結婚のあいさつ回りー18(イングラシア)
「お前ら、ここにいなければならない理由があるだろう」
と、大精霊様が緑ドラゴン族に言う。が、トドマツはあきらめない。
「さつき、お前らはどうしているんだ?」
「三十人くらいを赴任させて、何かあったら合図をもらうことになっている」
「なるほど、三十人くらいをローテで回せばいいわけか。ここまでどのくらいだ?」
「全力で二日かからないんじゃないか」
おいおい。話を進めるな。
「さつき、仲が悪いのに一緒にやっていけるわけないだろう?」
さつきに注意する。が、さつきはトドマツに、
「さて、条件を決めようか」
と提案する。
「条件?」
トドマツが乗る。おいおい。人の話を聞け。
「一つ目、旦那様の傘下に入ること。二つ目、さっき旦那様が言ったように働くこと。三つ目、若い娘を二十人差し出せ」
「「は?」」
と、僕とトドマツがはもる。トドマツは、「お前、そんなに好きか」という目で見てくる。なので、僕は首をおもいっきり振って否定する。
「まあいいか。グレイス様との間に子をなせば、あの子らのようにとんでもない子がうまれるんだろ? たくさん産んでもらおうじゃないか。それが、我々を強くするならな」
トドマツは、納得し始める。ほら、こはるが眉をしかめている。
「何を言っている。妻になぞ、してもらえるわけがあるまい。旦那様はすでに十人の妻がいるのだぞ?」
「は?」
と、トドマツ。僕は、ちょっと恥ずかしくなるが、ここは胸を張るところだ。ドヤ!
「ということは、お前らは二人も妻になっているのに、我らはゼロだと?」
いや、そこじゃないだろう。
「そういうことだ。格の違いが分かったか?」
こら、あおるな。
「ぐぬぬぬ」
悔しがるトドマツ。
「じゃあ、なんで若い娘が二十人なんだ?」
「旦那様の家系はな、女だけの騎士団を持つことになっているんだ」
え? いや、ローゼンシュタインは、男の騎士団もあったぞ?
「そこの三人娘がそのメンバーだ」
と突然ふられてびくっとなっているジェシカたち。
「私たち、黒薔薇だよね、ドラゴンと一緒なんて無理だよね」
というつぶやきが聞こえてくる。
「それに、男どもは、この地の赴任があるだろう。旦那様の騎士は女どもに任せておけ」
「残りの女はどうするんだ?」
「心配するな。旦那様のファーストは多彩でな、いくらでも仕事はあるぞ」
京子ちゃん、こんなところでほめられちゃったね。
「だがな、お前達の一番初めの仕事は、自分達の住む家を建てることからだ」
それはみんな一緒ね。頼むよ。後は、街の拡大もお願いしたいな。城壁を広げるの、大変なんだよね。
「ファーストって、お前よりすごいのがいるのか?」
「私は十番目、こはるが三番目だぞ」
こはるは胸を張ってどや顔をする。
「は? おまえが最後なのか?」
「まあ、順番なんて気にはしない。旦那様はみな平等に愛してくれるからな」
ぽっと顔を赤くしていやんいやんするさつき。うーん。このギャップに萌えるべきか萌えざるべきか。
トドマツは、それを見なかったことにすると、おもむろに手を上げ、後ろを見ないで、後ろの誰かにおいでおいでする。
「おーい、マツリ」
マツリ? トドマツの後ろから一人の女性がすたすたやってくる。
さつきもそうだけど、ドラゴン族の女性はチャイナ服なのか? こはるは和服だったな。
やってきた女性は深緑の髪を二つのお団子にまとめ、すっきりした顔だちの女性。スタイルもすっきり、だが、ラナ達よりは女性っぽい感じ。
ラナ、ルナ、好きだぞ、すっきりスタイル。
「娘のマツリだ。二十人の娘をまとめさせる。ほら、自己紹介を」
マツリの肩をたたいて、挨拶をさせるトドマツ。
「マツリ」
「……よろしく」
うーん、無口さんか。
「いいな、お前が十一番目の妻だ」
トドマツ、何を言っているの?
「いや、断る」
と、即断する。すると、マツリが目に涙を浮かべ、顔を両手でおさえ、しゃがみこみ、そして、泣いた。一つ一つのしぐさを順番にするところがちょっとわざとらしいが。
「私の事何も知らないくせにー」
って。
「知らないからじゃん!」
「お、じゃあ、知ったらいいんだな? さつき、お前どうやって妻の座を射止めた?」
「押し倒した」
「……」
ジト目で僕を見るトドマツ。
「僕の寝室に一人でやってくるってことは、他の妻たちに認められたってことだし、何より、こんな美人に襲い掛かられたらそりゃ……」
あ、さつきがまた顔を赤くしていやんいやんし始めた。
「さつきのこと、知らなかったんじゃないか」
と、ごもっともなご指摘、ありがとうございます。だけど、きれいで素敵でそして最強なお姉さんにあこがれはしたぞ。
「じゃあ、こはるは?」
と、トドマツはこはるに話を向ける。
こはるは、ボッと音がしそうなくらい一気に顔を赤くして、後ろを向いて逃亡した。
まあ、わかる。こっちはこっちではずかしい。しかも、中二病部分が加味されたらなおさら。
「わかったよ。マツリ、外堀を埋めろ」
「はい!」
と、マツリはスクッと立ち上がって返事する。立ち直り早いな。いや、もともと演技か。というか、京子ちゃん、君たち、外堀にされちゃったよ。
「おーし、お前ら、移住だ。準備しろ! って、全部埋まったか。仕方ないな、手ぶらで行くぞ!」
「「「おー」」」
あーあ、決まっちゃったよ。
「というわけで大精霊様、時々ローテでやってきますんで、その時はよろしく。それと、こっちに赴任してきたやつは泊めてやってください」
と、トドマツはちゃっかりお願いする。
「えっと」
と固まっていた大精霊様がようやく動き出す。
「僕は? 僕は行けないの?」
と聞いてくる。
「大精霊様は、家がありますよね。残っていますよね、立派なのが」
「みのり、しずく、ふきとばせー」
「な、なにを言っているんですか。自ら家を壊さないでください!」
と止める。
「おいしいご飯とお酒がー」
「働かざる者食うべからずです」
「いやだー、仕事はしたくない。今回の祝福だって、いつぶりかわからないくらいなんだ」
「大精霊様、時々遊びに来ますから」
とドライアとディーネ。
「祝福以降、一度も来なかったくせに」
と悪態をついているが、おいておこう。
「まあいいや、行っておいで。また遊びに来るんだよ」
大精霊様は、最後には快く送り出してくれた。