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結婚のあいさつ回りー13(イングラシア)

 猫王国と多獣国の国境にある戦場跡地から北西方向へ飛び立ち、夕方には、人類が住む大陸の南西部にあるアエオンという国に到着する。

 この辺りは、六つの小国で西方諸国連合を作っている。ランドルフ辺境伯領から西へ入ったところがセデベリアという小国。街の名もセデベリア。その二つ西側にあるのが西の海に面したアエオン。街の名もアエオン。


 驚かれないよう、街から少し離れたところに降り立ち、歩いて街にむかう。

 城門では、いつものように冒険者カードを見せて通してもらう。全員がプラチナランクなので、それには門番に驚かれる。これだけのパーティはそうそうないのだろうか。しかも、四人の子連れで。

 門番に「旅行ですか?」と聞かれた理由は子連れだからだろう。

 ただ、子連れで歩いてきたことに疑問を持ってほしい。どうやってここまで来たのか気にならないのかな。


 街の中央部にある、高級なホテルにチェックインして、一階のレストランで食事をとる。海があるせいか、魚料理が評判らしい。

 僕らは、食事をしながら、話をしたり、さつきはお酒を楽しんだり、こはるは食事をお代わりをしたり。ジェシカたちは基本メイドだが、ここでは一緒に食事を取る。

 とはいえ、子供の世話もジェシカたちの仕事。子供の食事もジェシカたちが与える。

 部屋は五人部屋と三人部屋をとっており、三人部屋をジェシカたちが使う。僕ら五人は夫婦なので問題なし。子供も四人いるしね。夜中くらいはジェシカ達にも休んでもらいたい。


 食事を楽しんでいると、レストランの入り口が騒がしくなる。変なおじいさんがレストランに入ろうとしているのをボーイが止めているらしい。さすが高級ホテル。セキュリティは万全だ。

 僕らはその光景を無視する。だって、関係ないしね。とはいえ、そのやり取りは少し騒がしい。ついにおじいさんが大声を上げる。


「男一人、女七人で子供四人のリア充プラチナパーティのお方!」


 と。

 ビビアンが飲んでいたお酒をぶっと吹き出す。


「私達、リア充じゃないわよね」

「リア充って何かしら」


 と、ジェシカとベティ。

 おじいさんは同じことを繰り返して叫ぶ。しかも僕らをロックオンして。そりゃそうだ。人数が一致しているのが僕らだけだ。

 ボーイが、


「騒がないでください。迷惑ですから出て行ってください」


 と奮闘しているので、僕らは無視を決め込む。


「おーい、そこのリア充パーティ、聞こえておるんじゃろ? なあリア充!」


 あんまりうるさいので、


「リア充リア充うるさいわ! リア充ですが何か?」

「あ、認めたよ」

「開き直ったよ」

「いいなー」


 と、ビビアン達三人。


「お前たち、冒険者なのに、ギルドに寄らないとはひどいじゃないか」

「僕らはいま、育児休暇中です。冒険者ギルドによる用事はありませんから」


 と、バッサリ切る。


「ちょっと頼みがあるんじゃ、依頼じゃ、指名依頼にするぞ? 話だけでも聞いてくれんか」


 おじいさんがそこまで叫んだところで、ボーイの数が増えて、おじいさんは連れていかれた。


「なんだったんだろう」

「冒険者への依頼がどうのとか」

「今は、それどころじゃないしね」


 部屋に戻って早々に休む。今日は疲れたし、心も体も休めたい。できれば、二日くらいのんびりしたい。

 だけどね、行く先々でトラブルに巻き込まれるのは、ごめんだ。なるべく早く行動して、早く帰ろう。




 翌日、ゆっくり休みたいとは言ったもの、あのジェシカたちがちゃんと仕事として起こしに来る。昨日は結構大規模魔法を連発したけど、今朝には魔力は元通りだ。睡眠、すごい。


 朝食をみんなで食べ、早々にチェックアウトすることにする。トラブルに巻き込まれる前に出発したい。


 荷物をまとめて宿を出る。城門に向かって足早に歩いていると、建物と建物の隙間から飛び出してくる何か。そして、こはるに蹴られて飛んでいく何か。地面を何度かバウンドして止まる。


「こはる。ありがとう。でも、進行方向に飛ばすのは今度からやめてね。あれにどうしても近づかないといけなくなっちゃう」


 と言って、こはるをなでなでする。


「んっ」


 と、こはるは理解してくれる。仕方ないので、その横を通り過ぎる。昨日のおじいちゃんだった。死んでないよね? と、思ったが、かかわりたくもなく、そのままスルー。すると、後ろから声がかかる。


「お願いですじゃ、話を聞いてくだされ」


 と、おじいさん。つい、振り向いてしまった。おじいさんは土下座をしている。


「はぁ」


 と、僕はため息をつく。僕はおじいさんの手を取り、立たせ、


「ヒール」


 治癒魔法をかける。こはるに蹴られて負ったけがを治してあげる。おじいさんは驚いた顔をし、僕の手を振り払ったと思うと、また土下座をした。


「女王様をお助けください」


 そう言って。やっぱりトラブルか。しかも結論から言うとはできるな、このおじいさん。話を聞かないといけなくなるじゃないか。

 妻たちをみると、皆でやれやれ、ってやっている。


「はぁ」


 めんどくさいので、こっちも結論だけ聞く。


「おじいさん、女王様を助けないとどうなるの?」

「女王様がやせてしまうのじゃ!」

「……はい、撤収」


 妻達に声をかけ、立ち去ることにする。やせようが太ろうが、どうでもいい。っていうか、やせないと健康に良くないよ。それでいいじゃん。

 無視されたおじいさんは、今度はズダダダダ、と僕たちの進行方向に回り込み、また土下座。


「我が国は、太っていることが平和であることの象徴。なのでやせてはいけないのです」

「いやいや、やせた方が健康にいいよ。ぽっちゃりの方が長生きできるかもだけど、やせた方が美人だよ、って助言したら? 見たことないけど。それに、やせさせたくなかったら食べさせればいいじゃん。そんなの、僕らにどうこうできる問題じゃないでしょ?」

「女王様は今、自ら前線に立ち、ケルベロスの群れを抑え込んでいますのじゃ。もともとやせやすい体質の上、前線では十分以上の食事をとることもできず、しかも、女王様が先頭に立って牽制しているのです。ですから、ケルベロスたちを何とかしない限り、女王様はやせてしまうのですじゃ」


 ケルベロス? まあ、正直、やせることについては知らんけど、ケルベロスっていう単語を聞いて、ほおっておくわけにもいかないか、というか、気になる。

 誰が召喚した? アリシア帝国皇帝の血筋でないと召喚できないと思っていたが。


「ケルベロスはどこから?」

「おそらく、我が国王都のはるか西、精霊様を奉っている神殿からかと予想されておりますのじゃ。予想というのは、言い伝えでは、その神殿の地下には異界とつながる門があるとのことでして。誰も見たことがないのじゃが」


 うーん。また気になる単語が。精霊様。多分、これから会いに行こうと思っている大精霊様だよね。ドライアとディーネに視線を向けると、二人ともうなずいたし。それと、異界とつながる門か。やっぱりケルベロスは異界にいるのか。


「おじいさん、名前は?」

「マトリカ・タンブと申す。イングラシア聖王国前宰相で、今は相談役をしております」

「マトリカさんね。ところで、僕らに何を求めるの?」

「可能なら、プラチナランク冒険者である皆様にケルベロスの群れの討伐をお願いしたい。というところではあるのですが、さすがにケルベロス百体を討伐というのは難しいというのは重々承知。我が軍と協力して何とか退けていただきたいのです」

「ケルベロス百体? それは無理じゃない? 他の冒険者には声をかけているの?」

「我が国の冒険者にも声をかけておりますし、この大陸でも冒険者ギルドに依頼を出しております。しかし、ケルベロスという伝説上の生き物を、しかも百体を相手には誰も名乗りを上げてくれませんのじゃ」


 そらそうだ。


「今、大陸中の教会にも声をかけ、教会騎士の招集も行っているところですじゃ」


 とのこと。


「教会がらみなの?」

「なにをおっしゃっておられるのですか。我が聖王国にはイングラシア教の大聖堂があり、国民はすべて敬謙なイングラシア教徒です。我が国の存在意義の一つは、イングラシア教を守り、共にあること、と言っても過言ではありません」


 うへぇ。宗教がらみか。関わりたくないな。


「ごめん、マトリカさん。この依頼断るね。僕ら、これからイングラシアに渡るけど、他に用事があるから」


 そう返事をして、その場を立ち去った。マトリカさんはうなだれていたけど、まあ、知ったことじゃない。


「グレイス、断ったのは宗教がらみだからではないだろう?」


 さつきが聞いてくる。


「うん。ケルベロスを討伐する気になれなくてね。できれば、全部異界に戻すか、連れ帰るかしたいなと思って。ケルベロスを討伐すると、ライラが悲しむかもじゃん?」


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