結婚のあいさつ回りー16(イングラシア)
「それで、生まれたその子達が高位精霊だから、僕の祝福を受けに来たと。そういうことでしょ?」
「「はい」」
「まずね、祝福だけど、神殿に行かないといけないから、あとで戻ろうね。それから、聞きたいんだけど、その子達、魔力を持っているよね?」
「「……はい」」
と、ドライアとディーネは答えづらそうに返事をする。僕は、ちょっとわからないので、大精霊様とドライアたちの間を交互に視線を動かす。できれば説明が欲しい。
「あー、旦那さん? グレイス君でいい?」
僕はうなずいておく。
「グレイス君はわからないかな? 大精霊である私も高位精霊であるドライアちゃんもディーネちゃんも魔力を持っていない、自然エネルギーの塊だよね。それはわかる?」
そう聞いてくるのでうなずく。それは理解している。
「でね、その子達は魔力を持っているの。こんな精霊見たことないんだよね」
「すみません。お聞きしてもよいですか?」
と前置きをして、大精霊様に聞いてみる。
「何か問題でも?」
と。
「うんとね。二人とも高位精霊なんだけど、魔力を持っているっていう点で他の精霊たち、私を含んでね、と全然違う存在なんだよね。つまり、新精霊っていうのかな? あれ、みのりとしずくって言ったかな。精霊の形をとれるの?」
と大精霊様が子供達に声をかける。子供達は、妻の顔を一瞬見た後に、光の玉と化す。
「なるほどね。いいよ。戻って」
と、大精霊が言うと、子供達が実体化する。
「やっぱり精霊は精霊かぁ。うーん。じゃあ、ちょっと魔法撃ってみて?」
と、大精霊様。それにはドライアとディーネが慌てて待ったをかける。
「「それはおやめください」」
「大丈夫よー。全部私が防ぐから。建物もね。だから、二人とも、いい。せーので魔法を撃ってね」
僕は当然ながら嫌な予感しかしない。
「行くよ、せーの!」
と、大精霊が合図をした瞬間、この部屋の壁と天井一面に数百もの直径五十センチの魔法陣が重なりあうように出現した。その瞬間、
「まったまったまった!」
と、みのりとしずくに魔法の発動を止めるように言ったのは大精霊様。
攻撃魔法の気配を察した緑のドラゴンたちは壁や天井に向かって防御の姿勢をとっている。
子供達は、魔法陣を展開したまま発動を保留している。
僕らは落ち着いてみているが、大精霊様も緑のドラゴンたちも目に見える冷や汗をかいて緊張しているのがわかる。
「ごめん。魔法陣、解いてくれるかな」
と、大精霊様がみのりとしずくにお願いする。二人は瞬間的に魔法陣を消し去る。
「ふぅ」
というため息があちらこちらから聞こえてくる。
今回は、僕にもわかった。ドライア達と子供達の違い。
「やっぱり。この子達、魔法陣を魔力で構成しているわ」
と大精霊様。その通りだ。ドライア達は魔法陣も精霊、つまりは自然エネルギーを活用して魔法陣を作り、魔法を行使している。つまり、
「つまり、どういうこった?」
とトドマツ。
「僕たち普通の精霊が魔法陣もその発動も自然エネルギーを使うのに対して、この子たちは、魔法陣を自らが持つ魔力で構成する。人間達と同じようにね。つまりは、僕らとその子らの自然エネルギ―量が同じと仮定すると、自然エネルギーと魔力と両方使うことで、僕たちの倍の魔法を撃てるということ」
そういうことだ。
「それは、すごいのか? あんたは大精霊様なんだろう?」
「今は、まだ僕の方が同時に発動する魔法の量は多いかもしれない。でも、数年後には圧倒的に負けるかもね。今でも、二人同時はきつい」
大精霊様は、やれやれ、という顔をしている。それを聞いたトドマツは固まっている。
大精霊様は、おもむろに僕の目を見つめると、
「グレイス君、もしかして僕との間に……」
「「大精霊様!!」」
大精霊様が何かを言いかけたが、それをドライアとディーネが妨げる。
「冗談だって冗談。冗談……でもないんだけど。だってさ、高位精霊の君達から、こんなすごい子供達が生まれてきたんでしょ? じゃあ、僕だったら?」
と、大精霊様。勘弁してね。さつきは笑いをこらえているのがわかるし、こはるはむっとしている。よせばいいのに、トドマツはさらにさつきをあおる。
「っていうことはな、さつきとあの人間の子供も強いのか? なあ、ちみっこ、ブレスを撃ってみろよ」
「私の子はそらという名前だ。で、こんなところでブレスを撃たせていいのか?」
「なーにかまわん。そんなちみっこのブレスぐらい。片手で打ち消してやるわ」
と言ってトドマツはそらに掌を向けるように左腕を伸ばす。
「あ、そう」
めずらしくさつきが殺気を出していない。こはるも。むしろ唇の端を上げている。
「そら、あのおじちゃんがお前のブレスを受けてみたいってさ。撃ってやってくれるか?」
と、さつきはそらに声をかける。そらはさつきに向かってうなずくと、トドマツの方を向き、口を開く。
ピチュン
と音がした。それは、イメージしていたブレスと違う。高濃度に圧縮されたレーザーのようだった。
そらのブレスは誰に反応をさせることもなく、トドマツの掌から肩までを貫通した。そしてトドマツの左腕は次の瞬間には吹っ飛んだ。
そらのブレスはトドマツを貫いた後、建物の壁を吹き飛ばし、その先に見える洞窟の壁にまで大穴を開けた。どこまで続いているかわからないような大穴を。
「グワーー!」
と、トドマツが腕を失った肩を押さえてうめき声をあげる。
「長!」
他のドラゴン族たちが立ち上がる。こちら側もさつきとこはるが戦闘態勢だ。
「きさまら、許さんぞ!」
緑ドラゴンの一人がさつきをにらんで言う。
「トドマツが撃てといったんだろう? 自業自得じゃないか。で、許さんかったらどうするんだ?」
と、悪い顔をするさつき。僕は、
「みずき、そら、こっちこっち」
と子供達を呼び寄せる。子供達はとてとて歩いて僕のところまでやってきて、それぞれ両の膝の上に座る。
「さつき、こはる、できれば外でやってほしいんだけど」
という僕の声掛けは次の瞬間打ち消される。洞窟中に鐘が鳴り響き、
「水が来る! 皆退避を!」
どこからか声が聞こえてくる。
そらの撃ったブレスの先を見ると、大穴から水が噴き出してきた。
「おい、ここはどこなんだ? まさか、地面の下か?」
さつきが緑ドラゴン族に問いかける。
「そうだ。そしてあの水はおそらくだが、穴の方向から言って山のふもとの湖の水。つまり、ここは水で埋まる」
おいおい、やばいじゃん。緑ドラゴンたちは、トドマツを抱えてそそくさと部屋を出ていく。
「やばいじゃん、みんな、逃げるよ」
そう皆に声をかける。
「出口はどっち?」
と、きょろきょろすると、
「僕達が来た魔法陣から脱出するのがいいと思うよ」
大精霊様が提案してくれる。
「わかった。みんな走るよ」
と言って立ち上がり、みずきとそらをこはるとさつきに渡して玄関へ向かう。が……
「グレイスー」
と、弱気な声。振り返ると、足がしびれて動けない三人娘がいる。立ち上がれもしないようだ。
「みんな、先に行っていて」
と声をかけて僕は三人のもとへ戻る。
「グレイス、足がしびれて動けない」
とジェシカが助けを求めるように手を伸ばしてくる。どうしてもやりたかったので、ジェシカの足をつついてやる。
「うぎゃー、グレイスのバカあほ間抜け! なんてことするの!」
とジェシカは叫んでいる。ちょっと面白かったので満足する。
「グレイスー、助けてー」
とベティとビビアンも手を伸ばしてくる。仕方ないな。
「ちょっと我慢してね」
と言って、身体強化をして、軽いベティを背中に背負い、ジェシカとビビアンを両手に抱える。
足が床に擦れるたびに悲鳴を上げる三人。まあ、気持ちはわかる。
玄関に向かってダッシュし、玄関でブーツを何とかはく。三人は履けないので手に持ってもらう。
玄関を出て、庭を走り、門を抜けてここに来た洞窟に出る。しかし、洞窟に出たところで今度は地震が起こり、天井の崩落が始まってくる。奥から水が流れ込んでくる気配もある。
僕は何とか皆が待っている魔法陣までたどり着く。
「ごめん、お待たせ」
「早く魔法陣に乗って」
と、大精霊様。
大精霊様は、手を魔法陣について、魔法を発動させる。光に包まれ、それが消えたところで、景色が神殿の部屋に変わる。