トライアングルレッスン:D
小説家になろうラジオの「トライアングルレッスン」に初挑戦しました。なろラジリスナー様、トライアングルレッスンのファンの皆様、これを機会に仲良くして下さると嬉しいです。
「ゆいこ、そんな真剣に何の動画見てるの? 」
放課後の教室、ひとり机に座ってニヤニヤとスマホを見ている彼女に話しかけた。
「あっ、ひろし~! 見て見てこれ。小野Dの新曲のMVだよ。めちゃカッコイイよね! 」
「そ、そうだな……」と言いつつ、ゆいこはこういう男がタイプなのだと嫉妬した。
「いいなぁ~。このロケ地の遊園地どこだろう? 聖地巡礼したいのに」
オレはゆいこのスマホをそっと覗き込んだ。
「この遊園地なら知ってるよ。ここに映ってるの有名な巨大メリーゴーランドだろ」
ゆいこの前の席に座ってオレは少し得意げに画面を指さした。
「えっ! ひろし知ってるの! 遠い? この遊園地連れていってよ! 」
テンションが爆上がりしたゆいこは大声を出して立ち上がった。
そしてオレのテンションも一気に上昇した。大好きなゆいこと二人で聖地巡礼、それってデートってことじゃないか。
だが、それを聞きつけたもう一人の幼なじみがスロースキップで近付いてきた。
「どうした、ゆいこ? 」
「たくみ、ひろしがこの場所知ってるんだって! 」
「ああ、さっき話してた遊園地か」
オレはゆいこが先にたくみに同じ話をしていたことが正直ショックだった。
「ねーねー、ひろし。今度の休みに三人で聖地巡礼しようよ! いいでしょ!? 」
三人、もはやデートではなくなってしまったが、ゆいこのキラキラした笑顔に首を縦に振った。
「ゆいこ、あの顔ハメパネルで映え写真撮ろうぜ」
当日、たくみはいつにもなくオシャレなスタイルで、同じく制服を脱いだ私服のゆいこと戯れていた。オレも雑誌の中から飛び出てきたようなゆいこと距離を詰めたかったが、自分が地味な気がして、ずっとカメラを握りしめていた。
「おい、ひろし! オレと一緒に顔ハメ撮ろうぜ」
「ええ、何でだよ……なんでお前と……」
「ひろし、カメラ変わるね」
ゆいこに促されると何も断れない。そんな自分も情けなかった。
パネルに顔をハメると、たくみがコソッと呟いた。
「ひろし、お前ゆいこのこと本気なんだろ……」
「っな、何だよ急に……」不意を突かれて下を向いてしまった。
「ちょっとひろし、ちゃんとこっち見てよ~」
ゆいこ本人を目の前に、オレは動揺を隠せず耳が赤くなる。
「やっぱり、本気なんだな」と言ってたくみはクスっと笑った。
「ほらー。ひろしも笑ってー」
カメラを構えながら、こちらを見つめるゆいこ。
「お前はどうなんだよ? 」
「本気だよ。スゴく本気だ。……他の誰にも渡したくない」
そのキザで力強い言葉にオレは胸が苦しくなった。ゆいこを想う気持ちがたくみに負けている気がしたからだ。何の恥じらいもなく自分の気持ちを素直に言えるたくみが羨ましかった。
「オレたち、ずっと幼なじみでいられるかな? 」喉が詰まりそうだった。
「わ~っ! これこれ! このメリーゴーランドだよ! ヤバいヤバい! ひろし本当にありがとう! 」
ゆいこがオレの大好きなキラキラの笑顔で喜んでいる。でもオレは複雑な気持ちを隠せないまま顔を背けていた。
「早く乗ろう。空いてるよ! 」
メリーゴーランドに駆け込むゆいこはお姫様のように本当に無邪気でかわいかった。
「ゆいこ、馬乗らねーの? 」たくみが尋ねる。
「私はこのゴージャスな馬車がいいの! D様と同じなんだから~」
ご機嫌に鼻歌を歌うゆいこ。
「オレ、この白馬にしようかな? 」と適当に手を掛ける。
「白馬の王子様ってか。ダセーな」
「何でもいいだろ……」
「おっ! この黒い馬二人乗りじゃん。ひろし、これにしよーぜ」
「何でオレがたくみと……」と言いかけたが、時間もなかったし、後ろでゆいこが「二人乗り素敵だね」と仲の良いオレたちを見たがっていたのに気付いたので、仕方なくその馬を選んだ。
しかし前後に座るその馬で、オレは前に、たくみは後ろにという乗り方をしてしまった。バイクならカッコイイポジションだが、馬だとまさに姫状態である。オレはますます自分が情けなくなった。
そして無情にも発車のベルが鳴り響いた。
「レッツゴー! 」
喜びに溢れているゆいこの前でオレはシュンとし、両手で馬の支柱に掴まった。
メリーゴーランドが回り出す。その時だった。
たくみの手がオレの両手を優しく包み込んだのだ。
一瞬のことで訳が解らず声が漏れた。
「えっ」
「しっ」
たくみはオレの耳元で静かにそう囁いた。そしてそれから無言の時間が流れた。
たくみの胸がオレの背中に触れる。その胸は熱く、ドキドキと早い鼓動を響かせていた。
何も言わないたくみ。ただ、熱の混じった吐息が耳に触れる。二人の距離はどんどん近くなり、オレの背中は、何故か燃えたぎるように熱くなっていた。
センターの鏡でゆいこをちらっと確認した。どうやら気付いていないようだ。
ゆいこに見えない角度で、たくみは片手でオレの腰を抱きしめる。
何故だろう。不思議と嫌な気持ちはしなかった。
目に入る景色はとてもきらびやかで眩しく、まるで初恋の高揚感のようだ。
オレはゆいこが好きなはずなのに……。
この目眩は物理的なものなのか? それとも、奴の熱に酔っているのだろうか?
オレは理解不能になって唾をゴクリと飲む。
たくみの鼓動はオレの鼓動とリンクして、やがて絶頂を向かえた。
回転する想い。回転する感覚。回転する幼き日への時計の針。そしてそれはいつしか静かに終わる……。
「だから、本気だって言ったろ」
最後にたくみはそう言った。
ゆいこの顔は見れなかった……。




