獣王共和国-1
一体なんなんだよ、「知らんけど」って。無責任な。といぶかしがりながら、
「獣王共和国に行こうと思うんだけど」
と言ってみる。
「何しに行くの?」
と、僕の顔を覗き込みながら京子ちゃん。
「様子を見にかな。陣中見舞いというか」
「私たち、猿人族? に狙われているよ? 危なくないの?」
「それには、作戦があるから大丈夫? じゃないかもしれないな」
「どっちなのよ。いずれにしても、これは獣王共和国内の問題でしょ? リーゼロッテお義母……お姉様も言っていたように、下手をすると内政干渉になるわよ」
「ばれなきゃいいんじゃない? 僕たちが関わったっていう」
「……」
「だってさ、やろうと思ったらこはるのドーンで終わるでしょ?」
「わらわはドラゴン族としてはやらんぞ」
「ほらな、まあ、なんとかなるって」
と言って、ジト目を避けるように僕はいつものように研究室に行く。
「ラナ、ルナ、あれ、できている?」
「はい、三タイプとも試作してみました。それぞれ直径一メートルの布型とし、四つ連ねて横断幕にしています」
ちょっと嫌な予感がするけど?
「見てもいい?」
と聞くと、ラナとルナが横断幕を広げる。それを見た僕は頭を抱える。
「だれ? 入れ知恵したの」
「アンドリュー殿下からこれがいいとお聞きしました」
「三枚とも?」
「三枚とも」
横断幕に書かれているのはいつもの「らいらい研参上!」だった。
「製品としては、無地の金属プレートにするけどさ、今回はあんまり僕らだってばれたくないから、ちょっと変えておいてほしい」
とお願いしておく。
「それからさ、大至急作ってほしいものがあるんだけど」
僕は、ラナとルナに近づいて小声で説明を行う。
「えっと、それ、結構難しくありません? 人数分ですよね」
「どのくらいかかりそう?」
「おそらく、まず染める必要があるので、すべて出来上がるのに急いでも一週間はかかると思います」
「わかった。それでいこう。よろしく頼むよ」
昼ご飯時。
「出発するのは大体十日後かな。それまでは好きにしていて」
「そんな遅くて大丈夫なの? ここから犬王国まで行くのだって、どれくらいかかるかわからないでしょ?」
「そうなんだけどね。どうしても必要なものを製作中なんだけど、それくらいまでできないみたいで」
「そんなに大事なものなんだ?」
「うん。まだ言えないけど、身の危険を回避するのに必要だと思う」
「じゃあ、仕方ないね。それまでこれまでと同じように遊んだり訓練したりしているわ」
「僕もそうするよ」
と言って、午後の特訓に行くことにする。
三日ぶりのさつきさんとの特訓だ。
「また猿どもに囲まれたらしいな」
「いえ、囲みに入ったというか」
こはるとかなでが目をそらす。
「それで、ちゃんと殴り倒したのか?」
「えっと、相手が長い爪を使ってきたので、なかなかそうは」
「まだまだ踏み込みの速度が足らんのだな。今日もきたえてやるわ」
と、さつきさんは腕をぐるぐる回した。さつきさんとの特訓で一番うまくなったのはヒールだと思う。
本日もみっちり五時間鍛えられた。
翌日から午前中も鍛えてもらう。特に研究室にいく必要もなくなってしまった。かなでもこはるもいやそうな顔をしたけど、付き合ってくれた。
十日が過ぎ、出発の準備を整える。
「みんな、ちょっと研究室に来てくれる?」
と言って、京子ちゃんをはじめ、皆を研究室に皆を連れていく。
「ラナ、ルナ、できている?」
「はい。できています」
そう言って部屋に現れるラナとルナ。その頭にあるもの。
「……? もしかして、それ、それ? つけるの?」
と、京子ちゃんが一歩引く。
「えー、かわいいじゃん」
は、リリィ。
「かわいいです」
と、ライラも同意する。
「でしょでしょ」
と、ラナは耳に手を当ててぴょこぴょこさせながら言う。
「みんなの分、こっちに用意しました」
と言いながらルナが出したのは、犬耳のカチューシャ。
「カチューシャだとわからないように、つけ毛で隠せるようになっています。グレイス様とミハエルはリアル耳も隠せるように、つけ毛を付けておきました。女性の皆様は、自前の髪で耳を隠せるかと思います」
「え、私、出ちゃうけど?」
ライラはツインテだからね。
「ツインテの場合は難しいです。おろしていただけたらと思います」
とルナが説明する。ライラは仕方なく、ツインテを下す。縦巻きは健在だが。
「髪が金髪の方は、キツネタイプにしました。銀髪のソフィは銀狼タイプです。それから、黒髪のフラン、茶髪のミハエル、赤髪のこはる、緑のドライアは犬タイプです」
と、ラナが説明する。
「しっぽは?」
とリリィが聞いてくるので。
「はい、これが新しい制服です」
といってこれまでと全く変わらないようなコートを皆に配る。そのうえで、
「この腰のところにしっぽがくっつくようになっています」
といって、得意げに髪と同じ色のしっぽを渡していく。
「ほんとだー。くっついたよ。これ磁石?」
とリリィが聞いてくる。
「そうだよ。かなり強力なやつだから、簡単には取れないと思う」
リリィが手を犬のようにして握り、腰を引いてポーズを決める。かわいいな、おい。
ライラも一緒にポーズをとっている。カメラがあったら残すのにな。
一方で、かなでとミカエル、こはるとドライアはまあいいか的な感じ。
京子ちゃんはちょっと恥ずかしそう。壁に向かって、「大丈夫、私」とつぶやいている。
「ちなみにですねー」
と、僕はちょっと調子に乗って言う。
「「じゃじゃん」」
とラナとルナが取り出したもの。
「猫耳タイプもありますー」
「「きゃー」」
は、リリィとライラ。
ついに壁に向かって座り込んだ京子ちゃん。僕は京子ちゃんの肩をたたいてこっちを振り向かせる。僕は京子ちゃんにグッと親指を立ててみせた。京子ちゃんは再び壁に向かって座り込んだまま「大丈夫大丈夫、大丈夫だから私」といっているけど。本当に大丈夫かな?
ちなみに、ラナとルナはエルフで、緑がかってはいるが金髪なので、キツネタイプを付けている。
「ところで、ラナとルナも作ったんだね」
「ええ。かわいいですよねー」
「これ、売り出していいですか?」
と僕に許可を求めてくる。
「いいと思うよ。子供にうけるかな。しっぽはベルトタイプでいいと思うけどね。髪の色に合わせたいなら受注生産になる?」
「こんな感じで違和感をなくすのなら、受注生産になると思いますが、子供のおもちゃくらいなら、多少色が違っても大丈夫ではないでしょうか」
「じゃあ、犬タイプ各種と猫タイプで作ってみてよ。後の動物は多分……あー」
と僕は大事なことを忘れていた。
「バニー」
というと、壁と話をしていた京子ちゃんが立ち上がって、
「それだけは勘弁してください」
と頭を下げた。
「いや、商品ならいいんじゃない?」
と僕は何とか商品化は納得してもらうべく、聞いてみる。
「私のところに持ってこないでください」
と京子ちゃん。京子ちゃんのところにもっていかないならいいんだな。
「えー、かわいいじゃん、うさ耳もうさしっぽも」
とリリィ。
「今回は残念だけど、帰ってくるまでに作っといてもらおうか。よろしくね、ラナ、ルナ。あ、ちなみに男用は絶対にいらないから。誰も得しないから」
と念を押しておいた。この世界にはバニースーツはない。ビーチで水着は着ていたのにね。一応情報をいれるかな。
「ラナ、ルナ、この世にはうさ耳とうさしっぽにパーフェクトにマッチする服があってね、その名もバニースー「バシッ」」
振り向くと、僕の後頭部をはたいた京子ちゃん。まだなにも説明していないのに。
「えっと、一応聞くけどさ」
と、復活しかけた銀狼さん。
「この格好で犬王国に行けば、人とはばれない、っていうこと、じゃないよね!?」
「え? その通りだけど? どっからどうみても犬人族じゃん!」
「で、そっちの猫耳が猫人族だと……」
「そうだよ!? これでいけば、僕らだってばれないじゃん!?」
京子ちゃんが顔を両手で隠してしゃがみこんでしまった。ちょうど低い位置にきた銀狼さんの耳をモフモフすると、なかなかいい手触り。
「ラナ、ルナ、手触りも本格的だな」
といいながら、モフモフする。
「「当然です」」
と、得意げなラナとルナ。モフモフする僕の手をピシッとはたく京子ちゃん。リリィとライラはお互いをモフモフしあっていた。それにしても、恥ずかしがる銀狼さんは最高にかわいい。いいもの見られたわ。
「それじゃ、このまま行こうか」
というと、京子ちゃんは無言でカチューシャもしっぽも外していた。結局はみんな外した、ラナ、ルナ以外。ラナとルナは結局僕らと同じコートも作り、しっぽもつけていた。ちなみに彼女らはエルフで、若く見えても僕らより年上だ。
あと、余談だが、この商品を販売するにあたり、ラナとルナはキツネ耳としっぽを付けたまま街を歩き回った。おかげではやった。子供たちに大人気だった。ちなみに大人の女性に人気だったのはバニーだった。わかる人にはわかるんだな。