表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/376

桃源郷-4

 いつまでもそうしていても仕方ないので、僕も浴室を出た。

 用意されていたのは、浴衣のようなものだった。それを着てダイニングに戻る。

 こはるは椅子に座って、赤い顔を下に向けてぶつぶつ言っている。ディーネとドライアは全く変わらない。


 四人でドライアが用意してくれた果物を食べる。こはるはうつむいたままもぐもぐしている。こはるは遠い世界へ行っているっぽいので、気になっていることをディーネに聞く。


「結局、待ち人はどうだったの?」


 と。


「長い間待ったかいがありました。ちゃんと待ち人と結ばれることができました」


 と言って僕の目を見てニコニコしている。僕は無言で自分の顔を指さすと、ディーネは笑顔のままうなずいた。そして、


「私の待ち人って、もともと魔族だったのですよ」


 えっと、僕に魔族の血が流れてるってわかってるのかな?


「私には聞いてくれないの?」


 と、ドライア。なんて聞けばいいのさ。


「私も、ようやくついて行きたいと思える人と結ばれたの」


 と。僕はそうですかー。と思いながら、気になったことを聞く。


「えっと、人と精霊って結ばれるんだね」

「「結ばれたよね?」」


 と逆に聞かれる。うーん。


「えっと、人と精霊が結ばれるとどうなるの?」

「「人も精霊も関係ない。心の問題だから」」


 と。どういうことかな。


「人も精霊もドラゴンも誰も皆、誰かを愛することができる、ということです」


 と、ディーネが説明してくれた。そうですか。そりゃそうか。心の問題だよな。


「ありがとう」


 とお礼を言っておく。で、だ。


「精霊と人の間に子供ってできるの? どういう遺伝?」


 と聞く。二人の精霊は、雰囲気台無し、みたいなジト目をした。だって、気になるじゃん。


「それはきっかけにすぎません。精霊からは精霊が生まれます」


 だそうな。そっか。精霊が生まれるのか。と、話を変える。というか、ごまかす。


「なるべく早く帰らないと、みんなが心配していると思うんだけど」

「それならすぐ帰れると思うよ。私が海に穴をあけて空とつなげるから、こはるちゃんに乗っけてもらえばいいんじゃない?」


 と。なるほど。だが、そうはいかなかった。


「わらわはもうしばらくはドラゴンになれんぞ?」


 と。三人で固まる。


「どうして?」


 と、おっかなびっくり聞く。


「妊娠したからだ」


 と。はやいなー。もうわかるんだ。と、僕は遠い目をしそうになったが、ここは違う。


「ほんと! こはる、おめでとう。そしてありがとう。うれしい!」


 と言って抱きしめる。こはるもうれしそうだ。顔を赤くして僕を抱きしめ返してくれた。


「こほん。だけど、じゃあ、どうやって帰るの? まさかの洞窟?」


 とドライア。


「いや、海に穴をあけてくれれば、母上に念話を飛ばしてみる」


 と、こはる。




 おなかもいっぱいになったことだし、帰ることにする。


 みんなで家の外にでる。


「思い残すことはないですか?」


 と、ディーネが聞く。


「うん。この泉の水を持って帰りたかったけど、たぶん長くはもたないんだよね。また取りにくればいいかな。その時は頼める?」


 と聞く。ディーネは、


「もちろんです」


 と返事をくれた。


「じゃあ、海に穴をあけたときに、念話をお願いします」


 と言って、上に手をかざす。すると、空間の上に渦巻きができ、海水面から渦の空間が降りてきた。そして、この空間とつながった。


「今です」


 というディーネの合図とともに、こはるが念話を飛ばす。そして、ディーネが渦を戻した。


「伝わった?」


 と聞くと


「大丈夫だろう」


 と。

 なんでも、一時間後に上空でと、一方的に伝えたらしい。返事はなかったが、大丈夫ではないかと。


 そして、一時間後、もう一度ディーネが渦を作って空とこの空間をつなげると、上空からドラゴンが降りてくる。


「おー、こんなところがあったのだな」


 と、さつきさん。


「まあ、感動はわかるのですが、ディーネが大変そうなので、上空に連れて行ってもらえますか?」


 と聞くと。


「わかった。婿殿の頼みだ。背中に乗れ」


 と、僕ら四人を背中に乗せ、飛び上がった。海を抜け、上空に出る。そして、ローゼンシュタイン領都に向かって飛んだ。途中、さつきさんは、


「おばあちゃんかー」


 と、つぶやいてにやにやしていた。ここは、触れない方がいいのだろうか。


 さつきさんには、ローゼンシュタインの訓練場でおろしてもらった。さつきさんはにやにやしながら里へと帰っていった。


 訓練場についたところで、みんなが屋敷から出てきた。

 僕はみんなの方へ歩き始める、が、こはるが僕の手を握ってくる。

 その後ろをディーネとドライアがついてくる。


 京子ちゃんを先頭に、皆が走ってくるが、五メートルくらい手前のところでなぜか止まる。

 あれ、ここは感動に浸るところでは? 

 と、思ったが、京子ちゃん達は、こはるが僕と手をつないでいるのを見て、ジト目で見てくる。

 リリィは「やっぱり二人で行かせるべきではなかった」とつぶやいている。

 あれ、女の感っていうか、そういうの、あるのかな? だが、結局は、京子ちゃんが僕の前に来て、僕の首に手を回す。そして、


「お帰り」


 と。

 僕も京子ちゃんを抱きしめ返して


「ただいま」


 と伝える。

 が、なぜか京子ちゃんの締め方が強い。思わず、京子ちゃんの腕をタップすると、何とか締めが収まった。

 京子ちゃんが離れると、かなでが飛びついてきた。ジャンピング抱っことでもいうのだろうか。抱きしめて、


「ただいま」


 と言う。

 リリィもライラもしずしずとやってきて、僕を抱きしめてくれた。

 あれ、ちょっとまって、ここはこはるに「治ってよかったね」という場面では? と思っていると、京子ちゃんがこはるの方を見て笑顔で言う。


「治ってよかったー。心配していたんだよ」


 と。「で、何をしてくれたのかな?」という副音声は聞かなかったことにする。こはるは、


「心配してくれてありがとう。おかげで、身ごもってしまった」


 と、ドストレートな爆弾を落とした。さらに、


「「私たちもです」」


 という二人の精霊。

 うーん。この世界、妊娠しやすいのかな。ドラゴンも精霊もすぐに結果が出るんだなと、現実逃避をするが、京子ちゃんとかなではこめかみをぴくぴくさせているし、リリィとライラは真っ赤な顔をしている。

 だけど、結局はみんなでこはるの無事と新しい家族ができることを喜び、抱きしめあっていた。




 僕は、泉のあった空間のこと、そこまでの道のりのこと、などなど、話した。その空間には、ディーネが海に穴をあけてくれることで行けること、現状こはるがドラゴンになれないので、さつきさんとかほかのドラゴンに頼まないといけないことなども説明した。結局落ち着いたらみんなで行きたい、ということになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ