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ドワーフの国-1

 アエオンから十日をかけてグリュンデールに戻ってきた。馬車二台はそのまま王都までバンドメンバーと楽器を運ぶために旅立った。それにはチームルビーが同行している。


「わーはっは。この地から私の世界征服が始まるのですね!」


 と、馬車を降りるなりアンジェラが叫ぶ。腰に手を当てて。笑い方と言葉遣いがあっていない。


「世界征服、しないぞ」

「ですが、ここが私の新天地なのです」

「家出だろうに」

「なんでしょうか?」


 と、ぷくーとほほを膨らませつつも、お上りさんのようにきょろきょろするアンジェラ。


「イングラシアの街並みの方が、色使いとかきれいだったろうに」

「ま、そうですわね。ですが、希望があります。まずは何をしたらよいのでしょうか?」

「おーい、ミレーヌ。この子達連れてって」

「え、えっとどこへ連れて行かれるのでしょう」

「まずは騎士団だ。鍛えてもらってきなさい」

「やせてしまいますー」


 そう叫びながら連れていかれるアンジェラとそのお付き。これでしばらく静かに違いない。


「ちょっと大変だったし、しばらくゆっくりしたいね」

「グレイス、それ私覚えたよ。フラグっていうんでしょ?」


 リリィがいやなことを言う。


「これも覚えておいて。フラグっていうのは折ってこそのフラグだから」


 屋敷に帰ると、さつきにこはる、ルナとラナが出迎えてくれる。その足元には子供達。


「「おかえりなさいませ」」


 とメイドさん達。

 すると、子供達が、


「「ぱっぱ、まっま、おかーり」」


 と抱き着いてくる。母が出かけていた子は母に。みずきにそら、リンとレンは僕に抱き着いてきた。おおう。何を感動していいのかわからなくなってしまった。あまりにかわいいことか、しゃべったことか、パパと言ってくれたことか。僕は四人をまとめてぎゅっとする。


「はい、ただいま。みんな変わらずかわいいね。それとしゃべれるようになったんだね。ぱっぱはうれしいよ」


 とほめてあげる。


「じゃ、部屋に行こうか」


 といって、子供達と歩き出そうとしたところで、


「グレイス君、やることがあるんじゃないの?」


 と、しっかり者の京子ちゃん。


「いや、ゆっくりしたいねって、さっき言ったよね。フラグは折るものだって言ったよね?」

「折れればの話でしょ? 折ってはだめなやつだから」

「え、急ぎ?」

「はぁ。いま、アエオンから徒歩で移動してきている人達いるわよね」


 うん。いるね。


「小さい子たちもいるよね」


 うん。いるね。


「移動、大変だよね」


 うん。大変だね。


「迎えに行って」


 え?


「それから、住むところを何とかして」


 え?


「それ、僕がやるの? 移動はキザクラ商会に頼んだよね? 住むところは……さつきー、ドラゴン族の方はどう? まだ拡張できそう?」

「まあ、あらかた片付いて、住むところもできたぞ。だから、そうだな、冬前にはさらに拡張できるんじゃないかな。言えば」

「じゃあ、お願い。でも、千人くらいでしょ? 何とかならないの?」

「今はなっても今後困ると思うよ」


 と、さすがだな、京子ちゃん。


「じゃあ、街のさらなる拡張はドラゴン族を中心にしてと、後は仕事だっけ?」

「魔道具作製部門、特に電池作製部門も工場もまったく人が足りていません。それから、服飾部門もです」


 と、ラナとルナ。


「服飾はソフィに任せていい?」

「うん」


 と。京子ちゃん。


「よし、やってきたら奥さん方に仕事を回して。神々の騎士団は街と住居づくりをドラゴン族と一緒に。それと、学校はどうなっている?」

「それも一緒に作らせればいいだろう」


 と、さつき。ドラゴン族は仕事が速い。


「じゃあ、迎えに行くのは、っていうか、千人でしょ? 何度も往復しないとだめだよね。バスは三台しかないし。王都から二台帰ってきたら追っかけさせて。で、行くのは、えっと、護衛がいらなくて、シンべロスたちに乗っていける。ライラとリリィなら、護衛なしで行ける? シンべロスで何とかなるでしょ?」

「え、私たちだけ? 護衛は?」

「シンべロスを何頭か連れて行けばいいでしょ?」

「グレイスも行こうよ」


 そうだよね。そうなるよね。


「わかった。僕も……」

「お待ちください」


 え、遮られちゃったよ。ラナ?


「ガンツとタンツがドワーフの国へ行きたがっています。そっちもお願いします。一か月待たせていますので」

「ということで、リリィとライラお願いね。一度に運べないから残ってしまう人たちのための食料とかも持って行ってね」

「はーい。ドライアー、ディーネー、やることないよねー」


 リリィが二人に声をかける。


「え、ゆっくりするんじゃ」

「足湯が呼んでいる」


 ドライアとディーネは視線を逸らす。


「私が行くよ」


 こはるが名乗りを上げてくれる。


「シルビーとも遊んであげないとだし」

「こはる、ありがとう。こはるなら何が来ても安心だね」


 よかった。三人に任せることにする。


「終わったら頭なでなでね」


 こはるはそう言っていたが、それくらいはいくらでもしてあげよう。


「フラグ、折れなかったね」


 リリィは僕に言ってくる。そうだね。まあ、仕方もない。


「ゆっくりできなくてごめんね、お願いね」


 と言ってリリィをなでなでしておく。


「しかたないなー」


 とリリィ。うむ。単純でよろしい。ライラにもお願いしておいた。なでなで付きで。


 よし。街のことはさつきと京子ちゃん、仕事のことはラナとルナ、服飾部門は京子ちゃん、神々の騎士団のお迎えはこはるとリリィとライラ。そして、足湯防衛にドライアとディーネ。

 京子ちゃんがさつきに「鍛えてくれる?」って言っていたけど、京子ちゃん、君は後衛だからね。それから、かなで? 忘れてないよ。かなでは僕と一緒にドワーフの国だ。



 ラナとルナに連れられて工房へ行く。そこには、フラフラになったガンツとタンツ。


「ちょっと、無理しちゃだめじゃん。そこまで無理しないでよ」

「いや、ちょっと夢中になってしまっただけだ。あれもこれも考えるだけで面白くてな。エンジンだけであれもこれも。それから動力を伝えるためのギア。空を飛ぶには航空力学が。それにな、思いついたことはすぐに試したくなってしまってな」


 と。


「だけど、無理して倒れたら元も子もないじゃん」

「だからこその、人員確保だけどな」


 そうもっともなことをガンツに言われる。


「じゃあ、急いでいこうか。いついける? 明日? 明後日?」

「いつでも行けるぞ。もう用意はしてある」


 ガンツはタンツにも確認を取る。タンツもうなずく。


「で、どうやって行くんだ?」


 と聞いてくるので、


「今回は急ぎだから、みんなでシンべロスに乗っていくよ?」

「え? 馬車じゃないのか?」

「だって、遅いじゃん。シンべロスに騎乗した方が早く着くって」

「そ、それはそうだが」

「そういえば、ファレンは? ファレンは行かないのかな?」

「乗り物酔いがひどいから、って言っていました」


 ルナが答えてくれた。


「よし、じゃあ、準備ができ次第、四人で旅立つよ。確か、諸国連合の東を沿うように、っていうか、東の森に沿うように行けばいいんだよね。急げば五日くらいかな?」

「では、五メートル級は馬車を引かせていますので、四メートル級のシンべロスを四頭用意させてきます」


 と言ってラナが出ていく。


「グレイス様と一緒に乗るから三頭でいい」


 というかなでのつぶやきは聞かなかったことにする。僕も二人で乗りたいし、そうしてもいいと思うけど、予備がいてもいいだろう。


「じゃあ、ルナは五日分の食料とかの用意を」

「街に寄られないのですか?」

「うん。まっすぐ行くから」


 そういうと、


「承知しました」


 ルナは納得して出て行った。

 ガンツとタンツは、


「五日であそこまで? どういうスピードで行くんだ?」


 と青い顔をしていた。


「早くしないと冬が来ちゃうからね。急いでいくよ」



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