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獣王共和国-2

 さて出発だ。馬車は二台で、それを引くケルベロスは四メートル級を二匹ずつとした。それと五メートル級二匹にこはるとドライアが乗る。それぞれ、養育場で育った個体を足した。

 それとお供にシロタエ達第三世代の四匹。ちなみに新しいコートは、猫たちが腰のところに入るようになっている。裾に入られると動きづらかった。


 川を渡ってリコラシュタインへ。

 アリシア帝国内では、アリシアの旗を掲げて、ケルベロスを連れていてもいいようにした。街の人たちにもだいぶ浸透したので、怖がられることも少なくなった。


 その後、一週間でランドルフ辺境伯領に入る。

 一応、辺境伯から情報を得る。南の大陸は、西に山脈があって、そこに鳥王国がある。そのふもとに猿王国の森が広がる。その東に草原があって、そこに犬王国がある。その東には犬王国のえさ場となる森があって、さらに東は海だ。ちなみに、犬王国の南側に猫王国があるそうだ。

 現状、猿人族が優位だといっても砦を二つ攻略したところであり、平地での戦闘は、犬人族の方が有利とのことだった。

 猿人族もそれ以上は補給線が伸びてしまうため、攻めあぐねているらしい。なお、第一砦も第二砦も、鳥人族による猿人族の投下により、奇襲されたとのことだった。


 さて、獣王共和国のある南大陸へ行く。ランドルフ辺境伯領の西に大陸とつながっているところがあり、そこから南下していく。


 大陸に入ったところで、皆、犬耳と犬しっぽを装着した。いつ、犬人族に出会うとも限らない。




 何日かして一つ目の街が見えてきたところで、馬車を離れたところに置き、情報収集を行う。これは前から京子ちゃんとミカエルの役目。

 京子ちゃんは、街の門番のところに行く。


「こんにちわん。街に入りたいんだけどどうしたらいいわん」


 と門番に話しかけるソフィリア。


「そんな犬みたいなしゃべり方すんな。恥ずかしいだろう」


 と犬人族の門番。




 京子ちゃんは顔を真っ赤にして馬車まで戻ってきた。

 そして無言で僕の前に立つと、僕のほほをたたいてうずくまった。顔を両手で隠して。

 ミカエルをみると、大真面目に解説をしてくれた。はずかしいなら、なんで語尾に「わん」を付けた? ココとルルも「わん」なんて言ってなかったじゃん。

 それに、なんで僕ははたかれたのだろう。まあ、照れ隠しだと思うけどさ。しかたない。ここは許してあげよう。


「でもさソフィ、語尾のチェックだけだったってことはさ、獣人だって思われたってことじゃん? この耳、しっぽ、獣人なりきりセット、いけるんじゃないか?」


 と、商品化に自信を持つ僕。そういう問題じゃない、という雰囲気の一同。


「よし、正々堂々正面から行こうか。ケルベロス隊前へ。そのあとに馬車隊続け、威風堂々流せー。にゃんにゃんにゃがにゃがにゃんにゃん、にゃんにゃんにゃがにゃがにゃんにゃん……にゃーららにゃーらら……」


 再生装置もないので、威風堂々は口で。まあ、僕だけだが。途中で飽きたけどね。なんでキツネ耳で「にゃん」? って目で見られたし。


 御者台の横に座る京子ちゃんがまだうつむいているので励ますことにする。


「僕らはいま十六歳。中二病真っ盛りの設定なんだ」

「違うわよ。少なくとも私は違うわ。そもそも中二病は十四歳が真っ盛りなの。しかもなによ、その設定……」

「それに、この不治の病にかかった男を支えられるのは、実績から言って、京子ちゃん、君しかいない」


京子ちゃんは目を見開き、


「なんとなく納得したくないけど、わかったわ。任せて。また骨は拾ってあげる」

「いや、一緒に死んだじゃん。拾ってもらってないよね?」


 まあ、京子ちゃんが持ち直してよかった。




 街の門まで前進する。当然、街の門は閉められ、城壁の上から声がかけられる。


「お前達、どこのものだ? ここへは何をしに来た?」


 と。一応、犬人族扱いしてもらっているのか、門は閉められていても、あまり威圧的でない。


 僕は、馬車を降りて、門の近くまで行く。


「友人を訪ねに来たんだ。ココとルルという夫婦と、シャシャとシュシュとロロという子供達なんだ。この街にいるか?」


 街の一家族のことなんてわかるのかどうかわからないが、聞いてみた。城壁の上の門兵がざわついている。しばらく待つ。


「お前たちは、ココ隊長とルル様の何なんだ?」


 おお、ココ、隊長だったよ。


「僕らは、彼らと一緒にアリシア帝国を旅した仲なんだ」


 と、説明をすると、門が開いた。そこから出てくるちょっと格上っぽい兵士。


「私たちはあなた方を歓迎したいとは思う。しかしながら、ココ隊長もルル様もここにはいない。お二人は、第一砦でとらわれていて……」


 後半がだんだん小さくなり、「申し訳ない」と頭を下げた。


「こちらこそ突然の訪問なのに申し訳ありません。頭を上げてください。では、第一砦というのは、ここからどっちの方向にあるのでしょうか」


 頭を下げられてしまったので、丁寧に対応する。


「ここから西に行くと第二砦がある。しかしながら、そこもすでに猿人族が占拠している。そこからさらに西に行ったところに第一砦がある。ちなみに、補給線の関係で猿人族はこれ以上攻め込んでこれないのだと考えている」

「ありがとうございます。それでは、第一砦に行ってみます」

「あなた方八人だけでですか? その変わった大きな犬達がいるとしても、少なすぎませんか?」

「いいえ、私達は友人に会いたいだけです。大丈夫ですよ」


 と伝える。ケルベロスたちに西へ向きを変えるように言い、歩き出す。


「あの、私達……」


 と犬人族兵士が言うので、なにかな、と顔を向けると、


「なんでもありません。お気をつけて」


 と言って、門の中に下がっていった。




 西に向かって移動していく。

 二日ほどしたところで第二砦が見えてきた。

 僕は、スルーするつもりだったのだが、あの街を出てから、二キロほど後ろを五百ほどの兵が付いてきている。僕たちが止まると止まる。野宿をすると野宿をする。

 第二砦は猿人族が占拠しているから、僕たちだけならまあ、何とかしようと思ったけど、犬人族の兵五百を連れてスルーすると、挟撃されて大変なことになりかねない。


 「どうする?」と聞いても、うちのメンバーはあまり口を出してこない。アンディがいれば違ったのだが。かなでなんて安定の「付いて行きます」オーラを出しているし。


「どうするって言ったって、この流れなら、第二砦にもココとルルがいるかどうか聞いた方がいいんじゃないの?」


 と、京子ちゃん。


「そうだよね。行ってみるか、第二砦」


 そう言って、歩を進めた。第二砦に近づく前に、


「仮面をつけようか、もしかしたら、顔がわれているかもしれないし」


 と言って、皆で顔を隠す。これで、耳としっぽを見ればどう見ても犬人族だ。


 第二砦に近づいていく。すると、砦の城壁の上から声をかけられる。


「おーい。そこの犬人族達。何しにこんなところまで?」


 と声をかけてくるのは猿人族の一人だ。その周りの猿人族はにやにやしている。


「えっとー、友人を探しているんです。犬人族の。知りませんか?」


 と聞くと、


「この砦に何人も犬人族がいるけどな、俺らじゃ名前を聞いても顔もわからないんだ。入って探してみるかい」


 願ったり叶ったりだ。


「できるのなら、そうさせてほしいのですが」

「わかった。いま、門を開けてやるからな」


 少しずつ門が開いていく。


「入っていいぞ」


 と言うので、ケルベロスたちを前に進める。

 進んでいくと、砦の真ん中の広場に出た。当然、周りを囲まれている。城壁の上にも猿人族が百人近くいるだろうか。弓を構えている。広場では五百人近い猿人族に囲まれた。みな、手にクローを装着している。


「えっと、犬人族の人達はどこかな」


 と聞くと、


「バカめ。たった八人と犬っころが何匹かいたところで、何ができる。その馬車、中身は少ないだろうが、もらってやるよ」

「それはなんて言っているのかな?」

「殺す、って言っているんだ」

「確認だけど、僕たちを殺すって言ったのかな? 知っているかな? 人を殺すってことは、殺される覚悟もできているってことだよね。遠慮しなくていいかい?」


 猿人族のリーダーはふふんと鼻で笑って、「撃て」と言った。その瞬間、城壁の百人から弓が放たれる。しかし、僕が、


「ドライア」


 と、ドライアに声をかけると、城壁に沿って竜巻が生じ、弓がすべて吹き飛ばされる。


「さてと。この子達を犬っころって言ったな? そんなかわいいものかどうかやってみたら? 僕らも行くよ。ドライアは上をお願い。じゃあ、行くよ。よーいどん!」


 と合図をすると、僕とかなで、こはるが飛び出す。

 こはるは素手だがこぶしを当てるだけで猿人族が吹っ飛んでいく。

 ここは広いので、僕が刀、こはるは鎌を振りまわす。ミカエルとリリィは前線に立って、後ろで京子ちゃんとライラが薙刀をふるう。この四人は安定のフォーメーションだ。前衛が攻撃を止めては後衛が薙刀を突いていく。

 六頭のケルベロスは、それぞれ三つの頭でかみつくは踏みつけるわで猿人族達を蹂躙してく。

 ドライアは宙に飛び上がると、精霊を呼び出しての全方位斉射を行い、あっという間に城壁の猿人族を倒してしまう。

 ちなみに、僕ら三人も一撃一殺なので、ものすごいペースだ。さつきさんとの特訓があってよかった。

 とはいえ、ドライアにはかなわないけどね。

 残りも少なくなると、猿人族は戦意をなくしたようで、壁際に腰を落として震えている。


「じゃあ、僕らは行くね。友達いなかったみたいだし」


 と言って、反対の門から出ていく。


「あとは、後ろからくる獣人族の兵に任せよう。それにしても、あんな広場で戦っちゃ、猿人族のいいところが全然活かせないよ。もうちょっと考えればいいのに」


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