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結婚のあいさつ回りー5

 三日後、離発着場から出発する。僕とジェシカがさつき、ベティとビビアンがこはる。前に座る僕とベティが盾持ち。後ろが子供を抱っこする。見送りには妻達が来てくれた。


「気を付けて行ってきてね」


 とは京子ちゃん。


「うん。多分だけど、さつきもこはるもものすごく速いから、そんなに日数がかからないと思うよ」

「ん。わかった。待っているね」


 と、京子ちゃんがぎゅってしてくる。そのあとは、順番に妻達を抱擁していく。なぜかさつきとこはるも並んでいたが。ちなみにマリンバ隊は見ないように背中を向けていた。


「さあ、行こうか」


 と言って、さつきに乗せてもらう。


「ドライア、ディーネ、ついてこられるかい?」


 と聞くと、


「速すぎるならついて行けないかも」


 と言って、ドライア親子は親子ともども光の玉になって僕の背中に乗ってくる。ディーネ親子も。


「これなら重さも感じないでしょう?」


 とはディーネ。高位精霊、こういう時、便利だな。


 さつきはこはるより大きく、頭から足までが十メートルもある。尾まで入れれば二十メートルくらいだろうか。翼を広げるとやはり二十メートルはありそう。その大きな翼を広げ、羽ばたかせると、その大きな体が浮いた。


「よし、行くぞ」


 と、さつき。こはるも浮上する。二人は山脈の方を向き、飛び出した。

 あっという間に妻達が小さな点になり、見えなくなった。

 後ろをうかがうと、ジェシカは顔を青くしていたが、そらは「きゃっきゃ」と手をばたつかせて喜んでいた。

 旋回しつつ上昇していく。低いところを飛んでいくと、人も魔獣も驚くからだ。山脈の山頂が真横に見えるようになったところで、水平に飛んでいく。

 八月とはいえ、山脈の山頂付近は雪に覆われている。それくらい、この高度は高い。だが、エアシールドで冷たい風をよけているのでさほど寒くもない。そらも寒がっている様子はなく、むしろ、自分の母親のかっこよさを喜んでいるように、僕には見えた。

 僕は、ちょっと気になることをさつきに聞く。


「さつき、ちょっと聞いていい?」

「ん? なんだ?」

「気分を害したらごめんだけどさ、この大きな体で空を飛んでいるわけなんだけど、この体を浮かせるほどの力がこの翼にあるとは思えないんだけど? 鳥に比べて、体に対する翼の面積が小さくない?」

「んー、そういわれるとそうかもしれないが、気にしたこともないからな。魔法でもないぞ?」

「わかっているよ。魔法陣が出ていないからね」

「翼が小さいことが不満か?」

「いや、バランスが良くて、すごくかっこいいよ」

「ま、嘘でもいいか」

「ほんとだってば」


 僕は続ける。


「ドラゴン族って不思議だと思ってさ。こうやって空を飛べることもだけど、人型になれることもだし、ブレスだって撃てるじゃん? これ全部、魔法じゃないんだよね? どうやっているのかと思って」

「確かにな。人型には念じたらなれるし、そのままでもいられる。魔法じゃないな」

「そうやって考えると、地上のどの生き物とも違う気がするんだよね」

「まあ、特別には違いないだろうな。なにせ、ドラゴン族だからな」


 言っている意味がわからなかったけど、面白かったので、つい笑ってしまった。


「魔獣は、魔法を撃ったり身体強化をしたりいろいろだけど、野生動物は魔法を使わない。あれ? 人って、魔獣に近いのかな?」

「いや、野生動物が魔法を使うほど知能が高くはないのだろう」

「じゃあ、魔獣が使うのは?」

「さあ、本能とかじゃないのか? 先天的に刷り込まれているとか?」

「人は教えてもらわないと使えないよね。そういう意味では野生動物に近いのか。野生動物が教えたら使えるならだけど。で、話を戻すけど、さつきもこはるもブレスを撃つけど魔法じゃない。でも、二人のブレスは多分、炎系だよね? 熱いし」

「そうだ」

「どうなっているの?」

「わからん。解剖したいとかいうなよ?」

「しないよ。さつきはさつき、こはるはこはるなんだから」

「なんだそれは」


 と、さつきは首を傾げた。

 僕は、自由に体を変えられる存在を知っている。魔法のような事象も自由自在に引き起こす存在を知っている。だけど、それとドラゴン族は多分違いすぎる。いや、それは僕がそう思いたいだけか。どちらかというと、似ている。そんな嫌なもやもや感を振り払う。


「うわー」


 絶景が眼下に広がる。ちょうど山脈を超えるところだ。

 山頂部を白くした山脈が左右に伸びている。それに、前方の遠くにまた、同じような山脈が壁を作っている。

 これら山脈に囲まれた広大な森林。これも盆地というのかな?

 向かって右側、西の遠くには大きな湖が光っている。森林の真ん中には川が流れており、湖へとつながっている。たぶん。遠くて見えないけどそっち方向に流れている。

 森林は一様に深い緑で、まるで色違いの海のよう。向かいの山脈まで続いており、高度を落としていくと、波のように揺れているのがわかる。エアシールドのおかげで気づいていないけど、風が強いのかもしれないな。


 森林の真ん中あたり、川のほとりに開けた場所があり、その上空を旋回しながら高度を下げていく。そこには百体近いドラゴンがこちらを見上げていた。ここがドラゴン族の里か。


「ここが里なの?」


 と聞くと、


「いや、この森林全体が里だな。あちこちにそれぞれテリトリーをもって暮らしている。この開けた場所は、集会場だ」

「にしても、ドラゴン族、そろっているね。事前に連絡したわけでもないのに」

「忘れたのか? 以前こはるが私に念話を送ってきたのを。事前に集めることぐらいできるぞ」


 と。すごいな。各地に派遣したら電話がわりになりそうだ。これも魔法じゃないんだろうな。


 さつきとこはるはドラゴン族が集まっている真ん中に降り立つ。そして、僕らを下すと、人型に変わった。さつきとこはるが川の上流側へ歩いていくので、僕らもついて行く。

 この間、ドラゴン族はドラゴン形態を保ち、黙ったままだ。

 集会場と呼ばれるこの場所の上流側の端に移動すると、そこには大きなステージがあった。ステージであっているだろうか。ドラゴン形態でも立てるような広さだ。そこに、さつきとこはるは上がり、ドラゴン族の方を向く。

 さつきが右側、こはるが左側。僕はジェシカとビビアンから子供たちを受け取り、右腕にそら、左腕にみずきを抱く。両手に子供だ。まだ一歳だし軽いものだ。そして、二人の間に立つ。ドライアとディーネ、ジェシカ達はその後ろに並ぶ。


 さつきが一歩前へ出ると、ザザザッという音とともに、向かって右側のドラゴンが人型に変わり、膝をつく。こはるが前に出たら左側が同じようにするのかと思いきやそうではなかった。さつきが声を上げる。


「族長ならびに次期族長を前に図が高いのではないか?」


 と左側のいまだドラゴン形態で見下ろしてくるドラゴンたちに告げる。


「われらはドラゴン族。さつき、お前がわれらより強いことから族長であることは認める。だが、その子供が次期族長というのは早計過ぎないか?」

「なるほど、そらが次期族長であることに納得いかんか」

「まだ一歳だろう? 今後、どうなるかわからないんじゃないか。しかもなにか? 父親はそこにいる人間だと? ぷーくすくす。そんなハーフが強いわけないだろう」


 まあ、人間ですが、何か。何なら魔族って言われたこともありますけど? 僕は様子を見守る。


「私の旦那様を愚弄するか? 私の旦那様は最高のお方だぞ!」


 やめて、ここでタイマンを求められても、勝てる気しない。


「はっ、人間風情がどうしたって? そんな弱小ハーフを次期族長とは片腹痛いわ」


 なんとなくわかってきたけど、右側が族長派、左側がアンチか。


「ちょっと前に出ろ」


 と強気のさつき。


「なんだやるのか?」


 と強気ドラゴンが前に出てくる。


「やるのはそらだ」


 え?


「そら!」


 といって、出てきたドラゴンを指さすさつき。口を開けるそら。ちょっとまって! ブレスは魔法じゃないから反動が来る。

 身体強化でこらえる体制をとる。


 バシュン!


 と、そらの口から細いブレスが、高速で撃ちだされる。とっさに強気ドラゴンがよけたものの、その左の翼が吹き飛ぶ。


「ぎゃぁあー」


 と翼を吹き飛ばされたドラゴン。


「きさまー」


 と言っているが、反撃はゆるされない。


「お前、わらわの大切な旦那様を馬鹿にしたな? みずき!」


 こはるまでそんなことを言う。


 バシュン!


 今度はみずきが右の翼を吹き飛ばす。


「ぐぁあああ」


 と、うめくドラゴン。


「「翼のないドラゴンはただのトカゲだ」」


 と、さつきとこはる。なんて恐ろしいことを。

 その瞬間、翼を失ったドラゴン以外の全ドラゴンが人型になってひざまずいた。


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