グリュンデール2-1
「おかえりなさい」
と京子ちゃんに出迎えてもらう。
「ただいま。ソフィに紹介しておくよ。彼女はリカ。ドワーフ一の細工師を自称している。このピンブローチもリカに作ってもらったんだ。アクセサリー作りが得意だから、ソフィに預けるね。で、みんなの目の色と同じ色の石を使ったピンブローチが欲しいから、後で、みんなに会わせてあげてほしい」
「リカです。よろしくお願いいたします。奥様」
と、ちっちゃいドワーフが余計にちっちゃくなっている。
「こはるとリリィとライラは?」
「あと一往復くらいで連れてこれそうって言っていたわよ」
「そっか。全然すれ違わなかったな。あ、忘れていた。ソフィにお土産」
ガンツとタンツが運んでいた俵を京子ちゃんの前に置く。京子ちゃんは驚いた顔をして、
「これ、お米? お米なの?」
と、挙動不審になる。
「そうだよ。一つは普通のお米。もう一つはなんと餅米だよ」
京子ちゃんの目がさらに輝いている。
「さらにこれ」
と言って一升瓶を見せる。
「え、え、もしかして、醤油?」
京子ちゃんは一升瓶を受け取ったと思うと、くるくる回ってる。
「どこで? どこで手に入れたの?」
「それがね、普通にドワーフの国にあったよ」
「何で教えてくれなかったの?」
と、京子ちゃんはすごい目でガンツとタンツをにらむ。
「おいおい、奥様が米や醤油を欲しがっているなんて知らなかったし、そもそも、米と醤油をいつ食べたんだ? この国では見たことがないぞ?」
と不思議がるガンツ。はっ、そうだった。僕と京子ちゃんは目と目をあわせて、しまった。という顔をした。だけど、うれしさが勝ったようで、
「内緒」
といって笑って京子ちゃんは食堂へ駆けて行ってしまった。あ、大豆の種と種もみ。渡すの忘れたじゃん。
「ほへー。フラン奥様もおきれいだと思ったけど、ソフィ奥様もおきれいですね」
「そうだね。きれいだね」
「またのろけられてしまいました。でも、ソフィ奥様、もしかして研究者か技術開発者ですか? 醤油をもって浮かれて周りが見えなくなったり、ちょっと同じ匂いがします」
「うんそうだよ。今は服飾と、料理、それから農業に手をかけているよ」
「で、私、どうしたらいいですかね、置いてけぼりなんですけど」
「大丈夫、すぐに戻ってくるから」
というと、ダダダダダと、音はさせても足元を見せずに優雅さ忘れないその走り方で京子ちゃんが戻ってくる。
「ほら」
「なんでわかったんですか?」
「米を忘れている」
「なるほど」
「ソフィ、米を運ぼうか?」
「うん。ありがとう。今取りに来たところ。でも一人じゃ持てないからお願いしてもいい?」
「ガンツとタンツも頼んでいい? それからソフィ、こっちは仕事の方だけど」
あからさまに今言うか? という顔をする京子ちゃん。
「大豆の種と、種もみ。来年植えるでしょ?」
急に顔をほころばせ、
「植える植える」
といって、種と種もみをもって今度は違う方へ走っていく。
「僕らは米を食堂に運ぼうか。食堂にいれば戻ってくると思うよ」
「はい。わかりました。本当に戻ってきますかね」
「多分ね。仕事の話とか、住むところの話とか、ソフィとしてね。それから、ガンツとタンツからも仕事の話が来ると思うから、よろしくね」
と、リカに言って、僕はガンツとタンツを引き連れて、自分の工房に行く。かなではシンべロスを戻すのと、自分の荷物の片付けなどをすると言って別れた。
「ラナ、ルナ、ただいま」
と工房に入ると、いつもより部屋が明るい。
「あれ、電球に変えた?」
「おかえりなさいませ。気が付きましたか? この電球、四隅と中央の電気を一つの風魔法陣と発電モーターで光らせているんです」
「これ、直列?」
「はい。並列にすると、暗くなってしまって」
「そうだね。この中央さ、ファレンに頼んで、こんな感じにしてみてくれない? ガラスをたくさんつるすとさ、光が乱反射して明るく、きれいに見えると思うんだよね」
といって、シャンデリアを図示する。
「なるほど。かっこいいですね」
と、ラナもルナも図面を見て考え込む。
「ところで、ラナとルナ、忙しいじゃん?」
「いえ、忙しくないですよ?」
「毎日楽しく仕事をしていますよ?」
と返してくる。
「ラナとルナは僕の技術を記録するためにいてくれているんだよね?」
「基本そうですが、それ以外も楽しいです。キザクラ商会とか」
「そういわれちゃうとちょっと提案しづらいんだけど、ラナとルナにはもうちょっと研究を中心に仕事してもらって、特に魔道具関係だけどね、それ以外のところを他の人に任せられないかな、と思ったんだけど」
「え、妻が十人いても足りませんか? 私達、ほぼほぼここにいますけど」
「いや、違うよ。変なこと言わないで。あのね、僕らがいろいろやっているのは、魔道具もそうだけどさ、ソフィを中心にやっている農業とか料理なんか、あれも技術なんだよね。要は、工業系はラナとルナ、農業やサービス業、それにね、街づくりについての方を誰かにお願いできないかな、と思ってさ。特に街づくりはさつきにいつまでもお願いするわけにはいかないんだよね」
ラナとルナは顔を見合わせて、
「確かにソフィやさつきの方まで手が回っていませんけど、誰に任せるつもりなんです?」
「あれ、ローゼンシュタインにはハイエルフが寄り添っているんだよね。だから、ラナとルナが紹介してくれるほかはないと思うんだけど」
ラナとルナはうーんうーんと悩んだ末、
「それでは、里に手紙を書いてみます」
と。
「里に直接お願いに行くことはできないの?」
「私達に、というのであれば、めんどくさいです。いえ、仕事がしたいです。それから、ハイエルフの里はローゼンシュタインの御当主様と一部の方しか知りません。ですので、御当主様に手紙を出し、それを届けてもらう必要があります」
「なるほどね。だから僕にも教えられないし連れていけないというわけか」
「申し訳ないのですが、その通りです」
「わかった。じゃあ、それでお願い。人選はラナとルナに任せるよ」
次に街を作っているドラゴン族を訪ねる。とりあえず、さつきを探す。
「さつき。街づくりありがとう」
「まったく、ドラゴン族が中心となってやっているから私があれこれ言うのが速いのかもしれないが、これ、私の仕事じゃないだろう?」
「ごめん。そうなんだよね。僕もそう思っている。で、ドラゴン族のみんなは仕事に慣れたの?」
「まあな。ただな、緑の連中がな、あの洞窟にあったような木製の建物を作りたがっていてな。ちょっと違う感じになった」
「いいんじゃない? 僕はあれ好きだったよ」
「靴を脱いで上がって、足を組んですわる、あのスタイルか?」
「うん。僕もあの建物が欲しいくらい」
「そうか。じゃあ、トドマツに言っておく。旦那様用に屋敷を建てろと」
「時間と材料があったらでいいよ」
「自分たちのスタイルを気に入ってくれたって、喜んで作るさ。でどこに作る? ちょっと大きくなりすぎてな、元からある丸い街と旦那様の作った丸い街がつながっているだろう? その真ん中から丸を作ったら、どっちの丸にもつながりそうになってしまってな。いっそのこと、つなげてしまったらいのではないか?」
鉄アレイをクロスしたような街にしたかったが、丸の部分がくっついちゃったと。なるほど。ひし形の角が丸いバージョンか。僕は地面に丸を四つ書いて確認する。
「こういうことだよね?」
「そうだな。そうすると、中が無駄なく使えていいと思うぞ」
「おっけ。その方向で進めて。パブロ様には許可をもらっておくから。それと、トドマツがいたら僕のところに来るように言って。それで、さつきからトドマツに引き継がせようよ。実際には、ラナとルナの関係者がやってくるから、その人に任せよう」
「わかった。それでいい。私もそろそろ体がなまってきてな。それにルビーとサファイアを鍛えてやらないと。そうそう、ソフィだがな、暇を見つけては訓練に来るぞ? 頑張るな」
「うん。昔から負けず嫌いなんだ」
「昔からって、ちみっこのときからか。すごいな」
僕はとりあえず笑っておく。
「あ、大事なことを忘れていたじゃないか。その屋敷だが、真ん中でいいか?」
と、ひし形の真ん中を指す。いいのかな?
「うん。空いていたらでいいよ。よろしく。そう伝えて」
「わかった」