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ローゼンシュタインー6

 次の日から、午前中にはなぜかラナとルナのほか、ガンツとタンツ、ファレンが集まるようになった。打合せと称しているが、朝から飲める可能性があるからだろう。

 だが、甘いな。もう温度の事はほぼほぼ片付いた。後は冷蔵庫本体だ。ファレンは、均一にガラス管を作れるようになっており、黙々と温度計を仕上げていっている。

 ガンツとタンツは、冷蔵庫の側面に入れる薄型水筒の形状をラナとルナと話し合っている。この水筒状のものの中に入れるのは結局油になった。

 冷却魔法陣はかなり小型のものにして、連続的に冷やすようにする。小型化したことにより、電池の消費量を抑えることが出来た。

 魔法陣は後ろと左右の水筒に張り付ける。左右は予備的なものとし、急速に冷やしたいとき、暑いときなどにスイッチを入れることにする。

 この電池とスイッチの位置についても皆で話し合った。

 とりあえず実用的な基準としたかったので、横幅六十センチ、奥行六十センチ、高さ百五十センチとした。ちょっと大きいかな。

 中に入れる金属の箱は薄型水筒と一体化させた。また、棚を付けられるようにもした。


 一か月ほどして試作一号が完成する。もう初夏になってしまった。



「それじゃ、今日の宿題ね。今の気温が二十五度くらい。で、スイッチ一つを入れるとどのくらいで何度まで下がって、何度くらいで安定するかメモしておいてね」


 と言って、今日も宿題を出した。




 昼食のために食堂へ行く。エール冷却器はすでに商品レベルにまで開発が進み、この食堂で試験運用されている。主にさつきさんに。最近はワインまで冷やし始めた。まあいいけど。それでも僕の特訓をしてくれるのだからすごい。酔わないのかな? といつも思ってしまう。


 そこへ兄上がやってくる。


「グレイス、二週間後に父上が国王様達を連れてくるそうだ。途中でグリュンデールのパブロ様とシャルロッテ様、マディソン前公爵とペネロープ様も来られるらしい。なあ、これ、どう対応したらいい?」


 と悩む兄上。さすがにちょっと大物が来すぎだよね。


「あと、お前に手紙だ。アンドリュー殿下だから、同じ件だろう」


 と言って、手紙を渡してくる。そのとおりだった。アンディと婚約者一同も来ると。つまり、らいらい研が集まることになる。あとでジェシカたちにも教えてやろう。


「ところでグレイス君」


 と声をかけてくるのは京子ちゃん。


「なに?」

「冷蔵庫の開発状況、どう?」

「今日、試作一号機の試運転。今日の室温が二十五度くらいだから、下がりすぎなければ成功かな」

「じゃあさ、あと二週間で冷蔵庫がなんとかなりそうだったら、あれつくっちゃう?」


 あれとは、こういう時の定番だ。


「本当に? できるの?」

「冷やすことができればできると思っているんだけどね、特に夏だし」

「じゃあ、頑張ってみるよ」


 と楽しみにすることにする。




 翌日、ラナとルナに結果を聞く。


「昨日の室温はほぼ二十五度でした。スイッチをいれたあと、少しずつ冷蔵庫内の温度が下がり始め、五時間後に八度くらいで横ばいになりました。そのあと、夜になって、少し気温が下がったことにより、五度まで下がって、今に至ります」


 という報告。意外とちょうどいいんじゃないかな。


「じゃあ、今日は右のスイッチも入れてみようか」


 と言ってスイッチを入れる。左右はほぼ調節用なので、超小型の魔法陣だ。ラナとルナにはまた様子を見ておいてもらう。


「それとガンツとタンツ、申し訳ないけど、試作機を増やしてくれる? 二週間で四から五台くらいできたらうれしいけど」


 というとガンツとタンツは苦い顔をする。


「がんばってみますが、最近、ここでのエール実証試験がないのでちょっと力がでません」


 と、ふざけたことを言ってきた。もちろん冗談なのはわかっている。


「まあ、エール冷却装置をあれだけ仕上げてくれたんだから、たまにはいいよ。僕につけといて」


 と言うと、ガンツとタンツだけではなく、ラナとルナ、ファレンまで喜んでいる。


「ちゃんと実験も込みだよ。ワインの瓶も買ってきて、冷蔵庫でちゃんと冷えるか確認してね。冷えたことを飲んで確認してもいいからさ」


 と、言っておく。今日は、ガンツとタンツ、それからファレンが買い出しに出かけた。ワインも買うとなると、人手がいるのだろう。




 結局彼らは二週間で六台の冷蔵庫を作った。

 しかも、ワインの保存の適した温度が十四度前後だと教えると、その温度で保存できるように三台を調整した。そのモチベーションの高さは一体。


 試作一号とワイン用一台をこの研究室に置き、残りの五台を食堂に運んだ。当然ワイン用はワインの瓶を詰めた。普通の冷蔵庫については、一台がプリン用。残りの二台が肉と魚用になっている。エールは冷却器があるから冷やす必要なし。


 準備万端なところを確認したところで、夕方近くにお客様方が到着した。玄関で出迎えの挨拶をした後、恒例のお風呂に入ってもらい、夕食を食堂でとる。


 このローゼンシュタインでの滞在については、国王からも前公爵からも、気を使わないように言われている。やれることは自分でやると。よって、メイドは控えているが、ほぼほぼ自分たちで身の回りのことをしていく。本来は、そっちの方が気が休まるそうだ。


 皆が食堂に集まった。しかしながら、仮面をかぶっている母上とシャルロッテ様だけは別室にこもっている。こればかりは残念だが、仕方ない。二人で楽しくやっているだろう。それ以外の仮面をかぶっているときは、皆で行動できるはず。後でメイドに冷えたワインでも持って行ってもらおう。エールと冷却装置は運び込んである。

 

 兄上が訪問のお礼を改めて伝え、来てもらった理由について僕に説明するよう促す。


「今日は、気を使わなくてもよいというお言葉に甘えまして、焼肉に焼魚としました。目の前のコンロは皆様ご存じだと思いますが、その鉄板の上で肉も魚も焼いて楽しんでください。さて、今日来ていただいたのは、その横にある、金属の小さい台についてです。これは、結論から申しますと、エールなどの飲み物を冷やす装置です。やってみましょう」


 と言って、僕はエールをジョッキにつぐ。


「当然室温なのでぬるいですよね。これではあまりおいしくありません。風呂上がりですし、冷たいエールが飲みたいです。そこで、この台に置いて、スイッチを押してください。およそ五秒程度でちょうどいい温度まで冷えると思います。好みによって、押す長さを変えていただければと思います」


 と言って、冷やしたエールを国王様に渡す。


「いかがでしょうか?」


 と聞くと、国王様は一口飲んだかと思うと目を見開いて、一気に飲み干してしまった。


「うまい。やっぱりエールは冷えている方がうまいな!」


 と言う。僕は、


「それでは、皆さん食事を楽しんでください。なお、後ろに大きい箱がありますが、右二つはワインが適温に冷えております。ワインをお求めの方はメイドに申し付けてくれれば持ってきますので飲んでくださいね」


 と言うと、食事が始まる。皆、冷却装置に夢中になっていたが、やっぱり食べながらの方がおいしい。肉も魚も焼かれていく。そうするとエールも進む。お酒の飲めない人も果汁を冷やして飲んでいた。


 しばらくすると、国王様がやってくる。


「あのワインが入っているという箱は何なんだ」


 と聞いてくるので、冷蔵庫の前に連れていき、


「先ほどのエールを冷やす装置を使って、箱の中を冷やしています。左の三つは、食材を保存するため、エールの適温とほぼ同じ温度になっています。右の二つは左の三つよりも少し温度が高くなっています。それはワインの保存の適温が少し高いためです」

「要は、先のエールを冷やす装置もこの冷蔵庫も、冷却の魔法陣を使っているということか?」

「その通りです。夏でも食材を保存できますし、エールもワインもおいしく飲めます」

「これらは譲ってもらえるのか?」

「これも先のコンロのように保護していただきたいので、まずは国王様にと思っておりますが」


 とニヤリとする。国王様もニヤリとして


「わかった。よろしく頼む」


 というので、


「どのくらいここに滞在されますか?」


 と聞くと、


「二週間の予定だ」

「それでしたら、何台か作らせていただきますので、ワイン用、冷蔵用と用意します」


 その話を聞いていたパブロ様も二週間滞在するから、と言ってきた。すまん、ガンツ、タンツ、ファレン。よろしく頼むよ。ついでマディソン前公爵がやってくる。


「これはどこで量産するんだ?」


 と商売の話を。


「私としては、物が大きいだけに、パーツをローゼンシュタインで、それをグリュンデールで組み立てての販売がいいと思っています。


「そうか。では、こちらの工場の拡大が必要だな」

「できれば、木材やコルクなどの仕入れもお願いいます」

「わかった。それでは、試作品を何台か頼む」


 と言って、前公爵も去っていく。父上にも一応確認をしておく。しかしながら父上は、引退した身なのだからテイラー兄上と僕に任せると言ってきた。僕は、前公爵はまだ現役で活躍するつもりですよ、と言っておいた。


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