グリュンデールー9
第一コートはローゼンシュタインのサーブから。黒薔薇は前かがみに構える。当然、京子ちゃんの期待通りのことが起こる。
男性陣の視線が一点を見つめ、ローゼンシュタインの選手も前かがみに構える。これ、絶対に反則だよ。かるた取りで同じことをする女の子いたらどうするんだよ。
さて、男性陣のサーブ。様子見か緩いサーブを打ち込んでくる。黒薔薇に対して、それはダメだ。実際にやすやすとレシーブされ、セッターがトスを上げる。ライト側から思いっきりスパイクを撃ちこむ黒薔薇。しかもちゃんとレフトのフェイント付きで。容赦ない。相手選手の手前に落とす、というより叩き込む。わざわざそれを狙っている。狙いはその跳ね返り。跳ね返ったボールは前かがみレシーバーの……に当たる。一人退場。
これ、第二コートでも同じことが起こった。黒薔薇、マジだな。まあ、この手は最初しか使えないだろうけど。男性陣は顔を青くするが、それも一瞬。さすがは騎士団。気持ちの切り替えが早い。そこからは完全にガチの試合が進められた。男性陣はその身長とパワーを活用した攻撃を。それに対して、黒薔薇はフェイントを多用した攻撃を。
第三コートは盛り上がらないかと思ったが、審判の予備員が「ナイスサーブ!」「ナイスレシーブ」とか、「キャーキャー」「ワーワー」と声援を送っているので、どちらも張り切っている。予備員もこの後の懇親会があるので、今から気に入った選手の名前を呼んでいる子もいる。
審判をしている黒薔薇からは冷たい目で見られているが、自分たちが予備員に回ったら同じことをやるんだろう。
砂の上での三十分。しかも、作戦タイムなし。スピード重視。結構辛そうだな。しかも一チーム五試合。かなり激しい戦いになった。
あ、そういえば、マリンバ隊は出ているのか?と見回すと、いた。三人とも旗を振っていた。審判か。黒薔薇の壁は厚かったか。だが、懇親会に出られる権利は得たわけだから頑張れ。
結局は、絶対に負けられない黒薔薇Aが優勝。準優勝を黒薔薇B。普段から練習していたローゼンシュタインAが三位となった。
あ、優勝賞品用意するのを忘れたわ。まあいいや。それが目的じゃない。
試合が終わった後は、選手たちには体育館を出てもらう。近くに設置した巨大銭湯、当然混浴なし、に行って汗を流してもらう。男性女性それぞれの風呂は四十人が十分には入れる大きさだ。
ちなみに、完全に覗き防止にした。説明時になぜか黒薔薇から舌打ちが聞こえた。「お風呂の温度を測りに行く人が必要だと思うんですけど」という声も無視した。ちゃんと魔道具で一定の温度の水が出るようになっている。まったく。
その間に体育館の床を張る。大工さんたち大忙しだ。そして、テーブルや料理を運び込む。
ステージの上には楽器が並べられていく。テーブルは左右に。中央はダンスでもしてもらったら盛り上がるのではないだろうか。給仕はアンとミレーヌを中心に既婚者メンバーをそろえた。それでも足りなさそうなので、グリュンデールの既婚者メイドも借りた。
とにかく給仕は既婚者にやらせた。今回出られなかった独身黒薔薇から不満の声が上がったが、収拾がつかなくなりそうなので、また今度同じような企画をするからとあきらめてもらった。
準備が終わったので、今回の選手団と審判団に入ってもらう。総勢八十名。多いな。これからは懇親会なので、気楽にやってもらおうと思う。
「ビーチバレー大会、お疲れさまでした。とてもいい汗をかけたのではないでしょうか。これからは、皆さんで食事と会話を楽しんでください。えらい人たちは退場させていますので、気楽にやってください。なお、キャプテン命令とか権力を振りかざした人は退場してもらいます。無礼講でお願いします。料理は全部立食です。テーブルが左右に5つずつあります。この後、くじを引いてその場所からスタートしてください。後は、会話を楽しむも、ダンスを楽しむもありです。時間は、お酒を出すので二時間。終わったら速やかにそれぞれの宿舎に帰ってもらうのでこの二時間のうちに連絡先交換とか頑張ってくださいね。じゃあ、黒薔薇からくじを引いて」
とメイドが箱をもって回る。各テーブルの奇数番号を当てている。よって、それぞれに四人ずつが割り当てられる。
「次に男性陣、くじを引いてください」
右テーブルにローゼンシュタイン、左テーブルにグリュンデールがそれぞれ割り当てられる。
今日は男性同士の交流が目的ではない。一テーブルに八人ずつ、男女交互に立つ。
「それじゃ、始めますね。飲み物はいきわたっていますかー。それじゃ、乾杯!」
「「「乾杯」」」
と懇親会が開始された。それと同時に音楽が流れる。ゆったりとした音楽をお願いしてある。しばらくはダンスにならないだろうから、前半はムード重視で。
ちなみに僕と妻たちは一番後ろにテーブルを用意してもらっている。椅子付きで。何かあっても対処できるように。ま、喧嘩が起こっても、僕らなら止められる。体育館ごとなくなるかもしれないけどね。子供たちは、屋敷で他の黒薔薇に見てもらっている。
ステージを降りて、自分たちのテーブルに向かおうとしたが、雰囲気がおかしいのに気付く。それは京子ちゃんも気づいたようだ。
「意外と盛り上がらないね」
と京子ちゃん。
「うん。なんだろう。みんなしてもじもじして思春期か。リリィのような積極性が欲しいな」
「なんで私? 私だって、グレイスが、グレイスが……」
リリィが顔を赤くする。
「ごめんごめん。ここはライラだったか」
ライラは少しほほを膨らませたが、みんなで笑った。しかし、騎士団たちはそれどころではないようだ。仕方ない。みんなに先にテーブルへ行ってもらう。僕はステージに戻って声を出す。
「はーい。黒薔薇の皆さん。テーブルに向かって右を見てください。見ましたか。はい。自己紹介をしてください」
と。きょとんとした黒薔薇だったが、何とか自己紹介をする。
「はい、自己紹介された人は自己紹介してくださいね。ついでに男性陣は得意なことを一つ教えてあげてください」
と男性陣にも自己紹介をさせる。
「じゃあ、黒薔薇、今度は左を向いて」
って同じことをさせる。これで話どうかな? 話は弾むようになったかな。うん。いまいち。
「じゃあ、男性陣、恥ずかしがっているようだから、まずは手に持っているお酒を一口以上飲んでください」
とお酒を飲ませる。一気飲みはいけない。
「じゃあ、黒薔薇の皆さん。目の前のプチトマトを一つつまんでへたを取ってください。で、それを右側の男性にあーんってしてください」
と言った瞬間、あちこちから、ボツと音がするかのように黒薔薇の顔が赤くなった。当然、それを見た男性陣も。ふふ。おもしろい。
「はい、あーん」
というと、みんな
「「「あーん」」」
って真っ赤な顔をしてやっている。さて、ジェシカたちは? あーいたいた。やっぱり顔を赤くしている。
「じゃあ、もう一回行きますよ。男性陣はお酒を一口以上飲んでください。飲まなきゃ恥ずかしいですよ。はい、黒薔薇の皆さん同じことしますよ。へたをとりましたかー。じゃあ、逆を向いて。せーの、あーん」
よしよし。真っ赤な顔をしながら、話が進みそうだ。ただ、「あの人ひどいな」とネタにされているのがちらほら聞こえる。まあいい。話が進むならネタにでも悪役にでもなってやろう。遠くの妻たちを見ると、京子ちゃんがおおきなため息をついたのが見えた。
僕は妻たちのもとへ行き、見守りつつ食事をとることにする。
「グレイス君、まったくわるふざけして」
と京子ちゃん。
「でもさ、会話が弾まなかったじゃん、あのままじゃ」
「だからって、いきなりあんな恥ずかしいことを」
「でもでも、いきなりだったからいいんじゃないの? 二時間しかないんだよ?」
「まあそうだけどね。ところで、ジェシカたちは?」
「見てなかったの? ジェシカはあそこ。ほら、頑張っているよ。ビビアンも頑張っているね。ベティはと」
探すとなかなか見つからない。テーブルの向こうかな? あ、いたいた。頭をぽんぽんされている。騎士団は全体的に背が高い。まるで子供としてあやされているみたいだ。でも、年齢はあんまりかわらないんじゃないのかな。ま、暖かく見守ろう。あとで、騎士団の背の低そうな人のところに連れてってもいいし。いいし……。いないな。