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ロッテロッテ弾丸ツアーー5

 空を眺めた人達から、たくさんの声が上がる。みな、空を指さしている。なぜなら、空に普段見たことのない、緑と青の星が輝いているからだ。

 その星が空を流れる。流れて、そして旋回して、会場に近づいてくる。観客はこんなにはっきりとした流れ星を、軌跡を自由に変える流れ星を見たことないのだろう。僕もないけど。観客達がそれに見入っているのがわかる。

 そして流れ星は、会場に近づくと、その周りをまわりだす。

 何度か回ってステージの上に静止すると、真っ白な光の粒子が周りから集まってきて、白い光の球体を形づくる。そしてその次の瞬間、その光の球体がはじけ飛ぶ。

 すると、その中から、二人の天使が現れる。真っ白な衣装を着た、背中から真っ白な翼を伸ばした、金と銀のロングの髪を垂らした、美しい天使が。

 光の粒子が二人の周りを舞い、二人を闇の中に浮かび上がらせている。

 二人は、ゆっくりと、ステージに降り立った。

 スポットライト係はまだ光を当てていない。二人の周りの光が照らしているだけだ。

 空から人が降りてくるなんてことを信じられない人たちは、手を組んで二人を見続けている。翼を背負った天使のような二人はステージ上を前の方に歩いてくる。そして。言葉を発する。


「今日は、私たちのために集まってくださり、ありがとうございます」

「私たちは、皆さまにお会いでき、幸せです」

「ぜひ、今日は楽しんで行ってください」


 そこで、また光の粒子が二人の周りに集まり、球体を作り出したと思ったら、はじけ飛び、再び暗闇が訪れた。

 そんな幻想的なパフォーマンスを見せられた観客たちは、大興奮だ。

 ここまで、完全なるドライアとディーネ、そして二人が呼んだたくさんの中位精霊と低位精霊が大活躍だ。

 だが、精霊なんて見たこともない人たちが、何が起こったのかを理解できるわけもなく、神の御業のような印象を受けたことだろう。この世界では、いや、元の世界でも、人は飛べないし。


「ロッテロッテ様」

「リゼ様」

「シャルル様」

「やはり神様だったか」

「いや、天使様だ」


 など、大きな声をあげる人、ひたすら無言で拝む人。


 暗闇の中で、ゆったりとしたマリンバの音が流れ始める。そこへドラムとベースが加わり、さらにギターが加わる。テンポが少しずつ早くなっていく。オープニングのインストだ。テンポが速くなってくると、観客も盛り上がってくる。


「「「ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ…………」」」


 インストに合わせて声を上げる観客たち。


 さてと。オープニングのインストが終わった瞬間、ステージに照明を落とす。

 すると、そこには金のツインテール、銀のポニーテールの二人のアイドルがポーズを決めている。


「「「わー」」」

「「「きゃー」」」


 男女違い無く、ものすごい、歓声だ。

 二人は、動き出したと思ったら、それぞれステージの左右に別れて観客に笑顔で手を振る。そして、入れ替わるように移動して同じように手を振る。真ん中に来て二人で正面に手を振る。


「「今日も盛り上がっていこうねー」」


 といって、ロッテロッテのステージが始まった。

 さっきまでの天使の仰々しさは全くない。明るく元気なアイドルのステージそのものだ。

 飛んではねてステップを踏んで、歌ってはもって。その動き一つ一つに観客は歓声を上げる。そして、マフラータオルを振り回す。

 さすがすぎる。歌もダンスも一部の隙もなく、完璧にこなしている。観客との一体化もさすがだ。

 今日のセトリは十曲。およそ一時間程度。

 そして最後にはまた、真っ赤なドレスをまとってフラメンコをさらに派手に神々しくしたようなステージ。この時になると観客はみな、声も上げずに拝むように見入る。

 フラメンコもどきが終わった後、再び暗闇が訪れる。そして次の瞬間、また翼を背負った二人の天使がステージに現れる。


「今日は、来てくれてありがとうございました」

「私たちは、いつでも皆様の心の中におります」

「私たちは、いつでも皆様と一緒にあります」

「いつでも私たちを感じていてください」

「皆さまが私たちを思い出していただける限り、私たちはそこにあり続けます」

「そして、皆さまを見守ります」

「皆さまを愛し続けます」

「皆様に愛を与え続けます」

「ですから、皆さまも、人を愛してください」

「隣人を愛してください、そして」

「「平和を。素晴らしき世界を」」


 そう言って二人で目を閉じ、手を胸の前で組んで祈りだす。観客も同じように祈る。観客席だけでなく、自由席もだ。静寂が訪れるが、だれも気にしない。ただ祈る。


 二人が目を開け、正面を見る。


「私たちはそろそろ行きます」

「また会える日を楽しみにしています」


 二人は、緑と青の光を背負い、また、光の粒子をまとい、空に浮く。そして、会場を一周飛び回ったあと、二人で光の螺旋を描いて空へ登っていき、消えた。


 僕たちスポットライト係は会場を照らす。


「本日のロッテロッテのミサはこれにて終了いたします。会場にお越しの皆様。後方にて、ロッテロッテのグッズ販売をしております。まずはチケットをお持ちの方からの購入とさせていただきます。その後、自由席の方々が購入できます。すべての商品とも十分な数がありますので、安心していただきたく思います。なお、本日の王都限定商品もございます。どうぞ手に取ってご確認ください。それでは、本日はご来場、ありがとうございました」


 と、すべての内容が終了する。グッズ販売会場は、驚くほどスムーズに事が進んだ。慌てる人もなく、譲り合い、互いが互いを尊重するように。これも愛のなせる業か。グッズ販売は夜中まで続いたが、いっさいのトラブルもなかった。



 会場の片づけをしていると、金の髪と銀の髪を持ち、仮面をしている二人の女性がやってきた。


「グレイス、どうだった?」

「精霊を使うの、ちょっと反則ですよね。ものすごく神々しく見えました。ネタを知らなかったら、本当に神だと思うのではないでしょうか」

「そうだな、私もここまでとは思わなかった」

「私も空を飛べたのはとても楽しかったですわ。ちょっと寒かったですが。ドライアさんとディーネさんにお礼を。それと、ワールドツアーの間、お二人をお借りしますね」


 そうなのだ。今日がスタートであと九か所もある。まだまだ先はながい。が最初が大成功だったので、今後もうまくいくだろう。



 片付けもほぼ終わったころ、グッズ販売を手伝っていた京子ちゃんたちも馬車に戻ってくる。

 ドライアもディーネも販売の手伝いをしていたようだ。今日一番の活躍なのに。荷物を馬車に積んで、すべて終了。僕らは馬車の中で休んだ。



 翌日は、グリュンデールに向けて出発。これからは、ロッテロッテの二人、スタッフ、楽器類やステージ等の材料等も持っての移動となる。


 こうして、次々とミサと言う名の公演をこなした。

 アリシア帝国でも西方諸国連合国家でもライブは初めてだったが、どちらも大成功を収めた。

 知名度がないと思っていたが、マイリスブルグの国王を含む追っかけもそこそこいて、会場はどこも満員だった。

 グッズ販売も想像以上に好調で、途中、ローゼンシュタインから追加の商品を持ってきてもらうほどだった。

 公演の翌日には、チケットを買った人達はブレスレッドをつけていた。グッズを購入した人のほとんどがペンダントを購入して身に着けた。

 女性や女の子に人気だったのは、リゼとシャルルが髪を結うのに使っていたシュシュだ。

 京子ちゃんは、このライブまでに兎人族と一緒にゴムを使ったシュシュを作っていた。

 そのため、街中にシュシュで髪を結う人が見られるようになり、シュシュが一般化した。

 ちなみに、なぜか他国まで来ていた変装した国王ご一行は、すべての地で限定商品を買っていた。手首にはミサの数だけブレスレットがはまっている。

 また、金と銀の二柱の像も大いに売れた。家に飾る人、店に飾る人といて、街中で目につくようになった。

 しかし、これらを盗もうとするものは全く現れなかった。多くの人が、神がいる、神が見ていると信じ込んでしまったようだ。創造神ではなく、ロッテロッテの二柱の神を。

 見たこともない創造神より、目の前で奇跡を起こし愛をうたった神を信じたのだろう。教会関係者もこっそりと服の下にペンダントをしているほどだ。

 さらには、楽器や衣装なんかもキザクラ商会に注文が入った。キザクラ商会としては忙しくて仕方のない一か月だったであろうが、それ以上に利益を得たはずだ。


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