グリュンデールー4
屋敷に入ったところでマリンバ隊に囲まれた。
マリンバ隊は僕に向けて深々と頭を下げる。今度はなんだ?
「私たちも恋がしたい」
「私たちも自分の赤ちゃん抱きたい」
「私たちにも幸せをー」
とのこと。えっと。
「それは、相手が欲しいと?」
と聞くと、うんうんとうなずく三人。
「出会いは?」
と聞くと、沈み込む三人。
「ローゼンシュタインにいたときは、ビーチバレーとかを騎士団の人としていたの。でもね、こっちに来てからは……」
「向こうにいたときに、パートナーを見つけた黒薔薇いた?」
目をそらす三人。えー。
「でもさ、アンとかミレーヌとか、騎士団長が旦那さんじゃん。紹介してくれないの?」
「自分の獲物は自分で狩って来いと……」
怖いな、黒薔薇。
「なんで、ビーチバレーとかしていて、恋愛につながらないのかな?」
「たぶん、黒薔薇が勝負にガチだからじゃないかと。騎士団の皆さんもガチになっていて、恋愛どころじゃないのかも。実際、私たちもやっていると熱くなっちゃって」
「うーん。ちょっと母上に話してみるよ。でも、結婚退職されちゃうことを考えると、渋るかな? アンとかミレーヌみたいに結婚した後も勤めてくれるといいのかもだけど」
食堂に行くと、子供たちが並んで離乳食を食べていた。与えているのはメイドさんだけど。
僕はテーブルについて、みんなでご飯を食べる。もう秋が近づいてきたのか、お肉がおいしい。いつもの肉とちがうのかな。と思いながら食べた。
母上に相談があったけど、母上とシャルロッテ様は部屋で食事をとるので、ここにいない。後で部屋に行くか。その前に。
「さつき、こはる、ちょっとお願いがあるんだけど」
と、声をかけ、ギルドでお願いされたことについて伝える。さつきは、「あー」という感じ。こはるにはさっきも伝えたからか、我関せずな感じ。
「春になったら、私の方からそらを連れて里に行くから、待っているように伝える」
と、さつき。
「そうだねー。そらもまだ小さいしね。こはるも行くんでしょ? 僕も行くよ。だからそう伝えておいて」
「わらわも行くのか……」
とはこはる。なんか、出不精になっちゃったかな。
そのあとは、子供たちの食べっぷりだったり、食べた後で眠くなっちゃった顔を見たりして、雑談をする。
「ジェシカたちがさ、恋愛がしたいってさ」
と話を振ってみる。
「え? グレイスに結婚してって言ったわけじゃないんでしょ?」
と焦ったように言うリリィ。
「ちがうちがう、誰か紹介してほしいらしいよ。なんかね、リリィが子供をあやしているところを見て、うらやましくなっちゃったみたいだぞ」
「えー、だってー」
と、くねくねするリリィ。おいておくか。
「どうしたらいいかなぁ。とりあえず、黒薔薇ってところは母上に相談するけど?」
「やっぱり会話ではないでしょうか」
とはライラ。君、会話うんぬんじゃなくて突撃してきたよね。
ローゼンシュタインでの騎士団との関係性についてはジェシカたちに聞いたことを話した。
「こっちの騎士団とかおすすめの若い男の人いないかな?」
「一緒にお母様に聞いてみる?」
と京子ちゃん。
「「男だったらいっぱい余っていますよ」」
とラナとルナ。
「いや、ダメなのはいらないから」
と却下。エルフ男性陣のことだよね?
「やっぱりお見合いとかかなー。集団で」
「あれやるの?」
は京子ちゃん。昔見た番組でも思い出しているのだろう。
「そうそう。いいんじゃないかな。でも、会話を弾ませるために、その前に何かやりたいね。例えばスポーツ大会とか、合同訓練とか?」
「つり橋効果を期待するなら、肝試しとか?」
と笑う京子ちゃん。つり橋効果がわからないこっちメンバーはきょとんとしているけど。つり橋効果のことを説明してやる。すると、
「じゃあ、男女ペアでさつきに挑むってのはどう?」
と怖いもの知らずのリリィ。
「私を何だと思っている?」
と当然の回答をするさつき。リリィはてへってしている。
「二人で何かをするっていうのはいいんだけど、回転数が悪いんだよね。で、スポーツとかの競技はガチになっちゃうしさ。それでも、スポーツ大会がいい汗かけていいんじゃないかとは思うんだけどね」
「ローゼンシュタインでは、ビーチバレーの試合をガチでした後に解散しちゃうからいけないんでしょ? なら、そのあとに懇親会でいいんじゃない?」
と京子ちゃんが落ちをつける。
「その方が、さわやかだよね。それで聞いてみようか」
と言って、この話を終え、解散。
母上の部屋へ京子ちゃんと一緒に行く。シャルロッテ様もいるはず。
「ということで」
と説明をする。
「ローゼンシュタインから十人チームを二つくらい用意してもらうか。しかも、ちゃんと嫁が欲しい若者をだな」
「黒薔薇はどうするのですか?」
「黒薔薇も十人チームを二つ用意するかな。はじめから独身全員参加のガチのお見合いをする必要もなかろう」
「では、グリュンデールも十人チームを二つ用意いたします」
とはシャルロッテ様。
「ただ、あまりビーチバレーになじみがないと思うので、練習の期間をいただきたいですね」
「では、黒薔薇に教えるように言っておくよ」
「それはそれでいい出会いになるんじゃないんです?」
「いや、勝負はガチで勝ちに行け、と、黒薔薇には言っているから、恋愛感情など、わかないと思うぞ」
それだよ、パートナーができない原因。僕はため息をつく。
「その後の懇親会では、王都から演奏者たちを呼んでもらいたいです」
と、京子ちゃんのナイスアイデア。
「いいね。それでムードでも高まればいいよね。キザクラ商会にお願いしておくよ」
と相槌をうつ。
と、話が進み、春にビーチバレー大会を行うことになった。そのあとに懇親会。
後でジェシカに言っておこう。ビーチバレーの、まずは選手に選ばれろと。それと、キザクラ商会に春に予定が入っていないバンドに来てもらえるよう伝えておこう。
だが、これがお見合いパーティ失敗の要因だとは誰も思わなかった。
「ところで、グレイス君」
とはシャルロッテ様。
「私もあれが欲しいのですが」
と、人差し指と親指を立ててバンってやる。
「あれ? 持っていませんでしたっけ」
と、もう誰に渡したかわからなくなっている。
「夫とお義父様は持っているのですが、私は持っていませんわ」
と言うので、
「そうですか」
と母上を見ると、両手を合わせて、すまんってやっている。
「シャルロッテ様は、私の母上でもありますので、護身用にお渡ししておくべきでした。すみません。忘れていました」
と素直に謝る。
「ところで、護身用ですよね?」
と、どっかの冒険者パーティを思い浮かべて聞いてみる。
シャルロッテ様が目を母上に向けて「えっと」と言っている。
「最近、肉がおいしいのに気付いているか?」
と母上。
「ええ、おいしいと思いました」
「あれは、魔獣ではなく野生動物の肉だ。でな、あれを取ってくるのが元国王たちだ」
あー、やっぱり関わっていたか。
「冒険者たちは、実利をとって魔獣しか狩ってこないし、ローゼンシュタインはホーンラビットだろ? 山には野生動物もいるのにな。野生動物に対する依頼がないのが悪いのだが。それで、先日、元国王のパーティに連れて行ってもらって野生動物の狩りをしたら面白くてな。魔獣と違って警戒心が強くてすぐ逃げるしな。結構緊張するのだ。それをシャルに話したら行きたがってな」
そういうことか。
「わかりました。ちょっと時間をもらっていいですか?」
と聞いてもう一つ。
「母上と同じファイアバレットとアイスバレットでいいです?」
と。それに食いつくのは母上。
「その言い方、ほかにもあるみたいじゃないか」
と。鋭い。
僕はコートの中から、新しい雷撃魔法銃を取り出す。そして窓から外の木を狙う。
「見ていてくださいね」
と言って、木に雷撃を撃ちこむ。バシィと魔法銃から木に水平の雷が落ちる。母上もシャルロッテ様も京子ちゃんさえ驚いている。
「これは電気、いわゆる雷を飛ばす銃ですが、ファイアバレットやアイスバレットのように動物に穴をあけてしまうことなく、感電させて動けなくします。動けなくても生きてはいるので、血抜きでもなんでもできます。ちょっと音がうるさいのですが、ファイアバレットやアイスバレットよりも弾速、と言っていいのかわかりませんが、速いので逃げられることもないかと思いますが」
と説明して母上を見ると、目を輝かせているので、
「三丁用意しますね」
とシャルロッテ様に言う。母上は
「私にも」
と言ってくるので、雷撃の魔法銃を用意することにした。
ちなみに、母上が持っている魔法銃はカートリッジ式だったので、この機に新しくした。