ローゼンシュタインー3
食堂にみんなで集まってご飯を食べる。今日の午前はどうしたの? と聞くと、みんなで街に出て買い物をしてきたとのこと。しばらく旅が続いたからな。
さてと、午後の特訓が始まる。僕の二か月の目標は、さつきさんにヒールを使わせること。今は全く無理だけど、そのうち使わないといけないほど追い込みたいなと。とはいえ、今日もぼこぼこにされた五時間だった。
翌日、研究室に行く。集まった素材はやはり、木材、コルク、綿だった。とりあえず、木で箱を作って密閉されるように蓋もつくる。その内側にコルクを貼る。
「柔らかい伸びる素材って、見たことある?」
「南の方にゴムの木というものがあり、その樹液がそんな感じに固まったかと記憶にあります。それをとりよせますか?」
「取り寄せられるの? 南の方ってことはもしかして、獣王共和国?」
「はいそうです。取り寄せられるかはちょっとわかりません」
「じゃあ、今はいいかな。あんまりあの大陸にかかわりたくない」
きっちり閉まるよう、蓋側のコルクを調整すればいいだろう。さて、午前も終わろうとしたときに、皿を二つ持ってきて、それぞれに五センチくらいの氷を魔法で出す。その一方を箱の中に。一方を外においたままにする。
「じゃあ、今日の宿題ね。氷が解けるまでの時間を計っておいて。中も外もね」
といって今日の作業は終了する。
午後は相変わらず。
日があけて、今日も研究室へいく。
「外の氷が解けるまでは一時間、中は三時間でした」
ふむふむ。なかなか保温できそうだな。
「ちょっとガンツを呼んできてくれる?」
というと、ラナが呼びに行く。
「何か用か?」
と聞いてくるので、
「この箱の内側に薄い金属を張りたいんだけど」
とお願いする。
「どのくらいの厚さで?強度は?」
と聞くので、
「薄い方がいいけど、ふにゃふにゃなのも困る」
というと、
「わかった」
と言って、サイズだけ計って出て行った。
僕は大事な開発に取り掛かる。冷却する魔法陣だ。炎の魔法陣がガスに熱を加えるのだから、単純に熱を取り除くことだってできるだろうと考えた。後は、イメージとそれで発動する魔法陣の複写だ。
「ラナ、ルナ、ちょっとエールを樽で買ってきて」
と、お願いすると、二人は大急ぎで飛び出した。その間、冷蔵庫とは別の方法も検討する。確か、空気清浄魔法はにおいの素となるものを空気から取り除いた。炎魔法は、ガスに熱を与えた。この二つの魔法陣に、取り除く、と、熱、が入っているので、その部分を抽出して、魔法陣を書いていく。それに、魔力供給魔法陣をつなげておく。
二人が樽を抱えてやってきた。
グラスも二つ持ってきてもらう。樽からグラスにエールをつぐ。うん。室温だ。
片方のグラスをさっき書いた魔法陣の上において、魔法を発動させる。
僕はラナに目配せをして、飲んで、と頼む。ラナは、両方のグラスを右手と左手でつかむ。つかんだ瞬間、目が見開かれた。あれ? 成功しちゃったかな。ラナは、魔法陣の上にあった方を飲み干し、室温の方はちょっと口に触れただけでやめた。
「冷えてた?」
と聞くと。
「はい。おいしかったです」
と笑みをうかべながら、グラスにエールをついでいる。冷えたかどうかを聞いたのに、おいしかったと。まあ、同義か。
「もう一度やってみるね」
と言って魔法陣にグラスを置いて発動させる。今度はルナがグラスを奪うようにとる。そして飲み干す。
「ぷはぁ」
と。おい。仕事中だ。
と、僕はここで気づく。
「ねえ、冷蔵庫、いらなくない?」
「飲む前のエールを冷やすという一点については、このようにすればいいだけなので、冷蔵庫はいらないと思います」
と言って、ラナはグラスについだエールを冷やして見せる。
「そうですね。これはこれですごいですよ、このようにお店で冷やせばすごく喜ばれると思います」
と言ってルナがエールを冷やす。
「ですが、このままでいいのかどうか、耐久性も見ないとだめですね」
と言ってラナが冷やす。
「ちょっとサイズを変えてみましょうか」
と言ってジョッキにエールをついでルナが冷やす。
「なるほど、大きさも重要です。ルナは賢いですね」
とジョッキを取り出して同じように冷やすラナ。
「ん? やっぱりジョッキにするとちょっと冷えが落ちますね。もう一度やってみましょう」
とルナ。
「本当ですね、再現性の検証が必要です」
とラナ。
「ちょっとまてー」
と僕。
「え、ラナの方が一杯おおいですよ」
とルナ。
「いや、そうじゃなくて」
ルナが恨めしそうな顔で見るので、
「じゃあ、ルナいいよ、一杯だけね」
とあきらめたようにいうと、
「ラナがジョッキで飲んだ回数はルナの方が多いです」
といい出す。ちょっとため息をついて、
「そろそろ落ち着こうか」
という。まあ、よっぱらいに落ち着け、というのも無理な話か。
「わかった。ちょっと飲んでいていいから、僕はあっちで作業するからね」
と言って、その場を離れる。二人はいろいろと話しながら飲み始めた。
僕は、同じ魔法陣をサイズを五センチから二十センチまで五センチ刻みで四つ用意した。そして、温水の出る魔法具も用意した。
「おーいお二人、ちょっと宿題だぞ」
と言って二人を呼ぶ。
「この温水の魔道具からは風呂水くらいの温度の水が出る。この水をグラスやジョッキについで、これらの魔法陣を試してほしい。この風呂水と同じ温度の水が、どの魔法陣で何回冷やすと飲み頃のエールと同じ温度になるの知りたい。ちなみに、今使っていた魔法陣のサイズは十センチくらいだけど、グラスがちょうどよかった? ジョッキがちょうどよかった?」
「グラスがちょうどよかったれす」
おい、呂律。
「じゃあ、よろしく頼むよ。余裕があったら、グラスとジョッキの容量も調べておいてね」
多分だけど、僕の予想なら、今の気温が十五度くらいなので、グラス約二百ccが五度に冷える。つまり、十センチの魔法陣で二百ccを十度下げる。そうなるかなー。と研究室を出た。