ローゼンシュタインー7
僕はある程度営業が終わったので、らいらい研のもとへ行く。
今日ばかりは、黒薔薇のジェシカたちも同席を許されている。後で聞いたら、メイド、つまり先輩方の視線が怖かったとのこと。アンディの隣に座る。
「相変わらず忙しそうだな」
「うん。しばらく何も作っていなかったからね。そろそろ何かをと思ってさ」
「このエールを冷やす装置、すごく面白いな。温度で味がこんなに変わるとは思ってなかったし、何より、この冷えたエールを飲めるのがいい」
と言って、エールをあおっている。
「あれ、エール飲めるの?」
「何言っているんだ。もう成人しているじゃないか。ボールズも飲んでいるぞ。クララ達三人はすでにワインの瓶を空けているしな」
といって、クララたちを見ると、
「ワインも温度で味が変わるとは知りませんでした」
と。いや、保存の適温が十四度前後なのだが。まあ、言わないでおこう。
「そうだよね、ワインも少し冷えていた方がおいしいよね」
と言っておく。
と、ふと横を見ると、京子ちゃんとリリィも飲んでいた。京子ちゃんは昔からワインが好きだったし、ようやく飲めるようになってよかったねって思う。
ライラはまだ未成年だ。かなでとミカエルは果汁を飲んでいた。まじめだなぁ。きっと従者がどうのとか言うんだろうな。
「しばらくこっちにいられるんでしょ?」
「ああ、二週間な。グレイスは普段何をしていたんだ?」
「今日に間に合わせるための冷蔵庫開発と、午後はこはるのお母さんのさつきさんに特訓を付けてもらっていたよ。でもせっかくだから、この二週間はアンディたちと一緒に過ごそうと思うけど?」
「そうしてくれると嬉しい。特に、全員がそろうのもめったにないから、冒険者としての活動もしたいしな」
「よし、プリン食べようか」
と京子ちゃん。
「手伝います」
とミカエル。
「僕は、ちょっと、母上とシャルロッテ様にプリン持って行ってきますね」
「あ、いいよ。私も行く」
と京子ちゃん。二人で持っていくことにした。
母上の部屋へ行き、ノックをする。
「グレイスです」
「ソフィリアです」
と言うと入室を許される。京子ちゃんと二人で入る。母上たちは仮面をしていない。どう見ても二十歳そこそこ。
「プリンを持ってきました」
と、京子ちゃんがテーブルにプリンの乗ったトレーを置く。
「ありがとう」
と言って食べる母上とシャルロッテ様。
「うまいな」
「おいしいわね」
「それと、冷えている」
と、喜んでもらった。プリンを食べ終わったのを見て、皿を下げていると、
「お前たちはいつ結婚するんだ?」
と母上。僕と京子ちゃんが固まっていると、
「私ももう、五十半ばを過ぎた」
その容姿でいわれても説得力ないけどね。
「そろそろ死んでしまうかもしれない。孫がみたいなー」
とわざとらしく遠くを見る。京子ちゃんが赤くなっているので、
「いえ、僕は二十歳を過ぎるまではと思っているのですが」
「そしたら六十を過ぎてしまうではないか。シャルも四十を超えるぞ?」
「その容姿で言われても」
「そんなのわからないじゃないか」
「そうよ、孝行したくなっても親はいないかもしれないのよ」
とシャルロッテ様は笑っている。
「この前までアリシア帝国に行ってきましたが、母上たちのステージを見たいって言っていた人がいましたよ。まだまだ現役でしょうに」
と言うと、母上はふふんと鼻を鳴らし、シャルロッテ様は
「そうよー」
と得意げな顔をした。
「何かあったら呼んでくださいね」
と言って退出した。食堂までの帰り道、京子ちゃんと手をつないだ。
食堂に戻ると、国王様たちもプリンを食べており、そうしてしばらくしてお開きとなった。
翌日からは、午前中は浜辺へ行ったり街へ繰り出したりして遊び、午後は特訓をした。なぜか皆、黒薔薇の方へ行った。ボールズ、お前はこっち側だろうに。
夜は話をしたり、ボードゲームをしたり、楽器演奏やダンスをしたりと楽しんだ。
アンディたちがいられる最後の三日間。僕たちは、北の森に行くこととした。行きに一日、森の探索に一日、帰りに一日だ。ほぼほぼ遊びに行くものなので、気楽だ。
行き掛けにローゼンシュタインの冒険者ギルドへ寄り、常設依頼があることを確認。それから街をでる。
メンバーは、僕の方が京子ちゃん、かなで、ミカエル、リリィ、ライラ、こはるにドライア。
アンディの方がアンディとボールズ、クララにケイトにオリビア。それとジェシカにベティにビビアン。総勢十六名。らいらい研もおおきくなったなー。
目標は、ホーンラビット等のホーンを人数分以上という軽いもの。冒険者として仕事をした、というのが、重要。それだけでいい。
ちょっと人数が多かったので、ベッド八台設置の馬車をもう一つ用意し、三台編成で森に向かう。
こはるは相変わらずケルビーに乗る。ケルビーもこはるの重さにすっかり慣れたようだ。
三台の馬車はすべてケルベロスが引く。王国の旗を掲げれば何でもありってことがわかってから、気にしなくなった。今回はマイリスブルグの旗を掲げて街を出る。
アンディが冷たい目をしていたが、国の力を示せていいじゃないか。というと、ケルベロスはアリシアの皇子、皇女しか呼べないじゃん、というので、アンディの婚約者が呼べるじゃん、と言うと、お前もな。と返される。結局はオリビアとライラが頬を染めるだけの無意味な言い合いだった。
一日中馬車を走らせて、北の森の端につく。この日はここでキャンプ。食材は持ち込み。明日は明日狩ったもので料理をする予定。翌日の予定を話し合う。
「まあ、十六人もいるし、あんまり困らないと思うけど、北に十キロくらい言ったところに開けたところがあるから、そこでお昼を食べて、帰ってくる感じ?」
「そうだな、それくらいがいいよな。ホーン集まるだろうか」
「まあ、そこでその周囲を探索すればいいんじゃない?」
「そうしようか」
「それで、とりあえず、歩く順番なんだけど、黒薔薇に先行させる?」
「僕とボールズを先頭に、その後ろに黒薔薇。真ん中に後衛隊、最後にグレイスたちでどうだろう」
「それでいいよ。道をずれそうだったら、後ろから指示するから」
と、あらかた打合せが終わったところで、解散。それぞれの馬車に分かれて寝る。僕たちの八人はもうちょっと打ち合わせる。
「魔法銃は出さない方がいいよね。じゃあ、おいていく?」
とリリィ。
「このあたりの魔獣はそこまでじゃないから、大丈夫だと思うけどね。いざというときのために持っていた方がいいと思うよ。出さなければいいだけだし」
と僕。
「グレイス達は一番後ろでしょ? 私は?」
「ライラとドライアは真ん中の後衛隊と一緒に。リリィはその後ろ。最後尾に僕とミハエルとこはるで、その前にフランとソフィかな。と、思ったけど、フランとミハエルは交代で。フランは僕とこはると最後尾ね」
ミカエルには京子ちゃんを守るという役割があるからね。
話がまとまったところで、寝た。