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魔法と技術とそして猫ー6

 八月になって、京子ちゃんがやってきた。

 京子ちゃんに猫達を紹介する。

 京子ちゃんは、メロメロになって子猫たちを可愛がっている。


「えっとね、大きくて白いのが親のキザクラ、子猫だけど、白いのがメスでマイヒメ、黒いのがメスでコマチ、グレーがオスでカゲツ、サバトラがオスでシュウゲツ」

「もしかしてだけどさ、猫たちのグループ名決めている?」

「うん。マオマオ団」

「うーん」


 って言う京子ちゃんの視線が痛い。

 僕にネーミングセンスがないの、わかっているだろうに。

 子供達の名前も京子ちゃんが決めたじゃん。


「さて、ソフィにお願いがあるんだけどさ」


 首をこてんってする京子ちゃん。

 ちなみに部屋にはメイドさんがいる。


「ここにいる間、夜は二匹預かってくれない?」


 ここで、ちょっとさりげなく同じ子猫を触っているような感じで京子ちゃんの手を触れる。


「子猫二匹に魔力ぐるぐるして欲しいんだけど。できれば、マイヒメは綺麗でかっこよくて頭が良ければ言うことなし。コマチは身体能力を高くして特に俊敏さと力かな。ま、両方とも同じでもいいけどね。違うとめんどくさかったら、両方足した感じでお願いします」


 僕は手を離す。


「わかった」


 って京子ちゃん。

 よろしく。

 京子ちゃんはお客さんだから仕方ないんだけど、メイドさんが近くにいる。三歳にもなると、気安く手を繋いだりできなくなっちゃったし、内緒話がしづらい。

 魔法の話とかも聞きたいんだけどな。

 まあ、仕方ないのかな。




 その頃、リーゼロッテの部屋では、シャルロッテ、アンとミレーヌが集まって話し合いをしていた。つまり、四人の親と、グレイスの世話係代表と言えるアンだ。


「奥様。グレイス様は三歳になられました。体格は三歳児にちょっと勝るくらいではありますが、言動などは多分六歳児以上にしっかりしてきたと感じます」

「ソフィもそんな感じです。体の成長は普通くらいでしょうか」

「ミハエルは三歳児としては大きい方です。フランは同じかちょっと小さいくらい。二人ともグレイス様と普通に話していますので、言葉が早い方なのでしょうか。確かにしっかりしていますけど」

「坊っちゃんが猫を拾ってこられたのですが、ご存知でしょうか、シャルロッテ様」

「ええ、ソフィが猫が可愛いって言っていたから」

「その親猫なのですが、もともと右足が折れていました」


 シャルロッテはその言い方が過去形なのが気になって口を開く。


「折れていた? まさか、グレイスが?」


 リーゼロッテを治したのがグレイスだと信じているシャルロッテは即座に回答へ結びつける。


「今回は、黒薔薇の影をつけていたので、坊っちゃんたちは気づいていないと思いますが、直接的な情報を得ることができました。というか、できてしまいました」

「このことを知るものは?」

「今回は我々と黒薔薇ですが、実は、厩舎の仕事をしているものが、あの猫の足が折れていたことを知っていました。自然に治ったにしては急ですし、坊っちゃんが足を固定して自然に治ったってことにしても、三歳の坊っちゃんがそんなことできるって知られたら、それはそれで騒ぎが大きくなるかもしれません。魔法で治したよりマシですが、なんでそんな知識が三歳児にあったのかと。無理な口止めも何がどこから漏れるかわからなかったので、しておりません」

「まあ、四人とも神童だってことにしてもいいのだがな。まあ、この地は辺境すぎて、やってくるのなんてグリュンデールと商人くらいだし、隠すにはちょうどいいのかもな」


 リーゼロッテは続けて言う。


「にしても、グレイスの治癒魔法については、確定はしたが隠すべきだな、きっと。私が若返ったことがグレイスのせいだとしれたら、そこらのマダムが一斉に添い寝を要求するだろうしな」


 リーゼロッテはそう言って大笑いする。そんな場合ではないのだが。

 アンは「私も……」と言っているし。


「そうなると、気になるのは、生まれて間もないグレイスが魔法を使ったってことだが」


 一斉に唾を飲み込む。


「神がグレイスの体を使ったとしても、神がどうしてそんなことを私にしたのかわからない。何かさせたかったのなら、なんらかの神託があってもいい。だが、何もない。私の元へくるまでの行動も含めて考えると、グレイスに意思があった、私を生かしたい何かがあった、としか考えられんな。となると、生まれた時から自我があったと。その場合、多分他の三人もだな。すると、四人とも神か何かか?」


 誰も答えない。答えられない。


「まあ、神だったら、今回の黒薔薇の監視には気づいていただろうさ。だから、違うな」

「現状、他の子供も魔法を使う気配はあるのか?」

「ソフィには学園で習うと言ってあります」

「ミハエルは分かりませんが、フランは私が火の魔法を使うところを見ていて、真似をしたそうにしていました。ですが、そのうち、と濁してあります」

「グレイス様が魔法を使った時にミハエルとフランは一緒にいたそうです。ですが、それにあまり驚いた気配はなかったそうです」


 とアン。


「そうなんだ。二人ともおそらくグレイスが魔法を使えることを知っていた。だから、この二人も自分が魔法を使えるか使えないかくらいはわかっているだろうな。で、おそらく使える。羨ましがらないからな」


 うーん、とリーゼロッテも悩んでしまう。


「猫に会う前に、グレイスは火魔法に興味を持っていたようだが、火魔法は使えないのだろうか。治癒系のみか? それとも……火魔法ではなく、何か別なものか」

「別なものですか?」


 シャルロッテは聞く。


「ああ、我がローゼンシュタイン家は魔法具で成り上がった一族だ。魔法で起こす事象ではなく、根本を知りたいと思っても不思議ではないだろうな、子供が考えることではないが」


 リーゼロッテは続ける。


「さて、グレイス達に自重させるかどうかだが、まあ、結論から言うと、無理だろう。彼らに言ったら我々が勘繰っていることがバレてしまうし、そうなると、隠れて何かをするかもしれない。手の上に乗らないかもしれないが、わざわざ手からこぼすこともないだろう。本人達も自ら自重しているようだし、放っておくしかあるまい。あとは、学園のせいにしよう」




 このローゼンシュタイン領は、本国から山脈を二つ超えたずっと南にある。当然夏は暑い。

 しかも、ここには海がある。

 屋敷の裏というか南側には、騎士団宿舎があり、その海側に、大きな屋内、屋外訓練場がある。その訓練場の先には五メートルを超える高い防波堤。土魔法で作ったらしいけど、それが西から東まで続いている。

 そして、この防波堤の向こうは広大なビーチが広がっている。

 僕たちは三歳になって、ここまで来てもいいことになっていた。ただし、監視という名のメイドさんを伴って。

 この季節はメイドさんは服が暑いのでビーチに来たがらないが、仕事と割り切ってついて来ている。


 ここに来るにあたり、僕はメイドさんにボールを作って欲しいとお願いしていた。

 直径二十センチくらいの柔らかいボールを。それを持って四人でやってきた。

 ビーチでやると言ったらビーチバレーでしょう。三歳児なので、本格的にはできないけど、みんなで落とさないように回すことくらいはやってもいいかなと。

 コートもネットも用意できなかったしね。

 三歳児だとしても、僕らはそれなりに運動神経も良くなっている。

 砂浜はやっぱり動きづらいけど、それなりに楽しんだ。いいトレーニングになりそうだ。


 しばらくやっていると、僕とかなで対京子ちゃんとミカエル、という感じで向き合うように打ち合うようになっていく。ネットもコートもないけどね。

 そしたら、それを見ていたメイド達四人が面白そうだと参戦。

 メイド服を脱ぎ捨てたと思ったら、中は軽装。

 子供達を前衛に、自分たちは後衛にと位置どり、四対四になる。


 そこで、僕は、ネットが欲しいとお願い。

 メイドさん達は、訓練場に行って、棒と紐を持ってくる。

 僕らの身長考えて一メートルくらい高さに紐を張る。

 メイドさんはあまりネットに近づいてはいけない、っていうルールをメイドさんたち自ら作り、僕たち中心に遊ばせてくれる。


 ビーチバレーは楽しかった。何十年ぶりだろうか。

 メイドさん達も参戦してくれたけど、僕も十八くらいになっていたら、きゃっきゃうふふって青春を感じられたのかなー。なんて思っていたら、殺気が飛んできた。

 心を読むのをやめてください、京子ちゃん、そしてかなで。

 メイドの皆さんが殺気に反応するじゃないか。




 遊び終わって屋敷に戻る。

 メイドさん達は、メイド服を着て日傘をさして後ろをついてくる。日傘をしなくても普段から訓練で日焼けしているのに。と、思っていたら、メイド服に日が当たると熱を持って辛いそうだ。


 メイドさんたちはビーチバレーが気に入ったらしく、大人達でできないかとルールについて検討している。ネットを高くするとか、遠くに撃たないように陣地を制限するとか、返す回数を決めるとか。ほぼほぼ前世のビーチバレーになるな、これ。


 実際、黒薔薇からビーチバレーが流行っていった。大人でも耐えられるように、ボールは革になった。

 彼女らは、訓練の前や後に部活動のようにビーチバレーを行った。

 体力がつきそうだということで、黒薔薇団長のおかあちゃんも放置していた、というか、参戦していた。

 それを、隣で訓練している騎士団が面白そうだと同じく始めた。

 それだけならよかったのだが、これによって男女交流が盛んになり、若い団員達は喜んでいた。

 一方のおかあちゃんは騎士団長たちを呼んで注意という名の説教をしていた。

 まあ、ほどほどに。




 夏が終わり、仕方ないことだけど、京子ちゃんが帰ってしまった。

 今年はちゃんと、次に会うときを楽しみに別れることができた。

 冬前にちょっとでも行けるといいんだけれどな。


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