結婚のあいさつ回りー15(イングラシア)
翌日、みんなで魔法陣に乗り、僕は絨毯に手をついて魔力を流す。が、なにも起こらない。
「これ、我々精霊がエネルギーを注がないと発動しないと思います」
と、ディーネ。
「うん。ちょっと試してみただけ。精霊のエネルギーをって書いてあったのが不思議で。じゃあ、よろしく」
と言うと、子供をジェシカに預けたディーネが手を絨毯にあて、エネルギーを注ぐ。
すると魔法陣が光り、その光が円筒状に上へと延びる。次の瞬間、その光がはじけ、視界が真っ白になる。
光が収まってきて周りが見えるようになると、そこは洞窟だった。
壁には火がともっており、通路が明るくなっていた。
火がともっていることから、誰かがいることは間違いない。この転移してきた場所は、洞窟の先だったのか、進む方向は一方向しかなかった。そちらに向かって歩いていく。ちょっと警戒して、子供達を抱っこしたまま。しばらく歩くと、唐突にドライアが、
「前から大精霊様が来られます」
と、報告してくれる。僕らはその場に立ったまま、待つことにする。
しばらくすると、正面から一人の女性が走ってやってくる。
大精霊様が走って? と思ったが、突っ込みはなしで。大精霊様は、真っ白なワンピースに白いハイヒール。髪も真っ白だが、白髪ではなくつやがあるロング。腰まで伸びている。肌も白い。
「ドライアちゃん、ディーネちゃん、ひさしぶりー」
と、二人に声をかける大精霊様。
「「お久しぶりです大精霊様」」
と、二人は挨拶をする。
「どうしたの? 会いに来てくれたの?」
と言った大精霊様は、二人に抱かれた子供たちに気づく。
「あれ、その子達、もしかして高位精霊?」
「はい。私達の子で、みのりと」
「しずくと言います」
ドライアとディーネが大精霊様に報告する。ついで、目的についてもドライアが告げる。
「高位精霊ですので、大精霊様に祝福をいただこうと思い、お伺いしました」
しかしながら、大精霊様は、子供達を見たままぽかんとした顔で固まり、身動きしない。
「こほん」
と、ディーネが咳ばらいをすると大精霊様が復活する。
「えっと、ドライアちゃんにディーネちゃん。今ね、子供って聞こえたけど、気のせいだよね? 高位精霊は中位精霊が進化してなるものだよね? なんの冗談かなー」
ははは、と大精霊様は声は笑っている。顔は笑っていない。ドライアとディーネは顔を見合わせて大精霊に告げる。
「大精霊様、そのあたりも説明をさせていただいてもいいのですが、長くなりますので、立ち話ではなく……」
「そうだよね、そうだよね。ごめんね、気が回らず。こっちで話をしようよ」
といって、大精霊様が歩き出す。
しばらくすると、大きな空間に出た。とはいっても、上の方が見えるだけだが。
目の前には、木でできた門があり、左右に壁が広がっている。門の前には二人の門番が立っている。急にさつきとこはるが緊張したのがわかる。
「おかえりなさいませ、大精霊様。そちらはお客様ですか?」
と、門番の一人。
「そうだよ。僕のお客さんだから、通してね」
大精霊様がそう伝え、門を開けてもらう。
大精霊様が門をくぐり、ドライアとディーネが続く。僕が通ったところで、門番が突然、持っていた槍をかまえる。
「お前たちは赤の者たちだな?」
「そうだが? それがどうした。客だぞ?」
槍を向けられたさつきが答える。その左後ろにいたこはるが子供を抱いたまま構える。さらにその後ろの三人も薙刀を取り出す構えをとっている。
「ここに何をしに来た?」
「だから、客だと。決して、お前たちに挨拶に来たわけじゃない」
一触即発な空気が漂う。僕がそれを止めるべく振り返って近づくと、
「門番さん、その人たちも含めて僕のお客だから通してあげて」
大精霊様が門番に告げる。
「ドライアちゃん、ディーネちゃん、二人のお連れさんだよね?」
大精霊様がドライア達に確認をとる。二人はうなずいて肯定する。
「ですが……」
門番がしぶりながら答えていると、そこへ近づいてくる男が一人。
「おう、赤のじゃないか。久しぶりだな。何しに来た?」
と、さつきに話しかける。
「緑の。前をいくドライアとディーネと一緒に旅の途中だ。今は、二人の用事のため、ここを訪れただけだ。何かしようなんて思わん。しかも、ここがどこだか全くわからんし」
「そうか。まあ、敵陣ど真ん中に、こんだけで……なんかわからない組み合わせだが、殴り合いにやってくるわけないよな。いいぜ、入りな」
男に許可をもらい、全員入れてもらった。中には、巨大な神社のような建物があった。柱も壁も床も木で作られている。
「建物に入る前に靴を脱いでね」
そう言われるので、玄関でブーツを脱ぐ。子供たちも小さな靴を脱がされる。建物の中は木の床だった。
大精霊様と先ほど緑のと呼ばれた男について歩いていく。子供達も妻と手をつないで歩く。ちびっこが歩くのは見ていてかわいい。
奥にある大きな部屋に通される。床に座布団が敷かれており、上座に大精霊様が座る。左側の列に僕たち、右側の列に緑の達が座る。
僕らの方だが、用事があるのがドライア達なので、二人に上座を譲ろうとしたのだが、大精霊に一番近いところに僕が座ることになる。その右にドライア、ディーネ、さつき、こはるの順。僕らの背中側に、ジェシカとベティ、ビビアンが座る。子供達はそれぞれ妻の膝の上だ。
緑のが胡坐をかいていたので、僕も正座ではなく胡坐をかくことにする。妻達は大精霊様と同じように正座。三人娘も正座に挑戦している。
ちなみに、このならびに異を唱えたのが大精霊様。
「ドライアちゃんにディーネちゃん、なんでこの人間の男が一番こっちなの?」
「この方は、グレイス・ローゼンシュタイン・グリュンデール様で、私たちの夫です」
そうドライアが説明する。なので、
「初めまして。この四人の夫である、グレイス・ローゼンシュタイン・グリュンデールです」
と、あいさつをしておく。
「えっと、精霊が人間と結婚ってどういう……」
「おい赤いの、まさかと思うが、その膝の上にいる小さいの、それもこの人間との間の子供とか言わないよな?」
と、緑のが大精霊様の言葉にかぶせるように割って入る。
「そうだが、何か問題があるのか?」
「もしかして、おまえのところの里には男がいなくなったか? それで人間を捕まえてか? 人間との間に子供を作ったところで、弱っちいのしか生まれないだろう? そんなに飢えているのか?」
あーはっは、と緑のが笑う。
「うるさい、トドマツ。今は僕が話をしているんだよ?」
と大精霊様。
「あー、ごめんごめん。そうだったな。続けてくれ」
とトドマツ。トドマツっていうのか。
「話を戻すね。もう」
膨れる大精霊様。
「さっき話したこともだけど、ドライアちゃんもディーネちゃんも、この人間と結婚して、子供が生まれたってこと?」
「はい。そうです」
とドライア。
「なんで結婚して子供を作ろうなんて思ったの? 精霊でそんなことする子、見たことないし、僕だって子供ができるなんて知らなかったよ。っていうか、そんなことできるんだ?」
「えっと、正しくは、ですが、子供を授かってからの結婚になります」
と、ディーネが顔を赤くして答える。ドライアも顔を赤くしている。
「え? え? どういうこと? そもそも、精霊と人間との間に子供を授かるって、どうしたの? いや、わかるけど、まさか、違うよね?」
「「……」」
これには、ドライアもディーネも顔を赤くするだけで答えられない。
「まさかと思うが、赤いのも同じなのか?」
と、トドマツ。
「さつきだ。こっちはこはる。そう呼べ。それから答えだが、その通りだ」
その答えを聞いて、トドマツはまた笑いだす。
「精霊様だけじゃなくドラゴン族もか? すげーなおまえ、節操ないな。グレイスとか言ったっけ? 人間のくせにやるな?」
と、トドマツは笑いながら言う。
「おい、トドマツ、私たちの旦那様を愚弄するならやるぞ?」
と、さつき。そらを膝からおろして立ち上がろうとする。
同じくこはるもみずきを膝からおろしている。
トドマツと並んでいるドラゴン族も腰を上げようとしている。
さらにトドマツは追い打ちをかけるように、
「さつき、そっちのこはるはお前の子供だろう? ということは、おまえは、そのこはるの子のおばあちゃんか。なあ、おばあちゃん」
「私はみずきのおばあちゃんであることに誇りを持っている。しかしな、おまえ、許さんからな」
部屋中に殺気が立ち込める。
「やめなさい。今は僕が話しているって言っているでしょ」
と、大精霊様。