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ドワーフの国-3

「いいのかい、ガンツ。親子の対面だったんじゃないのか?」

「まあ、後でもう一回行ってみるよ。謁見の間だったから、本心を言えなかったんだろうしな」

「で、宿は?」

「あ、忘れていたわ。城に泊めてくれると思ったんだけどな。無理そうだ。宿をとるか」


 そういって、この国の高級ホテルに向かった。他国の貴族が買い付けの時に泊まるらしい。

 宿にチェックインする際、シンべロスの扱いにひと騒動あったが、何とかお金で解決して、厩舎で預かってくれることになった。


「ガンツ達はどうするの?」

「わしらは、旧友を訪ねてくるよ」

「じゃあ、僕らは観光してくるけど、人が二人でうろうろしても大丈夫?」

「大丈夫だと思うぞ。手でもつないで歩いていれば、細工屋から引っ張りだこだろうさ」


 と笑って言う。かなでは顔を赤くして首を振っている。

 そういえば、僕は妻達に婚約と結婚の指輪以外の貴金属を買ってあげたことがないな。欲しいって言わないしな。それに、僕にはセンスがないので、なにを買っていいかわからない。

 前世でも、思い切って買ったアクセサリーが、京子ちゃんの箪笥の肥やしになることが多かった。といか、全部そうだ。京子ちゃん自身があまりアクセサリーをつけないタチだったというのもあるけど。という希望的な想像。だから、貴金属を買うのは苦手中の苦手。むしろ目をそらしている。


 とはいえ、宿でじっとしているのもつまらないので、外に散歩に行く。かなでと手をつないで。ほおっておくと、かなでは三歩後ろを歩こうとするので、手をつないで横を歩かせる。


 商店街に出ると、さすがはドワーフの国だけあって、武器屋に防具屋、それに金物屋などが並んでいる。僕は興味から武器屋に入る。ちなみに買わない。なぜなら欲しければガンツとタンツが作ってくれるから。

 とはいえ、どんな武器がかっこいいかな、なんて見て回っている。

 店員さんが声をかけてくれる。


「買い付けですか? それとも、ご夫婦で観光ですか?」


 と。

 かなでが顔を赤らめるので、「観光ですか」と勝手に納得される。

 ま、それでいいけど。


「にしても、ご夫婦で変わった武器をお持ちですね。奥様は鎌ですか? ごめんなさい。鎌はあまりニーズがなくて作っていないんですよ。オーダーメードは承りますけどね。それに、旦那様のそれは剣ですよね。珍しい形ですね。ちょっと見せていただいても?」


 というので、帯剣していた刀を渡す。


「これ、鋼ですか? きれいですね。この刃の文様は焼き入れの仕方ですよね」


 と、さすがはドワーフというところ。だが、一点に目を止める。


「あれ? これ、ガンツって銘が掘ってありますけど、まさか、前国王ですか?」

「うん。そうだけど」

「これはすごいですよ。前国王は国王としてもすぐれていましたけど、何より、鍛冶師として頂点でしたからね。だから、この国がまとまっていたとも言えます」


 そうか。鍛冶の能力を示さないといけないんだな。そりゃ、現国王も苦労したな。と、心の中でねぎらっておく。

 店員さんは、丁寧にさやに収め、返してくれた。


「よいものを見させていただきました。ありがとうございます」


 と。それから


「ここにはガンツ様に勝るものはないかもしれませんが、よかったら見て行ってください。気持ちでは負けていないつもりですけどね」


 と、いろいろと勧めてくる。


 親切な店員さんにちょっと後ろめたかったが、いろいろと見させてもらった後は、何も買わずに店を後にする。

 ちなみに、防具屋には僕は興味ない。うちのメンバーで防具を使うのは、リリィだけだ。ミカエルは、今はグリュンデールの騎士団だし。あー、前衛が減っちゃったな。

 僕はというと、刀が両手剣だし、それ以外では、スピード重視であまり重たいものは身に着けたくない。かなでもさつきにこはるもそうだ。後衛隊はなおさら。



 そうやってウインドウショッピングを楽しんでいると、ドワーフのお姉さん? が声をかけてきた。


「旦那様、旦那様、かわいい奥様になにかアクセサリーの一つでもいかがですか?」


 と。


「僕はそういうのを選ぶ才能がないんだ。妻が欲しいものがあれば買うんだけど」


 と言うと、かなでは首を振っている。


「そんな、見るだけ見て行ってくださいよ。奥様はつやのある黒髪で、とてもお美しいじゃありませんか。さらに美しくなってほしいとは思いませんか?」

「うーん。十二分に大好きだから、これ以上って想像がつかないんだよね」


 と言うと、かなでは真っ赤な顔で照れる。こういうのに慣れていないかなでがかわいくて仕方ないんだけど。


「いやー、のろけられちゃいましたね。では、どうでしょう。旦那様には、奥様の瞳の色と同じ、ブラックスターサファイアのブローチなどいかがですか? それで、奥様には、旦那様の瞳と同じ、うーん。ブルー系になりますね。淡い色ですと、予算が許せばブルーダイヤモンド、それか、アクアマリンですかね。ブルーサファイアもいいですが、旦那様の目と比べるとちょっと濃いでしょうか」


 と。そうか、自分の顔なんて見ないから、自分の瞳が青いなんて、忘れてた。しかも前世からの記憶を引っ張っているから、てっきり茶色かと。


「フラン、どうする?」

「わたし、グレイス様からたくさんのものをもらっているから、もう何もいりません」


 と、かわいいことを言う。そういうことを言うと、


「いやー、かわいい奥さんですね。どうです? そんなこと言われちゃったら、何かを送りたくなりませんか? ねえねえ」


 と、ぐいぐいくる店員さん。だが、そのとおりっていえばその通り。


「だけど、僕はセンスもないしね。選べないよ」

「では、思い切ってシンプルにしましょうか。やっぱりシンプルが一番ですよ。なにせ、シンプルなだけに一番難しいんです。どうです、私にお任せいただけませんか?」

「うーん。おいくらくらい?」


 かなではまだ首を振っているが、聞いてみる。


「そうですね。二つで金貨十枚でどうでしょう?」


 まあ、ここは男は度胸。


「じゃあ、それで頼むよ」


 と言うと、店員は意外にも驚いた顔をする。


「えっと、値切らないですか?」

「ん? 値切るのが普通なの? ここ」

「えっと、次のお店から値切ってください」


 と言って笑う。


「ありがとう。そうするよ。それに、僕の尊敬する剣士が、女性へのプレゼントは値切ってはいけないって」

「すばらしい剣士様ですね。それ、今度から使わせていただきますね。それではお時間をいただきますね。明日の夕方にはできていると思います」

「君が作るの?」

「はい、そうですけど、ご不満ですか?」

「いや、君を信用するよ。店に並んでいるものはみな丁寧に作られているから。だからこそ、もっと年配の人が作っているかと思っちゃった。ごめんね」

「いえ、いいんです。父は早くに亡くなってしまって、店と工房を私がついでいるんですよ。まだ、父には追い付けませんが、細工はドワーフ一を自負しています」


 と言って胸を張る。


「じゃあ、明日の夕方に取りに来るね」

「はい、お任せください」

「あ、そうだ。この街で行ってみた方がいいところってある?」

「そうですね。この道を山に向かっていくと小高い丘があるので、そこまで行くと、街を見下ろせて景色がいいですよ」」

「ありがとう、行ってみるよ」


 僕らは店を後にして、歩き出した。買うものも買ったし、もうお店には用事はないしね。

 言われたとおりに歩いていくと、小高くなったところに展望台のように開けたところにでる。公園なのかベンチもおいてあり、休むことができそうだ。

 ちょうど、街を見下ろせるところにベンチがあったので、かなでと一緒に座って街を眺めていた。ちょうど西側を向いており、太陽が沈みゆく夕焼け空だった。


「かなで、寒くない?」

「ん」


 と、それなりにいい雰囲気になっていたところ、後ろからダダダダダという足音が聞こえてきた。

 何事かと思っていたら、大きな羽を背負ったドワーフの青年? が、丘を走って下ってくる。そして、全力疾走のまま僕らの横を通り過ぎ、丘から飛び出した。巨大な羽を背負った青年が。確認の意味を込めて二度いう。

 当然のことながら、その青年は背負った羽と一緒に落ち、丘をゴロゴロと転がっていった。

 なんだったのかな? と、かなでと目を合わせるが、わからないので、ほおっておいた。あの格好で丘から飛び出すなんて、ちょっと危ないにおいがする。関わってはいけない。雰囲気をちょっと壊された僕らは、宿に戻ることにした。もちろん手をつないで。


 宿の食堂でガンツとタンツと合流する。僕らは食事を彼らは酒を。


「今日、どうだったの?」

「とりあえず、鍛冶ギルドへ行って、明日の夕方に各工房の工房長達を集めてくれることになった」

「意外とあっさりだね」

「ギルド長を説得したからな、酒で。ただ、各工房長が来るかどうかはわからないけどな」

「まあ、話を聞いてもらえるところからだよね」


 などとたわいもない話をして、今日は終了。僕とかなでは早々に部屋へと戻った。


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