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グリュンデールー8

 春になった。僕にはやることがあった、そういえば、という感じで。


 ビーチバレー大会の会場づくり。

 とはいえ、こんな内陸に砂浜? というか、巨大な砂場だな。それを作らないといけない。砂をどこから持ってくるか。しかも、春とはいえ、寒いものは寒い。なので、大工さんにお願いして、まずは床のない体育館を建ててもらう。

 屋根はなるべくガラスを使ってもらった。光を取り入れたかったし。

 床はいいや。懇親会も砂の上でやろうか。懇親会でキザクラに音楽要員を頼んだし、ステージも作ってもらう。

 暖房はどうするかな。ビーチバレー大会だから、暑いくらいの方がいいだろうな。などなど考えているが、冬から作り始めておけばよかった。完全に突貫工事。一か月で体育館とか無理だよ。

 砂は結局、近くを流れる川から持ってきた。それを乾かして、体育館の中に敷いていく。

 暖房はあきらめて、魔法具で温めた空気を流し込めるようにした。試運転したけど、それなりに暖かくなった。短パンTシャツでいけるだろう。

 ごめんね大工さん。ボーナス弾むから。


 五月に入ったところでビーチバレー大会が計画通り開催された。

 全六チームの総当たり戦で十五試合。体育館内に作ったコートは三つ。常に試合が行われる。

 どれくらい時間がかかるかわからなかったので、三十分一本勝負で、点を取れるだけとるというシステムに。遅延行為は反則。作戦タイムもなし。最終的には勝敗の数で優勝を決めるが、同点の場合は獲得点数と失点の差を積算して決めることとした。

 一チーム十人だが、コートに出られるのは六人。交代は、その試合に関しては、けが等の事情がなければなし。十人全員が必ず二試合以上に出ること。特に、騎士団の方は、黒薔薇二チームとの対戦のどちらかに必ず出ること。これは交流が目的だから。

 それから、審判は黒薔薇のほかのメンバーが務めることになった。試合に出られない黒薔薇からの要望。まあ、そうしないと、騎士団同士の試合が盛り上がらないかもしれないしね。あくまでも見てもらう人がいてのお見合い、いや、試合だ。

 それに懇親会の二十対四十ではバランスが悪い。審判要因も黒薔薇から二十人用意して、懇親会に出ていいことにした。

 それから、ユニフォームにも制限をかけた。水着が基本だが、上にタンクトップかTシャツを着ること。背中には名前を入れること。これは懇親会で声をかけやすいように。

 下は、サーフパンツなどの緩いものを義務付けようとしたが、双方から不満が出てあきらめた。見たいのか? 見せたいのか? 誰が得するんだ? 実は、上半身もTシャツ限定にしたかったのに、騎士団から「筋肉が見せられない」という不満からタンクトップで許したところがある。だが、ネーム入りは納得してくれた。直接肌に書けばいい、という意見は無視した。




 ビーチバレー大会が始まる。

 開会式。全六チームが騎士団の団服を着て整列している。さすがに騎士団だけあって、凛としてかっこいい。ローゼンシュタイン騎士団は白、グリュンデールは水色を基調としている。黒薔薇は普段は白だが今日は黒を基調としたノースリーブコートだ。


「大会委員長のグレイス・ローゼンシュタイン・グリュンデールより一言挨拶があります」

「さわやかな汗を期待します」


 と一言。


「来賓のリーゼロッテ・ローゼンシュタイン様からご挨拶をいただきます」

「獲物は自分で狩れ。黒薔薇は負けたらわかってんだろうな。以上」

「「「サーイエッサー」」」


 と黒薔薇。こわっ。いや、交流が目的だからね!? というか、誰が教えた?


「……来賓のパブロ・グリュンデール様よりご挨拶をいただきます」

「本日はお日柄もよく、絶好のビーチバレー大会となりましたことお喜び申し上げます。さて……中略……「パブロ様、ありがとうございました」「えっ?」


 司会も大変だな。


「それでは大会を始めます」


 と僕が宣言して開始される。


第一コート、ローゼンシュタインA対黒薔薇A

第二コート、グリュンデールA対黒薔薇B

第三コート、ローゼンシュタインB対グリュンデールB


 それぞれ、コートに散っていき、準備を始める。第一コート、ローゼンシュタインは騎士服を脱いで練習を始める。Tシャツはぴちぴち。多分、力を入れたら破れるやつだ。しかも下は競泳パンツのようなきわどいやつ。

 ボールをもって練習している選手もいれば筋肉のチェックをしている選手もいる。特に後者の視線は黒薔薇をちらちら見ている。

 一方の黒薔薇は、団服を着たまま練習をしている。試合が始まるまで団服を脱がないのかな?


 第二コートも同じ感じ。グリュンデールもぴちぴちのTシャツに競泳パンツ。だから、誰得?

 第三コートは、どちらも男性チーム。なぜかコートをはさんで筋肉を見せ合っている。視線は審判をしている黒薔薇。審判はTシャツに長めの短パンだ。両騎士団では、肌の色はグリュンデールよりローゼンシュタインの方が黒い。普段からビーチで訓練しているせいかな。


 試合開始の時間になる。それを司会が知らせる。すると、ようやくベンチ前で打ち合わせをしていた黒薔薇がコートを脱いだ。一斉に。僕は絶句する。

 コートの下に水着を着ているというなんとも言えないインパクト。これ、前世の世界ならアウトだろう。事実、それを見ていた騎士団選手が唖然としている。

 が、そんなことはどうでもいい。なんで、なんでスク水? 僕は開いた口がふさがらずに固まってしまった。しかも前後に名前の書かれた布が貼ってある。これを知っている人間は一人しかいない。

 僕はかたまった首をギギギと京子ちゃんに向ける。黒薔薇選手を指さして、


「ソフィ、あれ、何?」


 と聞くと、京子ちゃんは顔を赤らめて申し訳なさそうな顔をして、


「……ごめん。前に黒薔薇の隊長から、男性にインパクトを与えられる水着を教えてほしいって言われて、グレイス君の好みしか思いつかなくて……しかも前後に名前を貼るって言ったら」

今度は僕が赤くなる。


「いやいや、好きだけど、好きだけどさ。グッジョブだけどさ、あれ、大の大人が着ていいものじゃないでしょう!?」

「でもね、露出も少ないし、いいかなって。ワンピースをと思ったんだけど、説明したらああなった」


 まあ、ビキニとかハイレグとか着られるよりはよかったのか? この世界でスク水を知っている人もいないだろうし。だがしかし、


「ピーピーピー」


 と笛を吹いて止める。


「はーい、黒薔薇集合」


 と僕は黒薔薇を呼ぶ。何が起こったのかと黒薔薇二十人が集まってくる。京子ちゃんが「近くで見たかっただけじゃないの?」的な視線を送ってくるが、見ないふりをする。


「大会のルールでTシャツかタンクトップを着ることになっています。着てください」

「あの、グレイス様、タンクトップみたいなものでは? これ」


 とキャプテン。


「いやいや、それは水着だから」


 と押す。


「仕方ありませんね。そういわれると思って、というか、そう助言をいただいて用意しています。皆、仕方ないが着るぞ」


 とわらわら戻っていった。で、Tシャツを取り出して着る。普通のTシャツだった。白の。背中に名前が入っている。だが、気づいた。


「ねえソフィ、あのTシャツ、首の穴が大きくない? 鎖骨部分までしっかり見えるけど」


 と聞く。


「だって、グレイス君好きじゃん、ああいう感じの首元広いTシャツ。ちらちら見るじゃん。キャプテンに聞かれたんだもん。男性にインパクトを与えられるTシャツをって」


 と、顔を赤らめて必死の言い訳をする京子ちゃん。というか、僕の性癖をばらされて僕の方が恥ずかしい。この世界の人に通じなくてよかった。これから通じることになるだろうけど。


「あーいう格好が好きなんだね、グレイス。私のも作ってもらえるかな?」

「露出が少ないのがすきなのかなー」


 ってリリィとライラがつぶやきあっている。ほら、まねする人が出てくるからやめて。


 ようやく試合が始まる。遅らせてしまってごめん。


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