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結婚のあいさつ回りー2

 屋敷に戻って、メイドを捕まえてジェシカたちのシフトを聞く。今日は、午後から訓練場にいるとのことだった。お礼をいって、僕は屋敷を出て訓練場に向かう。

 が、屋敷を出ようとした瞬間に肩に手を置かれる。僕はゆっくりと振り返ると、そこには笑顔の京子ちゃんがいた。


「や、やあソフィ、ソフィも散歩? 天気いいしね。しょうも一緒に?」

「しょうはメイドさんが寝かしつけてくれたわ。でね、さっきはお母様と、な、に、を、話していたのかしら? 顔が赤かったみたいだけど?」

「あ、足湯のせいでちょっとのぼせちゃったかなー」


 と視線を逸らす。


「わたし、夫で義理の父ってあんまり考えたくないんだけど?」


 と。聞いていたじゃん。


「いやいや、母上に今度のさつき達とのあいさつ回りに、子供の世話をしてくれるメイドを貸してほしいっていう話をね」


 と、説明をする。


「それでジェシカたち?」

「うん。この前落ち込んでいたし、気晴らしになるかなと」

「なるといいわね。でも、妻をこれ以上増やすのは……」


 と、ほほに手を当てて視線を下げ、ため息をつく京子ちゃん。


「そんなわけないでしょう。こんなに個性的な面々と結婚出来て、ほかに気が行くとでも? ほら、ツンデレとか、お転婆とか、マイペースとか、お姉さんとかお嬢様とか、マイペースとか、マイペース……」


 マイペースな妻が多いな。高位精霊たちは、足湯に浸かってぼーっとしていることが多いし、エルフは仕事中心だ。


「そうよねー」


 って、納得したんかい。


「じゃあ、ジェシカたちのところまで、私もついて行っていい?」

「もちろん」


 と答え、二人で歩き出す。今日は外に出る用事もないのか、京子ちゃんもドレスを着ている。外に出る用事がないからドレスっていうのもおかしな言い方だな。貴族様だよね。

 ぼくららいらい研は外に出るときは、その制服を着ることが多い。中に仕込みも入っているし、安心安全なのだ。

 二人で並んでバラの庭園を歩いていく。僕の好みなのだが、一区画には一種類一色しか植えない。よって、区画がたくさんできる。屋敷の二階からだとその全容が眺められるのがいい。

 門に向かって歩いていくと、少し離れたところにあるガゼボでお茶をしているリリィとライラを発見。手を振ると、振り返してくれた。天気もいいし、外でのお茶も気持ちいいよね。と思ったものの、今は要件があるので、足を進める。

 すると、後ろからズダダダダーと音を立てて、スカートを手繰り寄せてダッシュしてくるリリィがいる。


「お転婆きたよ」


 とボソッと京子ちゃん。僕は苦笑い。後ろから歩いてくる姫様を見習ってほしい。


「ねーグレイス、どこ行くの?」


 とお転婆。


「今度のあいさつ回りに……」


 と同じ説明をする。


「じゃあ、ついてっていい?」


 と聞くので、もちろん了承する。ライラも同じ。


「なあリリィ、ライラに姫様の所作を教えてもらえよ」

「えー、私みたいの嫌い? 元気だけが取り柄なんだけど」

「いや、嫌いじゃないさ。元気が一番」

「でっしょー。健康的でいいよね」


 って、にやっとするリリィに何も言えなくなる。


「うちのムードメーカーだし、必要なキャラだよな」


 というと、よしっとリリィはこぶしを握り締めた。

 ライラがもじもじしているので、フォローを入れておく。


「ライラはいつも姫様然としていて、そばにいてくれるだけで心が落ち着くよ。リリィだと、いつ何をやらかすか心配で」


 ライラはケルベロスを召喚したりびっくりすることはあるけど、基本お姫様だし、うちのメンバーの中で一番この世界の貴族社会に精通している。そういうところも頼もしい。

 京子ちゃんもずっと貴族として育ってきているのだが、根が僕と一緒で庶民だから。


「うれしいです」


 はライラ。


「また落としたー」


 は、リリィ。そんな感じでにぎやかに話をしながら訓練場まで歩いて行った。子供達はみんなお昼寝タイムなんだな。




 訓練場につくと、対人戦の実践訓練をしているジェシカたちを見つける。スリーマンセルで対戦している相手はかなでだ。かなでは相変わらず熱心だな。

 かなでは鎌、三人は薙刀だ。どちらも長物なので、なかなか間合いが近づかない。

 ジェシカたちがかなでを囲むように陣形を変える。それでも、横方向に振り回す鎌に距離をつめられないでいる。

 硬直状態が続くが、かなでがベティに向かって鎌をぶん投げて牽制する。その反動を使ってジェシカの懐に飛び込むとみぞおちに掌底を一撃。これでジェシカが離脱。

 次いでビビアンと向き合う。その後ろにベティが構える。囲んでもダメだと考えたんだろう。こうなると武器を投げてしまったかなでが不利なように見えるが、残念なことにスピードが違う。

 突き出されるビビアンの薙刀をくぐり、上にはねのける。わきからベティが薙刀を突き出してくるが、ビビアンの逆方向へ踏み込んで、掌底を脇腹にあてる。

 すると、残るはベティただ一人。こうなったらベティは降参だ。

 パチパチパチと拍手を送りながらかなでに近づく。途中かなでの鎌を拾って。あれ? また重くなったかな、この鎌。

 かなでの方から僕の方に駆けよってきて、僕の前に立つ。かなでの立ち位置はいつも、他の妻より近い。なので、かなでは僕を見上げるような形になる。完全にいいこいいこして、もしくはぎゅっとして、っていう距離だ。

 僕はかなでのストレートの黒髪を何度も撫でおろしてあげる。そうするとかなではたいてい笑みを浮かべてなすがままにされるか、わざと僕の胸に顔を埋めるかのどっちかだ。今日は人目もあるし前者のようだ。


「かなではいつも一生懸命訓練していてすごいね」


 っていう。ちょっと上からな感じがして自分でもやだなと思ったけど、


「私は、グレイス、様のそばにいること、守ることが役割だから……」

「ありがとう。でもそれだけじゃないよ。僕がそばにいてほしいって思っているんだよ」


 と言うと、顔を赤くしたかなでは、僕にぎゅってしてきた。なでなでしてあげる。本当に誰に倣ったわけでもないだろうに、この独自の距離感は本当にかわいい。

 が、ちらちらと不穏な空気が流れてくる。妻たちからではなく、ジェシカたちから。「ちっ、リア充め」って声が聞こえてくる。どこで覚えてくるんだよ、そんな言葉。僕は苦笑いしながらジェシカたちにお願い事をする。


「今度、さつき達、ドライア達とあいさつ回りに行くんだけど、護衛と子供の世話とかいろいろでついてきてほしいんだけど?」

「はぁ? なんで私たちがラブラブ夫婦を見せつけられるために同行しないといけないのさ」


 やばい、かなりやさぐれている。


「そうやってかなでをだっこして見せつけてくるし」

「どうせ私達なんて、私達なんて……」


 えー。なんかいい説得材料ないかな?


「イングラシアって知っている?」

「知らないわよ」

「なにそれ?」

「おいしいの?」


 と。ダメだ、これは。説得できそうにない。

 ちらっと、京子ちゃんに目配せをして協力を求める。だけど、両方の掌を肩の横で上に向けて、首を振っているだけ。


「わかった。勝負をしよう。僕が勝ったらついてきて、負けたら僕はあきらめる」

「ちょっと、それじゃ私たちになんのメリットもないじゃない」

「ないけど?」


 と開き直る。


「でもハンデ次第ではいいわ。このリア充たちに一泡吹かせないと」

「ハンデ?」

「私達は三人でもかなでに勝てない。あなたに勝てるわけないでしょ? だから」

「僕はこの直径一メートルの範囲から出ない。出たら負け。攻撃もしない。よけるけど。十分耐えたら僕の勝ちで」

「猫達もなにも使わないでよ」

「もちろん」


 と言って円を描いて中に入る。


「それじゃ、どうぞ」


 と言って開始を告げる。すると三人は、僕の周りに立って、手をつなぎ、そして魔力を込め始める。

 元学生とはいえ現黒薔薇。魔力は人並み以上。それが三人。

 三人の足元に魔法陣が浮かぶ。これは僕とたぶん京子ちゃん、かなでにしか見えていない。が、見えているからこそやばいことがわかる。

 それぞれの足元の魔法陣が少しずつ回転し始めると同時に、僕を中心とした魔法陣が浮かび上がり、そこへ魔力が集まってくる。これは、全魔力を使った自爆魔法。


「ごめん、ごめんなさい。負けました。すみません。リア充でごめんなさい」


 と速攻で謝って魔法を止めてもらう。


「ふ、わかればいいのよ」


 とジェシカ。おそらく勝てないと踏んだのだろう。としたら、負けないための引き分け。腹が座っていると恐ろしい。

 京子ちゃん達が近づいてくる。


「なんの魔法を使ってグレイス君を追い込んだの?」


 と聞くのは魔法陣を見ていた京子ちゃん。


「なになに? なんかグレイスの弱みを握っているの?」


 は、見えていないリリィ。お前な。


「いや、私たちの最後の手段を使おうとしただけよ」


 と。ジェシカ。


「それは……」


 と、リリィが聞こうとするが、かぶせるように


「教えられないわ」


 と答えた。まあ、お願いだから教えないで。っていうか、よくそんな魔法を覚えたよね。誰かに教わった? そんな恐ろしい魔法を。それとも作った?


「まあ、私達もいつまでもいじいじしていられないわ。だからいいわよ。あなた達の旦那様をちゃんと守ってきてあげるから」

「まかせて」

「おいしいものたべてくるね」


 と、三人とも同行を了承してくれた。


「まあ、グレイスに一泡吹かせることができたし、よかったよかった」


 と。む。


「ほんとねー、なに、あの焦った顔、ちょーうける」

「ぷーくすくす」


 おまえら、本当にそれ、どこで覚えるんだ?


「ありがとう、三人とも。じゃあ何かあったら前衛よろしく」


 と、嫌味を込めて言っておく。


「さつきさんもこはるもいてなんで前衛なのよ」

「後衛だってドライアさんとディーネさんがいるじゃん」

「私たちいらない子じゃん」

「いやいやお願いだから、必要だから、頼りにしているから」


 危うく最初に戻るところだった。

 三人の了承を得たところで解散。かなではまだ訓練していくとのこと。京子ちゃん達はもう少しジェシカたちと話をするとのことで、僕は一人、工房に向かう。


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