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魔法と技術とそして猫ー5

 一日たって、今日は、三人でベンチに座り話をしている。干し肉を咥えて。

 猫がやってくるが、警戒して寄ってこない。遠くに座っている。腕を舐めたり、毛繕いをしたり。流石に三人いると警戒するのかな。


「あ、猫ですね、もしかして、その干し肉はあの子にあげるためですか?」


 と、かなで。


「うん。そうなんだけど、昨日はここまで取りに来たんだよね」


 三人だと警戒するのかな。


「ちょっと席を外しましょうか」


 と、ミカエルとかなでが席を立つ。

 二人が見えなくなった頃、猫が近づいてくる。


「にゃーん」


 目の前までやってきて座っている。僕は、干し肉をふりふりしながら、


「あの子たちにも慣れてやってくれないか?」


 と言いながら干し肉を差し出す。猫は、


「にゃーん」


 と言って干し肉を受け取り、去っていった。



 隠れて見ていた二人が戻ってくる。


「陵様には慣れているんですね」


 と、かなで。よし、翌日もう一回かな。




 さらに翌日。今日は、かなでが干し肉を持ってふりふりしている。そこへ猫がやってくる。猫はまたちょっと離れたところで座って、足を舐めたり毛繕いをしたり。そんな猫にかなでが声をかける。


 「猫ちゃーん、ご飯ですよー」


 と、干し肉をふりふりしながら。猫はじっと干し肉を見つめた後、諦めたように近づいてきた。


「にゃーん」


 と、かなでの前に座って鳴く。かなでは、


「はいどーぞ」


 と干し肉を差し出す。猫はそれを咥えて走っていく。昨日よりもちょっと早足かな。


 次の日は、ミカエルが挑戦した。結論から言うと、かなでと状況は一緒だった。ミカエルからも干し肉をもらった猫は、足早に帰っていった。


 その次の日は、様子が違った。

 ベンチに三人で座っていると、猫がやってきた。でもその口には子猫を咥えている。猫と同じく真っ白な子猫。

 猫は、子猫を僕たちの前に置くと、子猫に「にゃん」と何かを言いつけて走り去る。

 あれ、子猫、置いてかれちゃった? と思っていると、猫はもう一匹連れてきた。今度は黒い子猫。

 また走り去って3匹目はグレー。

 で、次がサバトラ。これで最後なのか、親猫は僕の前に来て


「にゃーん、にゃーん」


 と、鳴く。

 僕が干し肉をどうしていいかわからないでいると、親猫は僕の足にすりって、頭を擦り付けた。

 ついで、ミカエルとかなでの足にも。僕が持っている干し肉を見ていない。

 今度は、子供の後ろに座って、


「にゃーん」


 と、鳴いて頭を下げる。

 猫って、こんなことするの? と、思っていると、親猫は、三本足で来た方とは違う方へ歩き出す。

 猫は子猫が親猫の後をついて行こうとすると、子猫に向かって「シャーッ」って威嚇した。

 それでも子猫はついて行こうとする。 親猫は再度「シャーッ」と威嚇して走り去ろうとする。

 僕は、事態に気がつき、猫が本当にそんなことを考えるかわからないが、ミカエルとかなでに声をかける。


「確保ー」


 三人で親猫に向かって走り出す。

 親猫は当然のように逃げようと走り出す。

 しかしながら、三本足の猫に負ける三歳児三人ではない。

 三人で囲い込むように追い、最終的には屋敷の壁に追いつめた。親猫は諦めたのか、かなでに捕まった。


 かなでは後ろから親猫を掴んでいる。抱こうとすると蹴られそうだからだ。

 元のベンチに戻ってきて、僕は座る。

 子猫たちは足元で不安そうにミーミー鳴いている。

 僕の前にかなでが親猫を差し出す。両手が前に出ている感じ。ミカエルが確認をする。


「陵様、魔法を使うのですか?」


 と。


「うん。人じゃなければ、バレないだろうと思うんだ。猫なら人に言いつけたりしないだろうしね。それに、おかあちゃんの時のようにできるか確認したいんだ。で、その様子をみていてほしい」


 ミカエルは、やれやれって感じで頷く。

 さてと。

 周りに誰もいないことを確認して。親猫の両足を握る。握ろうとすると猫キックが飛んでくるので、そっちはミカエルに抑えてもらう。

 まずはスキャンのイメージ。右手と左手を比較すればいいかな。

 目を閉じて、魔力を注いでいく。

 あー、右足折れているね。それだけかな。関節じゃなくてよかった。

 と、状況が分かった段階で目を開く。

 なぜかかなでとミカエルが目を見開いている。


「何かあった?」

「陵様が目を閉じている間、親猫の下に魔法陣が発生しました」


 ん? この二人は魔法陣が見えているんだな。っていうか、スキャンでも魔法陣が出るんだ。治療も無詠唱でやってみるかな。

 親猫の右手、掴んでいる僕の左手から魔力を流していって、骨のずれの正常化、骨形成活性化、一応免疫力向上、ハイヒール! 

 って無詠唱で念じると、親猫の下に魔法陣。

 そこから光が立ち上ったかと思うと霧散。

 散り散りになった光が親猫に吸い込まれて、親猫が光る。

 光が収まったのを待って、親猫の足を動かしてみる。

 うん、親猫は痛がっていないみたい。

 というか、メガヒールとハイヒールの違いがわからなかったけど、ハイヒールで治らなかったらメガヒール使えばいいかなって、ハイヒールにしてみた。


 僕が目で合図をすると、かなでがゆっくり親猫を地面に下ろす。

 親猫は地面に腰を下ろした。右足は上げたまま。

 その右足をちょっと舐めて毛繕ってそして、そろそろと地面に下ろした。

 親猫は右足の様子を確かめた後、四本足で僕の方へやってくる。


「なー」


 なんか、甘えた声。

 ま、いいか。と思いつつ。親猫をそっと捕まえて膝に乗せる。

 親猫はすでに逃走する気配もない。

 さて、説教するか。

 親猫は何かを察したのか、僕の目を覗き込む。三歳児、実年齢八十三歳の僕は言う。


「親が子供を置いていくんじゃない。子供の気持ちを考えろ。この子達を育てるのは君の、親の役割だ。親の都合で子供を悲しませてはいけない。まあ、君達の腕の一本がないことがどれだけ死に近づく問題かは想像がつくけどね。四匹も子供を生んですごいじゃないか。頑張ったね」


 と。

 親猫は分かってないだろうけど、僕の自己満足に付き合ってもらった。

 それが僕への報酬でいいや。

 さてと。心配だったことも解決したし、帰ろうかな。とミカエルとかなでを誘って帰ろうとする。すると、


「なー」


 と、親猫が鳴く。

 振り返ると、子猫を一匹連れて寄ってくる。

 いや、帰れよ。

 ついでもう一匹。さらにもう一匹。結局四匹連れてきたけど、四匹目は咥えたまま。

 自分で運ぶけど一匹しか運べないんだよね、って言っているよう。

 しかたなしに僕たちが一匹ずつ抱えると、親猫は満足したように先を歩き出す。

 お前、どこへいくのか分かっているのか?

 親猫は足元まで戻って、僕たちの跡をついてきた。

 結局、親猫子猫合わせて五匹は僕が飼うことになった。



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