結婚のあいさつ回りー7
さつきの背に乗り、飛び立つ。高度を上げていき、今度は南の山脈を超える。
相変わらずの速度で、数時間のうちにローゼンシュタインの領都につく。
人目もはばからず、屋敷の訓練場に降り立った。
屋敷に入り、見つけたメイドに兄上への面会を求める。ちなみに、ここのメイドはすべて一般職に変わっている。兄上の執務室に通される。
「お久しぶりです、兄上」
「よく来たね、グレイス。それと奥さん方と子供達」
と歓迎してくれた。
「グレイスの子供ってことは、僕の甥や姪ってことだよね。かわいいな」
と、目を光らせる。ちょっと引いたので、
「兄上、ちょっと旅の途中なのです、昼食をいただけませんか?」
「わかった、では食堂へ行こう」
といって、兄上から歩き出した。僕達はついて行く。突然の訪問にもかかわらず、食事を出してもらえた。
「これからどこへ行くんだい?」
「はい、猫王国へ行って、そのあとにイングラシアへと」
「結構遠いね。でもさつきさん達に乗っていくなら早いのか」
「そうですね。グリュンデールからここまで一日かかりませんよ」
「それはすごい。グレイスがうらやましいよ。素敵な奥さんをたくさんもらって」
「ええ。私も幸せ者だと、自分で思います」
兄上は、もうあきらめているようだ。
「まあ、いろいろと頑張っておくれ。何年かしたら、この領のことも話し合わないといけないだろうな」
「兄上が結婚すれば済むことでは?」
後ろでメイドがうんうん言っているよ?
「そうでなくても養子をとるという方法も」
「グレイスも聞いているだろう。この地は守るものがある。だから、私たちの血族でないとだめなのだ」
ドラゴン族といい、ローゼンシュタインといい、守るものが多いな。
「まあ、おいおいね」
と言って、この話は終えてしまおう。
食後、僕たちは再び出発する。見送ってくれた兄上にまた来ると言って。そうだ、父上と母上にも兄上が元気だったこと伝えておくよと。
さつきに乗り、また飛び立つ。今度は、南西の大陸に行くため、ローゼンシュタインから海に向かって飛んでいく。
少し高度を上げて海の上を飛んでいく。どこまでも海だ。
「ねえ、もうちょっと水面近くを飛べる?」
と聞くと。
「やめた方がいい。リヴァイアサンが顔を出してくるかもしれないし」
「リヴァイアサン?」
「海のドラゴンだ。奴らは空を飛べない代わりに海の中を自由に泳げる。万が一にも海に引きずり込まれたら、私たちでも助からない。ちなみに、ドラゴン族ではない。我々のワイバーンみたいなものだ」
へー、怖いドラゴンがいたものだな。
「まあ、飛べないからな、空からブレスで一撃だが」
なんとなく、フラグっぽかったけど、結局会うことはなかった。
しばらくすると大陸が見えてくる。大陸の東側には森が広がっている。そして夕方前には猫王国の王都が見えてきた。
王都の門から入ろうかな、と思ったけれど、めんどくさかったので、元王宮のあったところに降り立った。当然、二体ものドラゴンが降り立ったものだから、街中がパニックになった。
しばらくしていると、様々な獣人が走ってきた。いつか見た光景だ。その先頭は虎人族の宰相だった男。国王代理を頼んだよね、確か。
「何者だ!」
と国王代理。
「えらいじゃないか、国王代理自ら先頭に立って見に来るなんて」
「で、誰なんだ、お前は」
「あれ、忘れちゃったのかな? クーデターを起こした……」
「あれは、猫人族の魔導士様だ。あれ以来来ていないが、人間風情が猫王国を落とせるわけがないだろう」
あ、帽子忘れたね。
「あの時は、つけ耳だったからさ」
と言うと、国王代理は、僕の顔、妻たちの顔を眺める。
「ま、まさか」
といって、ひざまずく「ご無礼を」といって。
「いや、いいよいいよ。楽にしてよ。それと」
国王代理の後ろにいる面々を見る。
「各国の代表だっけ? 久しぶりって言っていいのかな? 忘れちゃったけど。仲良くしている?」
と聞くが、みな、答えない。
「仲良くしているんだよね? 連合軍も作って」
と、あらためて国王代理に聞くが、うつむいて答えない。
「仲良くしているぜ? 連合軍とやらも作ったしな」
と、後ろから出てきた象の獣人。
「君は?」
「名乗るならそっちが先じゃないか?」
「こっちは猫王国の王だぞ?」
「猫獣人じゃないのにか」
はっはっはとわらう。
「そうだね、前の時も名乗らなかったか。名乗ってやる。僕は、らいらい研のグレイスだ」
えって顔をさつきとこはるがする。間違ってないよね?
「は? らいらい研? ってなんだ? どこかの国か?」
「まあ、そう思ってくれていい。それくらい強いぞ?」
「それくらいって、わかんねえよ。俺はファン。多獣国の代表をしている。ついでに連合軍の軍団長もな」
「なるほどね。じゃあ、君がこの大陸の平和を担っているんだ」
「そうだぜ、平和だろう? この街もどこもかしこも」
周りの獣人たちが目をそらす。
「そうか、ありがとうと言っておこう」
「そうだな。俺たちのおかげだな。じゃあ、猫王国の国王様、みかじめ料を払ってくれるよな?」
「ん? 連合国へはちゃんと出資しているだろう?」
と、国王代理を見ると頷くが声を発しない。
「いや、足りないな。俺たちの軍事費がな」
「ふーん。割合は?」
「俺達がゼロでお前たちで等分だ」
「なるほど、それで相談に来たのか? 「俺達にも払わせてください」と? いい心がけだな」
「バカを言うな、俺達が飲み食いする飯、酒、そして金を持って来いって言っているんだ」
「なるほど。国王代理」
と、虎人族に声をかける。
「とりあえず名前は?」
「チグルと申します」
「チグル、本当のところはどうなんだ?」
「ファン、様のいう通りです」
「そうか。だが、猫王国の国王として、お前みたいな弱っちいのが軍団長っていうのは納得いかないな。多獣国は、お前みたいのしかいないのか?」
「何を? 金づるだから滅ぼさないでおいてやっているがな、滅ぼしたうえで奴隷にしてやってもいいんだぞ?」
「チグル、開戦の準備にどれくらいかかる?」
はっとした表情をするチグル。
「……三日もあれば。ですが多獣国を相手にですか?」
「あんなのろそうなの相手に、なんで俺達が引かなきゃいかないんだ?」
「おいおい、やろうってのか? ってことは、猫王国が俺らに戦争を仕掛けたってことでいいよな? じゃあ、連合軍の出撃だな?」
「ああ、そうなるな。ついでに、猫王国は連合国からも脱退するからな。今をもって宣言する」
「わかった。じゃあ覚悟しろ。犬人族!」
「悪いが、我らはらいらい研に恩がある。今回は参戦しない。それでもしろというなら、私たちも連合から抜ける」
即断即決のいい代表だな。
「猿人族に鳥人族!」
「われらには戦力がもうない。連合軍にもそう言っているだろう。その代わり金を出しているじゃないか」
「ち、使えないな」
「熊人族は?」
「なんか面白そうだからさ、見させてもらうわ」
「なあ、なんか人望ないな。あ、獣望か」
と突っ込みを入れる。
「ちっ、しかたない、我々と兎人族で相手をしてやる」
「おーおー、一国ではできんのか」
「ちがうな、兎人族の方から協力させてくれっていうんだよ。なあ」
と言って、兎人族の一人の肩を強くつかむ。兎人族は顔をゆがめる。
「なんか、やりたくなさそうだぞ?」
「そんなことないさ、やる気が満ちて震えているんだろう」
すると、陰から別の兎人族が出てきて、
「お願いです、姫……」
バシィという音とともに、兎人族が吹っ飛んで気を失う。
「なんか言おうとしていたが?」
「気のせいだろう。こっちも国に戻って準備があるからな。六日後に国境でどうだ?」
「それでいいぞ」
「おーし。それじゃ、今回の連合国の会合は終わりだ。次に開かれるときは、連合国じゃなくて、多獣帝国だな。あ、そうなったら、こんなちんけなところに来る必要もないか。わーはっは」
と言って、ファンは兎人族とともに去っていった。
さてと。
「おい、熊人族。なんでお前ら参戦しないの?」
「漁夫の利って知っているか」
「なるほどね。わかった」
知っているぞという態度をとると、ふっと言って熊人族は会話を終えた。
「よーし。じゃあ、解散。チグルは見に来たい軍人のみ準備させ、六日後に国境へ集合。他の獣人は見たければ来い」
そういうと、各々大急ぎで去っていった。