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獣王共和国-3

 さらに二日ほど進むと第一砦が見えてきた。もう、やり取りもめんどくさいな。僕たちは、仮面をつけて、砦の門の前に立つ。


「貴様ら、犬人族がなんの用だ」


 と、猿人族の門番が城壁の上から言ってきたので、問答無用でファイアランスを撃ちこむ。その数二十。門は、城壁ごと崩れ去った。

 後でココとルルに怒られるかな? と、心配事が若干よぎったが、今は、前に集中する。


 砂煙の向こうから、何人もの猿人族が出てくる。他の猿よりかなりがたいが大きい。そのうえ、その奥には、後ろに手を縛られている犬人族が二人。ココとルルか。


「もしかしたら、助けに来ちゃった感じ? たったそれだけで?」


 がたいの大きい猿人族がにやけながら言う。


「まあ、そんな感じ。物わかりがよくてうれしいよ。だから、その二人を返してくれないかな」

「返すわけないだろう?」


 と言って指をパチッと鳴らす。すると、ルルを抑えていた猿が、ルルのほほに爪を立てた。流れる血。


「そう。ちょっと怒っちゃったから、君らを殲滅するけど許してくれるかな?」


 という僕の言葉に、


「許すわけないだろう? というか、やれるもんならやってみろ」


 そう言って、猿人族がとびかかってくる。

 遅いわ。さつきさんの特訓を積んだ僕らには遅すぎる。が、手加減をする気もない。

 僕とかなでは、一瞬で距離を縮めると、猿人族を切り捨てた。こはるは殴り飛ばした。あっという間に、ココとルルを抑えていた猿人族まで倒す。

 ココとルルを開放し、口を押さえていた布を取り、ヒールを駆ける。ルルのほほの傷が治る。手を縛っていたロープも足かせも切って外す。


「さてと。猿ども、ここで一番偉いやつ連れてこい」


 と言うと、近くの猿が、僕らの足元を指さす。あ、やっちゃった?


「それじゃ、二番目は?」


 と言うと、同じ結果になる。足元か。


「だれか話のわかる奴いるか? それとも、全員でかかってくるか? 第二砦の奴らは全員でかかってきたぞ? 瞬殺してやったけどな」


 と、ちょっと大げさに言う。すると、猿たちがじわりじわりと下がっていき、その中から二人の猿人族が出てきた。


「私たちが小隊長だ。ちなみにこの部隊の隊長たちはお前の足元だ」

「それじゃ、こんなところで話もなんだ。砦の中央まで行こうか」


 と言って、歩き出す。猿人族は走って砦の中へと去っていく。砦の中央の広場に入ると、小隊長の二人と向き合う。


「さてと、話を聞かせてもらおうか。なんで我々犬人族に喧嘩を売った?」

「我々は下っ端。そんなことはしらん。もともと我ら猿人族と犬人族は仲が悪い。小競り合いはよくあることだ。ただ、今が攻め込む好機だと隊長たちが言っていた。鳥人族の協力も得られるとな」

「鳥たちとお前たちは仲がいいのか?」

「基本的に獣人族は種族間でさほど仲がいいわけではない」

「あんまり聞きたいことも聞けそうにないな。死ぬか?」


 小隊長達は一歩下がり、


「いや、助けてほしい。我々はここを放棄する。ここを出て猿王国へ戻る」

「ちなみに、猿王国の王都ってどのへんなんだ?」

「ここから二日ほど西に行くと森がある。そこから先が猿王国の領土だ。森に入っていくつかの街を過ぎれば王都がある。およそ一週間くらいだ」

「わかった。とっとと行け。ただし、ちゃんと伝えろ。二度と犬王国に手を出すな、とな」

「必ず伝える。ただし、それが確約されるかはわからん。その時には我々の命もないかもしれないのだ」


 と言って、猿人族全員に撤退命令を出していた。猿人族は数時間のうちに砦から出て行った。




「ココ、ルル、大変だったね」

「グレイス様、このようなところまで何をしに来られたのですか?」

「は? 友人の顔を見に来たんだけど、ダメだったか?」

「いえ、うれしいです。ですが、人がこのようなところで猿王国を攻撃しては、獣王共和国と人間族の争いを生みませんか?」

「何を言っているんだ。今、我々は犬人族だろ?」


 と言って頭を指さす。


「そうでございますね。この第一砦は、犬人族の精鋭が取り戻したと」

「あ、第二もな」


 と言っておく。ココとルルは笑って、


「「ありがとうございます」」


 とお礼を言ってきた。


「ところで、ここには、ほかに犬人族はとらえられていないのか?」

「とらえられております。が、落ち着いてからでいいかと思っておりました。助けに行ってきてよろしいでしょうか」

「いいぞ」


 と、許可を出しておく。僕はやることがなくなってしまったので、門まで戻り、倒した猿人族を門の外にまとめる。

 そして、馬車から、ラナとルナが作った魔法陣の一つを持ってくる。燃える方の魔法陣だ。その一つに魔力を込めて、死体の山に魔法を撃ちこむ。

 すると、死体を中心に広範囲に火が広がって燃えた。広範囲なのがちょっと無駄だな。バッタにはいいかもしれないが。

 馬車に戻って、ファイアサイクロンの魔法陣をもってきて猿の死体の山に撃ちこむ。すでに燃えていたが、風が炎を中心に集め、しかも空気を含んで大きく火柱を挙げた。まあ、燃やすにはいい感じ。


 僕が広場に戻ると、とらわれていた犬獣人たちが集まっていた。およそ百人。


「ココとルルはどうするの? 街に戻る?」

「いえ、猿人族が食料も置いて行ったので、街に伝令を出しますが、救援が来るまでここで待とうと思います。旅は疲れますし、弱っているものもいますから」

「それじゃ、僕たちが第二砦に来ていた兵たちに声をかけておくよ」

「そうでしたか。それでは伝えていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします」

「それで、シャシャとシュシュ、ロロは?」

「子供たちは王都に囲まってもらっています。猿人族どもがいつ兵を集めてさらなる侵攻をするかわからなかったものですから」

「なるほど。なら安全だね。ところで、なんでこんな事態になっているのかわかる?」

「先ほど猿が言っていました通り、我々と猿人族は仲が悪いのです。なので、いつでも侵攻される危険性はありました。ただ、犬王国は平原にあるので、猿人族にとって優位な戦場ではありません。なので、大きな争いはなかったのです。ところが、今回、鳥人族が猿人族を後押ししました。猿人族と鳥人族も仲が悪いにもかかわらずです。鳥人族は制空権を持っているため、猿人族に対して有利です。その鳥人族が猿人族に味方をしたとなると、鳥人族が後ろで何かをたくらんだのかもしれません」

「ちなみに鳥人族に対して強いのは?」

「猫人族です」

「猫?」

「はい。猫人族は個々がマイペースですが戦闘力が強く、鳥人族は自分たちのペースに持ち込めません。それで猫人族を苦手としています。ちなみに犬人族は個々の力はさほどではありませんが、集団戦を得意としています。そのため、猫人族か犬人族か、というと、そこは拮抗していました。今は、猿人族に痛手を受けたので、猫人族に攻められたら危ないかもしれませんけど」

「なるほどね。もうちょっと聞いていい? 獣王共和国って?」

「さらに南に兎王国、熊王国、そして多様性に富んだ多獣国があり、この七つの国で共和国を作っています。ちなみに、共和国の本部は大陸中央の猫王国にあります」

「その中で一番怪しいのは猫王国ってことかな?」

「そうかもしれませんが、猫人族はマイペースですし、何を聞いてものらりくらりとかわすだけでしょう。個々の力が強いのが本当に厄介です」

「オッケー理解したよ。ちょっと猫人族に話を聞いてくるわ。だけど遠いの?」

「犬王国の王都から南に十日ほどかかるかもしれません」

「食料とか、犬王国の王都で買える?」


 と聞くと、ちょっとお待ちください、と言ってココが手紙を書いてくれた。


「この手紙を王都の門番にお渡しください。いろいろと手配してくれるはずです」

「ありがとう。助かるよ」


 と言って手紙を受け取った。


「今日はここにお泊りになりませんか?」


 と気をきかせてくれるが、


「大丈夫、ココも知っていると思うけど、ベッド付きの馬車だからさ」

「しかし、恩人に何もしないというのは」

「僕らも早めに終わらせて帰りたいしね。このまま帰るわ。散らかしたままでごめんね。あと、門も壊しちゃった。ごめんね」

「いえ、それくらい大丈夫です。こちらこそありがとうございました」


 僕達は、そそくさともと来た道を戻った。


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