グリュンデールー5
部屋に戻って京子ちゃんに聞いてみる。
「野生動物の肉って食べたことなかったっけ」
「そういわれるとないよね。小さいし、狩りづらいし、冒険者には人気ないだろうね」
「確かに面白そうだけどね。でも、山に入るのは嫌だな」
「陵君が行く必要ないじゃん? 狩ってきてもらえばいいんでしょ?」
「そうだよね。母上に言っておこう。おいしい肉が食べたいって」
と、話をしていると、みんなが部屋に戻ってくるので、寝る準備をした。
「ラナとルナ、ちょっと明日から工房にこもるから。時間があったらよろしく」
「「よろこんでー」」
と。どこで覚えた?
部屋を暗くして寝る。のだが、実際は同時に寝られるわけではない。それぞれ行動することになる。子供を寝かしつけられたら自分も寝られるから。たいてい、精霊とドラゴン族は早い。
そのあとはバラバラ。疲れたらメイドに任せることもある。そうやって皆で眠りにつく。
翌日、ラナとルナと一緒に工房へ行く。危ないので、子供たちはメイドに任せる。工房にはガンツとタンツがいるはず。
「ちょっと新しい魔法銃を作りたいから手伝ってほしい」
「新しいとは? この前、雷撃を作っていたよな。あれじゃなくて?」
「それもだけどね、少し長くて射程距離を伸ばしたものを作りたいんだけど」
「射程? 今のでも十分では?」
「うん、目的が野生動物なんだよね。小さいしさ、警戒心強いしさ、遠くから狙いたいと思ってね」
「どれくらい遠くから狙うんで?」
「最低でも五百メートル、いや、一キロ先から狙えたら最高だけど?」
「「……」」
「なあ旦那、一キロ先の動物を見ることができるか?」
「裸眼じゃ無理だよ? だからスコープを作るから。あ、ファレンも呼んできて」
と言うと、ラナが駆けていく。しばらくするとファレンもやってくる。
僕は、ざっくりとした設計図を書いていく。
と言っても、ライフルには詳しくないので、こんな感じ、と。銃床とグリップ、引き金と銃身。左手で支えるところ、名前はわからないけど。それとスコープ。後は、作りながら考えよう。
「これは、左手と肩で支えて右手で撃つ、狙いはこの上のスコープでつける。ってことでいいのか?」
さすがガンツ。理解が早い。
「そうそう。そんな感じ。持ちやすいように、肩にあてるところとか、左手で持つところとかは木で作ろうか。銃身は金属で。スコープはファレン、お願いね」
と、役割を振っていく。
「僕は内蔵する魔法陣を作るから、それを入れるところ、あ、登録カードを入れるところも作っておいてね」
と、作業に入る。ラナとルナはメモを取って記録に残していく。結構時間がかかりそうだな。先に魔法銃を作ってしまうか。
一週間かけて魔法銃を六丁作った。シャルロッテ様用に、グリップにグリュンデールの紋章を施した。母上とシャルロッテ様に地下研究所の射撃場へ来てもらう。
「シャルロッテ様、これをご確認ください」
と、三つの箱を渡す。シャルロッテ様は一つ一つ箱を開けて一つ一つ握っていく。ごめんなさい。三つとも大きさも握り具合も同じなんだよね。一応、赤、青、黄の三色をそれぞれに入れているけど。
「まず、先にカードの登録をしてしまいましょう」
と言って三枚のカードを作る。ついでに母上のも一枚作る。
「それで、銃のこの部分にカードを入れます。これで、この魔法銃はシャルロッテ様にしか使えません。あとは……」
と、魔法銃の撃ち方まで教える。母上にも雷撃の魔法銃を渡す。母上はなれたもので、すぐに撃ちだす。
「魔法は、石を投げたり飛ばしたりするのと違って重力の影響を受けませんから、まっすぐ飛びます。なので、すぐになれると思いますよ」
と。いったん撃つのをやめてもらって、的を置く。再び練習してもらう。
「これ、本当にどれだけでも撃てるのですね。すごいです」
と、シャルロッテ様が言うので、
「いえいえ、魔力が尽きたら撃てませんから。そうなりそうだったら逃げてくださいね」
と忠告も忘れない。二人とも、練習を続けているので、僕は研究室で魔法陣の作成に戻ることにする。
「母上、シャルロッテ様。それでは僕は別の仕事に戻りますが、お肉、楽しみにしていますね」
というと、母上もシャルロッテ様も
「了解」
と返事をくれた。
さて、魔法ライフルの作製にあたり、悩みが。
ファイアバレットとかアイスバレットとか、どこまで飛ぶのかな? ということだ。
いろいろ試してみた結果、今更ながら、魔力量だった。
五百メートルや一キロの先までファイアバレットやアイスバレットを飛ばそうものなら、魔法銃の百倍の魔力量が必要だった。魔法銃は飛んで百メートルくらい。
そういえば、試したことなかったな。つまり、十倍の距離を飛ばそうと思ったらその二乗倍の魔力がいると。
まあ、シャルロッテ様の魔力量はわからないけど、あれだけ魔法銃をポンポン撃つんだから、それなりにあるだろうな。それに、そんなにたくさん一度に狩ってこないだろう。
魔法銃の百倍の魔力を吸収する魔法陣を作る。それをファイアバレットの魔法陣、アイスバレットの魔法陣につないでいく。それから、やはり弾速を上げたい。よって、ファイアバレットとアイスバレットの魔法陣に改良を加えていく。それから、魔法のバレットは空気抵抗も受けないから必要ないと思うけど、貫通能力を高めるために回転を加える。
こんなことを悩みながら開発を続けると、また一週間くらい経ってしまう。すると、魔法ライフルの方の試作品ができてくる。
魔法銃の魔法陣はカートリッジ式もあるから、魔法陣をライフルに組み込むのは簡単だった。しかし、ガンツがいつもと違うことをする。
「この魔力を吸収する方の魔法陣だけど、いつもより吸収する量が多いから、左手の掌のところにつけるから」
と。で、トリガーはトリガーとしての役割だけにすると。つまりは、両手でないと撃てないことが確定。まあ、長距離射撃を片手なんてありえないけど。
「ちょっと撃ってみたいなぁ」
と思っても、五百メートル先を狙えるような練習場はない。
仕方ないので、ケルベロス大に乗って領都を出た。
一時間くらい離れれば誰にも見られないだろうと、魔法ライフルを構えてみる。スコープを除くと、遠くが拡大されよく見える。
スコープの前のレンズを回すと、フォーカスがあう。肉眼では見えないところに岩が見えた。
そこで、ケルベロスに乗って岩のところに行き、紙に書いた的を貼っておく。そして、元の場所に戻る。
やっぱり肉眼では見えない。スコープを除いて照準を付ける。
せっかくなので、撃ってみる。トリガーを引く。バシュッっと魔法銃より勢いのついた音。スコープを除いたまま見ていると、的の右側にファイアバレットが当たった。うん。ちょっとスコープがずれている。
スコープの角度をねじで調整し、もう一度撃つ。ちょっと的に近づいた。これを何度か繰り返すと、ついに的に当たった。真ん中じゃないけど。
ケルベロスに乗って、もうちょっと距離をとってみる。撃ってみると、また少し、的からはずれる。修正を何度か加える。
しかし、僕が全く動かないってことができないのか、少しずつずれる。何度か撃ってみて、研究室に戻る。
「どうだった?」
とガンツたちが聞いてくるので、
「まあまあな感じ。とはいっても、ライフルの方に悪いところはないよ。威力をもうちょっと上げたいのと、僕が揺れるのをどうするかと」
「ライフルに足をつけて設置し、地面に寝転がって撃ったら揺れないんじゃないのか?」
「僕もそれを考えたけど、それでいいのかな。ま、長距離を立ったままとか走りながら撃ったりしないか。じゃあ、足をつけてくれる?」
と言って、注文を出した。
「あと、スコープだけど、よかったよ。でも、銃身とスコープを全くの平行にするのが難しいね。どうしたらいいかな」
「調整したうえで出荷してはどうだろうか。使用者が調整できなくなるけど、動かせないというのもメリットはあると思うぞ」
「そうだね。そうしようか。調子が悪くなったら、見てもらえるかい?」
「もちろんだ。だけど、調整をするためのライフルを撃てる場所が欲しい」
それはそうだ。僕は、ドラゴン族の発着場の脇にまっすぐ五百メートル以上の塀を間隔をあけて二つ作り、その間を射撃場とした。塀を作ったのは、外から見えないようにするため。
僕は、改良した魔法陣をガンツたちに預け、調整と、いいものができたら量産をお願いした。まあ、十丁もあれば十分だろう。