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結婚のあいさつ回りー21(イングラシア)

 部屋に案内されて、とりあえず、お風呂に入ることにする。ここまで、ちゃんとしたお風呂に入っていなかったし。

 お風呂も、おそらくモデルとしてだと思うが、大きいものが設置されていた。

 僕が一人でお風呂に浸かっていたところ、妻達と子供達が皆入ってきた。

 この四人は、寿命が長いせいか、繁殖欲があまりないので、お風呂で一緒になっても安心だ。要は、僕が我慢すればいいだけで、子供達がいる前で、そんなことを考えるわけにもいかない。というか、僕は子供の頭や体を洗ってやるのも好きなのだ。

 みずきから順番に頭、体を洗ってやる。一応、生まれた順番ね。子供達がいつ親離れしてしまうかわからないから、できる限り世話をしたいと思っている。

 子供達を洗い終わると、こはるが僕を洗ってくれると言うが、断る。だって、手にスポンジもタオルも持っていない。夜に眠れなくなるので、自分で自分を洗った。

 お風呂を出て、部屋に戻ると、代わりにジェシカ達にお風呂を勧めた。三人とも、飛ぶように出て行った。三人が風呂から出て戻ってきたタイミングで、夕食に呼ばれた。呼びに来たのは、なぜかメイド姿をしたラミーネ。


「その恰好はどうしたの?」


 ラミーネにそう聞くと、


「このような辺境の支店に会長様が来てくださるとは思ってもいなかったため、メイドを雇っておりませんでした。ですので、支店長であるララファ一同、メイドとしてお世話させていただきます」


 気を使わなくてもいいのに、と、思うが、そういうわけにもいかないよね、って前世の働いていた時のことを思い出す。

 ララファを含め、メイドさん達合計八名が、僕らと子供達の給仕をしてくれた。ありがとう。


「食事も君達が作ってくれたの?」

「はい、私達は共同生活を行っておりますので、交代で食事を作っています。この街の食材は質がいいので、つい、料理に熱が入ってしまいまして。お口に会いますでしょうか」

「うん。おいしいよ。ありがとう」


 まあ、さつきとこはるの食べ方を見ていればわかるよね。

 子供達も、離乳食っぽい食事をひたすら食べさせてもらっている。おいしいんだな。

 食べ過ぎて吐かなきゃいいけど。

 ジェシカ達も、一緒に座って食事をしており、やはり、おいしい食事に夢中になっている。


 僕達はおなか一杯食事をいただき、部屋に戻った。子供達も眠そうになっていたので、皆で就寝。ジェシカ達は別部屋だ。一応。



 翌日は朝食をいただいて、そそくさと街に繰り出す。そうしないと、ララファたちが仕事へとシフトできないからだ。

 ちなみに、この街に溶け込めるように、白い服を用意してもらった。

 この日、僕らは、大聖堂へ行ったり、買い食いをしたり、城へ行ったり、買い食いをしたり、海を見にいったり、買い食いをしたり、公園で遊んだり休んだりして買い食いをし、ウィンドーショッピングを楽しんでは買い食いをしたりで、お昼を取らなくても一日中おなかいっぱいだった。

 大聖堂では、入るのに銀貨を人数分、十二枚も支払った。敬謙な教徒なら当然、という感じで受付に見られたからだが、問題を起こしたくもなかったので、支払って入場した。

 中は、大精霊様の神殿と同じように、ひげの神様が祀られていた。やっぱり、この世界の神様はひげのおじいさんなんだろうか。

 壇上では神父さんが何か話をしていたが、さつきもこはるも子供達も眠そうにしていたので、そそくさと退場した。出口では、イングラシア教グッズが売られていたが、買わずに出た。


 夕方には、キザクラ商会に戻り、昨日と同じようにお風呂、食事、寝る、と過ごした。




 翌日、制服を着て城へと行く。

 城の門番には話が通っていたのか、すんなりと入れてくれる。ただし、ごつい戦士のおつき付きで。

 この戦士に連れられて城の中に入り、会議室のようなところに通される。

 中に入ると、女王と、白い服、白い帽子をかぶった年を召した男の人がいた。

 二人とも立ち上がって迎え入れてくれる。女王が僕らを立ち上がって出迎えていいものかどうか。


「よく来てくれた。改めて自己紹介しよう。余はアンジェラ・イングラシアである。そして、こっちが、イングラシア教の教皇である、ゼフ・イングラシアだ」


 ゼフが頭を下げてくる。教皇が頭を下げてくるか?


「ちなみに、ゼフは余の祖父の弟にあたる」


 なるほどね。だから名字が一緒か。ちなみに、ゼフはさほど太ってはいない。

 順番なので、僕から僕と家族、ジェシカ達の紹介をする。僕は貴族であると同時にキザクラ商会の従業員でもあることになっている。なので、キザクラ商会の職員だと紹介しても、嘘はついていない。

 それに、さすがにここまで遠いと、ロッテロッテと契約してプロデュースしているのがキザクラ商会だとは知られていないようだ。


「さて、余からの褒美だが」


 女王は、指をぱちんと鳴らす。すると、部屋のドアから、男性執事がカートを押してきた。

 カートの上の布を取り除くと、金貨が詰まった袋と、イングラシア聖王国の紋章が入った短剣があった。


「この短剣はな、我が国に貢献した者に与えているものだが、この短剣を見せれば、この街には通行税なしに入ることができるし、街でも各種優遇を受けられる。この城にも入ることができる。それから、短剣だけでは足りないと思って、金貨を用意しておいた。これをもって報酬と変えたい。いいか?」


 どちらもさほど興味をひかなかったが、了承してお礼を伝えておいた。


「さて、ここからが余のお願いだが」


 本題がきたな。


「そちらは商会に勤めているということなら、この大陸中を移動することもあるのだろう? ロッテロッテ教という宗教を知っているか?」

「宗教なのかはわかりかねますが、ロッテロッテという二人は知ってはおります」


 と、嘘をつかない範囲で答える。


「なら、話は早い。このロッテロッテという二人が現れてから、イングラシア教に対する寄付が減ってきたのだ」

「そうなのですね、すると、ここ数年のことでしょうか。寄付が減ったことと、ロッテロッテが現れたことに因果関係はあるのでしょうか」

「因果関係があるかはわからん。ただ、イングラシア教徒であっても、ロッテロッテの関連商品を購入して崇めているという話はよく聞く。そういったことにお金を使っているからこそ、寄付が減るのではないだろうか」


 まあ、合っているとも間違っているとも思うけど言わないでおく。


「私達は無宗教なのでよくわかりませんが、本来、信教は自由なのではないでしょうか?」


 というと、教皇が眉を顰め、


「何をおっしゃっておるか。イングラシア教があるからこそ、人々は一つの信念のもと平和に暮らしておるだ。つまり、今の平和はイングラシア教のおかげなのだ。だから、人類はみな、創造神様を崇めるべきなのだ」


 と、力強くのたまう。へー。


「かくいうそなたたちも、昨日大聖堂を訪れて神に祈ったと聞いておるぞ。なんだかんだ言って、イングラシア教を信仰しておるのではないか」


 祈ってはいない。どういったところか興味があってお金を払って入っただけだ。眠くなってすぐ出たし。


「そうですね。とても荘厳な雰囲気を味わうことができました」

「そうだろうとも。大聖堂やその他教会施設はイングラシア教の誇り。これらを維持するためにも、敬謙な信者たちによる奉仕、寄付が必要なのだ」


 教皇は堂々と言う。やっぱり、帰りたくなってきたな。


「で、そのロッテロッテの二人を、それとも、あるのかわからない宗教をどうされるおつもりですか?」


 と本題に戻す。


「今は夏。これから秋になると収穫の時期だ。それが終わると冬。そして春が来ると種をまく。そこまではわが国でも皆忙しい。なので、この一年間で情報を集め、来年の初夏には大陸全土で踏み絵を行う予定だ」


 踏み絵? それでどうなる?


「ロッテロッテの絵を置いて、踏めるかどうか、ということでしょうか」

「そうだ。踏まなかったものは、イングラシア教として異端と認定し、教会への立ち入りを禁止することとする」


 と、女王。


「そうするとどうなるのですか?」

「そのものは神のかごを得られなくなり、自身や身内に不幸が訪れるようになったり、死んだ後には地獄に落ちるかもしれん」


 つまり、脅しか。気持ちの問題だと思うけどな。


「そうですか。幸せな人生を送るためには、創造神様を崇める必要があるということですね」

「そうだ。無宗教という割には物わかりがいいな」


 教皇がどうでもいい回答をする。


「それで、私達に何をしろと?」

「われらの後ろ盾になってもらいたい。そなたは我がイングラシアのドラゴン族と行動を共にしておったな。ならば、我らの味方も同然だろう?」

「お言葉ですが、私は商会の一従業員にすぎません。商会はすべての人に満足を、と、商品を取り扱っておりますが、私どもとしては心の満足をお売りしているつもりです。決して武力などお売りしておりませんし、それを用いて誰かの後ろ盾になることもございません」

「では、そなた個人ではどうだ? 余が直接雇ってもいいぞ」

「お断りします。それに、何を懸念されておられるのかわかりませんが、マイリスブルグの街々の教会は、孤児院や庶民の子供が通う学校が併設されてきており、教会としての役割は大きくなっていると思いますが?」

「ならば、寄付金は増えてもよいではないか」


 金の問題か? まあ、運営自体はキザクラ商会だからな。


「私としましては、イングラシア教会は充分に人々の生活を支えてくれていると思います。それから、宗教とロッテロッテの話は別の話だと考えます。寄付金が減っているのはおそらく、教会への寄付金と、孤児院や学校への寄付金と分散してしまっているからではないでしょうか。先ほども言いましたけど、孤児院や学校ができたことにより、子供達の笑顔が増えております。皆、教会に感謝しておりますし、確実に幸せが広がっていますよ」

「しかーし!」


 お、教皇が吠えたぞ。


「すべての信仰はイングラシア教の創造神にあるべきだ。創造神は唯一神なのだ。他のなにも神とは認めない。認められない。ロッテロッテという二人を崇めるものがいること自体、認められぬのだ。これは悪魔が仕組んだことに違いない。何千年の時を経て、再びわれら人類を滅ぼそうとやってくるに違いない。創造神のもと一つにまとまっていたわれらの心を分断するための策略に違いないのだ」


 教皇の妄想もひどいものだ。ここまで思い込まれると厄介だな。


「だから、お前達はその力をわれらイングラシア教、創造神のために惜しまず提供すべきなのだ」

「我が商会の従業員のほとんどはエルフです。彼女らの信仰は精霊にありますが?」

「エルフなど、エルフやドワーフ、獣人など亜人と高潔なわれらを一緒にするではない! われら人類こそ神によって作られた高潔な種族なのだ」

「この街にもキザクラ商会があると思いますが?」

「初めからあの商会は気に入らないのだ。神のおひざ元であるこの街をあのようなものどもが歩くなど許されることではない。ならば、あの商会を追い出すか取り潰すか、商会の従業員をすべて人族に置き換えてしまえばよい」

「それは、キザクラ商会の従業員である私に敵対すると?」


 と言って殺気をまき散らす。


「待て待て待て、ここではキザクラ商会の話をしているのではない。われらイングラシア教の未来について語っておる。おぬしら商会に手を出すようなことは余の名にかけて絶対にさせん」


 僕は、ちょっとだけ殺気を押さえ、


「どうやら、私はイングラシア教の教義とは考えが合わないようですので、これにて失礼いたします。ちなみに、キザクラ商会はエンターテイメント事業も行っておりまして、ロッテロッテのコンサートなども手掛けております。先ほどの女王様のキザクラ商会には手を出さないとのお言葉、覚えておきます。それでは」


 と言って全員で立ち上がり、部屋を後にする。あ、褒美をもらうのを忘れたけど、ま、いいか。もらったらめんどくさいしな。



 僕達は、城を出ていったんキザクラ商会支店にもどり、このことをララファに報告した。また、全支部には、本部から通達することとした。


「よーし、これですべて終わりだね」

「終わったと言っていいのか?」

「今回の目的は、さつきとこはるの里帰りでしょ? 獣王連合の様子見、大精霊から祝福もしてもらったし。おまけにケルベロスと緑のドラゴン族もやってくると」

「かなりあわただしい新婚旅行だったな」


 と、さつきが言う。は、そうか。結婚してから旅行に出ていなかったか。


「そうだね。新婚旅行だったね」


 こはるやドライア、ディーネとも微笑みあう。ジェシカたちは目をそらした。旅行にはまた行きたいな。


「さて、また広場から飛んじゃおうか」


 そう言って広場まで歩いて行き。さつきとこはるにドラゴン形態になってもらう。その時点で、広場周辺は大パニックに。

 ま、いいや。もう来たいとも思わないし。大精霊のところに行くときはスルーすればいいしね。


「よし、帰ろう。みんなが待っているだろうし」


 あ、お土産買うの忘れたわ。


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