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魔法と技術とそして猫ー1

 僕たちは、スクスクと育っていった。

 理想像をのせた魔力ぐるぐるによって多分普通の子供達より成長が速いと思う。それに身体能力も高いと思う。

 生まれたのが春で今は冬。あと数か月で一歳になる。


 とはいえ、あまり一歳になりたくないのは、京子ちゃんがあくまでも、というか、なぜか王城ではなくてローゼンシュタインへの里帰り出産なので、実家であるグリュンデールに帰ってしまうのだ。流石に寂しい。

 仕方ないことなので、それまでは揃って成長していく。



 生まれてから数か月で寝返り、うつ伏せから頭を上げるなどできるようになり、それからは、転がるところから始まり、匍匐前進、ハイハイと移動する力をつけていった。

 初めは喜んでいたおかあちゃんやメイドたちだが、四人揃っててんでバラバラに動かれると大変だったようだ。こっちは気にしないけど。

 その後、つかまり立ちからついには歩けるようになって、今に至る。ついでに、言葉は完全理解だ。ただ、体の構造上、しゃべる方はまだカタコトだ。それに怪しまれるのも嫌だから、単語数は減らしているし、二語文はまだ早い。


 そんな時に、大きな課題がやってくる。

 いや、僕も頑張っているんだけど、無意識に出ちゃうことがあるんだよね。

 メイドさんにはほんとに謝る。僕も早くできるようになろうと思っている。

 つまりは、トイレトレーニングだ。初めはこっちの世界でもおまるから始まったのだが、だいぶできるようになった今日、トイレに初めて連れて行かれた。そこで見たものは……


 トイレがあるよ! トイレ!

 僕はびっくりだ。何を当たり前のように、って思うかもしれないが、トイレがあった。あの、洋式トイレ。座るタイプ。陶器でできている。後ろに水のタンク。形が違うけど、前世のトイレとほぼほぼ機能は同じだろう。トイレに座って用を足し、後ろのタンクから水を流すのだ。きっと。

 僕が目を見開いて固まっていると、メイドさんは便座に子供用の便座をのっける。固まっている僕のズボンとパンツをずりっと下げて、脱がせてしまう。で、僕は持ち上げられてそこに座らせられる。僕は考え込んでしまって、出るものが出ない。

 それを見て、メイドさんは、


「どうかな、出るかな、頑張ってみようー。ひっひっふー」


 なんて言っている。

 アホなメイド発言に我に帰った僕は、なんとか用を足すことができた。


「すごいでちゅねー、よくできましたねー」


 なんてメイドさんが褒めてくれる。

 もしかして、ウォシュレットも? って思ったけど、流石にそれはなさそう。

 あ、ちなみに、これまでもお尻をふくトイレットペーパーはないらしく、肌触りの悪くない布でふかれる。こういうの、洗うの大変だろうに。

 って思っていたけど、ここで疑問が解決される。っていうか、また僕は固まることになる。


 まず、メイドさんは、僕のお尻をふいた汚れた布をトイレの隅にあるトイレと同じようなツルッとした陶器のツボに入れる。ちょっと大きめ。

 ついで、トイレの壁にあった銀盤に触れる。あ、微妙な魔力の流れを感じる。すると、後ろのタンクに水が入り、そこからトイレに流れ込んでくる。水洗トイレじゃん! っていうか、なんで、こんなトイレがここにある!?

 僕は座ったままこの銀盤を見つめている。確かに、メイドさんが触ったら水が出た。

 驚いている僕に気づいたのか、メイドさんは


「ふふふ」


 って笑っている。


「後でやらせてあげますねー」


 って、僕がそれに驚いたこと、興味を持ったことに気づいたらしい。

 ついで、メイドさんはその左の銀盤に触れる。また魔力の流れ。何も起こらない。次に、右の銀盤に触れる。魔力の流れを感じるものの、また、何も起こらない……ん? 匂いが消えたか?

 メイドさんは、さらに、さっき汚れた布を入れたつぼにある銀盤に触れる。これも魔力を感じる。でもツボの中で何が起こったかわからない。

 が、メイドさんはツボに手を突っ込む。僕はちょっと引いている。あれがついた布を入れたツボに平然と手を突っ込むとは。

 中には、水が入っているらしく、そこから布を引き上げる。あれ? 全く汚れていない?

 メイドさんはその布を堅く絞って、パンパンって広げ、壁にあるタオルかけみたいのにかけた。

 僕はその布にも目を奪われる。本当に全く汚れていない。多分、匂いもしない。匂ってこない。

 メイドさんは僕を便座からおろして、パンツとズボンを履かせる。


「じゃあ、ちょっとトイレを流してみましょうかー」


 と、僕の手を、さっきの銀盤に触れさせる。

 すると、タンクに水が“出てくる“と同時にそれがトイレに流れ込む。

 タンクには外から水道管らしきものは繋がっていない。繋がっているのは、銀盤から伸びる配線だけ。

 なんだろう、この配線。よく見ると、他の銀盤からも伸びている。一方は床下。もう一方は天井だ。僕は驚いて声も出ないが、その配線を目で追っているのに気づいたメイドさん。


「まだ難しいかなー。こっちのプレートに触ると、触った人の魔力を吸収するんですよー。その魔力がこの配線で伝わっていって、このタンクの中にある水を出す魔法陣が発動して、水が出るんですよー。ちなみに左のは流した水を浄化する魔法陣、右のは空気を綺麗にする魔法陣です。あっちの布を綺麗にしたのは、水を浄化する魔法陣と同じですー」


 って。ご丁寧な説明をありがとう。普通の一歳ならわからなかっただろうけど、僕には衝撃的だった。ダブルの意味で。

 一つ目は、魔法を始めて目にしたこと。

 もう一つは、これが魔法を組み込んだ技術だってこと。

 僕がやりたかったことが、まさに体現化されている。魔法を使いたかったことと、技術開発がしたかったこと。

 さらに、メイドさんは爆弾を落とす。


「これを作って世の中に広げてくれたのは、グレイス様のご先祖様なんですよー」


 と。

 僕は固まっているが、メイドさんはさらには気になることを。


「私のように魔法を使えない人でも、使えたような気がしちゃうんですよね」


 って笑って言う。

 僕は、トイレから部屋へ連れ戻されている間に、少し情報整理をする。

 まず、やっぱり魔法はあった。今日わかったのは、水を生む魔法、水を浄化する魔法、空気を綺麗にする魔法の三つ。もしかしたら、魔力を吸収する方も魔法かなぁ。

 それから、魔法陣というのがある。魔法を使うのに魔法陣は必須なのだろうか。

 小説のように詠唱で発動したり無詠唱、つまりはイメージで発動したりしないのだろうか。

 だけど、僕はお母ちゃんの病気を治した。だから、魔法陣が必須なわけではない。ミカエルは、この世界では、イメージ力と魔力操作力と言っていた。

 それから、この魔力を吸収して魔法陣を起動させる方法じゃないと、魔法が使えない人がいるってことは、きっと、プラスで魔力量。魔力は全ての生物が持っているって言っていたし。

 と、言うことは。

 “ご先祖様は、万人が使える、魔法を利用した、水洗トイレ、を開発した“ということ。

 すごい! すごい! すごすぎる。ご先祖様はすごい人だ。

 僕は目標を見つけることができた。

 他にも開発したものはないかと思ったが、この語彙力とか一歳児らしい知能を表に出している以上、詳しく聞けない。

 僕は、三人と手を繋いで、この興奮を伝えた。


「え、今更ですか?」


 っていうのはミカエル。


「ははははは」


 って苦笑いしているのはかなで。

 この天使死神ペアは魔法が使えるって知っているから、さほどの驚きはないみたい。しかも、トイレトレーニングは僕よりも進んでいると。


「私は知っていたよ! でもね、陵くん絶対に驚くと思って」


 って京子ちゃんは笑っている。


 後で聞いた話だけれど、この魔法陣を発見したのは冒険者であったご先祖様。作り出したのではなく、発見。

 この街の北にある山脈を二つ超えた先にある本国の王都から南のこの地に探索に来て、何千年も前の遺跡を発見。

 比較的構造が残っていた下水処理を目的にしたらしい施設があって、そこで、四つの紋様をみつけた。

 これらを全て書き写した後に、ペタペタ触っていたら、触っていた紋様とは別の紋様が発動し水が発生した。それで魔法陣だと判明。残り二つの魔法陣は何かわからなかったけれど、なんらかの魔法であろうことを推察。

 しかしながら、この水が出た勢いで、施設が崩壊。遺跡の魔法陣はもう使えなかったと。で、書き写した魔法陣を持って帰った。

 遺跡では触ったのと同じ魔法陣が三つあり、その対となるように三種類の魔法陣があった。その一つから水がでた。

 ということで、おそらく、三つあった方の魔法陣がキーとなる魔法陣、残りが事象を引き起こす魔法陣だろうということを想像した。これらは重要な発見だったため、王宮内で極秘事項とし、研究が進められた。だが、書き写した魔法陣は全く発動しなかった。


 そんな中、この冒険者の息子が研究者になり、魔法ということで、当然魔力が関連すると考え、魔法陣を書き写しては魔力を流しと、ひたすら研究することでついに魔法陣は発動した。

 結局のところ、予想は当たっており、魔法陣はキーとなるものと事象を引き起こすものだった。魔法陣を発動させるためには、紙とインクが重要。魔力と親和性を高めるため、紙は羊皮紙ならぬ魔皮紙。これは、魔獣の皮を利用したもの。インクは魔物の血液というか血清に魔石を濃く溶かしたもの。血清に魔石を溶かすのにも、魔力が必要だった。

 このインクと魔皮紙で作られた魔法陣をペアでつなぎ、触ると事象が発動する魔法陣が完成した。なんでこんな国家機密を知ることができたかというと、実は、この技術を使ってトイレとかお風呂、台所、洗面、洗濯機など水回り製品を作って販売、しかも独占でしているのがこのローゼンシュタイン辺境伯領であるからだ。

 じゃあ、なんでこんな辺境で作っているかというと、この魔物の皮、血液、魔石といった材料を安定的に確保するために、ご先祖様は、魔獣の養殖を提案したからだ。とは言っても、比較的弱いホーンラビットだけど。

 で、王都がある土地で魔物の養殖をしてはならない、ってなり、それでは、元々遺跡があった、しかも山脈を二つも超えたこの地で、となり、ご先祖様は辺境伯の地位を得て移りすんだという。

 これがこの家の歴史らしい。誰にも検証できないらしいが。


 この領は、そんな水回りを独占で販売しているためか、収入がかなり多いらしい。

 とはいえ、街づくりや農地開拓、安全保障などなど、さまざまなことに力を入れているため、お金の消費量も多い。

 それでも、街が発展していくので、辺境にもかかわらず、移り住んでくる人も多く、サテライト的な町村を入れなくても五十万人規模の都市になっている。

 土地柄も影響している。ご先祖様が開拓したから、と言うが、この土地は、この国の、というか、大陸の最も南側に位置し、海に面している。

 はじめは森であったが、平野も広く、大きな川もながれ、開拓するには絶好の場所であった。農業を行うにも、漁業を行うにも、ましてや森に入って魔獣を狩るにしても最適で、人が集まらないはずもなかった。らしい。


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