転機ー1
そんなこんなで何事もなく順調育って、五歳になった。
身長は百十センチくらい。自分自身では、その他は特に変わっていない。
変わったことといえば、去年の初夏にまたキザクラが子供を四匹産んだ。
どこで作ってくるんだ。白黒、茶白、キジ白にサバ白。白系だ。
全てオス。名前はそれぞれ、アサヒ、ニシキ、ウシオ、アラシとした。
魔力ぐるぐるのおかげで、キザクラの子供達は八匹ともかっこいい猫になっている。
こっちの普通の猫の身体能力がどのくらいかわからないが、たぶんうちの猫たちは高いと思う。
第一世代のマイヒメ達は時々どこかへ出かけており、夜に帰ってこないこともある。君ら、一体どこへ行っている。ご飯はどうしているんだ。
第二世代のアサヒ達は屋敷の敷地内で遊んでいるようだ。この季節、キザクラがちょっとイライラしているので仕方ない。また妊娠している。子供達が妊娠しないからまだいいけど、そんなことになったら、どれだけ増えることか。そろそろ打ち止めて欲しい。トメって名付ければいい?
結局、今年も四匹。茶トラのオスがサキガケ、キジトラのオスがライコウ、白のメスがシロタエ、黒のメスがリッカ。
ついに色被りが出た。
まあ、世代が違うからいいけど。
この白と黒、一代目の目の色が青、この世代は金色である。こんなにいろんな模様に目の色、なんでキザクラ一匹から生まれるんだろう。この世界の遺伝ってどうなっているんだ? もしくはキザクラお前……。
仕方なしに、この四匹も魔力ぐるぐるだよ。京子ちゃんがきたら、手伝ってもらおう。
魔法の方は、ぜんぜん進まない。
誰も教えてくれない上に、メイドがつくようになった。
教えてもらってもいないものを勝手にするわけにはいかない。
魔法陣も厨房で火の魔法を見るだけしかできない。なんとか覚えようと見ているけど、書くことができない。自分の研究室が欲しいな。
夏になった。シャルロッテ様と京子ちゃんが来てくれたと同時に、お父ちゃんが帰ってきた。兄ちゃんは、王都で仕事だそうだ。
兄ちゃんは二十五歳だから、バリバリ働いているんだろうな。
この国では多くが十二歳から十五歳で働き始めるが十八歳まで専門性の高い勉強をする学校もあるようだ。
兄ちゃんは後者で、十八歳まで王都で勉強して、今は父ちゃんの下で修行中とのこと。
夕食を食べ終わった時、お父ちゃんが話かけてくる。
「グレイス。来年には六歳になる。もし、再来年の春に王立学園に入学したいのであれば、来年の冬に試験を受けなければならない」
小学校入学試験みたいな感じかな。
「試験内容は、読み書きと算数、運動に面接だ」
お、意外としょぼいな。
本は小さい頃から読んでもっていたし、書くことももうできる。算数もいけるだろう。
小学校入試レベル。八十五歳をなめるな。
十二進法とかだったらびっくりだけど、この世界も十進法だ。
面接は、多分これだけ話せれば大丈夫だろう。
「リーゼ、グレイスに家庭教師は必要か?」
「不要だ」
あ、瞬殺。
つけてくれてもいいけど、多分、無駄な時間になる。魔法の先生は欲しい。
「そうか。読み書きも算数もできるということだな。ちなみに、テストの点数でクラスが決まるからな」
それも織り込み済み。京子ちゃんと同じクラスになるため、手を抜かないつもりだ。
「グレイス、そういうことだから、勉強はしておくように。図書室に、テイラーが使った勉強のための参考書がある。使いなさい」
「はい、父上。いくつかよろしいでしょうか」
頷くお父ちゃん。
「一つ目、僕はミハエルやフランとも一緒に学園へ通いたいのですが、可能でしょうか」
お父ちゃんは、そばで控えているミレーヌを見やる。もちろん、メイドのミレーヌは微動だにしない。
「カイルとミレーヌがいいと言うなら良いぞ。ミレーヌにも王都へ来て貰えばいい」
「おじさま」
と、シャルロッテ様。
「この件については、ソフィも希望しております。もしよろしければ、私どもも協力させてください」
「わかった、頼む。二人の学力はどうなんだ?」
「問題ない」
と、おかあちゃん。そこはミレーヌじゃないのか? なんで知っているんだ?
「わかった。グレイス、みんなで勉強しなさい。特に来年の夏休みは四人でしっかりと確認のための勉強すること」
うーん。多分余裕なんだよね。だから、勉強のふりだけしていて遊んでいてもいいかな。
「わかりました。もう一つ。入学試験には、剣術や魔法の試験はないのでしょうか」
おかあちゃんの眉がちょっと動いた。
「ない。それらは、入学後に習うことになる。剣術や武術は、事前に習ってくる子もいるが、しょせんは六歳児だ、入学してからでも間に合うだろう。魔法については、下手に暴発など起こしもて命に関わるので、多くが学園に入ってから学ばせている。だから、それも入学してからの楽しみにしていなさい」
が、シャルロッテ様から補足が入る。
「入学してから魔法の授業を効率的に行うため、事前に魔力量のチェックが行われると思います」
ふむふむ。魔力量って、どれくらいが基準かわからないな。
前世の死んだ時には、僕と京子ちゃんは多いって言われていたけど、前世の基準だしな。
ミカエルとかなでも少ないっていっていたけど、僕と京子ちゃんで分けたし、今はどうなっているのかな。でも今世の基準が知りたいな。
「シャルロッテ様、魔力量の基準って、どれくらいでしょうか。どれくらいなら多いとかあるのですか? そもそも、僕は魔力があるのかどうかすらわかりません」
あ、おかあちゃん、シャルロッテ様、メイドの皆さんがわからない程度の苦笑いをした。
「それは、そのときの話になると思いますよ、グレイス」
うーん。その時でもいいけど、三人と同じ授業に出たいな。素直に言ってみるか。
「一緒の授業に出たいね、ソフィ」
って京子ちゃんに振る。
「そうなると私も嬉しい。でも、こればっかりは、頑張り方がわからないから、その時次第なのかもしれないね」
と。
京子ちゃんもどうしていいかわからないらしい。
「魔力が少ないものが高度な授業を受けても辛いだろうから、魔力量に合ったクラス分けに従った方がいいだろう」
と、お父ちゃんも言う。おかあちゃんは黙っている。
「勉強のために、(魔皮)紙と(魔力配合)インクを使わせていただきたいのですが、いいですか?」
僕は濁して提案する。
「アンやミレーヌたちに頼んで持ってきてもらいなさい」
ちっ。自分で取りに行けないか。やっぱり、この辺は難しいんだな。
「頑張ります」
と答えておく。
「ところでグレイス。私から聞きたいことがある。お前、猫を飼っているだろう? 白、黒、グレー、グレー縞の四匹の猫を知っているよな?」
と、おかあちゃんからの質問。
あ、嫌な予感が。何かしたのか、あの子ら。
「まずな」
まず?
「先日、うちの副団長が入団一年目の団員に胸を貸すつもりで試合をしていたんだ。もちろん、副団長が負けるわけもなく、余裕で剣を捌いていた。団員の方もな、センスはいいのだがまだ副団長には一太刀入れることは難しい状況だった。ところが、どこからやってきたのか、黒猫が団員の横にならんで参戦した。いきなり二対一になってしまっては試合にもならないので、団員は中止をしようと思ったのだが、副団長が二対一でも良いと、猫を甘く見たんだな、試合を始めてしまった」
邪魔という考えはなかったのかな?
「結果としては、副団長のボロ負けだった。まずは、猫を無視しようとしたらしい。たいした攻撃力もないしな。そしたら、猫が副団長の足に猫パンチをいれ、ニヤッと鳴いたたらしい。まるで一本取ったかのように。そしたらもう、副団長は、両方を意識しないといけなくなり、団員からも何本も入れられていた。猫の方が、団員にうまく合わせ、フェイントやら攻撃やら、囮になったりしたらしい。このことからな、猫と協力することで、強者にも対抗できることがわかった」
と、一体何を言っているのだろうか。
「猫を騎士団に入れることはできるか?」
え?
「母上、猫が人の言うことを聞くとは思えません。連携ができたことはすごいですが、次もできるとは限らないのではないでしょうか。そもそも、その猫はなんで、副団長との試合に挑んだのでしょう」
「お前の飼っている猫だろう?」
第一世代だ。色の組み合わせから言って。
「色の組み合わせからして、そうだと思います」
「お前がわからなくて私にわかるわけないだろう。まさか、指示してないよな?」
「そんなことは……」
と言い淀む。
まあいい、とおかあちゃんは続ける。
「次にな、四匹で私に挑んできたぞ。四方向からの攻撃、うち三匹が囮。どれが本命かはランダム。と言うことで、ちょっとリベンジさせろ。今度は切ってもいいか?」
あー、猫パンチ入っちゃったか。あの子ら身体能力ものすごく高いからな。普通の猫じゃないみたいに。
スタイルだって、普通の猫やキザクラと比べても一回り大きいしかっこいい。特にコマチは俊敏だ。
「いえ、本気を出さないでください。骨とか折れたら困りますので」
お願いだからやめてね。
「ですが、その場で何回か対戦したのではないのですか?」
「いや、黒が一パンチを入れて、ニヤッて鳴いて逃げていった」
あ、思い出し殺気。そうか、あの子らも、二回目は無理だと思っているんだな。勝ち逃げってやつか。
「申し訳ありません。あの子らは、僕も捕まえられませんので」
と、言っておく。
「そうか、残念だ」
と、おかあちゃん。他の子にも注意しておこう。騎士団に喧嘩を売るなと。
だけど、もしかしたら、猫達も対人戦の訓練をしたかったのかな?