結婚-1
夜、ようやく自分の部屋で自分のベッドで寝られると今日の熟睡に期待をした。
ベッドに入ると、いつもと違うことに気づく。
今日はこはるとドライアがいない。あれ? と、思っていると、京子ちゃんがやってきた。
「なんで私が最初じゃないのよ」
と言っていたが、事情を話して許してもらった。
「僕はね、ずっと京子ちゃんがいち……」
と言ったところで口をふさがれる。
「私はね、陵くんのことが好き。独り占めしたいよ。でもね、みんなも好きなんだ。こうやってね、陵くんと二人でいる時のこと、二人でしたこととか、そんなのもね、みんなと共有したいって思えるくらい。だからね、みんなとはね、隠し事をしないって決めたの。みんなで一緒に陵くんと楽しんで、みんなとも一緒に楽しんで。だからね。誰が一番なんてないの。みんなで一緒に、みんなと一緒に陵くんのそばにいるの。陵くんを支えるの、陵くんと幸せになるの。だからね。順番はつけちゃだめー」
って。おおう。達観しているな。
「でもね。この世界での初めてのキスもなんでも、一番最初にしたかったのは本音だぞ」
と、京子ちゃんは言って、僕の首に手を回し、キスをしてきた。
次の日はかなでがきた。真っ赤な顔をしてかわいかった。
ちなみに、婚約者のなかで延べも含めて年齢が一番高いのはドライアかディーネ。高位精霊様だし、いつからこの世界にいるのかわからない。聞けないってのもある。
その次がきっとかなでだ。前世の死神の期間が何千年もある。それから、こはるだって、僕の何倍も年上だ。
何がいいたいかというと、僕の婚約者の少女三人は、みな僕より年上だということ。体型に罪悪感を感じてはいけない。
その次の日はライラがやってきた。
ふと、気づいた。僕は今十六歳。ということはライラは十四歳だ。
「ぶぶー。未成年はだめです」
と言って、ライラを追い返そうとする。
「いえ、今子供を授かっても、生むのは十五歳です。なんとでもごまかせます。超早産で押し通します。王族の力をなめないでください」
「いやいや、そういう問題じゃないから。僕、罰せられちゃうでしょ?」
「よーく考えてください。そんな法律ありましたか? ないですよね。明文化されていませんよね。ですよね。そういうことです」
「そういうことじゃないんだよ?」
「体型の問題ではないですよね、少女三人がいるわけだから。ということはなんです? 私だけ仲間外れですか?」
ライラはものすごくくいさがった。
「わかりました。私は今日から十五歳です。そんなものは、父に改ざんしてもらえばいいこと」
わかってないな。でも、こんなライラも初めて見たのかもしれない。すごむたびにぴよんぴよんするツインテールがとてもかわいかった。
その次はリリィだった。リリィは始終顔を真っ赤にしていた。何も語らず、ただ、僕の目を見ては真っ赤になってうつむいて、という感じで。うつむいたときに頭をなでてあげたら、おでこを僕の胸にこてんとおいて、かわいかった。
なぜか知らないが、その次の日はラナ、その次がルナだった。
「ラナ、どうして君が来るのかな?」
「質問に質問で返して申し訳ないのですが、どうして、私が来てはダメなのでしょうか」
「えー、ラナは僕の婚約者じゃないでしょ?」
「そのような寂しいことをおっしゃいますか?」
「……」
どう返したらいいの? これ。
「それに、ディーネ様やドライア様は婚約者ではなかったはず。高位精霊様は私たちエルフがあがめる方たちです。お二人がついて行くと決めたお方について行くのは道理ではないでしょうか」
こんなところで非婚約者のことを言われるのはつらい。
「リーゼロッテ様はおっしゃいました。私たちにグレイス様に付き従い、その知識を記録しろと。ならば、夫婦も同然です」
なんか言いくるめられそう。
「だけど」
「それに、このローテーションを他の婚約者様たちが認めてくださっているのがすべてではないでしょうか」
と。これはローテーションなのか。
「僕は、まだ婚約者が増えるんだ? ルナもだよね? きっと」
「おいやですか」
とラナが泣きそうな顔をする。ラナの泣き顔は見たことがなかった。だがちょっと答えが出せない。いいのか? いくら一夫多妻が認められていても、ほぼほぼ一夫一妻制のような世界だ。多くてアンディの三人なのに、僕はすでに五人、プラス精霊様方。
と悩んでいると、ラナがうつむき、顔を両手で隠して、肩を震わせ始めてしまった。僕は慌ててラナの肩をつかみ、
「いやじゃない、いやじゃないよ。ただ……」
と言いかけたところで、ラナは満面の笑顔を作り、あれ、涙の後もない、がばっと僕に抱き着き言った。
「お認め下さりありがとうございます」
と。認めた? 認めたのか。まあ、ほかの婚約者が認めたなら、僕が拒否することはできないんだろうな。
「えっと、泣きまねうまいな」
「何をおっしゃいますか。号泣ですよ、心の中は。さっきは悲しみで、今はうれしさでです」
翌日、ルナにも確認を取ったが、同じことになった。
「ねえルナ、もう増えないよね? と聞いたら、目をそらされただけだった。
翌日は京子ちゃんに戻った。このローテーションが一か月も続くと、一人ずつ来なくなり、結局、全員が妊娠した。この世界の妊娠率、すごいな。
そのあとは、干された。落差が激しい。そして、ベッドにはこはるとドライアが戻ってきた。
平和でのんびりした日が続いた。こはるとドライアを横に寝ていたときのこと。こはるが目を覚ましたと思ったら、全力で逃げた。窓から。そして、ドライアも光の玉になって、窓から出て行った。
ここまでくれば僕もその気配に気づく。
「起きていたか?」
と、やってくる人物。いや、ドラゴン物。さつきさんだ。
「だいぶ落ち着いたと聞いたぞ。なので、私も子種をもらいに来た」
僕はジト目をかえす。
「いやいや、旦那さんいるでしょう。こはるのお父さんが。ね、お義母さん」
と婚約者の母親であることを主張する。
「グレイス、お前はドラゴンのことを知らなすぎる。ドラゴンに夫婦制度はないぞ。種としての存亡の危機を感じたときに、子供を作りたくなるだけで、誰かと夫婦になりたいなどとは思ってはおらん。こはるの父親? 死んだかもしれんな。いや、死んだな」
と。あれ、今、死亡が決定したな、こはるのお父さん。
「だけどですね。たとえ師匠だとしても、それは聞けない相談ではないでしょうか?」
「いや、聞けばよかろう? それに、私には確か、借りが一つあった。それを返すために来たと思えばいいじゃないか」
「なんか違いますから。それで返すといわれても」
と、ばたばたしていると、廊下を走る集団。京子ちゃんたちがやってきてドアを開けて入ってくる。そして、僕とさつきさんを見ると、そのままドアを閉めて部屋を出て行った。
「おーい」
と呼んでもだれも戻ってこなかった。
「物わかりの良い婚約者たちだな。私も婚約者になっていいぞ?」
「なんで親子で婚約者なんですか?」
「まあそんなことは気にしなくてもいいぞ。よろしくな」
と言って、全裸になったさつきさんがとびかかってきた。が、さつきさんの力と体重に対抗できるわけもなく、押さえつけられる。
「なんだ、押さえつけられるもの好きなんじゃないか」
と僕の下の方を見て言うさつきさん。僕は真っ赤になって何も言えなくなり、何もできなくなってしまった。
「それじゃ、婚約者になったからな」
と言って、さつきさんは僕の横で寝入ってしまった。
この日、こはるもドライアも戻ってこなかった。あきらめて僕も寝た。