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ドワーフの国-7

 翌日は一日フリーの時間にした。工房長たちの家族会議もあるだろうし。僕は夕方にはリカのお店に行く用事もある。

 かなでとどこに行こうか相談していたところ、ガンツが飛んでくる。国王が呼んでいるらしい。結局四人で城へ向かう。


「技術者の流出には反対だと言っただろう」


 出会ってすぐこれ。前置きとかないのかな。


「それが父親に対する口の利き方か? そもそも、引退間近の職人だけだと言っておろう」

「引退間近といったって必要な技術者だ。はいそうですかと黙って見過ごすわけにはいかない」

「老人にも生きがいをと言っている。第二の人生を送ってもいいだろう」

「若い細工師も引き抜いたという話を聞いたが?」

「それは将来の細工師としての姿を模索するための研修とでも思っておけ、投資だ投資」

「何が将来の細工師だ。細工師は細工師だろう」

「頭の固いやつだな、そんなだからダメなんだ」

「なんだとー」


 普通に喧嘩になりそうになるから、誰か止めて。宰相と元宰相が二人を止める。ハアハアと息を切らす二人。だが、二人のやり取りは続く。


「なんにしろ、我が国に全くメリットがないじゃないか」

「介護保険料が下がる」

「ムキー、そういうことじゃない!」

「お前もまだ若い。若者のための国を作れ。若者に台頭させろ。若者に新しいものを作らせろ、若者に新しい技術を開発させろ。頭が固いのは年寄りだけでよい。そんな年寄りが蓋をしてはいかん。年寄りが若者の足かせになってはいかん」

「その年寄りが新しいものを作るという話ではないか」

「あくまでも頭はこの若いグレイス様だ。我々には想像もつかないことを考え、我々に与えてくれる。わかるか? 工房長まで上り詰めたものが一技術者に成り下がるんだぞ? それでもいいと思える職場なのだ」

「おい、グレイスとか言ったな。我が国にメリットはあるのか?」

「ない」


 ガンツも国王も目が泳ぐ。そんなに予想外だったか?


「年寄りが蓋をすることもあるだろう。蓋を取り除くことで若者が台頭することもあるだろう。だが、そんなものはわからん。そんなものをメリットと言わん。ただな、好きなことを好きと言える、やりたいことをやれる、そんな世の中を望んでいるだけだ」

「それでは我が国に滅びよと言っているも同じだろう?」

「は? 年寄りにすがっている国なんか、滅びるに決まっているだろう。年寄りから順番に死んでいくんだぞ? 生物は。残ったもの、残されたもの、今そこにいるものが何をどう頑張るかだけの話だ」

「グヌヌヌ、兵よ! 内乱罪だ。ガンツとタンツ、そしてこの二人をとらえよ」

「おい、ゴンツ、それはやめておけ。この二人にかなうのはドラゴン族だけだぞ?」

「お願いだから、穏便に済ませてほしいんだけど」

「何を言っている。一方的に要求を突き付けておいて。そんなもの許せるものではない!」


 そうか。そうかもね。

 後ろで部屋へぞろぞろと人が入ってくる音がする。兵士が来たか。と、思ったが、


「国王様、お願いがございます。私どもに出国の許可を」


 あれ、兵じゃなかった。その数おおよそ二十。リカもいるな。


「何を言っているんだ。お前達はこの国のことをどう考えている。愛国心はないのか?」

「私達は間違いなく、この国を愛しています。これからも愛し続けます。ですが、自分の気持ちを押さえられません。新しいものをまだ見ぬものをこの手で作れるかもしれない。そんな思いを止められません。決して、ドワーフの国に恥じぬ働きをしてまいりますので、ご許可を」


 と、二十人が膝をついて頭を下げる。


「ダメに決まっているだろう。我が国にはお前達が必要なのだ」

「この気持ち、鍛冶師であり技術者であられる国王様にもお判りいただけると思います」

「お前達、お前達だけずるい、いや許されぬのだ。私だって私だって、国王なんかなりたくてなったわけではない。こんなことをしている間も槌を握っていたい、己の技術を極めていたいに決まっているだろう!」


 それを聞いたガンツ。


「ゴンツよ。すまなかった。私が早々に王位を捨て、旅に出たせいで」


 と謝る。


「父上」


 ゴンツがガンツの目を見つめて、手を伸ばす。


「だが、頑張れ。時間は作るものだぞ?」


 とガンツ。


「父上―!」


 こら、ガンツ。怒らせてどうする。いい雰囲気だったじゃないか。ついにふてくされてしまった国王。どうしたものかと考えていると、国王が口を開く。


「もうよい、行け。己の技術をこれからも磨き、新しい未来を創造してこい。そして、機会があったら話に来い。話せる範囲でよい。戻って来たくなったら戻ってこい。向こうで得た技術は流せる範囲でいいから持ちこめ。それを楽しみにここで国王をやっている」


 と。


「ゴンツ」

「国王様」


 ゴンツは続ける。


「だがな私個人も、この国も負けぬ。腕を磨いてお前たちがいた今よりも、ずっとずっと技術を発展させた国にして見せる。だから、心配するな。安心して行ってこい」


 と、しんみり話すゴンツ。それに対して、ガンツが返す。


「心配なんてしないけどな」


 と。


「心配ぐらいしろや、この馬鹿おやじー!」


 と、また宰相と元宰相が二人を抑える羽目になった。仲がいいとはこういうことか。


「国王様国王様、話がまとまったところで一つお願いがあります」


 と僕は提案する。


「なんだ?」

「この国にキザクラ商会の支店を出させてほしいのです。この国でもうちが扱っている魔道具を利用してもらっています。わざわざ他国に注文を出す必要がなくなると思いますが」

「わかった。どこに出すのだ?」

「リカから店を譲ってもらうことにしました。その店をなるべく改築せず、そのまま利用したいと思っています」

「そういうことならいいぞ。景観は壊すな」

「そのことでもう一つ」

「ん?」

「従業員はエルフになりますが、よろしいです?」

「エルフ? あのぐうたらが働くのか?」

「女性はよく働きますよ」

「まあ、はじめは驚くかもしないが、通達しておく」

「ありがとうございます。それでは、魔道具や金属、宝石の取引などよろしくお願いいたします」

「うむ。わかった。よきにはからえ」


 国王は疲れたのか、ため息をつきながら退出していった。

 僕としては、どさくさに紛れて金属と宝石の取引をしてもらえることになってよかったと思っている。これだけの証人もいるしね。普通に許可してくれただけかもだけど。そう思っておこう。



 皆で城を後にする。


「はあ。よかったね。認めてもらって」

「本当ですよ。まあ、認めてもらえなくても亡命することもできましたけどね」

「じゃあ、皆は、用意ができ次第、うちの領に向かってくれるんだね。馬車は?」

「それぞれ持っておりますので心配はいりません」

「できれば冬になる前に来てね」

「わかりました。しかし、工房を家出同然で、というか、資材は後継ぎに置いて行きたいので、あの、その」


 言葉を選んでいるようだ。


「ちょっとギルドへ行こう」


 と言って、みんなで歩き出す。



 ギルドへ着くと、僕は紙とペンをもらう。


「キザクラ商会支店に紹介状を書くからさ。クラプトをはじめ、各国、各都市のキザクラ商会を頼ってきてくれないかな。食料や宿の手配をしてくれるように書いておくね。あと、護衛っている?」

「これだけの人数でいけば護衛は不要だと思います。私達も武器を扱っている手前、それなりに戦うこともできますし」

「そっか。それじゃ、気を付けてきてね。本当は、ここで路銀を渡すところだけど、昨日、みんなが飲んじゃったから。ガンツ、おつりないよね?」


 ガンツは目をそらす。


「ということだから、よろしく。解散」


 と言って別れた。



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