表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/376

ローゼンシュタインー4

 翌日、研究室に行って実験結果を聞く。部屋の隅にある空になった樽は見なかったことにする。


「かなり難しい実験でした。結論から言いますと、グラスについだお湯をエールの適温にするためには、十五センチを一回、十センチを一回、五センチを一回、と三回行う必要がありました。ちなみに五センチを使うと、十四回で飲み頃になりました。十センチを使った場合、三回では物足りず、四回では冷えすぎて凍ってしまいそうでした。十五センチを二回使ったら凍りました。二十センチは一回で凍らないまでも冷えすぎました」


 とラナが報告する。


「ジョッキを使った場合は、回数が約倍になりました。ちなみに、ジョッキはグラス二杯分の容量です」


 とルナ。


「なるほど。サイズ依存か。でも難しいな。なあ、どうやって今の温度を知ったらいいんだ? 温度を測る器具はあるのか?」


 そういえば温度計を見たことがない。


「え、それ必要です? ようは、今日はどのサイズを使ったらいいか、ってことですよね」


 とラナ。


「その通りだけど」

「そんなのは、店を開ける前に店主がチェックをすればいいだけです。様々なサイズの魔法陣を用意して切り替えればいいのではないでしょうか」

「それだと、魔法陣をたくさん作らないといけなくなっちゃうよ、一台作るのに何種類の魔法陣を用意したらいいか……」

「それなら、大きめの魔法陣にしておいて、魔力供給量を調整したらいかがでしょうか」


 なるほど。


「電池を使う方式にして、魔力の供給時間を日によって、店主の腕によって変えるわけだ」


 すると、やっぱり実験か。昨日の実験が無駄になったが仕方がない。

 ちなみに、電池式にしたのは、魔力を吸収する魔法陣を使うと、酔っぱらいは全魔力を使って倒れるまで飲むからだ。あれ、魔力切れで倒れた方が、酔っぱらって倒れるより被害が少ないか?


「ラナ、ルナ、悪いけど、もう一回エールを買ってきて」


 と言うと、ラナもルナも走って出て行った。今回の場合はコンロと一緒だ。冷やす魔法陣と電池をスイッチを間に挟んでつなぐ。

 グラスにお湯を入れて魔法陣の上に置き、スイッチを入れる。すると、スイッチを入れている間、少しずつ冷えていく。

 おおー。なるほどね。この方が面白いかもしれないな。

 そうこうしていると、ラナとルナが帰ってくる。今日はジョッキにいきなりついでスタンバイしている。僕は使い方を説明して、やってみてもらう。


「この魔法陣の上にジョッキを置いて、で、このスイッチを好きなだけ、というか、好みの温度になるまで押して」


 と言うと、ラナがやってみる。だんだん冷えていくのがわかるのか、興味津々な目で見ている。


「ラナ、そろそろ冷えすぎますよ」


 と言うルナの声でスイッチを離す。ジョッキをあおるラナ。


「おいしいです」


 と言う感想を待たずにルナがスイッチを押している。ルナも上手にスイッチを止め、飲み干している。


「この方式は面白いです。各テーブルに置いておけば、お客が自分で好きな温度に冷やすことができます。そうすれば、店主の仕事も減ります。お客も楽しめるのではないでしょうか。ゆっくり飲みたい人は、だんだん温まってしまいますが、これがあれば、再度冷やすこともできますし」


 とルナ。ラナは次の一杯をのんでいる。


「私もこの方式の方がいいと思います。外の気温によっては、冷やし方が個人で違うかもしれません」


 二人は飲みながら交互に意見を言ってくれる。

 仕方ない。今日はお土産がある。ローゼンシュタイン特製の干し魚だ。それをラナとルナに見せると飛びついた。猫のようだ。僕は猫耳を幻視した。

 二人は、コンロを持ち出して魚をあぶりつつ、ジョッキでエールを飲んでいる。その光景を見て、


「そうやって、自分たちでコンロで魚をあぶって、自分たちでエールを冷やす、そんな店も楽しそうだな」


 というと、ルナとラナが目を輝かせて、


「それです! 焼肉焼魚屋をやりましょう。客は自分たちで肉や魚、野菜を焼く。店は食材を出すだけです!」


 そう言って、また二人の世界に入っていく。店をどうするかの相談らしい。


 そうしていると来客があった。ガンツだ。


「おーい、頼まれたものを持ってきたぞ」


 と言って入ってくる。僕は申しわけなく思いながら、


「ごめん、ガンツ、それ、ちょっと後回しにしてもらえるかな」


 と言うと、ガンツは奥で飲みまくっている二人に注目する。


「あれは何をやっているんだ?」


 と、エールから目が離せないようだ。


「えっとね、店を開く構想を練っているんだけど、ちょっと聞いてくれるかな」


 とガンツを二人のところまで連れていく。


「ラナ、ルナ、ガンツにその冷却器を作ってもらいたいから、説明してもらっていい?」


 というと、ラナはジョッキをもってきて、


「ジョッキにエールをつぐでしょー、このまま飲んれもいいけど、冷やした方がおいしいよねー、で、ここにジョッキを置きまーす」


 ぜったい出来上がってるな。


「で、このスイッチを押すとれすねー、みるみる冷えていきまーす」


 ガンツは目が点になっている。多分、ラナにも装置にもだ。


「はい、飲み頃になりましたー。飲んでくださいー」


 とガンツに渡す。ガンツは、一気に飲み干す。


「うまい! エールはやっぱり冷えている方がおいしいよな。俺にもやらせてくれ!」


 と言ってジョッキにエールをついで自分でスイッチを押す。


「押しすぎると凍ってしまうのれ気を付けてくらさいねー」


 とルナが注意する。ガンツはまた一気に飲み干すと、


「これを作るのか? それで……」


 と隣で猫化している二人を見る。


「隣で魚をあぶって食べると?」


 と、ガンツは理解したようだ。


「最高じゃないか」


 と言って、テーブルに置いてあった魚をつかんであぶり始める。もちろんエールも冷やしては飲んでいる。


「ということで、このエール冷却器を作ってほしいから、よろしくね。コストは抑えて、それから盗難された時のことを考えて魔法陣の情報漏洩防止策もお願い。あと、安全性を考えた取説もね」


 と言うと、


「わかった」


 とだけ返事が帰ってきた。

 僕は手ごたえをつかんだので、兄上を呼びに行く。


「兄上、もうすぐお昼というところで申し訳ないのですが、ちょっとご足労いただいてもよろしいでしょうか」

「なんだいいったい」

「ちょっと商品開発について、父上と国王様に知財関係の話を通しておきたく、その前に兄上に見ていただきたいと考えております」

「わかった。行こう」


 と言って兄上は研究室までついてきてくれた。


 研究室に入る。と兄上はぎょっとする。部屋の中は魚を焼くにおいで充満しているし、そこにいるのは、猫が二匹にクマが一匹だ。いや、そう見えるだけだが。ちょっとラナもルナも今日は使い物にならなさそうなので僕自ら説明する。


「兄上、エールをよくお飲みになられると思いますが、この季節から夏にかけては暖かくなってしまっておいしくないですよね。そこでこの装置です。このように、エールをついで、この魔法陣の上に置き、好きな時間だけ電池から魔力を供給することで、お好みの温度に冷えます」


 と言って、実践する。冷えたエールを兄上に渡して「どうぞ」という。兄上はエールを飲み干して、


「なんだ、この装置は、ただ単に冷やす、という機能だろうけれど、すごいじゃないか。これを売り出すのか?」

「と言うか、見ての通り、自分で肉や魚を焼き、自分でエールを冷やす、セミセルフの店を作ろうかと。それで、このエールを冷やす装置の知財について、父上と国王様にこの商品について保護してもらおうかと思っています。それで、兄上に、父上あてに手紙を書いていただきたいのです」


 と兄上にお願いすると、


「わかった。すぐに書こう」


 と約束してくれた。魚をむしりながら。


「まだ、魔法陣も何もかもむき出しの状態なので、この後、ガンツに商品として形を作ってもらいます。なので、まだちょっと先の話になりますけど。よろしくお願いします」


 兄上は仕事があるので名残惜しそうに出ていく。去り際に、


「ガンツ、作ったら食堂に配備しろ」


 と命令して。

 僕も研究室を後にする。そろそろ昼だ。


「飲むのはほどほどにしておいて構想をまとめておいてね」


 とルナとラナに宿題を出しておく。聞いてるかな?


 食堂では、皆で集まって食事をする。そこで、研究室での出来事をポロリと話してしまった。反応したのはさつきさん。飛んで行った。おい、午後の特訓大丈夫だろうな。さつきさんはちゃんと特訓をしてくれたものの、終わったら風呂に入ってまた研究室へ飛んで行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ