、そういう話があったってことで、実際そうなるとも限らないし、お義父様が言うように、静観しておこう」
と言って、この話はおわった。
この日、こはるたちが最後の神々の騎士団を連れてきた。とりあえず、居住区を先にして街づくりに励んでもらうことにした。寒くなる前に何とかしたい。それから、各種工房や工場建設も。城壁も作らないといけないし。
そうこうしているうちにドワーフたちもやってきた。およそ百名。やっぱり住居建設に工房の設立だ。
という感じで、秋から冬にかけて急ピッチで建設し、春にはようやく街づくりが落ち着いた。