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魔法と技術とそして猫ー3

 ついに春がやってきてしまった。

 京子ちゃんが帰ってしまう日が近い。

 グリュンデール公爵家から、京子ちゃんのお父さんに当たるパブロ様が護衛の騎士団と一緒に来ている。

 パブロ様は、京子ちゃんが生まれてしばらくして帰ってしまったので、僕とは初対面だった。

 この人に将来「お嫁にください」言わないといけないのか。でも、身分差あるな。京子ちゃんがこっちにくると爵位が下がるんだよな。僕が養子に行くパターンも考えておこう。厚かましいかな? 京子ちゃんに弟ができた瞬間に養子案はなしだな。

 パブロ様には愛想良くしておこう。だってさ、京子ちゃんと手を繋ぐと、ちょっと目が笑ってないんだよね。ま、父親なんてそんなもんだけどさ。僕もそうだったよ。

 そこへ現れたのは、僕のおかあちゃん。


「やあ、パブロ殿、久しぶりだな」

「こればおばさま……」


 あ、殺気が。


「リーゼお姉様ご機嫌うるわ……」


 言い直したパブロ様、お母ちゃんの姿を見て固まった。

 黒薔薇騎士団の団服を着ているお母ちゃんだが、どう見てもパブロ様より若く見える。しかも、超絶美人。

 シャルロッテ様がパブロ様に聞こえるように咳払いをして、パブロ様が我に帰る。


「シャルがこっちにいてくれて、大変助かった。礼をいう」

「いえ、シャルも娘も楽しく過ごしたのではないでしょうか。特に娘はこんなに友人ができて」


 で、やっぱり気になることを、恐る恐る聞く。


「お姉様も随分とお元気になられたようで。足も治られたようで良かったですね」

「うむ。神の祝福を受けてしまったようだ」


 そういうふうに誤魔化している。


「だから、現役に戻ったぞ」


 アンをはじめとしたメイドさんたちが渋い顔しているよ。みんな黒薔薇なんだよな。


「それでは、出発の日までゆっくりと過ごされるといい」

「ありがとうございます」

「最後に、パブロ殿だから姿を見せたが、今後は仮面をつけることにしている。この姿のことは内緒にしてくれ。そっちの騎士団の面々もな」


 おかあちゃんはグリュンデールの面々にくぎを刺し、去っていった。パブロ様は引き攣ったままだけど。


 シャルロッテの部屋へ向かう途中、パブロに声をかけるグリュンデール公爵領騎士団長。


「先ほどの方は、リーゼロッテ様ですよね? あの、最強を欲しいままにした女性騎士団、黒薔薇騎士団の団長。復帰したのですね。しかも、メイドたち、あれ、足さばきから言って相当鍛えられています。うちの騎士たちがどれくらい相手になるか……」

「お願いだから敵対しないでくれ。せっかく領地が離れているし、このローゼンシュタイン領はこれからも栄えていく。仲良くしておくに越したことは無い。あのリーゼお姉様の殺気を感じただろう?」

「はい。騎士団長になって初めてちびるかと思いました。美人の殺気は恐ろしいです」

「ローゼンシュタインは何においても中立の立場を取っている。そうである以上、敵対しないためにも我が領も中立であらねばならない。しかし、だからと言って、戦力を持たないという話にはならない。中立なら中立なりに、仕掛けられないように武力を持っておく必要がある。ローゼンシュタインも同じだ。騎士団長、頼むぞ」

「はい」


 ついに、京子ちゃんが帰ってしまう日。

 僕と京子ちゃんは手を繋いで念話をする。ミカエルとかなでは気を遣ってくれたみたい。


「陵くん、前世からずっとずっと一緒にいてくれてありがとう。一緒に死ぬことができて良かった。おかげでこうしてまた一緒に人生を歩み始めることができたよ。今日から離れちゃうのはものすごく寂しいけど、まずは三か月後にくるね。来年からもずっと。で、一緒に王立学園に入って。ずっと一緒にいられるね。それまで年に一回しか会えないけど我慢するよ。あ、陵くんも来てくれたらいいんじゃない?」

「そうだね、聞いてみるよ、そういうの話せるようになったら」

「ん。よろしくね。でね。何十年も一緒にいて、また陵くん死んじゃったら、一緒に死ぬね。そしたらまた一緒に生まれ変われるね。大丈夫。まだミカエルが貸しをもう少し持っているみたいだから」


 と言って京子ちゃんは笑う。

 昔から僕は涙脆い。もうギャン泣きだった。


「ダメだよ、陵くん」


 って京子ちゃんも貰っちゃったみたいだ。

 ついついお互いギュッって抱きしめ合っちゃって、大泣きした。一歳児がやっていいことだったかな。


 しばらくすると、おかあちゃんがやってきて僕を引き離す。


「寂しいのはわかるが、笑って送れ。次に会うときは今の自分より成長しているからって、期待してもらえ。一緒にいても気づかない成長がはっきりと見られるのはお互い楽しいぞ。それに、相手がどう変わるのかを想像しているのも楽しいだろう」


 お母ちゃんは一歳児がそんな難しいことわかると思って言っているのであろうか。その真意はわからなかったけど、きっかけをもらえて良かった。

 僕は京子ちゃんの目をみて頷く。京子ちゃんも頷き返す、そして笑い合って手を離した。


 京子ちゃんは帰って行った。さあ、僕は僕でやれることをやろう。一歳児にやれることなんて限られているけどね。


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