結婚のあいさつ回りー8
さて、どうしようかな。僕ら。
「えっと、六日間もどうしようか」
「六日もあったら一度グリュンデールに戻れるのではないか? 皆を連れてくるか?」
「いや、子供達もいるしさ。僕達だけでやろう。というか、僕と、ジェシカたち三人でやろうか」
ジェシカ達は驚いた顔で、
「いやいやいや、やだよ。なんでこんなところで戦闘しないといけないのさ。しかも初陣だよ? 初陣で獣人とかないわー」
「そうだよ。私達に何かあったらどうするのさ」
「そうよ、街に待っている人が……いないわ」
と言って沈む三人。
「よし、決定ということで」
「だからやだって」
「あれ、僕の事守ってくれるって言っていたよね」
「うぐ」
と言って黙る三人。
「僕らさ、何人で戦うって言ってないしさ、猫獣人達と共に戦うことになっているから、大丈夫だって」
「さっき、見たい人は、って言った。助けてくれないかもじゃん」
「さつき、どうしようか。さつきとこはるが出てきたら多分圧倒的じゃない? これは、ドアイアとディーネでも一緒だよね」
「まあな。そうなるだろうな。そういう意味では、やっぱり四人でやったらどうだ?」
ジェシカたちが涙目になる。
「えっと、魔法あり?」
と、ジェシカが聞いてくる。
「ありじゃない? だって、猫王国の王宮を吹っ飛ばしたの知っているよね? だから、対策してくれるんじゃない? 脳筋じゃなきゃ」
「脳筋だったらどうするのよ」
「そんときはそんときだよ。どうする? 一発目は三人でやる?」
「グレイスお願い」
「わかったよ。じゃあ、初手は僕。で、僕を先頭に四人で突っ込む。万が一のために、こはるが待機。みずきはさつきが抱いていて」
と、当日の打ち合わせが終わる。
「じゃあ、これからの話ね」
「え? 後は当日まで自由行動じゃないの?」
とはビビアン。とぼけているな。
「いや、三人にお願いしたいことがある」
「だからやだよ。六日後まで休ませてよ。六日後だって来てほしくないのに」
「みんなにしか頼めないんだ」
涙目で僕を見る三人。人使いが荒いとつぶやいている。
「さっき、兎人族が「姫」って言った。しかも、いやいや従っているような感じだった。ということは、もしかしたらだけど、兎人族の姫が人質になっているかもしれない。それを助けてきて」
「六日後の戦闘もいやなのに、忍び込んで来いと? 姫をさらって来いと? そういうの、王子の役目でしょ? グレイスやりなよ」
「王子じゃないもん」
「じゃあ、グレイスは何しているのさ」
僕は目をそらす。
「あー、やっぱり何もしないんじゃん。帰ったらソフィに言いつけるから。言いつけるとも」
と、半ば発狂しながら訴えてくるジェシカ。
「わかったよ。じゃあ、僕も行くから」
「いーえ、私達は行きませんとも。こっちでおいしいものを食べて英気を養わせていただきます」
「そうか、母上に……」
「ごめんなさい」「それは勘弁して」「でも行きたくない」
と三人。
「さつきー」
と助けを求める。
「わかった。みずきはこのもの達が見てくれるだろうから、こはるを連れていけ」
え? という顔をするこはる。
「こはる、お前はグレイスと一緒に死にたいのだろう? いかないと後悔するかもよ?」
「え、そんなに危なさそう?」
と僕はさつきに聞く。
「いや、まったく」
と、けらけら笑う。
「奴らが王都について、準備をし、出発するまでにおそらく四日。グレイスたちは出発を見届けてから、いや一晩で往復できるなら五日目の夜に潜入。姫とやらを救出したら、こはるに乗って戻ってこれば、十分間に合うだろう」
と言うさつきの見立て。それを聞いたジェシカ。
「それ、私たちじゃ全然間に合わないじゃん。私達が行く意味ある?」
「いや、助け出してくれればそれでいいと思って」
「あとは、簡単に見つかればいいがな」
と、さつきの考察。
「ディーネ、みのりを見ていてもらってもいい? そしたら私がついて行くから。私なら忍び込むのも簡単だと思うよ。今回、猫達連れてきていないし。姫様を連れ出すのは無理かもだけど」
と、ドライアが提案してくれる。
「わかったよ。行っておいで。私だけじゃなくて、ジェシカ達も見ていてくれるだろうから」
「ドライア、ありがとう。じゃあ、三人で忍び込もうか。とりあえず、開戦の前日の夜の出発でいいね、こはる」
「わかった」
ということで打ち合わせ終了。日も暮れてきたので休むことにする。と言っても、宿もとっていないので、連合本部に行きチグルを捕まえ、宿を世話してもらった。
ついでだから、王宮を立て直すように言っておいた。あいつにお金をむしり取られていたせいで、王宮を立て直すことができなかったと。まあ、しっかりと賠償金をもらおうか。
五日後の夜。おそらく多獣国の軍隊はすでに王都を出発しているはず。
逆に僕とドライアはこはるに乗って多獣国の王都に向けて飛び立つ。夜中なので、目立つこともない。だが、一応、高度を上げて向かう。
途中、眼下に軍隊と思われる集団を通りこした。結構いるな。二万くらい? 野営をしているようだ。
僕らはそのまま多獣国王都につく。王都を通り越したところで高度をさげ、地面すれすれを今度は王都に向かう。
近くでこはるから降り、こはるも人型に戻る。僕とこはるはいつもの黒い制服。ドライアは光の玉になっている。夜だと意外に目立つな。
城門は当然のように閉じているので、離れたところまで移動する。
見られないところでドラゴン形態に戻ってもらったこはるに乗って、城壁を飛び越える。飛び越えた瞬間に人型になって隠れる。
さてと。結構広いな。多獣国の獣人は全体的に大きいせいか、道も広ければ建物も少し大きい。この国には夜行性があまりいないっぽいな。人気がない。
僕らは闇夜に隠れて移動する。ドライアが光ってちょっと目立つといけないので、制服の中に隠れてもらう。
裏道を選んで王宮に近づいていく。うーん。夜の見回りとかいないのかな。
しばらくすると、王宮の塀にまでたどり着く。門を見てみるが、誰もいない。もしかして、軍隊と一緒に出てしまったのかな? 罠かな? 塀の中に石を投げこんでみても何の反応もない。
ドライアにお願いして、中を見てきてもらう。が、光っているにもかかわらず、何の反応もない。
これぐらいならと、塀を飛び越える。するとだだっ広い庭にでる。草木はなく、砂地だ。ここまでの道も砂だった。硬い道は嫌いなのだろうか。体重自体が重いから割れるのだろうか。
罠かと思うくらい誰にも会わない。何もいない。王宮までたどり着く。
ここまで砂地なのでなんの障害物もないけど、ちょっとかがんで歩いてきただけで、全く侵入がばれる気配もない。
通気口を見つけたので、ドライアに入って、兎人族の姫を探してもらう。僕らは、王宮の壁に背中を預け、座って待つ。なにか話をしてもいいのかもと思わせるほど、敵の気配がない。実際、さっきから探知魔法を使っているんだけど、引っかかってこない。兎人族たちもいるのかな?
しばらくすると、ドライアが戻ってきた。
「兎人族が地下にとらわれていた。でも、二十人もいる。どれが姫かわからなかった」
「そうなんだ。ありがとう。そこまでの道のりに見張りとかいた?」
「メイドとか調理人とかは部屋で休んでいるようだった。他はいない」
「うん、なんて不用心な。攻め込まれることなんて考えていないのかな。じゃあ、行こうか」
と言って、隠れる理由もないので、玄関から入る。鍵がかかっていたけど、中に入ってもらったドライアに開けてもらう。
「こっち」
と言う光の玉になったドライアの案内で進む。王宮の奥まで行くと、地下に降りる階段があり、それを降りる。
地下三階分くらい降りたところで廊下が伸びる。
「もしかして、ここ?」
と、ドライアに聞くと
「そう」
という返事をもらう。一応、足音を消して歩いていく。
左右に鉄格子があり、人が五人くらいずつ、簡易的なベッドの上で寝ている。うん。不用心だな。四つの檻に五人ずつ。この中に姫はいるのかな。
正面にも檻があった。そこでは一人だけ寝ている。布団の中から耳だけが出ている。兎人族に間違いない。一人ってことは、この兎人族が身分的にえらいのか?
さて、どうやって救い出すか。