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結婚のあいさつ回りー6

「そらを次期族長と認めないものはいるか?」


 誰も返事をしない。


「私の旦那様を認めないものはいるか?」


 同じく誰も返事をしない。なぜか、認められちゃったよ。何もしていないのに。あれ、何頭か目をキラキラさせているドラゴンがいるけど?


「きさま、なにか言うことはあるか?」


 と、翼を失ったドラゴンにさつきが問いかける。


「な、何もない。認める。族長、族長の子を次期族長と認める」


 と言って、人型になり、ひざまずいた。


「ならいい。では、トカゲに戻れ」


 なんてひどいことを。口を開けて固まっているじゃないか。


「戻れと言っている。聞けぬのか?」


 と、にらみつけるさつき。殺気全開だ。前の方でひざまずいている人型ドラゴンたちは震えているのがわかる。


「は、はい」


 と言って、ドラゴン形態の戻る翼のないドラゴン。翼がないことを恥じているのか、小さくなって震えている。


「旦那様、お願いします」


 と、さつき。


「やっちゃってください旦那様」


 と、こはる。えー。そんなこと言ったら、このドラゴン、びびって大泣きしているじゃん。下手したら失禁するよ? それぐらい怖がっているよ? 

 仕方ないな。僕は、そらをさつきに、みずきをこはるに預け、前にでる。そして、震えまくっているドラゴンのもとへ行き、


「頭を下げろ」


 と言う。

 するとドラゴンは震えながら頭を下げ、


「許してください、ごめんなさい、ごめんなさい」


 とつぶやいている。僕がドラゴンの頭に手を乗せ、


「しかたない、いくぞ」


 と言うと、ドラゴンが「ヒッ」と声にならない声を上げる。僕は、


「メガヒール」


 と最上級回復魔法を唱える。

 すると、失われた翼が根元から復活する。

 それを見届けた僕は、ステージに戻り、そらとみずきを受け取る。

 翼を回復されたドラゴンは何が起こったかわからず固まっていたが、事態を理解して人型になり、土下座をした。

 それを見た周りのドラゴン達。全ドラゴンが人である僕に土下座をした。

 えっと、なんだかすごくいたたまれない。そう思っていると、右側にいたドラゴンの一人が土下座をしたまま声を発する。


「大変失礼なことではございますが、私どもは族長およびこはるの旦那様のお名前をいただいておりません。お教えいただくことはできますでしょうか」


 と。それに答えたのはさつき。


「私とこはるの旦那様であり、そらとみずきの父であるこの方のお名前は、グレイス。グレイス・ローゼンシュタイン・グリュンデール。胸に刻めー」

「「「ははー」」」


 うーん。ドラゴン族に土下座させちゃって大丈夫かな。しかも、力を見せたわけじゃないのに。


「二度とこのような無礼を働かないように」


 と、念を押すさつき。正直、本当にいたたまれない。


「さつき、そろそろいいんじゃない?」


 と、こそっという。すると、さつきはうなずいて、


「皆の者、楽にせよ」


 さつきはドラゴン族に命じる。すると、皆、正座をしたまま体を起こし、こちらを向く。正座って、楽な恰好かなぁ。


「皆の者、そらとみずきを連れてくるのが遅れ、申し訳なかった。皆が、会いたがっていたのは知っていたし、我慢もさせていたことは重々承知。すまなかった」


 と、謝罪から入るさつき。


「だが、このように、私も次期族長も健在である。つまり、ドラゴン族の行く末を憂う必要もない。いいな」


 と。すると、さっきのドラゴン族。長老なのかな。


「族長は、いつ、里にお戻りになりますでしょうか。われらは族長が不在で寂しい思いをしております」

「私か? 戻らんぞ? なぜなら、旦那様に寄り添うからな」

「……」


 絶句する長老。


「では、では次期族長は?」

「さあな。そらに任せる。まあ、問題なかろう? この数千年、我らドラゴン族が脅かされるようなことなどなにも起こってはおらんではないか」

「ですが、さつき様やそら様にお仕えしたいものもおりますゆえ」

「不要だ」

「そうは言われても、私どももいつ死ぬか……」


 ん? ドラゴン族は長命のはず。長老だからかな?


「そう簡単に死ぬわけがなかろう。我々は長命だ」


 やっぱり、あれかな。聞いてみる。


「さつき、あれか? もしかして、ドラゴン族は使命とか役割を背負っていて、それを達成すると死……もごもごもご」


 突然こはるが僕の口をふさいだ。その手をどうしても放したくないらしい。

 こはるをみると、涙目で真っ赤な顔をして必死に首をフリフリしている。あれ? どうした? 他のドラゴンには秘密の案件だったかな? 

 それを知らずに突然死したドラゴンもいたのだろうか。僕は小声でこはるに、


「ごめん。族長とか偉い人だけの秘密事項だった? それで亡くなったドラゴンもいたんだね。配慮が足りなかった」


 と謝った。こはるはついにうつむいて震えだしてしまった。


「ほんとにごめん。もしかして、つらいこと思い出しちゃった?」


 と言ってこはるの肩を抱く。


「ん? なんだ? 使命とか役割とか。そんなものないぞ? 我々は病気もしないし、ほぼ寿命で死ぬぞ。だからたいてい三千年くらい生きるかな」


 と、あっけらかんと言うさつき。僕ははっとこはるを見る。すると、こはるは僕の後ろに回り、背中に顔をうずめた。


「ははー、こはる、おまえまだあの病気が治っていなかったのか?」


 え? こはるは病気持ちだったのか? 大丈夫なのか?


「もしかして、もしかしたら、ドラゴン族は使命を果たすと死んでしまうとか言ったのか? あーはっはっは。いつまでもお前はその妄想癖が治らんな」


 と笑い飛ばすさつき。えっと、もしかして、その病気って、あれか。

 僕は振り返ってこはると向き合う。


「こはる? あの時こはるが言っていた使命を果たすと死んでしまうっていうのは、もしかして作り話だったの?」


 と言うと、こはるは僕の胸に顔をうずめて震えている。耳まで真っ赤だ。そっか。僕はこはるをぎゅっと抱きしめ、


「よかった。こはる。長生きしてほしい。寿命を全うするまで長生きしてほしい。僕はそれを望むよ」


 こはるは僕の胸から顔を離し、僕を涙目で見る。すると、僕の首に手を回して抱き着いてきた。


「それにね。僕もずっとずっと中二病だ。こはる、一緒だね」


 と。中二病で伝わったかどうかわからないが。こはるがうんうんしているのはわかった。さつきをみると、やれやれって感じだった。そのとき、「こほん」と長老らしきドラゴン。


「とはいえ、何年も何年も里に族長がいないというのは」

「なら、里を移してしまえばいいだろう」


 え? 里を移す?


「まあ、ワイバーンの巣は移せないから、その世話と、ここの守りに三十人くらい残し、他は、私達の住むところに住んだらいいじゃないか」

「ちょっとまったー」


 と、僕。


「それはグリュンデールに七十頭ものドラゴンが移住してくるということ?」

「正しくは、全員で移住してきて、ここに三十人が交代で赴任するという形だな。何かあっても、この距離なら数時間で来られる」

「さつきとこはるがいるだけでも大変で、時々ドラゴンがやってくるだけで街中が震えあがるのに、それが七十頭? それ、ギルドに怒られるやつだから」

「そんなものはきっと慣れる」


 さつきはドラゴン達の方を向き言う。


「なあ、お前たち、そろそろ生魚に飽きただろう? 生肉に飽きただろう? 街に行けば、うまい飯が毎日食べられるぞ?」

「「「おー」」」


 と盛り上がるドラゴン達。料理を知っているのか?


「ただし、グリュンデールでは働かざる者食うべからずだ。必ず働け」

「「「……」」」


 もしかして、働いたことはないのか?


「ちなみに、さつき様とこはる様は、どのような仕事を?」

「「妻だ」」


 と声を合わせて言う。それ、仕事か。「私もー」といメスドラゴンの声が聞こえたが、無視だ。というか、二人が速攻で殺気を飛ばして黙らせた。


「それで、私どもはどうしたらいいのでしょう」


 と長老。


「残るものと移住するものとわけ、移住するものは、グリュンデールに行け。そこに、ソフィリアという旦那様の第一位の妻がいる。彼女を頼れ」


 え、これ、怒られるやつじゃない? ギルドより怖いぞ? しかし、僕らはこのまま旅に出ることになっている。戻らない。

 一方で、さつきの発言を聞いて、


「え、さつき様やこはる様が第一位ではないと?」


 という声が聞こえてくる。


「何を言っておる。私は十人の妻のうち、第十位だ」

「わらわは第三位な」


 勝手に順番つけて。ほら、ドラゴンたちが驚愕しているじゃん。


「だがな、旦那様は順位など気にしないお方だ。皆平等に愛されておる。心配無用だ」


 それ、フォローになっているの?


「というわけで解散。私たちはしばらく旅に出るが、なるべく早くグリュンデールに戻る。それまでに移住を終えてなじんでおけよ」


 と。なんという無茶ぶり。双方に。京子ちゃん、ごめん。


 ドラゴン達は、わらわらと動き出し、長老を真ん中に話し合いを始めた。おそらく、誰が最初に残るかを相談しているようだ。


「では行くか」


 と、さつき。

 

 おなかがすいてきたので、まずはローゼンシュタインを目指す。生魚は勘弁してほしい。醤油があれば考えてもいいが。


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