グリュンデール2-2
晩御飯はこはるとリリィとライラを除く妻たちと食べた。
今日は、京子ちゃんの手作りだった。内容は、米、肉じゃが、ローゼンシュタイン産の干物、生卵にほうれん草? のお浸し。ちなみに大喜びをしたのは僕と京子ちゃん。かなでやラナとルナ、ドライアとディーネは普通に。さつきは、肉を別に焼いてもらっていた。
僕と京子ちゃんは目線だけで
「味噌汁が欲しいね」
「大豆を収穫できたら来年は仕込んでみようね」
と会話をした。
夜、風呂に入って今日は京子ちゃんの部屋にいる。ベッドの上で二人で並んで話をした。
「お米と醤油、おいしかったね」
「うん。おいしかった。この世界にもあったなんて、もっと早く知りたかったな」
「でも、来年植えるからね。それに、今回もらったのもまだあるし。あ、お正月にはお雑煮を食べようか」
「いいね。そうなると、日本酒も欲しくなるな」
「ふふ、来年お米が取れたら挑戦しようか。麹をどうしようかな」
「そういうの、京子ちゃん得意だもんね。お願いね」
「できなかったらごめんね。でも頑張るからね」
「うんありがとう」
ちょっとした間が開いて、
「かなでちゃん、がんばっているね」
「うん。いつも一生懸命だよね」
「そうだよね。しかもかなでちゃんのはわかりやすい。全部陵君に向けてだもん」
「うん」
「ちょっと妬けちゃうな」
「そう?」
「だってさ、あんなにストレートに陵君のためにさ、絶対陵君は守る! って感じでしょ」
「ね。そのストレートさがうれしいんだよね」
「それがちょっとうらやましいの」
と言って京子ちゃんがくっついてくる。
「だからさつきに訓練を申し込んでいるの?」
「それもある。だって、私だって陵君を守りたいって思っているもん」
「僕も京子ちゃんを守りたいよ」
「でも私じゃかなでちゃんほど陵君を守れない」
「何を言っているの? かなでは確かにいつもそばにいて、僕を守ってくれているけど、京子ちゃんは、僕のいないところで僕を守ってくれているじゃん。街のこととか、食事のこととか、服もそうだし。二人で同じ守り方をする必要はないんじゃない? って、言っていて僕が守られる存在だってのが恥ずかしくなってきたよ」
「ふふ。そうなんだよね。私は私のできることで陵君のことを守ればいいんだよね。わかっているんだけどね。なんかさ、今日、団服の襟にかなでちゃんの目の色と同じピンブローチしていたでしょ? すごくうらやましかったんだから」
「僕はちゃんとみんなの分、欲しいと思っているよ」
「もちろん、そうでしょうとも」
と膨れた顔をして、そして笑う。
「私ね、こんなに奥さんがいてね、ライバルがいてね、大丈夫かなって思っていたんだけど、みんなみんなが違うことを頑張って、陵君のためにだよ? 一生懸命やっているの、すごく楽しい。うれしい。みんなが頑張っているのを見て、私も頑張ろうと思う。そうやって、一つ何かできるようになったりすると、自分がさらにステップアップしたようになるでしょ。またうれしいんだよね。だからね。ありがとう、陵君」
と言って抱きついてきた。
「ありがとう」
と僕も抱きかえす。
「そうそう、京子ちゃんの得意分野の農業の方どう?」
「う、もう」
口をとんがらせる京子ちゃん。
「面白いわよ。獣王共和国と取引が始まって果物が入ってきたでしょ。あれの種を植えたの。でも、桃栗三年だから、まだならないかも。それとね。元国王たちのパーティあるでしょ。去年、あのパーティに頼んで、果物の木を探してきてもらったんだ。そしたら、ブドウの実を持ってきてくれたんだけどね。どう見ても同じ実なのに、おいしい実と全くおいしくない実があったの。で、木も持ってきてもらって植えたの。今年、実がなってきたから食べてみたんだけど、全くおいしくなかった。で、おじいさんたちにどんなところに生えていたかを聞いたらね、おじいさんたちの行動パターンがけもの道を行くってものだったんだ。で、その辺を詳しく聞いたらね、けもの道には二種類あって、ひとつは野生動物が歩くけもの道。今、おじいさんたちが狙っている獲物がこっちね。で、もう一つが魔獣が通るけもの道。こっちは、危ないから今はあまり通らないそうよ。今はって言うのは、昔は魔獣を討伐していたけど、今は食料として野生動物を狩っているからなんだって。それを聞いてね、ホーンラビットの養育場へ行って、糞をもらってきたの。それでたい肥を作って、ブドウの木の下に撒いたら、甘くなってきたの」
「え、すごいじゃん。なんで?」
「私の想像なんだけどね、魔獣の糞には魔力が残っていて、それが植物に影響を与えているんじゃないかって。きっとね、生態系として、魔獣は魔獣のけもの道付近の果物を甘くして野生動物をおびき寄せて餌にしているんじゃないかな。想像だけどね」
「なるほど。検証は難しいかもだけど、面白い仮説だよね。で、僕は食い気の方だけど」
「もう、陵君ってば、しかたないな。それで、もしかしたら、他の野菜とか麦とかもだけど、魔獣の糞を使った肥料を作って育てたら、おいしくなるんじゃないかなって思っているの」
「うんうん。それ検証してみたいね」
「それでね。ちょっと陵君にお願いがあるんだけど。たい肥工場を作ってほしいなって」
「いいんじゃない? 今、ホーンラビットの糞ってどうしているの?」
「それがね、糞に魔力が残っているのはわかっていたらしくってね。電池に充電するために魔法陣で魔力を抜いて、後はトイレと一緒。浄化していたみたい」
「そうなんだ。たい肥工場を作ったら、電池の充電にも影響するかな?」
「それがね。シンべロスがすごい魔力を持っているみたいで。というか、毎日魔力を吸われていたせいで、すごい魔力を持っちゃった、ていう方が正しいかな。結構まかなえているみたいだよ。新たなケルベロスもいるし」
「じゃあ、たい肥工場にそのまま運んでもいいわけだ」
「うん。問題は、匂いなんだよね。それもトイレの魔法陣で何とかなるんじゃない?」
「そうだけど、その魔法陣を動かしっぱなしなのもね」
「仕方ないと思うな。じゃないと、働く人もいやだもんね」
「ん。わかった。そっちの方向で進めていい? で、工場はどこに作る?」
「そうだね。ドラゴン族があっちに街を作っちゃったでしょ? すると、ドラゴン族の離発着場もそっちに移した方がいいと思うんだよね。だから、そこが空くんじゃないかな。それとも、城壁の外にする?」
「安全を考えるなら城壁の中。肥料の運搬を考えるなら外、か」
「街も作って、工場も作って、この街、どうなっちゃうのかな」
「ふわーー。そうだね。おおきくなって、いろんな人が集まって、楽しく暮らして、がんばって、はってんして……いい街になるといいね」
「あ、陵君寝ちゃう」
「きょうこちゃん、おもしろいよ。おもしろい。だから、ぜったいにやろうね。やりとげよう……」
「もう、陵君ってば、昔からいつも私が相談すると、そうやって励ましてくれるんだから。変わってないな、陵君。ありがとう。おやすみなさい」
チュッ。
「あ、そうだ。他のみんなに、もう寝ちゃったって言ってこないと」